ガルイの旅立ち 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月25日

リプレイ公開日:2007年06月25日

●オープニング

「そうですか‥‥。いや、いままで楽しかったです」
「まあ、そろそろな。本当は夏に収穫する麦が気になるが、そんな事いっていると、いつまで経っても旅立てないからな」
 夜中の家で青年デュカスと年上のガルイが話していた。
 他にもデュカスの弟、少年フェルナール。青年ワンバの姿もある。もう一人いるはずだが、今は留守だ。
 家は燃やされた村の跡に建っていた。今では五軒の家が建ち、畑で麦やいろいろな作物が育っている。冒険者のおかげで灌漑の用水路が修復されて水の心配もなくなった。
 すべてはデュカスとフェルナールの故郷であったこの地に再び村をつくる為だ。
 前々からガルイは過去の罪を償う為に放浪の旅へ出たいといっていた。手配はされていないが、かつて盗賊だったガルイである。
 ガルイに話しかけられたデュカス以外の仲間達は黙って聞いていた。
「最後に気持ちよく送りだす為に、パーティでも開こうか。パリに行って依頼を出してくるよ。料理がうまい人を募集してさ。あと、少しだけ雑草取りを手伝ってもらう人も探そう。大勢でやればすぐに終わるはずだし」
 話し続けるデュカスの瞳には涙が溜まっていた。

 それから三日後にデュカスはパリの冒険者ギルドを訪れていた。
「友人を送りだす為に料理を作って頂ける人を頼みたいんです。それと畑の雑草がすごいので取ってもらえる人も」
 デュカスは受付の女性に依頼を出し終えると、一緒に来たワンバと市場へと向かう。少し穫れた野菜を持ってきたのだ。薪もである。そろそろ手持ちのお金も少なくなってきていた。
「これなんてどうですかい? お嬢さん」
 元々行商をしていたワンバは物売りがうまい。パリと村跡までは馬車で二日程かかるが、行く末を考えれば、これから先もこうやって商売をした方がいい。
 デュカスとワンバは依頼の初日までパリに滞在するつもりであった。

●今回の参加者

 eb8113 スズカ・アークライト(29歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●出発
「あ、みなさん!」
 デュカスは馬車の前で商売をしていた。ワンバも一緒である。朝早い市場で残る薪を売り切るつもりであった。
「ワシはヴィルジール・オベールと申すじゃ。ヴィルと呼んでおくれのぅ」
 ヴィルジール・オベール(ec2965)は威風堂々の立ち姿でデュカスと握手する。
「雑草取りもやるつもりじゃが、傷んだ農具とかはないかの? 鍛冶については多少の心得があるでな」
「直してもらえると助かります!」
 喜んだデュカスはヴィルにお願いする。
「キャメロットの騎士アイシャ・オルテンシアと申します。宜しくお願いしますね」
 アイシャ・オルテンシア(ec2418)は全員に笑顔で挨拶をした。
「奥さんに何か買っていってあげたらどうですか? 探すのおつき合いしますよ」
 アイシャが小さな声で話す。デュカスはアイシャの申し出を喜んで受け入れた。
「うおっ!」
 デュカスは背中に感じた柔らかさに声をあげる。
「は〜お〜、久し振り‥でもないかねぇ」
 レシーア・アルティアス(eb9782)が後ろからデュカスの肩に顎を乗せて耳元で囁く。
「れっレシーア様〜!」
 柊冬霞(ec0037)が普段は出さない大きな声をあげた。
「冬霞、ほら、返すから許してぇ」
 レシーアはペロッと舌を出すと、柊の方にデュカスの背中を軽く押す。
「冬霞、お帰り」
「旦那様、ただいま戻りました」
 デュカスは姿勢を正してから柊に言葉をかけた。柊は頬を赤らめる。
「よろしくね」
 スズカ・アークライト(eb8113)がデュカスと柊の肩を軽く叩く。
「ワンバさん聞いたら、ガルイさんが旅に出るみたいね。その為のパーティか‥‥。パリにいる間に足りない食材を買わなくちゃね」
「ガルイ様が‥‥では、何かご馳走を用意しなければなりませんね」
 スズカに柊は頷く。そしてスズカは手伝いにいったレストランの料理について説明した。
「で、そこのインゲン豆を煮込んだスープが絶品でね〜。冬霞、作ってみてくれない?」
 スズカが話すレシピによれば、チーズを手に入れれば作れそうである。
「私が店番をしていますので、旦那様は買い物をしてきて下さいませ」
 柊の言葉に甘えて、デュカスはアイシャと一緒に市場を回る。他の冒険者も買い物を終えて戻ってくる。
 一行は馬車に乗り、市場からそのまま目的の村跡まで向かう。
「この道を歩くのも段々なれてきたわね〜」
 スズカはセブンリーグブーツを履き、愛馬の手綱を持って移動していた。馬車で二日かかる道のりを急ぐ一行であった。

 二日目の夕方、一行は村跡に到着した。
「頑張ってるわね〜。なかなか形になってきたじゃない」
 村跡の様子を眺めながらスズカは呟く。
「でもここは進歩がないわ」
 スズカがため息をつく。一行が家に入ると床に転がるフェルナール、ガルイがいる。腹が減って動けないだけである。
 柊が急いで食事を作る。二人はがっついて腹を満たした。
「留守にしてる間、お変わりありませんでしたか?」
 柊が訊ねると二人は何事もなかったと答える。
 普通の会話が交わされるようになった時、デュカスは柊を家の裏口に連れだした。
「これ、大分遅れたけど」
 デュカスはローズリングを柊の指にはめてあげる。
「旦那様、とても嬉しゅうございます」
「今はそれで我慢してくれ」
「我慢など、とんでもありません。大事にさせて頂きます」
 デュカスと柊は月明かりの中、しばらく二人で話すのであった。

●作業
 三日目の太陽が昇らないうちに、レシーアは畑に向かう。
「ちゃんと育ってるわねぇ」
 レシーアは前に植えた豆が育っているのを見つける。他の雑草とはあきらかに違っていた。
 レシーアは周囲の雑草を抜くと、廃材で作った立て看板を立てた。『抜くな!』と借りたナイフで刻んで。

 太陽が昇り、全員が活動を開始した。
「これでは作業もはかどらんじゃろう」
 ヴィルはクワを手にして家の外にある柵に囲まれた場所で腰を降ろした。デュカスが焼け跡から拾ってきた鍛冶工具がある。今回の修理だけなら使えるはずだ。
 その場限りの鋭さを求めるなら簡単だが、長く効果を持続させるとなると難しくなるのが研ぎである。
「ヴィル様、何か必要な物は御座いますか?」
 柊がヴィルに訊ねる。
「今の所は平気じゃ。冬霞殿は家事やら残っていて大変なんじゃろうし、任せていただこうかのぅ」
 ヴィルは水に浸してあった砥石を桶から取りだして作業を開始した。柊は立ち去る。
「さっすがは達人、友人にも教えておこ〜かねぇ」
 柵の上からレシーアがヴィルの作業を覗き込む。
「あ、雑草取りにいかないとね。じゃあねぇ〜」
「ワシも手が空いたら雑草取りに向かうつもりじゃ。デュカス殿達によろしくな」
 レシーアとヴィルは互いに手を振った。

「以前に比べると多少は力がついたんですよ。雑草取り、はりきってがんばりましょうね!」
 アイシャがデュカスを中心にしてみんなに声をかける。畑には他にフェルナール、レシーア、スズカの姿があった。ワンバとガルイは建てたばかりの家のカマドの仕上げをしていて、この場にはいない。
 雑草取りが始まった。雑草は育ったものは少ない。だが、かなり芽を出していてこのまま放っておけば大変になる。
「ちゃっちゃっと♪」
 アイシャが山盛りの雑草を抱えて、フェルナールが掘った穴に捨てる。
「負けてられないわ。フェルナールくんはあっち、私はこっちね」
 アイシャの姿にスズカが闘志を燃やした。レシーアはマイペースで雑草を摘んでゆく。
 昼食をとり、午後も雑草取りをがんばった。レシーアが魔法で天候を曇りに変えてくれたおかげで作業もやりやすい。
 明日になれば、他の者の手も空いて、全員で草取りが出来るはずだ。
「草むしりもこう多いと大変よね〜。もう少し人数がいれば畑も大きく出来るんでしょうけど」
 スズカは村跡の行く末を心配する。
 夕方になり、水浴びをして全員が家に戻る。柊の作った夕食をみんなで頂く。
「明日の夕食パーティは野外でいろいろな食材を焼いて食べましょう。旦那様、鉄板の用意をお願いできますでしょうか?」
 柊の言葉にデュカスは、明日早くに用意しておくと答える。
「いいですね〜。食材切りなら私にも手伝えますしね♪」
 窓から星を見ていたアイシャが振り向いた。
 空いている家屋に女性達は移動して、明日に備えて眠るのであった。

●草取りとパーティ
 四日目の午前は全員が集まり、草取りが開始された。
「気張っていかせて頂きますわい。夜には野外でパーティと聞いておるしのお。うむうむ、楽しみじゃなぁ」
 ヴィルは昨日の分もと草取りをがんばる。中腰の格好はきつく、時々腰を叩いていたが、へこたれる訳にいかない。なぜなら冒険者側で唯一の男だからだ。
 修理も昨日のうちにこなしておいた。雑草取りをやり終えたのなら完璧である。
「あっついねぇ‥」
 レシーアは服の胸元を摘んで掌で扇ぐ。
 スズカが鼻を伸ばしていたワンバのお尻に軽く蹴りを入れる。
「あらぁ?」
 レシーアは近くにいたのに雑草取りをしているガルイが気に入らない。わざと視線に入る場所に移動してもう一度やってみても、ワンバは雑草取りを黙々と続けていた。
「つまんないわ‥‥。あっ、天気、曇りにするの忘れてたわぁ」
 レシーアは昨日に引き続き、天気が曇りになるように魔法を使う。
「フェルナール君も農民姿が板について来たわね。健康的でいいんじゃない?」
「こういうのもいいですが、早く村の形にして、自警団でも作りたいのが本音です。もう二度と盗賊なんかには負けません。兄さんとも話し合ってるんですよ。そうなっても畑仕事はしますけどね」
 スズカもフェルナールも笑って話す。
 昼食は朝のうち柊が焼いてくれたパンを頂いた。

 午後の草取りが始まり、順調に進む。暮れなずむ頃に柊、アイシャ、レシーアが先に家へと戻る。夜の野外パーティの用意の為だ。
「インゲン豆を煮込んだスープを自分なりに作ってみましょう」
 柊は家に戻ると、まずはスープ作りを始めた。両脇にはアイシャとレシーアの姿がある。
「なるほど。そうやって切るのですか。料理はからっきしですけど‥花嫁修行もかねてやってみますね」
 アイシャは柊に食材切りを教わる。野菜の他、塩漬けのお肉などは塩分をとってガーリックの入ったワインに漬けておく。ソーセージもたくさん用意されていた。
「なるほどねぇ〜。そうやって切るのねぇ」
 レシーアも柊に鍋の作り方を教えてもらいながら調理をする。
「パリで色々集めたからこれも入れてしまお〜♪」
 レシーアは、柊の助言を聞いていたのか聞いていないのか、てきと〜に材料を入れてゆく。ボコボコと立つ湯気が一瞬ドクロの形になったのを、レシーアは見なかった事にした。
 『カオス鍋三度の悪夢』の完成であった。

 雑草取りが終わり、水浴びをして着替えて全員が戻る。
 夕食となる野外パーティの用意は出来ていた。
「それではガルイさんの旅が安全であるのを願いましょう」
 デュカスの一言でみんなが一斉に酒を口にした。
 鉄板の上では野菜や肉などが程良い大きさに切られて焼かれていた。ガルイが近くの森で狩ってきた獲物の肉も、よい匂いを漂わせる。
「遠慮なく食ってきますじゃ。別れに涙は禁物じゃ! パーっと明るく行きましょうのぅ!」
 ヴィルは焼き上がった料理を口に頬張る。
 みんな美味しそうに食べ始めた。
「ガルイさんも今までお疲れ様、旅に出るなら冒険者にでもなったらどう?」
「今の所は考えてないな」
 スズカがガルイの皿に焼けた料理をのせてあげる。
 酒類はスズカとレシーアも用意してくれていた。
「代わり映えしなくて申し訳ありませんが、村の野菜を味わってもらおうと思いまして」
 柊が鉄板の料理とは別に、インゲン豆を煮込んだスープを器によそる。
「こんな感じだったわ。冬霞、よく出来たわね」
 スズカが柊を誉める。他のみんなもスープに頬を綻ばせていた。
「私はお腹いっぱいだからパスね」
 スズカがレシーアのカオス鍋は避ける。
「まだお肉食べたいのです」
 アイシャも冷や汗をかきながらカオス鍋から遠ざかった。
「ワシはど‥‥うわぁ!」
 ヴィルがカオス鍋に興味を示したのを柊が止める。普段おとなしい柊だが、行動は素早かった。
「もう〜。みんな、なにさ」
 レシーアが不満げに振り返ると、カオス鍋の前に誰かがいた。
 前にカオス鍋を一口食べた時は白目を剥いて気絶したガルイだが、今回は黙々と食べていた。
「ガルイ‥‥美味しいの?」
 自分で作っておきながら、懐疑的にレシーアは訊ねる。
「ちょっと味見」
 自分で作っておきながら、味見をしてないレシーアである。
 レシーアは脳天からマグマが噴き出したような錯覚にとらわれた。
「ちょっとガルイ?!」
 レシーアは足下をふらつかせながらテーブルを見ると、ガルイが死んだように伏せていた。ガルイの顔に水をかけて頬を叩く。ガルイはあの世から舞い戻ってきたようだ。
「そりゃ食べてくれるのは嬉しいけどさ。バカだねぇ」
「‥‥元々バカなんだからほっといてくれよ‥‥」
 レシーアに膝枕をされながらガルイは横を向く。
 それからしばらくした後でレシーアは踊りを踊る。ワンバはいつもと変わらず大喜びであったが、ガルイは黙って表情も動かさずに観ているだけだった。
「本当は男の方からお誘いするものですが、今日は特別です」
 アイシャがフェルナールを踊りに誘う。踊りといっても二人で織りなすダンスだ。
 ワンバがリュートを鳴らし、それに合わせて二人は舞う。アイシャのリードに合わせて楽しい時間は続いた。
「色々あったけど、活気付いてくるとい〜ねぇ‥」
 レシーアは時々酒に口をつけながら、今後の村について占う。いい方向に向かう結果が出た。心配はないらしい。
 腹を満たす食事は終わり、家の中へと戻る。
 これからは酒の時間である。柊は酒肴になりそうなものを用意してきた。
「楽しい時間はすぐに過ぎてしまいますね、でもこの余韻の時間も私は好きです」
 柊はデュカスのカップにワインを注ぐ。
「村を作るまでにいろいろあるはず。これからも頼むね」
「旦那様のよろしいように。私は皆様が仲良く出来ればそれで良いと思います」
 デュカスと柊が話しているとスズカがやってくる。
「大分家も建ったようだし、あとは住んでもらう人をどうするかよね。デュカスには何かあてはあるの?」
「まだ思案中なんです。いい方法が見つからなくて」
「ま、急がずに自分のペースでやりなさいな。冬霞の調子もいいみたいだし、きっとうまくいくわ。じゃそういう事で」
 スズカはフェルナールとアイシャに絡みにいった。ヴィルとワンバは気が合ったようで二人て話している。
 宴ははっきりとした終わりはなく、大体の者が酔いつぶれて自然に終了となった。

●ガルイの旅立ち
 五日目の朝、冒険者達がパリに戻るのと同時に、ガルイの旅立ちである。
「ガルイさん。ご成功をお祈りしておりますね」
「ガルイ様、今まで本当にありがとうございました」
「ここに戻っても、冒険者になってでもいいから、再会を待ってるわ」
「これが永遠の別れではなかろうて。出会いがあれば別れもあり再会もありもうす‥人生の妙と言うヤツですなぁ‥」
 全員がガルイに別れの挨拶をする。
「困った時は頼る様に。いいね?」
「おおっ。わかってらあな。レシーア、そのだな‥‥」
「なによぉ。はっきりいいなさいよ」
「何でもねぇ。じゃあな」
 ガルイはレシーアの挨拶を最後にしてパリと反対の方向へ旅立った。
「さて、行きましょう」
 デュカスの馬車に冒険者達は乗り込む。
「ガルイさん、レシーアさんに何かいってましたよね?」
「ああ、あれ。カオス鍋が病みつきになったとかいってたわぁ」
 アイシャの質問にレシーアはてきと〜に答える。
「これからあたしを、カオス鍋マスターと呼んでくれぃ」
 レシーアは胸を張ってみせた。
「皆がまた揃うのは暫く先になりそ〜ねぇ‥」
 ふと愁いを帯びた瞳で、レシーアはガルイが消えていった方角を見つめるのだった。

 六日目の夕方に一行はパリに到着した。
「亡き故郷の復興とは、うむ、気に入りましたわい! 協力するのに何の躊躇いがあろうか。これからもなにかあれば是非呼んでおくれのぅ」
 ヴィルは昨晩の酒を呑んだ時の言葉をもう一度口にした。
「そうそう。ガルイさんから預かっていたものがあるんです」
 デュカスは一人一人に品物を渡す。
 スズカ、アイシャ、ヴィルにはリカバーポーションを。レシーアにはアンクレット・ベルであった。
「冬霞にはないの?」
「えっと‥‥ボクから渡したローズリングがあるのでいらないだろうって」
 スズカの質問にデュカスが恥ずかしそうに答えた。
「いつの間に!」
 スズカは驚きなからも柊に微笑んだ。
 時間のある者はデュカスの市場での野菜売りを手伝ってから、冒険者ギルドへ報告に向かうのだった。