宝島へ 〜トレランツ運送社〜
|
■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月04日〜06月14日
リプレイ公開日:2007年06月10日
|
●オープニング
パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。
「一掃された訳ではありませんが、幽霊船退治も効果があったようです」
ゲドゥル秘書は社長室でいつもの報告をしていた。女社長カルメン・アーレは大きなあくびをする。
「やっと順調になってきたねぇ。海賊船やら幽霊船やら、邪魔者ばっかり現れてさ。全てが順調に、滞りなく、荷物を運んでは、おぜぜを頂き、そしてルーアン一の、いやノルマン一の海運貿易会社なるのさ」
カルメン社長はとろんと眠そうな瞳で語る。心ここにあらず、すでに半分は夢の住人のようだ。
「失礼します」
ベルの音に呼ばれ、ゲドゥル秘書が社長室から廊下に出た。すぐ社長室に戻る。
「社長と話したい人物を船乗り達が連れてまいりました」
「今日はゆっくりとしたいんだけどねぇ。どんな奴なんだい?」
「遠洋まで航海していたうちの帆船が海の真ん中で拾った漂流者です。まずはこれをお見せしたいと」
ゲドゥル秘書がカルメン社長に渡したのは金貨であった。とても古そうなもので、どの国のものかはわからない。
「まあ、いいさ。聞いてやるから、連れておいで」
カルメン社長の許可が出て、ゲドゥル秘書が漂流者を部屋に連れてくる。漂流者は船乗り達にもらった服を着ていたが、小柄なのでダブダブであった。髪と髭はまだ長いままである。
「まずはどんな生活を送っていたかを聞いてくれ」
漂流者はカルビノという男であった。船が難破してある無人島に流れ着き、約四年間も島で暮らしたそうだ。
「そこで見つけたんだ。この金貨を」
カルビノは無人島で隠されていた金貨を大量に発見したという。
「イカダ作りが難しくて、なかなか無人島から脱出出来なかっただけで、島の位置はわかっている。カルメン社長とやら、一緒に探しに行かないか? お宝は折半でいい。いや四割‥‥いや、俺が三割で構わない。七割はあんたのもんだ」
「ふ〜ん。そういう話しかい」
カルビノとカルメン社長はしばらく話しを続けた。
「ゲドゥル、パリに行って冒険者を集めておいで」
受付嬢にカルビノを社の寮へ送らせると、カルメン社長はゲドゥル秘書に指示を出す。
「よくよく話せば、完全な無人島ではないらしい。たまに海賊が水などを補給をしに立ち寄る島のようだ。万が一を考えて頭数を揃えておかないとね」
「社長‥‥私にはとても疑わしい話にしか聞こえなかったのですが。本当にいらっしゃるつもりですか?」
「あたしがいくわけないだろ。船乗りと冒険者達にお任せさ。あの漂流者は一緒にいかせるけどね」
「そうですよね。社長には社長室でドンと構えていてもらいませんと」
「まあ、島を調べてみてダメならダメでいいさ。もし海賊の根城だったら、叩きつぶしておくのもいいじゃないか。‥‥ゲドゥル、やっぱあんたを秘書にしたあたしの目は確かだったよ」
「はい?」
「あたしも、あの漂流者は凄く胡散臭く感じている。何か企んでいるね。あの瞳は」
カルメン社長は鼻で笑った。
数日後にゲドゥル秘書はパリの冒険者ギルドを訪れていた。
「ハッハクショ〜ン!」
ゲドゥル秘書のくしゃみが止まらない。
「お風邪ですか?」
「ええっちょっ‥‥はっ、ハックション!」
受付の女性に訊ねられても、くしゃみでうまく話せないゲドゥル秘書である。
ゲドゥル秘書は船酔いしない為に、船乗りのお守りの一つを服に縫い込んでおいた。おかげで忘れる事なく、自社のパリ行きの帆船に乗れたのだが、出航時にすれ違う船から波を被ってしまう。船酔いをしないように濡れた服のまま、過ごしたのが悪かった。一晩して起きると風邪をひいていたのである。
「えっと、パリから出発しますので、無人島探索の募集の方、よろしくお願いしま‥‥ハックション!」
ゲドゥル秘書は依頼を出し終えると、パリの宿で寝込むのであった。
●リプレイ本文
●島
「まるで船の墓場のようですね」
十野間修(eb4840)は船縁で体を乗りだすように島のある方向を眺めた。
四日目の昼頃に帆船は目的の島の周辺に到達する。十野間とコルリス・フェネストラ(eb9459)の提案によって上陸前に帆船で島を一周している最中に見つけたのだ。
「幽霊船みたいに感じられるな」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)は船の残骸と、過去に遭遇した幽霊船を繋げて考えた。そのシルエットはとても似通っている。
「個人的には、舵が石化した船があったりすると、話につじつまがあってきそうな気もしますが」
コルリスの言葉に幽霊船の一件を気にする十野間とエメラルドは同意する。
島近くの岩礁には数え切れない程の船の残骸が座礁していた。シャルク・ネネルザード(ea5384)を除く冒険者は誰もが甲板で驚いていた。
「信じられな〜いって感じぃ」
シフールのポーレット・モラン(ea9589)が上空から座礁した船を確認して戻ってくる。人影などはなく、ひっそりとしていたそうだ。
さらに帆船は島を回る。一周にかかったのは約三時間。安全の為、かなり大きめに円を描いたのだ。
島の周囲には断崖がそびえていた。
入江が一ヶ所あり、奥に砂浜が広がっている。アガリ船長によれば、直接帆船をつけて上陸するのは無理だという。小舟を使うしかない。
冒険者達はこの島に遭難していたというカルビノへの疑いを強める。海賊船が本当に水を補給に来たのかが怪しいからだ。
半端な時間の為、上陸は明日の朝に持ち越された。
「嘘が下手な奴は、嘘に嘘を重ねて積み上げる。嘘が上手い奴は、真実の中にそれを混ぜる。カルビノに質問した所、ボロは出さなかった。後者かも知れないな」
ヴェレッタ・レミントン(ec1264)はペガサスのキュレイで大空を駆りながらポーレットに話しかけた。ヴェレッタは矢が届かない程の高い位置からの探索を、ポーレットは地図作りの為である。
「カルビノちゃんって素性は怪しいものよね。無人島で4年とか具体的だし、でも昼夜経過の記録って中々できないと思うし。どんな生活したか訊いたけど、全然不自然じゃないのよねぇ。金貨は東方の神話がモチーフのデザインがされたとても古い物だったし」
ポーレットはうんうんと頷く。
「こりゃけったいな島やわぁ」
「イメージとはちょっと違いました」
シフールのルイーゼ・コゥ(ea7929)とパール・エスタナトレーヒ(eb5314)も島の上空で話す二人に合流した。ルイーゼは明日からは帆船に残るつもりである。
パールはもっと閑散とした島を想像していた。だが上空から見る分には多くの木が生えていて、山が海に浮かんでいるような感じであった。小動物なら棲息していてもおかしくはない。
「しかし、社長はんも難しい注文出しはる。ま、明日から気張っていきまひょか♪」
ルイーゼは適当に飛んでから帆船へと戻る。他の空を飛べる冒険者も日が落ちきる前には帆船へと戻るのであった。
「ごはいえつ」
シャルクは船底で彼女がいう所の『ねずみさま』に一匹ずつ挨拶をしていた。今も新しいねずみさまを見つけたのである。
「うや。ごしょくじでございます」
多めにもらった食事をねずみさまにふるまう。パリを出航してからほとんどを船底で過ごしてたシャルクであった。
●上陸
「これもか?」
五日目、カルビノは十野間にたくさんの荷物を渡されてうんざり顔になる。
「私達は貴方の護衛でもあるんですよ、身動きが取れなかったら意味がないじゃないですか」
十野間の意図としてはカルビノの動きを制限して監視しやすい状況を作る意味もある。
「いきましょうや」
上陸の小舟には二人の船乗りも一緒に乗っていた。パールの希望で荷物運びと腕っぷしの助っ人である。
「よろしく頼む。生きて帰ろう。一人も欠ける事なく!!」
エメラルドは船乗りに声をかける。エメラルドを姉さんと呼んで慕う船乗りのうちの二人だ。十野間は船乗りが来るのを反対したが、アガリ船長の進言もあって承諾する。今回は探索が目的なので、それに適う行動はカルメン社長も承知しているそうだ。
ポーレットはカルビノに訊いた地形の確認と地図作製の為に飛んでゆく。
パールは愛犬のトルシエに乗って宝の探索班。梟のデルホイホイには常に上空を飛んでもらって警戒に当たってもらう。
十野間は宝の探索班。斥候を志願して姿を消し、影からカルビノの動きを監視する。
エメラルドは宝の探索班。カルビノの行動を罠だとした上であえて飛び込む覚悟だ。
宝の探索班の上空をペガサスに跨ってヴェレッタはついてゆく。どんな状況に陥っても対処できるようにする策である。
もちろん宝の探索班にはカルビノの姿もあった。
帆船に残り、シャルクは釣り糸を垂らす。ねずみさまと別れを惜しんでいる間に小舟が出発してしまった。仕方なく釣りを始めたのだ。
「むー、けっかオーライですか」
シャルクが隣りで驢馬の世話をするルイーゼから話を聞いた。どうやら自分は船酔いで気分が悪いふりをして残る予定だったようだ。
「カルビノはんが『あいつら海賊やー退治しぃー』言うて、島にやって来た一般の船を襲わせるなんてあってもおかしぅない。あっ、ドンちゃん静かにしておきぃ」
ルイーゼは驢馬の頭を撫でる。シャルク以外にも船に残ったコルリスの姿もある。
「いつ襲われてもすぐに動けるように‥‥」
コルリスはキューピッドボウを常に持ち、周囲の警戒をしていた。交代での行動を考えていたコルリスだが、短い上陸日数の中では無理があった。考えた末、コルリスは船に残る方を選ぶ。弓の効力が発揮されるのは海上だからである。
シャルクが海に飛び込んだ。船乗りに竿を渡されたので釣りをしていたが、面倒になったようだ。五分程潜った後で海上に顔を出したシャルクの口には魚がくわえられている。両手にも一匹ずつ魚が握られていたのだった。
「ここと、ここもと‥‥。結構ふくざつぅ」
ポーレットは大まかに地図を描くと細かい部分を追加してゆく。小川の位置、小さい滝。高台などをいろいろとある。
「今度はあっちにいってみようかな」
ポーレットは入江の反対側にあたる島の位置へと飛んでいった。
「まだなのか?」
エメラルドがカルビノに訊ねる。それほど広い島ではなく、そもそも隠し場所をカルビノは知っているはずだ。
カルビノによれば十野間が船の墓場と呼んだあの岩礁近くの浅い海に金貨は沈んでいるそうだ。海からはまず向かうのは無理で、島を歩いて渡らなければたどり着けないという。
ヴェレッタがひとっ飛びに確認してくるといっても、細かい位置は頑としてカルビノは答えなかった。
十野間は隠れてカルビノを監視するが尻尾を出す様子はない。
探索班一行はカルビノに胡散臭さを感じながら険しい道を進んだ。
再び海辺へと出る。時間はお昼を回ったばかりだ。
「あれだわ」
パールが愛犬から飛び降りて海の中を覗く。透明度の高い海の底に宝箱が沈んでいた。キラキラと輝いている。どうやら金貨があるのは本当のようだ。
ヴェレッタが仲間と離れた場所でミミクリーを使って魚に変化する。海の底までいって一枚だけをくわえてエメラルドに渡す。確かに金貨であった。
その後、ヴェレッタが元に戻ってこれからを協議している時、
「みなさん、敵です!」
十野間が探索班の仲間に姿を現して知らせた。武器を手にして狙っている者が見かけたのだ。
探索班一行に敵が襲いかかった。エメラルドの盾が敵の剣を受け止める。その風体から探索班一行は敵を海賊と決めつけた。
パールは空に舞うと梟のデルホイホイに緊急を記した羊皮紙をつけて帆船に飛ばした。そして木の枝に降りてビカムワースを唱えて一気に海賊の体力を奪ってゆく。愛犬のトルシエには敵の注意を引きつけてもらった。
エメラルドと二人の船乗りが探索班一行の盾と矛となる。十野間のシャドゥボムが炸裂し、海賊共が怯んだ。期を見逃さずに、探索班一行は攻め入る。
ヴェレッタはキュレイのペガサスに話しかける。言葉を交わせなくてもペガサスはかなり賢い。ヴェレッタを乗せて低空を飛ぶと、海賊共を蹄で蹴飛ばしてゆく。
冒険者達に五名捕まった所で海賊が撤退した。
「さて‥‥」
十野間はカルビノを縛り上げると、スクロールを使って小さな木を石化させた。
「この様な場所では術を解いてくれる人はいませんし。あ、そうですね足枷の代わりに使って海に叩き込むと言うのもありですかね」
淡々とした言葉でカルビノを尋問する。諦めたカルビノは口を割った。
カルビノは船が難波して島で生活していたのは事実だと語る。家族と一緒に数年の間、この島に住んでいた。
ある時、自分達と同じように海賊船が難破してこの島にやってきた。どこからともなく聞こえてきた歌声で操舵手がおかしくなり、この島周辺の岩礁に海賊船が座礁したという。カルビノの家族と同じ目に海賊共も遭遇したのである。
歌声に恐怖して島を出られない海賊は、カルビノ一人をイカダで脱出させた。妻と子供を人質にされたカルビノは従わざるを得なかった。
大きな船を持ってこさせ、一気に島から脱出しようと海賊共は考えたようだ。
カルビノの自白を聞いた探索班一行は一旦帆船に戻る事にした。砂浜までの帰りは行きよりも早く着く。海賊共が用意する時間稼ぎをする為に行きは回り道をしたそうだ。
前もっての連絡のおかげで、スムーズに帆船へと戻れる。五名の海賊の捕虜も連れて行った。カルビノによれば十六名の海賊がいたので残り十一名が島にいるはずである。
「ここだと思うのねぇ」
帰ってきたポーレットが描いてきた地図を指し示す。カルビノの話と合わせて考えると、そこにある洞窟が海賊共の根城であった。
●海賊
六日目、昨日と同じく探索班は島へと上陸する。
これから根城の洞窟に向かおうとした矢先に上空のポーレットが叫んだ。
「海賊だわ! イカダで帆船に向かっているしぃ!」
一行が振り返ると確かに二枚のイカダが帆船に向かっていた。
「何しに来はったん? 正直に言いなはれ」
ルイーゼはヴェントリラキュイでイカダで近づく集団に話しかける。ブレスセンサーでいち早く発見したからだ。しかし引き返す素振りは見あたらない。
ルイーゼは帆船から離れて漂流する木に乗った。そしてライトニングサンダーボルトを唱えて稲妻を飛ばして脅す。
驚いてはいたようだが、海賊共は櫂を漕ぐ手は止めない。ルイーゼは帆船に戻って仲間に状況を知らせる。すると砂浜にいたパールが甲板へと飛んできた。続いてポーレット、そしてペガサスに跨るヴェレッタも駆けつける。
「うやうやー」
シャルクは片手斧を手に海へと飛び込んだ。
「夜襲をしてくると思いましたが、島で何かがあったのか‥‥」
コルリスは船縁を盾にしてイカダの海賊共に矢を放つ。イカダからも矢が飛んでくるが、弱々しい。火矢ではなく、ただの矢であった。コルリスは海賊船長らしい人物を狙って当ててゆく。
「さっきは威嚇やけど、今度はそうはいかへんでぇ」
ルイーゼが再びライトニングサンダーボルトを放った。一人にうまく当たり、海へと吹き飛ぶ。
突然、海賊共が乗る一枚のイカダがバラバラに分解する。水中から魚のように泳げるシャルクが繋いでいるロープを斬ったのだ。
砂浜にいた探索班の仲間も小舟で引き返してきて、全員で海賊共と戦う。最後は戦いというより、海賊共の救助のようになった。生け捕りにした海賊共は縛り上げて、船乗り達に任せた。
その後、探索班はポーレットの案内で根城の洞窟に向かった。カルビノの妻と子供を解放する。
冒険者達はカルビノをすでに許していた。家族を人質にとられた者を責める事はできない。
「これは!」
パールが洞窟で金貨を発見する。海に沈んだ金貨を海賊共が拾い上げたのであろう。ただ、大した量はなかった。そこで海から拾おうと岩礁に向かう。
泳ぎが得意なシャルクも連れてきていた。彼女がいれば金貨拾いなど、造作もない事だろう。
「歌がかすかに聞こえる‥‥」
エメラルドが聞き耳を立てながら周囲を見回した。
「この歌が、もしかして!」
十野間が探索班一行の仲間にすぐに引き返す事を提案する。捕まえた海賊船長が大した作戦も練らずに帆船への襲撃を決行したのは、この歌のせいだ。一刻も早く島を脱出したかったようだ。
人を惑わす魔法には直接精神に響いてくるものもある。今回がそうだとは限らないが、注意するのに越したことはない。今はあまりに無策である。海中の金貨は諦めて全員が帆船に引き返した。
「あの歌声は何者だったのか。もしかしたら我々をアンデットの仲間入りをさせる気か‥‥」
帆船に戻るとエメラルドは悔しがる。尻尾を掴みたかったが、残る時間は大してない。海賊との戦いでみんなも疲れていた。
「命を助ける代償に、新たな贄を連れて来い‥ってのは悪魔の良く使う手ですしね」
十野間はデビルの存在を疑っていた。
すぐに帆船は島を脱出する。赤く染める夕日の中、冒険者達は甲板で遠ざかる島を見つめる。
竪琴の音が帆船を包む。
行きにも奏でられたコルリスの黄金の竪琴の音色だ。水難に襲われないという言われがあった。
●ルーアン、そしてパリ
七日目は海上を進み、八日目の夕方頃、帆船はルーアンに立ち寄った。
トレランツ運送社の社長カルメンと面会する。
カルメン社長に冒険者達は説明した。どちらかというと持ち帰ってきた金貨にご執心なカルメン社長である。
「よくやってくれたねぇ。その目はもしかして疑っているのかい? あたしは独り占めなんてセコイ真似はしないよ。ちゃんとボーナスは払うからね」
鼻歌を歌いながらカルメン社長は立ち去った。
トレランツ運送社が用意した宿で冒険者達は一晩を過ごし、九日の昼頃にルーアンを出航した。十日目の夕方にはパリに帰港する。
パリの宿でずっと寝込み、全快したゲドゥル秘書が出迎えてくれた。
「どんな事があったのか、アガリ船長から聞きました。海賊と幽霊船、そして歌声。海の上でも何か起きているのでしょうか? わたしも頭の隅に置いておく事にします」
ゲドゥル秘書は帆船に乗り込む。そして冒険者達に手を振るのだった。