幻惑の歌声 〜トレランツ運送社〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月16日〜06月23日

リプレイ公開日:2007年06月20日

●オープニング

「お客さん、そんな呑み方は身体を壊すよ」
 夜の酒場のカウンターでマスターが男性客に話しかける。
「いいんだよ。もう。別にもうなんだって‥‥」
 男性客の名はアクセルといった。支払いのコインを袋からこぼすようにぶちまけると酒場の外へと出ていった。
 アクセルはルーアンのトレランツ運送社で荷物の積み卸しの仕事をしていた。かつてパリに住んでいたのだが、少しでも海の近くに住みたくてルーアンに移り住んだのだ。
「やっぱ、もっと海に近いところがいいかもな‥‥。ルアーブルで職でも探そうかな」
 アクセルは千鳥足で歩く。アクセルは道に植えられていた木にぶつかって倒れる。そのまま気絶して闇の世界へと誘われるのだった。
「あたっ‥‥」
 アクセルは両手で頭を抑えながら起きあがる。二日酔いのせいなのか、木にぶつかったせいなのかはわからないが、頭がガンガンに痛かった。
 よくよくいる場所をアクセルは確認する。どうやって帰ってきたのかはわからないが、安く借りている自分の家のベットの上だ。
「アクセル、おはよう」
「ああっ、おはよう‥‥?」
 何気なくアクセルは答えたが、現在は一人暮らしをしていた。驚いて振り返ると見覚えのある立ち姿があった。
「フランシスカ‥‥。本当にフランシスカなのか?」
 アクセルは自分の目を疑った。海に帰ったはずのマーメイドのフランシスカが目の前に立っていた。フランシスカは魚の尾を変えて、どこから見ても人間の女性であった。
 フランシスカは誘拐された兄を捜してパリにやってきた事がある。その時、アクセルは手を貸し、冒険者と共に無事兄を取り返した。だがアクセルは海に帰ったフランシスカを忘れられずにいたのだ。海の近くへと住処を移そうとしていたのもそのせいである。
 昨晩はフランシスカが倒れているアクセルを発見し、家の場所を訊きながら連れてきてくれたそうだ。
「ごめん。酷いことをいった。俺は‥‥」
「いいの。わかっているから」
 アクセルはフランシスカに別れ際の事を謝る。
 フランシスカは一度パリにいって、それからこのルーアンにやってきた。アクセルに逢いたかったのが一番だが、もう一つ大事な理由があった。

「最近は面会が多いねぇ」
 トレランツ運送社の社長室でカルメン社長が呟く。つい先頃も怪しい漂流者と会ったばかりである。
 社長室にはカルメン社長とゲドゥル秘書、そしてアクセルとフランシスカの姿があった。考えた末にアクセルは勤める会社に相談する事を決めたのである。
「まずはこれを」
 フランシスカがはるばる馬で運んできた袋をアクセルが机の上で開く。
 それは前回の金貨一枚どころの騒ぎではなかった。輝く黄金と宝石が詰まった袋である。
「私はマーメイドです。これは前金になります。願いを聞き入れてくれたのなら、この十倍をお支払いする用意があります」
 あまりの報酬の多さにカルメン社長は返事をするのを忘れ、震えながら黄金の重さを感じていた。

「つまり、最近、船の遭難を引き起こしているのは『セイレーン』という海の魔物だっていうんだね」
「はい。姉妹として二人、確認しています」
 落ち着いたのちにカルメン社長とフランシスカの会話が続く。
「で、『マーメイド』と『セイレーン』はよく似ていて、人間にこれ以上勘違いされるのを恐れてあんた‥‥いやフランシスカさんを寄越したって訳だ」
「そうです。どうやらセイレーン姉妹は人間と手を組んだようなのです。それでマーメイドだけでは手に負えなくなって」
「もう一つ。フランシスカさんはあたしらが怖くないのかい? マーメイドの肉を食べると不老不死になるって聞くよ」
「アクセルがいってました。カルメン社長は筋の通った商売人だって。相手も儲かって、自分も儲かるのが商売。そうじゃなければいけないっていってたって。アクセルを信じます。だからカルメン社長も信じます」
「参ったねぇ。信じられるのは慣れちゃいないんだが。ゲドゥル、ちょっとパリまで行っておいで」
 カルメン社長はフランシスカからゲドゥル秘書に視線を移した。
「冒険者ギルドで頼んでおいで。とにかくセイレーンの正体がよくわからんからね。とっととセイレーンとやらを連れてこいといいたいが、まずは状況把握が先さ。なんでもいいから調べる依頼を頼んでくるんだよ」
「はい!」
「それから、このフランシスカさんがマーメイドっていうのは、この場にいる者だけの内緒だよ。他言無用。もし、話したらゲドゥルでも容赦しないからね。ただのお仕置きじゃ済まさないよ」
「はいー!」
 ゲドゥル秘書は身震いしてから社長室を飛びだしてゆくのだった。

●今回の参加者

 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1264 ヴェレッタ・レミントン(32歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ルーロ・ルロロ(ea7504)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

●再会
 トレランツ運送社の帆船は二日目のお昼にルーアンに帰港した。
 フランシスカとアクセルもルーアンの船着き場で冒険者達を出迎える。
「のおおおっ、お、お久しぶりです」
 護堂熊夫(eb1964)がフランシスカを見て涙を流す。
「また会えるとは思いませんでした」
 十野間修(eb4840)はやさしくアクセルとフランシスカと握手をする。
「お久しぶりです、アクセルさん。フランシスカさん。またお会いできて嬉しいです」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)は二人に軽く頷いた。
「初めてお会いする方々、よろしくお願いしますね。今回の依頼にはわたしもかんでいるんです」
「俺からもよろしくお願いします」
 フランシスカとアクセルが挨拶をする。
「とにかく立ち寄った目的の会社にでもいこうや」
 黄桜喜八(eb5347)が看板を見てトレランツ運送社を目指す。その場にいた者達もついていった。
「ゲドゥルさんしふしふ〜♪」
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)は空中を飛びながら手を振った。社長室に入ると真っ先に目があったゲドゥル秘書に挨拶をしたのだ。ゲドゥル秘書は小さく手を振り返すが、カルメン社長の視線で止める。
「おっ来たかい。依頼を出したゲドゥルの言葉は、あたしの言葉と一緒。ゲドゥル、それでいいね?」
「はっはいー!」
「という訳でトレランツ運送社の社長カルメンだ。よろしく頼むね。さっそくだが手紙が届いているよ。三通も」
 ゲドゥル秘書から冒険者達にシフール便で届けられた手紙が渡された。
 最初に封が切られたのはタケシの手紙である。
 ルアーブルについては離れた土地のせいで大した事はわからなかったようだ。しかし過去にマーメイドを狙った人物については詳しく書いてあった。
 家畜商の主人については地方に亡骸が葬られていた。領主ブロズについては領地没収の上、斬首されてこの世にはいない。
 過去を知る者達は安心する。だが最後の文で驚く。領主ブロズの娘『シャラーノ』は財産をすべて没収されたものの、放免されたようだ。父親に罪を全部被せたとの噂もあるそうだ。シャラーノは極度の美形好きで、その趣向の為ならばなんでもする女性であった。
「シャラーノならマーメイドを探す過程でセイレーンと手を組んだ可能性もありますからね」
 十野間は右手を顎にあてて考える。
 チサトとルーロからの手紙はセイレーンについてである。
 セイレーンは下半身が魚みたいでこの点はマーメイドと同じ。相違点は耳の辺りが鱗状になっている事。
 通常の武器ではダメージを与えられない武器耐性を持っていた。再生も出来るし、マーメイドのように人間に変身も出来る。なにより歌声に魅了の威力を込めて人を惑わすそうだ。耳栓をしても防げない事も付け加えられていた。
 護堂はせっかく用意してきた耳栓を手に残念がる。
「これだけ有力な情報ならシフール便代金払ってやるよ」
 カルメン社長は前金のおかげで機嫌がよかった。
「宝島で捕らえた連中の話を聞きたい」
 ヴェレッタ・レミントン(ec1264)は前回捕らえた海賊から話しを訊こうとしたが、すでにヴェルナー領の衛兵に引き渡されたそうだ。
「引き渡す前に訊いてみたけど、冒険者が報告していた以上の事は知らなかったよ」
「なるほど。ではあらためて、カルメン社長殿。君らが鎬を削る同業者に不振な輩はいないのか? 最近、やけに力を伸ばしているところなどは調査の価値はあると思うが」
「目立つ所はないが、あさってにルーアン限定だが同業者の会議がある。探りでも入れておくか」
 カルメン社長とヴェレッタの会話はしばらく続いた。
 三時間が過ぎ、冒険者達はルーアンで一晩を過ごす事に決めた。中途半端な時間だったからだ。
「コルリスさんと話したのですけど、もしも、『海の魔物を退けます! 船酔い、二日酔い? なんのその!』なんていう特別な船乗りのお守りがあるんですけど〜って言われたら買っちゃいます?」
「そうです。『これを船につければ海難事故に遭わない』という怪しげな商品が売られてませんか?」
 パールとコルリスに訊ねられたゲドゥル秘書が「欲しいが知らない」と答えた。
「んと、セイレーン関与の海難事故で人間が関わっているならば何かメリットが在るはずですよね」
「そう考えるのが普通です」
「仕事の独占か、そういう不安を解消するグッズ販売でもするのかな〜と」
 パールとコルリスの意見も一理ある。ゲドゥル秘書は調べるつもりがある事をパールとコルリスに約束した。
 他の仲間も船乗りなどに話を訊きにまわる。
 夜になり宿へ泊まっていると、アクセルとフランシスカも来てくれた。
 フランシスカによれば、セイレーン姉妹はマーメイドと人間に深い憎悪を抱いているようだ。複雑な話だが、マーメイドに似ているせいで、セイレーンが人間の標的になる事も多い。強いとはいえ不幸な事件も数え切れない程あったらしいのだ。
 もっともセイレーンが人に危害を加える行動がマーメイドのせいにされるのが迷惑で、フランシスカを人の世界に寄越したのだから、解決の糸口はわかりにくかった。
「セイレーンとマーメイドを同一視させ、危険な生き物と認識させれば大手を振るって捕縛、殺害できる‥‥とも考えていましたが、そうなると事情が変わりそうですね」
 十野間は答えを保留する。真実はまだ先のようである。

●ルアーブル
 三日目の朝に帆船はルーアンを出航する。
 アクセルとフランシスカも一緒である。
 十野間は反対したが、知恵を借りる場面も多いとして護堂が連れてゆくのを提案したのだ。多数決の結果、連れてゆく事が決められたが、十野間の意見ももっともなので、帆船からフランシスカは外に出ない事も決められる。昨日の夜にフランシスカの正体は冒険者に語られてあった。
 半日で帆船はルアーブルの船着き場に寄港する。
 冒険者達は二人組、三班になって聞き込みを開始した。

「船舶の正確なルート? それぞれの会社が独自にやっているからな。そんなの知る奴はいないはずさ。最近、力を伸ばしてる会社もないね」
 ヴェレッタが船乗りに訊ねる。少し離れた場所で黄桜が会話を聞いていた。
「ああ、そういえば被害に遭っていない会社があるっていえばある。新興の海運会社だから、たまたま遭ってないだけだと思うが」
「それを教えてくれないか?」
「確か、『グラシュー海運』とかいったな」
「ありがとう」
 ヴェレッタは礼をいって黄桜の側に行く。
「一人勝ちとまではいかないが、新興会社であるのを隠れ蓑にしているかも知れない。得しているのは確かだな」
「船乗りは各社で決めているからわからないといっていたが、裏を返せば自社のなら知っている奴がいるって事だ」
 ヴェレッタと黄桜は他の仲間にも『グラシュー海運』を教えるのであった。

「セイレーンってどんな魔物か教えてもらえますか?」
 船着き場で海を見ていた老翁にパールは話していた。コルリスと一緒についてきてくれた船乗りもいる。
 手紙やフランシスカから、セイレーンについていろいろと聞いていたが、さらに何か聞けないか訊ねてみる。
 老翁によればその歌声はとても甘美なものだと答えた。船乗りだった若い頃、一度だけだが聞いた事があるという。遠くから聞いた上では平気だが、ある程度まで近づくと真に虜になってしまうそうだ。
「実は最近の海難事故はセイレーンの仕業だって話も聞きました」
 パールの問いに老翁はセイレーンが悪い魔物とは思えないと答えた。未だに歌の効果が残っているかも知れないと老翁は笑う。逆にパール、コルリスは顔を引きつらせた。
「その時セイレーンの歌を聴いた場所は覚えていますか?」
 コルリスの訊ねに老翁は大体の位置を答えてくれるのであった。

「ここですね」
「みたいです」
 十野間と護堂は建物の上部に掲げられた看板を眺める。
 仲間に教えてもらった『グラシュー海運』である。
 二人は意を決して突入してみるつもりだ。
 扉を開けると真っ先に飛び込んできたのは顔立ち整った男達であった。
 十野間と護堂は顔を見合わせる。
「マーメイドを捕まえたのです。社長に伝えて欲しいのです」
 十野間はかまをかけた。わずかな時間を待たされたが、比較的すんなりと社長室まで通してくれる。
「そなた達はどこかでみかけたような‥‥。ああ、思いだしたぞえ。このルアーブルでお父上とわたくしからマーメイドを連れて逃げおうせた中の殿方か。マーメイドを引き合いに出したのも道理がゆくもの」
 やはり『グラシュー海運』の社長は今は亡き領主ブロズの娘、シャラーノ嬢であった。
 しかも十野間と護堂の顔を覚えていた。せいぜい混戦の中を見かけられただけのはずだが、男の品定めを生き甲斐とするシャラーノの眼力恐るべしである。
「念の為に訊く。マーメイドを知っているのか?」
「面会の為の口実です」
 シャラーノに護堂が答える。
「そんな所であろう。なら、再びここで闘おうとでもいうのか? マーメイドはすでに海へ。お父上もおられないわたくしには権力など皆無。これからは真面目に暮らそうと、つてで借金をし、この事業を始めたのだ。邪魔してくれるな」
 シャラーノは隣りに色男をはべらせながら答える。
「セイレーンがこの近海で暴れているようです。何かお知りな事は?」
「皆は困っている様子。早くに解決を願うばかり。それ以外は知らぬ」
 十野間と護堂がいくら尋ねてもシャラーノはのらりくらりの答えしかしなかった。

 夜になり、黄桜が『グラシュー海運』に属する碇泊中の帆船に潜り込んだ。
 空飛ぶ絨毯で近づいて、静かに船内に潜り込む。
 念の為、ヒポカンプスのエンゾウは帆船近くの海中に待機させてある。
 パラのマントで船員をやり過ごし、足音を消すだけでなく隠密の技を駆使していざというときの脱出口を確保してゆく。
 そして貨物室に入り、どのような品物を取引しているのかを調べた。パリで売ればかなり儲けられそうな外国製品が主であった。
 その他にも船員同士の会話を聞くが、下世話な会話ばかりだ。さすがに船乗りまでは顔で選んではいなかった。シャラーノも妥協したらしい。
 黄桜は仲間の元に戻り報告をする。
 『グラシュー海運』はとても怪しいが、今の所、手は出せなかった。

●海原
 四日目になり、とりあえずパールとコルリスが老翁から聞いたセイレーンが現れた場所に行ってみることになった。
 穏やかな海はとても広くすがすがしい。護堂が天気を気にしてくれた事もあって荒れるずに順調であった。
 しかし、ちょっとした岩礁を見つけただけで空振りに終わる。
 一行を乗せた帆船は五日目の夕方に再びルアーブルへと寄港した。

●敵襲
 真夜中に警鐘が船内に鳴り響く。
 次々と冒険者達は目を覚まして、甲板へと現れた。
 現在帆船はルアーブルの船着き場に碇泊中である。しかし、何者かの帆船が横付けしようとしていた。
「あれは――」
 アクセルによれば帆のマークはこの近辺の海運業の中で一番のシュアを誇る会社であった。偽装していないのであれば、海賊ではない。
「なんかおかしい。殺すのは止めてくれるか?」
 甲板に現れたアガリ船長が冒険者達に一声かけた。
「おめえらは、甲板から奥に入った奴らがいたら戦え! いいな野郎共!」
 アガリ船長は甲板から船乗りを船内に戻す。マスト天辺にいる監視役以外は全員が中に入る。
 ゆっくりと近づく帆船目がけて、コルリスが矢を放つ。狙うは敵の足である。
 不思議な事に敵からの遠隔攻撃はない。接舷され、板が渡されて敵が乗船しようとする。
 冒険者達は各々の武器を手に対抗した。
 黄桜はヒョヒョイと敵を甲板に伏せさせる。フェアリーのりっちーが頭上でライトを使って照らしてくれていた。
「まったく手応えがないな」
 黄桜は呟く。他の冒険者達も同じ印象を持っていた。
 敵の姿は普通の船乗りだ。斧で攻撃してくるが、これも大抵の船に常設されている海賊対策用である。
 数は冒険者達の四倍はいたが、まったく敵には成りえない。
 大して時間もかからずに、敵全員を動けないようにする。
「君らは何者だ! 誰にいわれてやった!」
 敵の一人をヴェレッタが問い詰める。
「セイレーン様の敵は我らの敵!」
 ヴェレッタは敵の掴んでいた胸ぐらから手を離す。次々と尋ねるが答えは似たようなものだ。
「セイレーンの仕業のようですね」
 十野間がヴェレッタに近づく。
「そうみたいだ」
 黄桜も尋問した敵も同じ答えだったようだ。
 コルリス、パール、護堂と全員が集まる。アガリ船長の一言で船内から船乗りが現れて倒れている敵が捕縛される。
 トレランツ運送社の船乗りによれば、知った顔もいるという。海賊ではなく、れっきとした船乗りである。どうやらセイレーンに虜にされて、冒険者達が乗る船を敵だと思い込まされたようだ。
「シャラーノはこの船に護堂さんと十野間さんが乗っているのを知っているんですよね?」
 パールはがんばってくれたペットのデルホイホイとトルシエを撫でてあげながら仲間に訊ねる。
「そうです。男をはべらせてチャラチャラしていますが、抜け目がない女です。シャラーノは」
 護堂は船着き場の方を眺めた。
「証拠はないが、シャラーノが限りなく疑わしいということですか」
 コルリスは矢を筒にしまう。
 真夜中だが騒ぎをききつけて船着き場は野次馬の姿があった。その中にひっそりとシャラーノが様子を眺めていた。
 しばらくして何名もの衛兵が現れる。敵は衛兵に渡され、数時間であるが調書の為に時間がさかれる。
 解放されたのはもうすぐ六日目の太陽が昇る頃であった。
 冒険者達は船乗りに任せて眠りにつく。帆船はルアーブルを出航する。
 ちょうど冒険者達が起きたお昼頃にルーアンに帰港した。
「そうかい。こっちもその『グラシュー海運』が曰く付きってのがわかったよ。だがまったくといっていい程、物的証拠がない」
 カルメン社長は帆船の船縁に座って話す。
「グッズについて調べましたが、今の所、不安解消になるような物は売られてませんでした。ですが、調べが不十分なので、もう少し調べておきます」
 ゲドゥル秘書はパールとコルリスに調べの結果を伝えた。
「これを。ご迷惑でなければ、フランシスカさんとの仲直りのアイテムに使って下さい」
 コルリスがアクセルにアーモンドブローチをさらに加工した木彫品を渡した。
「フランシスカが喜ぶよ。コルリスさん、ありがとう」
 アクセルは少し照れていた。
「とにかくごくろうだったね。ちょっとおまけ渡しておくよ。敵はぼんやりとだがわかった。これからどういう手を打つか、ちょいと考えてみるか。ゲドゥル、行くよ」
 カルメン社長とゲドゥル秘書は下船する。アクセルとフランシスカもルーアンで下りた。
 帆船は冒険者達をパリに届ける為に出航する。
 七日目の夕方に帆船はパリの船着き場に帰港した。