レストラン再建計画

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月02日〜06月10日

リプレイ公開日:2007年06月08日

●オープニング

 パリから馬車で一日の村にあるレストラン『ジョワーズ』では異変が起きていた。
「マスタ〜大変なんですぅ!」
 店の奥にある控え室にウェイトレスの一人が飛び込んできた。フリフリのフリル付きの制服に身を包んだとてもかわいらしい格好だが、表情は涙目だ。
 ウェイトレスに連れられてマスターは客が訪れるフロアを眺める。
「こんなばかな‥‥」
 マスターは肩を落とす。
 たくさんのテーブルと椅子が並べられていたが、肝心の客の姿がまばらだ。
 お昼時だというのに、この状況は普段では考えられなかった。ずっと満員御礼の日々が続いていた大人気レストラン『ジョワーズ』にとっては青天のへきれきであった。
 たまたまの出来事だろうとマスターは考えなおす。だが、この日からジョワーズの急落が始まったのだ。日に日に客足が遠退き、無惨な状況に拍車がかかる。

 数週間後、マスターはパリに出向いて冒険者ギルドを訪れた。
「どうやら、今まで姑息な手で、邪魔をしてきたライバル店『ミーラティオ』が本腰を入れたようなんです。店内を大幅改装し、パリの社交界でも有名なスーパーシェフをスカウトし、パリ市街でも大道芸人を使っての大宣伝をしています」
「わたしも見かけましたわ。すごい大がかりな宣伝ですね」
 マスターと受付の女性は『ミーラティオ』について話しを続ける。
「我が『ジョワーズ』も料理の味では負けてないと思うのですが、ライバルの徹底的な作戦で現在負けています‥‥。そこで冒険者の方々の力を借りようと思いまして」
「どのような事を冒険者にお望みなのしょうか?」
「ライバルの手を踏襲するならば、店内改装を今行うのは無理な状況です。出来る事は接客の部分と、レストランの本質である優れたメニューの二つ。そして現在はまったく行っていない宣伝を合わせて三つの方法が考えられます」
「その三つの方法を全部でしょうか?」
「いえ。どれか一つに集中して行うのも、平均的に効果を狙うのもすべて冒険者の方々にお任せします。わたしが気づいていないもっとよい方法があれば、それを行ってもらっても構いません」
 マスターは受付の女性に依頼金を前渡しする。
「わたしに油断があったのです。正々堂々とライバルが向かって来るならば受けて立たなくてはなりません。どうかお力をお貸し下さい。よろしくお願いします」
 マスターは依頼が終わると帽子を被り、ギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb8113 スズカ・アークライト(29歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1624 シンディ・レスコット(23歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●作戦の夜
「美味しいわ。ねえ? チサトちゃん」
 スズカ・アークライト(eb8113)は一緒に食べるチサト・ミョウオウイン(eb3601)に顔を近づけた。
「はい。前にエグゼさんが考えられたシチューはとても美味しいです」
 チサトはスズカに見せた笑顔をエグゼ・クエーサー(ea7191)にも向ける。
「つまり、味には問題ないわけだ。それにしても色々騒がしい店だね、ジョワーズも」
 エグゼは腕を組んで考え込む。
「ほんとうに美味しいわ‥」
 シンディ・レスコット(ec1624)はポツリと呟いた。
 冒険者達は準備をした上でレストランがある村へ初日の夕方には到着した。今は日も暮れて、レストラン『ジョワーズ』の住み込み用部屋でまかないを頂いている最中だ。
「他のメニューにも問題があるとは思えません。ただ、ライバル店『ミーラティオ』はかなり有名なシェフを引き抜きましたので、前と同じと考えるのは禁物なのです」
 マスターは説明しながら、ため息を混じらせる。
 冒険者達はマスターに説明する意味も込め、改めて各々の役割を話し合う。
 エグゼは新作料理を考え、そして試食料理の用意をする。
 チサトは『まるごとヤギさん』を着込んで停車場で宣伝を含めた試食を勧めるつもりだ。
 シンディもチサトと同じ役割だが、呼び込む方法は得意の踊りで勝負である。その為の白い布で作った衣装もパリで用意済みだ。
 スズカも試食を手伝うが、その前に敵情視察をするつもりであった。
「チサトちゃん、これを貸すわ」
 スズカは食事が終わった後で横断幕を作り始めたチサトに『美麗の絵筆』を渡した。
「『あの有名シェフ、エグゼ・クエーサーが新メニューを考案!』‥とかイラスト入りでどうかしら‥?」
「とってもいいです」
 シンディがさりげなくいった言葉をチサトは採用する。
「こっこれはなんだ?!」
 完成した横断幕を見てエグゼが驚く。文字以外にはエグゼの似顔絵が描かれていた。流し目で赤い薔薇を口にくわえ、そして色とりどりの薔薇が後光のように散りばめられていた。
「とってもうまいわあ」
「いい‥感じです‥」
「そうですか? 照れちゃいます」
「いいっいや、そのだな‥‥なんでもない」
 冒険者達は明日に備えて早く眠るのだった。

●試食
「ここがミーラティオなのね」
 二日目にスズカは偵察の為にミーラティオを訪れる。
 テーブルについて店内を眺めた。店内の装飾はとても綺麗に仕上げられていた。床に敷かれた石も磨き上げられている。本気の程が窺えた。
 ウェイターやウェイトレスの教育も行き届いている。ただ、スズカはどこかしら冷たい印象を受けた。
 お勧めを頼むとまもなく料理が運ばれてくる。食べたスズカの印象は一味抑えた上品な味であった。とても美味しいが一品の量は少ない。活動的なスズカには物足りなく感じられるのだった。

 シンディとチサトは協力して横断幕を村の停車場の木と木の間に取り付けた。その下にテーブルを用意する。
 エグゼが店の料理を再現して持ってきてくれる。コック長のお墨付きのエグゼなら、同じ味の料理を作るのは簡単であった。たき火を用意して遠火で冷めないように工夫をする。
「まだ新作料理は完成してないんだ。横断幕に『明日から』とか剥がせるように何か貼っておいてくれないか?」
 そう言い残してエグゼはジョワーズに戻っていった。
「さっそく始めましょう」
「そうね‥」
 停車場にたくさんの人が訪れ始めた頃に試食の配布を開始した。パンを小皿に見立てて、シチューなどをのせた物を用意する。
「わー。ヤギさんだよ!」
「はーい。ジョワーズのとっても美味しい郷土料理は如何ですか? インゲン豆とチーズを使った‥どこか懐かしさを感じるとっても美味しい料理ですよ。もちろんヤギさんのチーズも使っています」
 チサトはまるごとヤギさんを着込んでとてもかわいらしい。アンクレット・ベルを鳴らすと、特に子供連れが近寄ってきた。
「‥不肖、私『白の踊り子』ことシンディ・レスコット。未だ未熟者‥ですが、皆さんを少しでも楽しませることが出来ればこれ、幸いに思います。それでは‥」
 口上の後、シンディは白い服を揺らしながら踊り始める。一見すると淡々と踊っているが、眺めていると惹き込まれてゆく。シンディ自身も多くの人の前で踊れて嬉しいようだ。
「お待たせ〜」
 スズカが試食の場に駆け足で現れる。
「このフリフリなのは抵抗があったんだけど、似合うかしら?」
 笑顔のスズカはジョワーズのフリフリのウェイトレス姿で現れた。軽く回って見せて、はしゃぐ。
 スズカは試食の配布を主に担当した。試食がなくなると店に取りにも行ってくれる。
 夕方になり、人が少なくなるまで、三人の女性冒険者は村を訪れる人々に宣伝を続けるのだった。

「こんな感じかな」
 エグゼは味見をする。調理場の一角を借り、新作料理作りをしていた。
 鶏の丸焼きをジョワーズ風にアレンジし、それに合わせてインゲン豆を煮込んだスープも用意した。どちらも温めなおしても、とても美味しく食べられる。結婚式が増えるジューンブライドに向けて作られた料理だ。
 夜になり、マスターも一緒にスズカのミーラティオの報告を聞いた。社交界で有名なシェフであって、味付けも量も貴族に合わせたものらしい。
「ジョワーズは特に高級志向でもないレストランなんだから、楽しい雰囲気を作るのが大事だと思うんだよ」
 エグゼがライバル店とは違う方向性を話す。マスターも同じ考えで、元々の方向性を強める事に賛成するのであった。

●ライバルの応戦
 シンディは見事な踊りで、行き交う人々の足を試食前で立ち止まらせる。
 チサトはまるごとヤギさんを着て、笑顔で子供達を引き寄せる。
 スズカはジョワーズを印象づけるフリフリのウェイトレス姿で試食を分けた。
 三日目も昨日と同じく村を訪れた人々に宣伝を行った。今日からはエグゼが用意した新作料理二点の試食である。
「こちらはレストランジョワーズでお召し上がり頂けます。ジョワーズはこちらの方向になります」
 スズカが試食を分けながらジョワーズへと続く道を腕の動きで指し示す。
「あれは?」
 チサトは子供に笑いかけた後で、少し離れた場所で何かを始める集団を見かけた。
「ミーラティオね。‥こちらと同じ‥試食をやるつもりかしら?」
 踊りの合間のシンディがチサトに話しかける。
 しばらく経つとミーラティオ側でも試食と客寄せが始まった。どうやらパリで活動していた大道芸人の一部を呼び寄せたようだ。
「正々堂々勝負なら負けていられないわ!」
 スズカはいざとなれば視覚と対人鑑識でミーラティオ側を調べるつもりでいた。今までの経緯からすれば再びちょっかいを出してきてもおかしくはないからだ。
 数日前までは聞こえてくるのは馬のいななきぐらいであった停車場近くは、とても賑やかな様子を呈してきた。

「よいしょっと」
 エグゼとマスターは店の外にテーブルをいくつか並べた。外で食事をとるのも、今のうららかな季節ならちょうどいい。
 ついでに店前でも試食を配る用意をする。客の料理と合わせて、空腹の人をよい匂いで釣る作戦だ。
「ここはわたしが試食配りをやらせてもらいます。エグゼさんはさっき仰っていた演奏をよろしくお願いします」
 マスターが張り切って試食配りを始める。
 エグゼは店内に戻り、リュートベイルを取りだした。
 新作料理のレシピはすでにコック長に渡してある。料理に関しては調理場を離れても問題はない。
 エグゼは客を楽しませる為にリュートを奏でた。店の雰囲気を導くように明るめの曲を演奏する。
 エグゼが知っている常に人がいっぱいのフロアではなかったが、それなりに客はいた。
 料理自体が観光の目玉であるこの村にとって、リピーターの客を呼び込まなければ明日はない。それはジョワーズもミーラティオも同じはずだ。
 エグゼは食事を楽しむ客に感謝しながら演奏を続けるのであった。

 四日目のお昼頃、マスターは村で一番の高さがある教会の塔に登っていた。
 停車場にはたくさんの人がいて、そこから二つの道に人の流れが分かれる。つまりジョワーズへと続く道と、ミーラティオへと続く道の二本だ。
「そもそもパリから来た初のお客様はミーラティオの宣伝で村に来た人が多いはず。そう考えればかなり健闘している」
 マスターの目見当だが、ジョワーズに向かう人は四割弱、ミーラティオに向かう人は六割強であった。
「まだ日にちはある。早く戻ってウェイトレスに任せた試食配りをやらないと」
 マスターは急いで塔を駆け下りるのであった。

 五日目になり、ジョワーズは新たな新作料理を客に提供した。
 エグゼとコック長が共同で考えたチーズケーキである。コック長が考えたチーズケーキをエグゼが改良したのだ。
 よりやわらかくする為にチーズの分量や配合を変え、生地部分にもゆでた豆のペーストを混ぜ込んである。
 ジューンブライドの季節に向けて、ちょうどいい一品だ。鶏の丸焼き、スープと合わせてとても豪華で食べごたえもある。
「すっすみません。あの‥‥」
 リュートを奏で終わったエグゼの元に筆記用具と木片を持った女性がやってきた。
「サインもらえますか?」
「俺の?」
 冒険者としても料理人としても、エグゼは有名だ。横断幕の効果もかなりあったようだ。
 エグゼは照れながらもサインを書いてあげるのだった。

「ほほほほほ」
 六日目、スズカは停車場でたまたまミーラティオ側の店員とすれ違う。眼を飛ばしてきたので、笑顔で笑い飛ばしてやった。
 敵対心はむき出しであったが、暴力に訴えてくる真似はなかった。その点においてはミーラティオの経営者も心を入れ替えたようである。
「私たちも手伝います」
 非番のウェイトレスとウェイターが停車場にやって来た。冒険者のおかげで客は戻っている。これからも客寄せなどをしなくてはいけないと感じたそうだ。
 チサト、シンディ、スズカは今までやって来た試食と客寄せの仕方を教える。そして店内を盛り上げる為にジョワーズに向かった。
 スズカはそのままウェイトレスをやってみる。簡単なように見えて結構難しいものだ。
 チサトはまるごとヤギさんのままウェイトレスをやる。やっぱり子供達には人気である。
 飛び入りのお客があったりとシンディの踊りは盛り上がった。エグゼのリュートも楽しくていい感じである。
 客の入りを最終的に確かめるのは明日の七日目のお昼。冒険者達は精一杯がんばるのであった。

●結果の日
 七日目のお昼、ジョワーズのフロア。
 テーブルの八割は客が席に座っていた。数週間前には一割を切った状態だったのにもかかわらずだ。
 未来が感じられる状況にマスターは安堵のため息をついた。
 先程、教会の塔から見た感じだと、ジョワーズ側六割弱、ミーラティオ側四割強といっていい。惨敗の状況からよくここまで持ち直したとマスターは少し涙目になった。
「常に新しい方法を模索しなければいけない事を教えてもらいました。ありがとう」
 閉店後、マスターは冒険者達にお礼をいう。そしてまかないではなく、どんな料理でも注文していいそうだ。
 お腹が空いていた冒険者達はたくさんのメニューを頼む。
「今回も疲れたわ〜。ん〜」
 スズカは食事の合間にチサトヤギを『ぎゅ〜っ』と抱きしめる。
「子供達にも人気があってよかったです」
 チサトはスズカに抱きしめられながらほのぼのと笑顔だ。
「今回は着ぐるみで癒し効果倍増ね」
 スズカの言葉に冒険者達もジョワーズの者達も笑う。
「シンディさん、これを」
 マスターがシンディが作った洋服代を渡した。とても助かったという言葉と一緒に。
 他にもかかった費用は店側が負担するそうだ。
「踊り、少し教えて頂けますか?」
 ウェイトレスとウェイターの数人が食事が終わったシンディに頼みに来た。
「俺も手伝おう」
 エグゼがリュートを奏でる。
 閉店後のジョワーズはちょっとしたダンスパーティになるのだった。

●パリ
 八日目の朝早く村を出発したマスターの友人の馬車は夕方頃パリに到着した。
 マスターも一緒である。
 非番の従業員が宣伝をしてくれるようだが、忙しすぎて人が辞めてゆく状況を二度と繰り返してはならない。専門でやってくれる客寄せ従業員をパリで探すそうである。
「ミーラティオと同じ大道芸人か、それとも別の方向で攻めるか悩んでますが、ちゃんと集めてみます。みなさんありがとうございました」
 マスターは冒険者達にお土産のハーブワインを渡すと、パリの人混みに紛れてゆくのだった。