●リプレイ本文
●目撃
「知り合いのレストランに予約をとったのですよ〜♪ 準備オッケなのです」
リア・エンデ(eb7706)は足取り軽く歩いていた。明日のラ・ソーユの後に行われるお疲れ会の準備をしてきたのだ。
「あれ‥‥?」
冒険者ギルド前を通り過ぎようとしたとき、中を覗こうとしている娘を見つけた。
「はうっ、前にゾフィー様を追いかけていたあの娘です〜」
リアはしばらく見ていたが、娘に動きがないのでそのまま立ち去るのであった。
●ラ・ソーユ
「みなさん、ラ・ソーユにようこそです〜」
シーナが集まってくれた全員に挨拶をする。
「シーナさん、ゾフィーさん、お久しぶりです♪ こちらの方は?」
鳳双樹(eb8121)が二人に挨拶すると隣りに一人の男が立っていた。
「あの、こちらレウリーさん。わたしの友達なの。よろしくね」
「皆さんよろしく」
ゾフィーの紹介でレウリーが挨拶する。
「レウリーさんはブランシュ騎士団黒分隊所属なのですよ〜」
シーナがいうと冒険者達は驚く。
「ゾフィーさんが紹介したって事は、もしかして‥‥」
「お肉の友よ、そうなのです♪ ゾフィー先輩の恋人候補なのです。みなさんにもうまくいくように手伝って欲しいのです☆」
鳳とシーナが交わしたひそひそ話は一瞬にしてみんなに伝えられた。少しゾフィーとレウリーから離れた場所で冒険者達は喋る。
「いい縁が降ってきたのか‥良かった‥。仲良くなる‥‥きっかけ作りに‥なればいいな」
ウリエル・セグンド(ea1662)は笑顔で頷いた。
「よくわからないがめでたいな」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)は腕を組んでちらっとゾフィーを見る。
「ラ・ソーユは楽しみたいですけど、オジャマしないようにします」
セリュー・ヴィグ(ec3073)はニコッとした。
「まさかゾフィーさんが‥‥あ、いえ、あの、おめでたいですね。ガッツリ応援させて頂きますから。ええ。しますとも!」
セシル・ディフィール(ea2113)は意外な印象を受けていた。
「ゾフィーさん、羨ましいです!」
鳳はレウリーをじっと眺める。そのレウリーの向こう側の草むらに誰かがいるのを気がつく。鳳は小さな声で冒険者仲間に伝えた。
「そういえば昨日もギルド前に以前ゾフィー様を狙っていた娘がいましたですよ〜」
リアが大きな声で答えると、ゾフィーの耳にも届いた。
「そんな!」
ゾフィーはみるみるうちに顔が青ざめてゆく。ゾフィーは仕方なく以前にあった一件を、この場にいる全員に話した。
「お礼はするからなんとかして! お願い!」
ゾフィーの表情は困り果てていた。
「ふむ、なるほど。コホン、‥真剣なる愛情にどうこう口を挟むのは無粋だが、相手にその気がないのに押しかけるのはいかがなものだな」
「‥‥まだ妨害しようとしてるのか? ‥‥相当好きなんだな。だけど『妨害』ばかりじゃ‥」
「ストーカーさんも巻き込んじゃえばストーカーじゃないのですよ〜」
エメラルド、ウリエル、リアが続けて話す。特にリアが最後にいった言葉はみんなを驚かせた。
話しが盛り上がり、ゾフィーを狙う娘にもラ・ソーユをやらせようという話しがまとまる。ずっと黙っていたシーナが最後にゾフィーを取りなして、娘を誘う事が決まった。
「あの娘‥嫌わないで‥やってくれな。関係を訊かれたら円満に別れて今は友達‥‥って感じで」
ウリエルはレウリーに聞こえないようにゾフィーに話しかけてから草むらに近づいた。
「‥いつまで妨害とかしてるんだ。そんなことばっかりしてたら‥‥嫌われちゃうし、相手も幸せになれない」
「わっ、わたしの勝手よ!」
「俺は‥‥好きな人なら、自分が唯一の相手になれなくても、幸せを祈って違う形で見守りたいと思うけど」
ウリエルはやさしく娘の腕を掴んだ。娘が草むらから姿を表す。
「えとえと〜一緒にラ・ソーユやってみませんかなのです〜♪」
リアが娘の反対側の腕を掴む。
「はう〜人数が足りないのでお願いしますですよ〜」
娘が黙っているのをみて、リアはすがりついて嘘泣してみせた。
「私からもお願いです。一緒にやりませんか?」
「そんな所に居ないで一緒にやりません?」
鳳とセシルも娘に声をかける。
「人足りないしね」
娘に背中を向けていたゾフィーが呟いた。
「‥‥それじゃ、一緒にやろーかな」
娘がうつむきながら頷く。
「お名前教えて下さいなのです〜♪」
「お名前は何と仰るのでしょう?」
けろっと笑顔になったリアとすましたセシルが訊ねる。娘の名前はファニーといった。
「まずは私とシーナさんが実演しながら説明します」
鳳とシーナが手袋をはめる。二人は中央に張られたロープを境にして左右に分かれた。
シーナが側面にある屋根の上に球を掌で弾いて打ち上げる。球は屋根の上を転がり、鳳のいる側のコートに落ちる。鳳は二度バウンドする前に球をロープの上を通るように掌でシーナに打ち返した。
「あとはこれの繰り返しです。リアさん、二人ずつでやるとかいってたよね?」
「そうなのです〜♪ 二人ずつペアを組んで勝負するのですよ〜。交互に打ち合うのです。前と同じ4点先取で1ゲーム獲得。6ゲームとった方が勝ちなのですよ〜♪」
鳳がリアに話題をふって説明は終わった。
ペアはリアが次々と決めていった。そしてくじ引きでトーナメントが決められる。
一時間程、練習が行われてから試合は開始されるのであった。
●試合
第一試合は『エメラルドとセシルペア』対『ウリエルとファニーペア』である。
「ファニーとかいう者、いろいろと悩みを抱えているそうじゃないか。優勝者にはこのメンバーが与えられる程度の望みが一つ叶うというのはどうだ? みんなもどうだ?」
エメラルドの条件に異論はなく、そのルールでペアによるラ・ソーユが始まった。
ファニーがサーブを行い、セシルの薔薇の棘のような鋭い返球がされる。
ウリエルが鷹の爪で切り裂くような力強く速い球を打つ。
エメラルドは長い髪を大きく揺らしながら輝ける金色の風となり、コートを駆けめぐった。
互いに一歩も引かない攻防は5ゲーム対にまでもつれ込む。セシルが立てた作戦とエメラルドのバランスのとれた能力がわずかに勝る。
勝者は『エメラルドとセシルペア』であった。
第二試合は『ゾフィーとレウリーペア』対『セリューとシーナペア』である。
「これでレウリーさんに勝てればブランシュ騎士団より冒険者ギルド受付の方が強い事になるです。負けられないです〜」
「そっそうなんですか? でも負けられないのは確かです」
シーナは的はずれな事をペアのセリューに告げた。
試合が始まるとセリューは鳥を追う猫のように俊敏にコート内を走る。シーナは普段ほわわんとしているのにラ・ソーユに関しては鍛え抜かれた闘犬のようである。最強の犬猫コンビであった。
「シーナったら、なんで全力なのよ!」
強くなったといえゾフィーはまだシーナのレベルまで達していない。
「任せて!」
レウリーが率先してシーナの球を受けるように順番を変えた。瞬く間に負けていた『ゾフィーとレウリーペア』は盛り返し、逆転する。そのまま勝負は決するのだった。
「ゾフィー先輩はともかく、ブランシュ騎士団は強すぎるです〜」
「ちょっとずるいです」
シーナとセリューは倒れたまま、負けを認める仕草をするのだった。
第三試合はシードと第一試合の勝者との戦いになった。つまり『鳳とリアペア』対『エメラルドとセシルペア』である。
「双樹ちゃん、一緒に頑張りましょうです〜♪」
「ちょっと秘策があるのです。耳を貸して下さい」
リアと鳳はごにょごにょと耳打ちしあう。
試合が開始されると鳳のパワーが炸裂する。使える限り、オーラパワーを拳に付与していたのだ。今回の鳳の動きはただ花が散りばめられたような状況ではなく、故郷ジャパンの桜の花吹雪に似た激しさがあった。
「そうくるのか。ならばこちらも答えよう!」
エメラルドの動きがさらに加速する。金色の風が花吹雪を蹴散らす。
「はう、緑ちゃんがすごいことに〜」
リアは一生懸命にちょっと成長した子猫のようにコートを駆け回った。
「これはとれないでしょう」
セシルが左右の打ちわけで敵を翻弄する。
結果6対5ゲームで『エメラルドとセシルペア』の勝ちとなった。
第三試合の終わりから一時間後、決勝戦の第四試合が開始される。『エメラルドとセシルペア』と『ゾフィーとレウリーペア』の対決であった。
ファニーはサーブ側のコートで球を渡す役目をやっていた。
ファニーの頭の中で悪魔が囁いていた。
羊毛を減らした球ならとっても跳ねにくい。サーブはただ球を頭上の屋根に転がすだけなので減らしても平気だろうが、打ち返さなくてはならない相手側コートには不利になるだろう。
ゾフィーとレウリーペアが相手側コートにいる時にだけ減らした球を使わせる。そうすれば、ゾフィー側が負ける確率が高くなるはずだ。
ゾフィーお姉さまには気の毒だが、レウリーには恥をかかせる事が出来ると、ファニーは球を見つめていた。まだゾフィー側がサーブである。次のコートチェンジからがチャンスだ。
「ありがとうね」
ゾフィーが球を渡してくれたファニーに何気なく笑顔でお礼をいう。
しばらく硬直したファニーは減らした球を服の奥に引っ込めた。そんな事をしても何も変わらないと。
試合は順調に進んだ。
金色の風ことエメラルドと黒き旋風レウリーが対決し、薔薇の棘セシルと恋する乙女ゾフィーが競り合うようなゲーム展開となった。
ラリーが続き、一点をとるのがとても長い。ゲームを織りなす四人とも汗だくだくで息があがってきていた。とても親睦を深める軽い雰囲気ではない。
へとへとになったゾフィーが球に追いついて打ち返す。それがうまく入って終了した。
結果は『ゾフィーとレウリーペア』の優勝であった。
「そうですね。またラ・ソーユをみなさんでやりましょうか」
優勝者の望みはゾフィーによって再びのラ・ソーユ大会開催となる。同じ事を考えていたエメラルドは次こそはと瞳の中に炎を燃やした。
「ゾフィー様、ラ・ソーユの道具を片付けてもらっていいですか〜」
リアがゾフィーに頼むと、すぐにレウリーの元にかけよる。
「女の子一人だと大変なので、手伝って下さいなのです〜。お疲れ会の準備で忙しいのでこれで。レストランで待ってます〜」
ゾフィーとレウリーが返事をする間もなく、リアは立ち去った。
「私たちは先に行って準備するのですよ〜」
リアはファニーの背中を押す。
「でっでもわたし‥‥」
「嫌われたら寂しいのですよ〜。ここは二人にしてあげるのがゾフィー様の幸せなのです」
ゾフィーとレウリーを残し、他のみんなはリアが予約したレストランに向かうのだった。
●お疲れ会
「乾杯ですー」
シーナの音頭で乾杯がされてお疲れ会が始まった。
「今日のゾフィーさん、何時もと違うと思いません?」
セシルがファニーに大皿から取り分けてあげながら問い掛けた。
ファニーはゾフィーに目をやる。緊張しながらレウリーの側に座るゾフィーの姿があった。
「わたし‥‥」
ファニーはうつむいて自分の膝を見つめた。
「さあ皆様、お待ちどうですよ〜」
リアは元気に歌い始めた。
旋律は明るいが、傷心のファニーに向けた歌である。ただ、他の人が聴いてもわからない気遣いがされた詩の内容であった。
歌い終わるとラ・ソーユをやった仲間だけでなく、他の客からも拍手がある。
「あれ?」
振り返ったシーナはレウリーの横の席が空いているのに気がつく。ゾフィーの姿が見あたらなかった。
離れた壁から顔を出してゾフィーが手招きをしていた。シーナは適当な理由をつくって席を立ち、ゾフィーの元にいった。
「大変な事に気がついたの。ここの代金、シーナとわたしで払うつもりだったでしょ?」
「ですよ。まっまさか、先輩、お金ないんですか?」
「お金はあるわ。問題はみんなにファニーさんを何とかしてくれって頼んだでしょ? その分のお金がないのに今気づいたの」
「ひえ〜。いくらギルドを通していない依頼とはいえ、信用問題です〜」
ゾフィーとシーナがもう一度持ち金を数えるが、やはり全然足りなかった。
「明日のギルド開いている時間は出勤だし、まさかギルドまで取りにこいなんていえないし‥‥」
ゾフィーは頭に手をあてて考えていた。
「あのー、わたしもお金はありませんけど。これ」
知らぬ間にファニーが近くにいて、シーナとゾフィーは驚いた。
ファニーがゾフィーに差しだしたのはたくさんのソルフの実であった。
「今までごめんなさい。お金の代わりといってはなんですけど、みなさんにあげて下さい」
「これ、結構高いんでしょ?」
「いいんです。これぐらいしかできないんですけど使って下さい」
ファニーは全部をゾフィーに手渡すと席に戻っていった。
「これならみんな納得してくれると思うのです。先輩よかったですね」
「うっうん。よかった‥‥のかな?」
お疲れ会の最後でゾフィーは手伝ってくれた冒険者に謝りながらソルフの実を渡した。
「うまく‥いったようで‥‥よかったね」
ウリエルは見守るようにゾフィーを思っていた。
「ファニーさんのことなんとかなったようですね。お幸せに」
セシルはファニーをちらっと見ながらゾフィーに話しかけた。
「吟遊詩人はみんなを楽しくする達人なのです〜♪」
リアは最後の最後まで元気であった。
「ブランシュ騎士団とはいえ、不覚をとるとは。再戦しないとな」
エメラルドはニコリと笑う。
「シーナ様はいろいろ仰いますが、ゾフィー様の事を心配なさっているのですね」
セリューは初めてのラ・ソーユに満足したようだ。
「シーナさん、最後ゾフィーさんとレウリーさんを二人っきりにできないでしょうか?」
鳳はシーナに相談し、レウリーにゾフィーを送ってもらう計画を立てる。だが途中で呼びに来る黒分隊隊員がやってきて、レウリーは謝りながら去っていった。
「お肉の友よ。残念です」
「そうですね。せっかくゾフィーさんの幸せそうな姿を見たいと思ってたので残念です」
シーナと鳳はどこまで二人についていこうとしていたのか、それは内緒であった。
夜遅くなる前に解散となる。
「最後は残念ですけど、レウリーさんどうでしたか?」
「みんながファニー‥‥さんの相手をしてくれたおかげでいろいろ話せたわ。それにファニーさには世話になったし‥‥」
家へと帰るシーナとゾフィーの頭上にはたくさんの星が瞬いていた。