バード失格

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月12日〜06月17日

リプレイ公開日:2007年06月18日

●オープニング

 竪琴を手にした十四歳の少女がパリの街角に立っていた。
 ドラゴンと戦った勇者の歌を唄う。
 しかし、いつものように、誰も立ち止まらない。
 勇者の歌から恋の歌に変えてもダメである。
 野良猫があくびをしながら目の前を歩いてゆき、少女は歌と演奏を止めた。
「ふぅ〜‥‥‥‥」
 毎度の事ながら少女は気落ちした。自分には才能がないのかと嘆いてもどうしようもないが、だからといって手詰まりである。
「どうーしよう。このままじゃわたし、バード失格‥‥」
 少女は肩を落として自宅への道を歩く。すでに親元を離れて一人暮らしをしている少女にとって、このままでは死活問題である。しかし特技は唄うことのみだ。
 友人によれば、歌がヘタではないようだ。演奏も悪くないようだ。
 問題は少女のイメージにぴったりと合う歌がないからだと指摘される。
 勇ましい勇者の歌を唄っても、背伸びしたような大人の恋の歌を唄ってもダメ。等身大の歌こそが少女には必要であった。
「わたしらしい歌って?」
 いくら考えても浮かばなかった。

 少女が冒険者ギルドを訪れた。
「あのー。冒険者に歌を作るのを手伝ってもらいたいんです」
「それは冒険者の体験談を歌にするのですか?」
「そういう先輩バードもいますけど、わたしはそれで失敗してるんです。なので、あのー、わたしらしい歌を一緒に作ってもらいたくて」
「依頼人らしい歌ですか」
 少女と受付の女性の話しは続く。
「他人の目からわたしがどんな風に映っているか、よくわからなくて。なので、わたしをよく観察してもらって、その上で歌づくりのヒントをもらいたいんです」
 話す少女は明るめの服を着ていた。青を基調とした服で体つきはほっそりとした印象だ。顔立ちはやや丸顔で、受付の女性はのんびりとした印象を受けた。黒髪は短めである。東洋の血が入っているようだが、それはよく見ればという感じだ。
 少女はちゃんと丁寧な挨拶をしてからカウンターを立ち去るのだった。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3575 アシャンティーア・ライオット(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5737 レティルシェ・フェイスレス(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec3059 ユキカ・ノイ(24歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●集合
「あっ、ありがとうございます。えーと、わたし詩人のノエルっていいます。ちょっとスランプなので、みなさんの力を貸して下さい」
 今回の依頼人である十四歳の少女ノエルが冒険者達に挨拶をした。場所は冒険者ギルドの個室である。
「はわ‥もしかしたら、お歌をお聴きしたことが在るかもですね♪」
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)はノエルに微笑んだ。そして軽く竪琴を弾かせると澄んだ音が響く。
「アシャンティーア・ライオットだよ。歌うことはいいよね、楽しくなるもん」
 アシャンティーア・ライオット(eb3575)は大きな声で挨拶する。満面の笑顔だ。
「あ、アシャンって呼んでね」
 アシャンはノエルと両手で握手する。
「キエフの旅の一座に協力した事があるの。ちょっとこういうことに手助けしたくなっちゃった。皆、よろしくね」
 レティルシェ・フェイスレス(eb5737)は静かな微笑みをもって挨拶をする。
「うちのこともよろしくやさかい。ついでに一緒に歌ってや」
 ジュエル・ランド(ec2472)は元気よく羽ばたきながら空中で止まった。
「一緒に歌をつくりましょう」
 ユキカ・ノイ(ec3059)は、ちょっと緊張しながらノエルに話しかけた。
 せっかくの晴天という事で、全員でパリ郊外まで移動する。生命力溢れる草花が育ち、そよ風と相まってとても気持ちよい場所だ。
「レティルシェさん、背中の荷物、お馬さんに載せてくれてありがとうね。そうそう、依頼書を見て歌を作ってきたの。お近づきの印に聴いて欲しいわ」
 アシャンがノエルにプレゼントする歌を唄った。歌声は風に乗り、大きな世界に広がった。


「♪いまだ見つからない私の星 寝ては起きてを繰り返し
 空に 町に 流れてく いまだ見つからない私の星

 それでも明日がある事をしっている 悩み涙にぬれた日もあった
 心の乾きにひび割れる日もあった それでも明日が来る事をしっている

 とてもつらい旅だけど 明日が来る事しっているから
 いつか星をつかめる日もくるでしょう

 その日の為にいつかの為に
 私が望んだ明日の為に
 頑張りましょう
 頑張りましょう

 ステキな明日がくるように あおい空に誇れるように あおい海の広さをもって
 ステキな私にあえるように
 今日も明日も歌います♪」


 アシャンにみんなが拍手を送った。ちょっとだけ照れながらもアシャンはとても満足げだ。
 ノエルがみんなから質問を受けて答える。
「1つ聞きたいのだけど、どうして『歌』でお金を稼ごうと思ったのかしら?」
 レティルシェがノエルに訊ねる。ノエルは少し考えてから答え始めた。
 十四歳になったら吟遊詩人として一人で生活するのが一族のしきたりなのだそうだ。一年程度を暮らせるだけの資金は渡されるが、家に戻っていいのは三年後だと決められていた。
「色々と大変なのね。とっても。それは黒の父の試練‥‥あっ、最後のは忘れて♪」
 レティルシェは気持ちを悟られないようにおどける。だがちょっと涙ぐんでいた。
 ユキカも家を出た理由が訊きたかったので驚いた様子だ。
「誰か好きな人とかいないでしょうか?」
 ユキカは唐突に質問する。ノエルは顔を真っ赤にして人差し指同士をくっつけながら「いない」と答えた。好きな人がいれば詩が書きやすいと考えていたユキカだが、それは無理のようだ。
「お師匠様が言ってたですけど、歌い手は、心の弦を震わせて音を紡ぐ楽器なのですって。竪琴と同じですね」
 ラテリカは竪琴をポロン♪ とギルドの時と比較にならない程大きく鳴らした。
「だから、心が震えないと、ちゃんと歌えないのだそです。ラテリカも、恋のお歌は、本当に恋をしてやっと歌えるよになったですよ」
 話してゆくうちにラテリカの顔も真っ赤になってゆく。最後は恥ずかしすぎて背中を向ける。
「なんで唄いたいのか? それだけは教えてくれへん?」
 ジュエルが訊ねると、ノエルは父親を見てきたからだと答えた。ノエルにとって吟遊詩人であった父親は尊敬する師でもある。
 幼い頃、自分の意志とは別に教えられた竪琴と歌であったが、それでもノエルは唄うのが好きだった。どうしてと訊かれても、それがすべてとしか答えようがない。
「自分自身が感動した事や伝えたい事を、心を込めて歌う事が第一。歌や演奏の技術は、その為の方法なんやさかい、歌に振り回されるのは本末転倒なんやないかな?」
「はい‥‥。テクニックだけではどうにもならないのはわかっているんです‥‥。でもさっきアシャンさんの歌を聴いて、なんだか心が揺さぶられました! なんかこう、創作意欲が湧いてきたというか、これからしばらくよろしくお願いします」
 ノエルはあらためて冒険者達にお願いするのだった。

●ラテリカのレッスン


「♪大好きな人の『おはよう』
 緑の匂いの散歩道
 野良猫のあくび
 今年最初の果物
 友達の笑顔
 歌えるということ

 小さな 小さな 幸せの欠片
 この身を飾る宝石では無いけれど 人生を彩るリボン
 道に迷っても、輝く座標

 一人じゃないのが 一番の幸せ
 貴方の腕で今日も『おやすみなさい』♪」


 ラテリカの歌が終わり、みんなは拍手をした。ノエルは特に強く拍手をする。
 二日目、昨日と同じパリ郊外に集まっていた。
「こんな風に、小っちゃなことでも良い思うです。ノエルさんらしいお歌になる思うですし、お聴き下さった方がご自分の小さな幸せをお探しになったら素敵ですよね」
「小さな幸せですか‥‥。食べてる時が、一番幸せ‥‥でも、そんなの食いしん坊の詩になってしまいます」
「それがノエルさんの心が震えることならばいいと思いますよ。ちゃんとやさしく言葉を選んであげればいいのです。ドキドキするよな曲にはならないですけど‥心がほわほわするお歌になる思うです」
「そんな感じですか‥‥そういえば父さんが作ってくれた『朝食の詩』は大好きだったなあ」
「そういう詩なら自然と笑顔で歌えるですし、聴いて下さる方も、難しい顔よりはニコニコの顔がお好きだと思うですよー♪」
 ラテリカの言葉にノエルはやる気が満ちてきた。

●レティルシェのレッスン
 続いてレティルシェがノエルと話す。
「詩は異国のやわらかそうな言葉をおりまぜて、メロディを主体にしたらどうかしら? 情緒溢れる安らぎを感じる『異国の歌』って演出をするの」
「異国のイメージ‥‥ですか」
「私は語学に堪能ではないので、よければジュエルさんが翻訳してくれるそうです」
 レティルシェはノエルからジュエルに視線を移した。
「任しとき。うまいこと直してやるさかい」
 ジュエルが花に囲まれた場所から上半身を起きあがらせた。
 すでにノエルがいくつか書いてきた詩の中からよさそうなのを核として選び、三人で言葉を入れ替えてゆく。竪琴を使って柔らかいメロディにのせていった。
 最後には最初の詩から別物に変わっていたが、とてもよい出来である。
 東洋の血が入っている感じからジャパン語をおりまぜてあった。サビの部分などに少しだけジャパンぽいテンポが入れてある。
 ノエルが一人でさらに煮詰めてゆく事になるが、八割方がこの日のうちに完成するのだった。

●ジュエルのレッスン
 三日目、この日の午前はジュエルがノエルに教える番だ。
 いつもノエルが唄っていたパリの街角を訪れる。
「厳しいけど、実地訓練が一番やさかい。気ぃ入れてよろしくな。さっき教えた詩を唄ってみてや」
 ジュエルのいう通り、ノエルは竪琴を手に一曲唄う。
 題名は『聖ペリペディアの賛美歌』という。別名は『神はお忙しい』というそうだ。


「♪皆がじっとお祈りしてます 天に居まします神様どうか
 哀れな僕に慈悲の手を だけど不幸は無くならない

 なんで助けてくれないと 怒っている人いるけれど
 だけどちょっと考えて 父さん母さん、気になるあのヒト

 みんなが同じ事、祈ってる

 神様きっといそがしい、神様きっといそがしい
 だから私は考えた 私も神様のお手伝いする♪」


 ノエルが歌い終わるとジュエルは飛びながら腕を組んでいた。
「どや? 悩むより唄っていたほうがなんぼかいいやろ? たまにはお客なんて気にせんと、唄えばいいんや。後からお客がついてくるもんや」
「はい!」
 それからノエルは歌い続ける。ジュエルのアドバイスは続いた。何を伝えたいかを明確にし、場の雰囲気にあった歌を唄った方がいい事。
 全体としては楽しく唄い、観客がいない時の気持ちの持ちようとして自信をもてる曲を。人が集まり出したら幸せをイメージしたお気に入りの歌を披露するのがよい。
「すべては最初に唄わせた詩に込めてあるで。もっとも難民を鼓舞する目的で作った歌やがな」
「教えて頂いたこと、もう一度よく考えてみます」
 ジュエルによるノエルのレッスンは終わった。

●アシャンティーアのレッスン
「えーと。これでどうですか?」
「もうちょっと短いフレーズに置き換えた方がいいかな」
 ノエルとアシャンは一から詩を考えていた。場所はパリ郊外の草木が生える場所である。
 ノエルが好きな青をイメージとして海、空を考え、逆に引き立たせるための夜空とかも含めてゆく。他にはオリエンタルな要素も加えていった。あくまでアシャンから言葉を足すような真似はしない。訊かれていいか悪いかを伝えるだけである。
(「自分でつかんでいかないとね‥‥」)
 アシャンは心の中で呟く。初日にみんなで訊いた質問でいろいろな事がわかっている。
 ノエルの目指すのは父親でもある師匠。
 父性にあこがれる女性は多い。幼ければなおさらだ。それをすべてさらけ出しては意味はないが、考えの根底に置くことに問題はない。うまくやれば同性の共感を得る事もできるはずだ。
 徐々にできあがってゆく詩はノエルの心を映してゆく。
 これならうまくいくかも知れないとアシャンは喜んだ。
 夕方になり、大体が描き終わった所でお開きとなる。後はノエル一人で仕上げる約束だ。
 冒険者達とノエルは家路に着くのだった。

●ユキカのレッスン
 四日目、パリ郊外の草木生える広い場所でユキカが唄う。
 仲間の助けを借りていくつか作られたノエルの詩を、ユキカが代わりに唄ってみたのだ。
 もちろんノエル自身も唄うが、客観的に知る為にユキカに唄ってもらったのだ。
 その上で疑問を感じた個所を修正してゆく。
「この辺りとか、独りよがりになっていたかも。ユキカさん、ありがとう」
 ノエルはユキカに微笑んだ。ユキカはノエルが落ち込まないようにさりげなく気をつかう。
 たまたまだがアシャンが手伝ってつくったノエルの詩は父親への感謝が詰まった曲だった。ユキカもこの歌が好きになり、より磨き上げる事にした。
 お昼過ぎでユキカのレッスンは終わった。それから午後の間はみんなでパリ市内で唄ったりする。
 ジュエルが難民を鼓舞する為に作った『聖ペリペディアの賛美歌』を全員で唄う。ノストラダムスの預言などに惑わされないように、自分を強くもって欲しいとの意志が込められた歌であった。

●お披露目
 五日目の本番が訪れた。
 ノエルが唄っていた街角は普段より人通りが多いようである。この状態で立ち止まってもらえなければ、やはりダメだという烙印を押されかねない。
「大丈夫ですよ♪」
「力を抜いてね」
「色々たいへんでしょうけど頑張りなさい。お父さんが守ってくれるはずです」
「あれだけやったんや。どーんといきなはれ」
「私は赤面性ですけど、お客さんは野菜とかだと思えば平気だと‥‥思います」
 冒険者達がノエルを励ます。
 まずはラテリカがくれた歌を唄う。そしてアシャンの歌、続いてジュエルの歌である。
 立ち止まる人が増えてゆく。十人程度は聴いてくれているようだ。
 そしてラテリカにヒントをもらった歌『ハラペコのジョニー』が唄われる。ノエルの竪琴に合わせてラテリカも伴奏を入れてくれる。二つの竪琴にのって楽しそうなテンポが続いた。子供の姿も見られるようになる。
 続いてはレティルシェが提案しジュエルが翻訳をしてくれた『異国の空』が唄われた。
 やわらかいメロディーを主体とする歌で景色などが喚起される感じであった。言葉の意味はわからなくても旋律がそれを補完する。
 ジュエルが教えてくれた心構えが生きていた。曲と曲の間にも気をつかい、現実から夢の世界へお客が引き込まれ続けるように気をつける。
 最後はアシャンと作り、ユキカの手で磨き上げられた歌『故郷の夕焼け』である。
 奥底に隠れされた父親への思いを伝える。まだノエルは若く故郷を離れて数ヶ月だが、その気持ちは真に理解できていた。
 この場にいるすべての者がパリ生まれというわけではない。そしてパリ生まれであっても故郷というものに郷愁を感じる者は多いはずだ。
 唄い終わるとノエルは拍手に包まれた。
 数えきれない程の人々が立ち止まり、ノエルを取り囲む。置いてあった裏返しの帽子にはたくさんのコインが投げ込まれる。
 ノエルの新たな旅立ちの日は成功に終わるのだった。

「ほんとうに、ほんとーにありがとございました」
 ノエルは涙を浮かべながら冒険者達にお礼をいう。せめてこれぐらいといってオリファンの角笛を全員に渡した。父親が家を出るときに渡してくれたそうだ。
 夕日の中、ノエルは立ち去る冒険者達にずっと手を振っていたのだった。