残された双子の一人〜ツィーネ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月05日〜06月10日

リプレイ公開日:2007年06月11日

●オープニング

「この依頼人はまさか‥‥」
 長い金髪を後頭部で束ねた女性が冒険者ギルドの掲示板の前に立っていた。
 チーズの入ったカゴを抱えて佇むツィーネである。チーズは定宿で待っている六歳のテオカへのお土産だ。
 いつもはレイス退治の依頼にしか興味を示さないツィーネであったが、目の前の依頼は特別であった。ツィーネが注目しているのは依頼人の名前である。
 アニー・カレイとはかつてツィーネの住んでいた村の赤子と同姓同名だ。
 アニーにはカミラ・カレイという双子の姉がいた。
 村では双子は忌み嫌われるので、生まれてまもなく妹のアニーは遠くの親戚に出されたと、幼い頃にツィーネは聞かされていた。ツィーネが五歳の頃であったから、今ではアニーは十四歳ぐらいであろう。
 問題は村に残った姉のカミラである。ツィーネの恋人であったマテューの親友ダンがやった人身売買の被害者の一人がカミラであった。
 ダンの悪行に気がついたマテューは、被害者達を逃がそうとした。だが、ダンは逃げた被害者達を皆殺しにし、そしてツィーネの恋人であったマテューをも殺す。
 ツィーネはその時の恨みを抱えてレイスになってしまったマテューを安らかに葬る為に冒険者になったのだ。
「わたしと同じなのか。アニーは」
 依頼書には姉カミラを殺した犯人を捜しだして敵討ちして欲しいと書かれてあった。内容からいっても、あの赤子だったアニーに間違いない。最近になって二年前の事件を知り、この依頼を出したのであろう。
「依頼を出しただけで解決するのなら‥‥そんなに容易いなら、わたしは冒険者にはならなかった‥‥」
 ツィーネは依頼書に手を当てながら呟く。かなり以前にツィーネもダンを捜しだす依頼を出した事がある。しかし居場所がまったくわからない状況で、広大なノルマン王国全体を数日の間に捜すなど不可能であった。
 だからこそツィーネは冒険者になったのである。
「しかし、今のわたしなら、少しだけなら情報を持っている」
 ツィーネはカウンターに座り、アニーが出した依頼に参加するのであった。

●今回の参加者

 eb0339 ヤード・ロック(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1023 クラウ・レイウイング(36歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●歓楽の村
 冒険者達は晴れた空の下を一緒に進んでいた。
 出発の時、冒険者達は依頼人のアニーとギルドで会う。チップについてリンカ・ティニーブルー(ec1850)が伝えると、アニーはある程度の負担を報酬とは別に了承する。予算を越えた分には自費でなんとかしてもらいたいそうだ。。
 エイジ・シドリ(eb1875)は一緒に来られないと知って少しアニーと話した。幼かったのでアニーはツィーネの事を覚えていない。だが、当時の惨状は前にツィーネが話した内容と同じであった。
「何か今回は見た顔が多いな、と。とりあえず今回もよろしくな。特に女性」
 ヤード・ロック(eb0339)は珍しく元気な様子で先頭を歩いていた。余程、歓楽の村に行くのが嬉しいらしい。
「なかなかの格好だ」
 クラウ・レイウイング(eb1023)がツィーネを見て頷く。ツィーネは普段の男っぽい格好から、しとやかな感じの服装をしていた。ダンとツィーネは顔見知りのはずなので、予めクラウが変装をいっておいたのだ。
「えっと、以前調べた時ってどういう調査をしてたの?」
「俺も訊きたかった。どういう調査をしたのか?」
 リスティア・バルテス(ec1713)とエイジがツィーネに訊ねる。そもそもダンの噂があるという理由で、目的地を歓楽の村を決めたのはツィーネである。
「あのだな‥‥。酒場に潜り込んで訊こうとしたら、酔っぱらいに‥‥太股を触られて、それで大喧嘩になって‥‥。それどころじゃなくなったんだ」
 ツィーネはばつが悪い様子だ。
 続いてリスティアは出発時に依頼人とも話したチップについてをツィーネに切りだした。ツィーネの答えはやり方として好きではないが、かといって嫌悪する程でもないらしい。
「貴方は素直で真っ直ぐな人に思えるから、気になってね」
 リンカもリスティアと同じく、ツィーネがチップを嫌うのを心配していた一人であった。どうやら杞憂で終わったようである。
 完全に日が落ちた頃、冒険者一行は歓楽の村へと到着した。
 歓楽の村というだけあって、大通りにはかがり火が用意されていて人の姿も多い。酒場や売春宿などがひしめき合っている。
 昼間の状況を調べてからの方が安全ということで、冒険者達は村の外れで野営の準備をした。
 保存食の持ち合わせがないのに気がつく冒険者がいた。
 明日からは調べの途中で飲食する機会もあるので、全日数分なくてもいいとして今日の所は問題だ。気のいい仲間から分けてもらって腹を満たす。チップ以外にも飲食代がかかりそうである。
 リンカはダンの似顔絵をツィーネから訊いて描こうとしたがうまくいかない。代わりに絵の素養があるヤードが似顔を作成する。明日から二人ずつ三組に分かれるので三枚の似顔絵が用意された。
「世の中には下衆な人間が大勢いる。そして、そのような者こそしぶとく生き延びている。
だが、最早逃がしは決してしない」
 クラウはツィーネを励ます意味も込めて信条を語るのであった。

●調査
「さてと、それじゃ行きますか。一応、二人一組で行動して‥‥夕方には一度集って情報交換と行こうか。そこに間に合わなかった場合は何かあった、ということで」
 ヤードはエイジと一緒に歓楽の店が並ぶ大通りへと向かう。昨晩の似顔絵を頼まれる際、リンカに売春宿の調べを頼まれていた。もっともヤードは元々調べる気に溢れていたようだが。
「先ずはこの村の出来れば詳細な地図を手に入れるとしよう」
 クラウとリンカはまずは地図を探す。その後で酒場や市場を調べるつもりであった。リンカはパリで地図を入手してから愛馬で仲間と合流しようと考えていたが、手に入らなかったのだ。
「この村に不満のありそうな人達はどこにいるのかしら?」
 リスティアはツィーネに訊ねる。ツィーネによれば歓楽の村だとしても農民はそれなりにいるという。彼、彼女らの中には村の成り立ちに疑問を持っている者もいるそうだ。
 リスティアは仲間がバラバラになる前にいくらかの食事代を渡した。ツィーネもである。二人は歓楽の大通りを調べないのでチップ代が発生しない。一部の負担をしたのだ。
 冒険者達は二日目、三日目とかけて村を調べあげるつもりであった。

●ヤードとエイジ
「お、お嬢さん。ちょっとお話していきませんか?」
 お色気ありの酒場でヤードはおどけてみせる。両脇にいる女性の肩を両腕で抱きながら笑顔だ。得意の話術でこの村の状況を聞きだしていた。
 この村はパリに近いこともあって、歓楽の村とはいえ、表だって酷い事は行われていないようだ。しかし人さらいされた女子供を売り飛ばす人物が隠れている噂はある。
「さっき指輪を盗られてしまって困っている。そういう品が流れる店を知らないか? 情報を知っている者でもいい」
 エイジは酒に少しだけ口をつけて、なるべく若い娘に話しかける。ナンパするつもりはないが、どうせ話すなら美少女がよい。
 情報屋と接触できれば、より早く正確な話が手に入れられる。エイジはダンの情報を第一に考えていた。
 ヤードとエイジは頃合いを考えて酒場を後にした。
「やれやれ。人は金の亡者だな、と。しかし、もはりむさい男と会話するより綺麗なお姉さんとの会話がいいなっと」
「情報屋のいる場所を聞いた。こっちの方角に――」
「うむ、エイジ、先にこっちだ。よ、行くぞ。レッツゴーだ!」
「いや、先に情報屋のところへ‥‥」
 エイジは張り切ったヤードに腕を引かれて売春宿へとつき合わされるのであった。

●クラウとリンカ
 市場で地図を手に入れたクラウとリンカはダウジングペンデュラムを垂らす。
「はっきりとしないな」
 クラウはダウジングペンデュラムを片づける。ダンがいる場所を地図で探ったが、村にいるようで、いないようで、反応がおかしかった。うまく探せる場合もあるが、ダメな時もあるらしい。
「ダンって人がこの村にいると聞いたのだが、ご主人は知らないかい?」
 酒場でリンカが似顔絵を見せて訊ねる。リンカはダンがこの村で人身売買のバイヤーをやっていると想像していた。ヤードとエイジに売春宿の調べを頼んだのも、そういう村の暗黒面とダンの素性が繋がっていると考えたからだ。
「あたいらも雇われの身で細かな事は聞いちゃいないんだけどね、なんだか仕事を頼みたいって人がいてね」
「もし、あんたらがいっているダンが、この村のダンだとしたら近づかない方がいいよ」
 チップを渡しても酒場の主人は大した事を話してはくれなかった。
「あの酒場の主人は命の危険を感じていたようだな。あの様子だと逆に探っている私達をダンに知らせる事もあり得る」
 クラウは酒場を出て呟いた。
「相手にもこちらの情報を流すかも知れない」
 リンカも同意する。
 クラウの愛犬フラウとリンカの愛犬黒曜に臭いを嗅がせられるように、酒場の主人が汗拭きに使った布を二人は手に入れていた。
 クラウとリンカはしばらく酒場の近くで主人を張り込むのだった。

●ツィーネとリスティア
「なんでレイス退治をはじめたのか‥って聞いちゃダメかな? あ、もし話したくないことならいいよ」
 農家を回った後でリスティアはツィーネに訊ねる。ツィーネは恋人のマテューが今探しているダンに騙された上で殺された事を話した。マテューはその時の恨みでレイスになり、この世をさまよっている。
「今の貴女は何がしたいの? 敵討ち? それとも救うこと?」
「わたしは‥‥マテューを安らかにしてあげたい。それだけだ。だが、ダンを見かけたらどうするかは‥‥」
「そうなんだ。でも優先順位だけは一つに絞っておいたほうがいいと思うの。自分に何が大切かだけは間違わないでね」
 ツィーネは答えられずに黙っていた。
 農家からの情報としては、歓楽の大通りから少し外れた場所に人が集められるのを見かけた者がいるそうだ。クラウとリンカからもらった地図で場所を確認する。
 ダンの似顔絵を見せると、農民の何名かが似た人物を見た事があると答えた。

●ダン
 四日目、冒険者達は三組に分かれて調べた内容をあらためてつき合わせた。
 ダンと呼ばれる人身売買の疑いがある人物がいる事。
 この村のダンはツィーネの知るダンと容姿が似ている事。
 ダンは歓楽の大通りにあるこの村で一番大きな酒場に出入りしている事。
 人身売買のアジトとして使われている疑いのある倉庫がある事。
 調べてゆく課程で相手側にも、こちらの存在が知られた可能性が高い事。
 これらから考えて、冒険者達は作戦を決めたのだった。

 日が暮れて、夜が訪れる。
 冒険者達はこの村で一番大きな酒場へと向かった。
 一人一人バラバラに店内に入る。
 そしてツィーネが店長を呼びつけた。
「ダンに会わせろ!」
 ツィーネは店長の胸ぐらを掴み、わざと横柄な態度をとった。
 用心棒が現れてツィーネは取り囲まれる。ヤードがばれないように一人の用心棒を転ばせて逃げ道を作ってあげる。そしてツィーネは店の外へと逃げだした。
 クラウから借りたセブンリーグブーツのおかげで徐々にツィーネの速度があがる。ある程度距離を稼ぐと完全に追っ手をまいた。
「この間に仲間はなんとかしてくれるはず」
 ツィーネはあがった息を整える。
 ダンは酒場に現れても奥に入ってしまい、滅多な事では姿を現さないという。自分を名指しする奴が現れたのなら、後になんらかのアクションがあるかも知れない。それを酒場に残った仲間が確認する作戦だった。これがダメならアジトの疑いのある場所に潜入する予定である。
 クラウの愛犬フラウがツィーネを見つけて近寄ってくる。運んできた手紙を読むと、どうやら酒場にはダンはいないらしい。
 打ち合わせた通り、ツィーネは先に一人でアジトの疑いがある倉庫へと向かった。
 木々に囲まれてひっそりとした場所に倉庫はあった。洩れる明かりもなく、無人のようだが中に入ってみなければはっきりとはわからない。
 月明かりの中、ツィーネは仲間の到着を待った。
 その時、月に重なって輝く浮遊物が現れる。
 ツィーネは目を凝らす。
 儚げな青い輝きが景色に透けて漂う。
 死んでしまった恋人。テオカの兄。
 レイスになってしまった青年の姿のままのマテューであった。
「マ‥‥テュー‥‥。いや、あれはレイス!」
 ツィーネは腰に下げている魔剣を抜こうと手をかける。
「邪魔を‥するな‥‥ツィ‥ネ。ダンは――」
 レイスが言葉を発するのをツィーネははっきりと耳にした。
「いや、そんなバカな‥‥」
 ツィーネは首何回も横に振る。
 レイスは正気を失っているのがほとんどだ。今までのレイスはせいぜい単語を繰り返して叫ぶだけだった。
 だが頭上のマテューのレイスは違う。ツィーネの事がわかった上で話しかけてきたのだ。
 マテューのレイスは倉庫の壁を通り抜けて姿を消す。
「どうしたの!」
 仲間が到着する。リスティアが地面へ座り込むツィーネに駆け寄った。クラウ、リンカ、ヤード、エイジもツィーネの回りに立つ。
「マテューのレイスが現れて‥‥倉庫の中に」
 ツィーネは力無く項垂れたままだった。
 倉庫から激しい物音が聞こえてくる。扉が開いて飛びだしてくるガラの悪い男が数人。
「ちょっと待ってくれよ、と」
 ヤードがプラントコントロールを使い、飛びだしてきた男達の足を草で引っかける。倒れた一人をエイジが仲間の元に連れきた。
「レイスが、中でレイスが!」
「中にダン様はいるのか?」
 エイジは普段と違う話し方をする。男は混乱しているので悪党仲間と勘違いしているようだ。
「ダン様はご自宅でお休みだ。今日はここには‥‥うっ!」
 倉庫から現れたレイスのマテューに触れられて男が気絶する。
 放心状態のツィーネは何も出来なかった。関わりを知っている仲間だが、この状態ではレイスに手を出すのはためらわれた。
 月夜にマテューが遠ざかってゆき、そして完全に姿を消した。
「中には誰もいなかった」
 クラウが倉庫を調べて戻ってくる。
 リスティアは気絶した男を仕方なくリカバーで回復してやる。そして頬を叩いて起こす。ダンの自宅とはこの村から少し離れた隠れ家であった。
「誰か来たぞ」
 リンカが近づく足音に気がつく。どうやら悪党達の仲間がやってきたようだ。
「なによ! やろうって言うの!」
 現れた悪党にリスティアが威勢よく啖呵を切った。そしてすぐにヤードの後ろに隠れる。だがヤードはさっと身をかわしてどこかに身を隠す。リスティアは隠れられるものを探してジタバタと動き回った。
「ちょいと数が多すぎるな。これは逃げるが勝ちだな」
 ヤードが一目散に逃げだす。リスティアとリンカがツィーネに手を貸して立ち上がらせる。
 クラウが殿をつとめ、エイジもナイフを手に悪党達の攻撃を避けて時間を稼ぐ。離れた位置を確保したヤードがスクロールのコンフュージョンを使う。うまく魔法がかかると悪党同士が戦い始める。その間に冒険者達はうまく逃げるのだった。

●パリ
 四日目の夜から五日目の朝にかけては、村から少し離れた位置で冒険者達は野営を行う。
 ツィーネの心情としては一刻も早くダンの隠れ家に行き、レイスのマテューが現れるのを待ちたかった。しかし生真面目なツィーネはギルドの依頼を放棄する事は出来ず、仕方なくパリへの帰路に着いた。
 依頼人のアニーには敵討ちまでには至らなかった事がツィーネの口から伝えられた。アニーは納得したらしく、依頼金とある程度かかった費用を冒険者達に支払った。
「金が用意出来たらすぐにでもわたしの名義で依頼を出すつもりだ。もし‥‥もしよかったら力を貸してくれ。それまでに決めておく。ダンを倒すを優先するのか、マテューを遺恨の苦しみから救うのか‥‥」
 冒険者ギルドを立ち去るツィーネは寂しげであった。