●リプレイ本文
●謎
依頼書には空き地に集まるようにと書かれてあった。
「それは!」
ちびブラ団の四人がエルディン・アトワイト(ec0290)が持っていた錫の勲章を指さした。
「お久しぶり、ちびっ子ブランシュ騎士団。私のこと、覚えているでしょうか? 一緒にお化け屋敷を探検したことを」
エルディンが挨拶するとちびブラ団は頷く。
「俺、覚えているぞ。優しいお兄ちゃんだったよな」
黒分隊長ことベリムートが笑顔でエルディンと握手する。
「よっよろしくお願いします。とにかくわたしが何者なのか調べてもらえますか?」
依頼者の女性が冒険者達とちびブラ団に頼んだ。
「困った人を助けるのも、騎士の嗜みなのですよ〜。みんなで頑張って調べましょう〜♪」
エーディット・ブラウン(eb1460)は屈んでちびブラ団の目線で話しかける。そして女性を見上げて必ず調べると伝えた。
「自分のことがわからないとは、相当不安だろうな。安心しろ。私も手伝おう」
サーシャ・トール(ec2830)は女性に話しかけた後で、エーディットと同じようにちびブラ団の近くで屈んだ。
「みんな優しいね。調査に同行したければ、いっしょに訊いたり探したりしてくれると助かるな」
サーシャにちびブラ団は笑顔で頷く。
「ちびブラ団には、勝手に動かれると危険だから一緒に動いてもらうわ」
シルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)はちょこんと橙分隊長ことコリルの肩に乗った。
「滞在場所はお決まりですか?」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は女性に訊ねる。ギルド近くの宿屋に泊まっているそうだ。よければ自分の家にと誘ったが女性は遠慮した。
「お名前がないと不安でしょう。アウラというのはどうでしょうか?」
アニエスは女性の正体に疑いを持っていた。近頃、ちびブラ団の周囲はデビルの影が見え隠れする。彼、彼女らの無垢なる正義の心が磨かれる度に、デビルに近づくのではないかと懸念していた。
「名前なら私も考えてあります。猫がメルシアと聞きましたから、モルシア。マルシアは?」
エルディンが考えた名前も聞いて女性は悩み始める。
「じゃ合わせてアウラシアってのはどう?」
灰分隊長ことアウストの意見を女性が採用し、本当の名前がわかるまでアウラシアと決まった。
アニエスはアウラシアにボディチェックをお願いしたが拒否された。恥ずかしいので嫌だという理由だが、持ち物の検査に関してはOKが出る。
「金貨、一つお預かりして宜しいですか?」
アニエスはアウラシアの服の背中部分に入っていたというコインの一枚を預かった。
アウラシアが持っていた写本は聖書であった。しかもとても丁寧な装飾がされた聖書である。アウラシアはラテン語で書かれた聖書をスラスラと読む。
魔法が使えるかというアニエスの問いにアウラシアは無理だと答えた。もっとも聖職者なら誰もが使える訳ではない。
『似顔絵を描かせてもらうね』
ヴィメリア・クールデン(ec1031)は筆談でアウラシアに話しかける。
「これもなぜかたくさん持ってたんです。よかったら使って下さい」
アウラシアはヴィメリアに何枚もの羊皮紙を渡す。何枚かには聖書の一文を書かれてあった。
ヴィメリアは丁寧にアウラシアを描いてゆく。一枚目を描き、二枚目の下書きが終える。 一枚目を受け取ったサーシャがアウラシアと藍分隊長オことクヌットを連れてパリ市内の教会巡りを開始した。
ヴィメリアは丁寧に似顔絵を描いてゆき、次々と仲間へ渡してゆく。配布も考えて余分に用意する。描き終えた時は半端な時間になっていた。残った時間で借りた聖書の特徴を書き留めてゆくヴィメリアであった。
後日は違うが一日目の行動は次のようである。
エルディンはベリムートと一緒にパリ市内の教会施設関連。
エーディットは灰分隊長ことアウストと一緒にパリ市内の教会施設関連。
シルヴィアは橙分隊長ことコリルと教会施設関連。
アニエスは似顔絵を受け取るのを明日にして、先に彫金師の店を訪れた。細工物のギルドの役員をしている真っ当な店である。
預かった金貨は本物であった。ボディチェックを拒否したのを除き、アウラシアの怪しい所はない。
アニエスは前に調べたパリ近郊にある修理が放棄された石橋を訪れる。ギルドか王宮の力で螺旋階段への穴は塞がれているようだ。愛犬のマルコ用に流木を使って簡易な犬小屋を作る。マルコにはしばらく監視してもらうつもりだ。
冒険者達は子供達を家に送った後で酒場で待ち合わせをしていた。一日目はこれといった情報は得られなかった。
●サーシャの捜索
「この道でいいのかな?」
一日目のサーシャはアウラシアとクヌットと一緒にパリ中を移動していた。アウラシアが記憶をなくした場所からの足取りを辿っていたのである。
「そうです。さっきの広場で目覚めて、ふらふらと、こちらに。しばらく街をさまよって、この教会で三日ほど食事をもらいました。昨今のデビルの事件のせいで、避難民が多く、いられなくなって数日後、お腹を空かせていた所をちびブラ団に助けてもらったんです」
アウラシアの言葉に嘘はないようだ。
「ここら辺はこんな感じだぞ」
クヌットが描いた地図にアウラシアがいろいろと書き足す。それを見たサーシャは驚く。
「‥‥すごく字がうまいんだな」
サーシャはアウラシアの文字のうまさに感心する。
写本はヴィメリアが使っているので今日の所はサーシャ一行は持っていない。写本の特徴を似顔絵の裏にメモしてある。
「ちょっと図書館などを巡ってみようか」
サーシャは二人を連れてゆく。
「字で感動するなんて‥‥」
サーシャはアウラシアの字のうまさが脳裏にこびりついて離れなかった。
●シルヴィアの捜索
「こっちにも教会あったよ〜」
コリルが元気よく走りだし、シルヴィアが空を飛んでついてゆく。
三日目、パリ市内での教会巡りをしていた。
「これみてもらえますか?」
シルヴィアが掃除をしていた教会の人にアウラシアの似顔絵を見せる。
「どこかで見たような、見なかったような‥‥。なんでしょう、この感じは」
シルヴィアはコリルと顔を見合わせる。
「記憶を無くしたシスターみたいな人なの」
「それはお気の毒に。少し待って下さいね」
シルヴィアの言葉に教会の人は似顔絵を持って関係者に訊いてきてくれたが、誰も知らなかった。
「しかし、何人かわたしと同じように、どこかで見かけたような気がするそうなんです」
二人は教会の人にお礼をいって後にする。
「ねえ、動物博学顧問〜。よく知らなくても有名人ってあるのかな?」
「普通はないわね。うーん。つまりアウラシアにまつわる何かが有名で、本人にはみんなあまり興味ないって事なのかしら?」
二人はセーヌ川の畔でしばらく考えた後で、再び元気よく探し回るのであった。
●エーディットの捜索
「カメさんが速いなんて知らなかったよ〜」
エーディットはアウストをノルマンゾウガメに乗せて歩いていた。アウラシアが発見された周囲を中心に調べていたエーディットだが、今日は別の場所に向かう。
「ここですよ〜」
エーディットは前に参加した依頼で面識のあるヨーストの家を訊ねた。ヨーストは演劇をやっていて主に教会で公演をしている。
「こんにちは〜。姉さんがちょっと弟に訊きたい事があったのです〜」
エーディットは家の中から出てきたヨーストに挨拶をする。
「この間は助かりました。俺でよければ、なんとなりと」
エーディットは二枚の似顔絵を見せる。ヴィメリアとエーディット自身が描いた二枚である。絵には描いた者のクセがあるので、二枚見せる方がよいと考えたのだ。
「この絵の人は見たことありませんね。ただ、お世話になってる教会で人捜しの修道女が訊ねてきましたよ」
「ちょっといってみます〜。この間の貧民街にある教会でいいですよね〜?」
「お兄さん、ありがとです〜」
エーディットとアウストは同じようなテンポでヨーストにお礼をいう。しばらく一緒にいたのでエーディットの話し方がアウストに移ったようだ。
「ちょっと残念だけど、名誉顧問、がんばってきてね〜」
アウストが手を振る。治安が悪いのでアウストを家に送った後でエーディットは一人で向かった。確かに修道女が訊ねてきたようだが、近くのチンピラが絡んできて、大した話も出来ずに帰ってしまったそうだ。
「とにかく教会関係が怪しいのはわかったですよ〜」
エーディットは酒場で集まった仲間に報告をするのだった。
●アニエスの捜索
「あっ、隊長様方!」
愛犬のマルコに餌をあげていたアニエスは立ち上がる。
夕方の石橋跡にちびブラ団の四人が現れたのだ。
「もう、ご自宅にお帰りになったものだと」
「うん。みんなが送ってくれたんだけど、橙飛行隊長が気になってさ。で、ちょっと来てみたんだぞ」
アニエスにクヌットが答える。
「お話があるなら、家に送りながら聞きましょう。マルコ、見張りをお願いしますね」
アニエスはちびブラ団と一緒に歩く。
「お金を服に縫い付ける行為が気になるのです。私なら他人に知られない様に財産を持ち出す場合にするので。最近はいろいろと物騒ですし。なので、ボリスの石橋を監視してたのです」
「今のアウラシアはすごいドジだけど、もしかしたらを考えておかないといけないね。橙飛行隊長はやっぱ頭いいなあ」
アニエスにアウストが感心する。
「あたし達と少ししかちがわないのに、すごいよね」
「騎士になるなら、それぐらい機転がきかないとダメか」
コリルとベリムートが後ろ歩きでアニエスの前を歩く。
四人を送り届けた後、アニエスは夕日が落ちる間際に祈る。
「セーラ様、国王陛下。‥ラルフ隊長。彼等を護る力と勇気を私に与えて下さい」と。
●エルディンの捜索
「こちらへ行きます」
エルディンは愛馬に跨り、ベリムートは借りた韋駄天の草履で移動していた。
「ねえ? 時間があったらみんなにも話してよ。いろんな外国を回った時の話しをさ。とってもおもしろかったよ」
ベリムートは馬で駆けるエルディンの横に並ぶ。
「侍と戦ったこともありますよ」
「それはまだ聞いてないや」
エルディンは余裕をもって馬を駆けさせる。そしてベリムートに話しをしてあげた。
「そういえば、橙飛行隊長もいってたよ。お金をどうして服に隠していたのか、不思議だって」
ベリムートが思いだしようにエルディンに話す。エルディンも疑問に思っていた。誰かに盗られないようにとも考えたが、しっくりとこない。
クレリックであるエルディンにとって教会はとても慣れ親しんだ場だ。
訊ね回った教会でわかった事がある。
修道女が教会を回り、仲間を探しているようだ。ただ、修道院の名を隠しているようで、埒があかない。
なぜ修道院の名を隠しているのかがとても怪しかった。
修道女に変装した悪者なのかも知れない。理由があって隠しているだけなのかも知れないが。
エルディンは新たな教会に着いて自らにグッドラックをかける。そしてベリムートと共に訪ねるのであった。
●ヴィメリアの捜索
『悪魔崇拝者の情報がある。これから似顔絵を見せるので、さっきいいかけた情報と交換よ』
ヴィメリアは同行させていたアウラシアとクヌットを離れた場所に待機させて、情報屋とやり取りをする。
世の中にはいろいろな商売がある。些細な話しも組み合わせて考えると、大きな何かに当たる事もあった。
ヴィメリアはアウラシアが持っていた様々な物を提示しては探りを入れた。何度確認しても写本は聖書であったが、隠された何かが秘められているかも知れない。
パリ周辺で人捜しをしている修道女がいるようだ。他の仲間からも同じ情報が得られている。確実な情報だ。
『次の場所に行きましょう』
ヴィメリアは情報屋とのやり取りが終わり、アウラシアとクヌットの元に近づいた。
「この聖書、すごいよな。ものすごく綺麗な絵があってさ。ラテン語が読めなくてもとっても楽しいぞ」
クヌットが写本を指さした。
「わたし、この聖書持っているととても落ち着くんです。何ででしょうか」
アウラシアがクヌットに笑顔で頷く。
ヴィメリアは一日目の夜の酒場でサーシャがいっていた言葉を思いだした。アウラシアの字がとてもうまいことを。
試しに書いてもらったアウラシアの文字を聖書の文字と比べるとよく似ていた。
その後、ヴィメリアはたくさん描いた似顔絵をシルヴィアやエルディンにも手伝ってもらって人通りの多い場所に貼るのだった。
●五日目
冒険者達とちびブラ団は今日までわかった情報をつき合わせていた。
「いろいろな情報がありますけど、私なりに整理してみたですよ〜。教会や修道院の聖職者さん達は中でいろんな仕事をしています〜。その中で特にものすご〜く重宝されている特技の方がいるんです」
エーディットは話しを続ける。他の冒険者数人もエーディットと同じ結論に達していた。
「探していた修道女さん達が、修道院の名前をいわなかったのは、アウラシアさんを他の教会にとられたくなかったからですよ〜。きっとアウラシアさんは、写字生です。写本制作で有名な修道院のシスターのはずです〜♪」
エーディットが広場にあったパリの地図で位置を指さす。そこはパリ郊外にある修道院であった。
「そこは貴族から特別な注文が入る程、有名な修道院です」
クレリックのエルディンはエーディットに同意した。
アウラシアを連れて行く事が決まる。
訪ねた修道院のシスター達はアウラシアを見ると喜んだ。
「わたしの本当の名は『ニーナ』っていうんですか? はぁー、わかってよかったあ」
シスター達はアウラシアの様子に衝撃を受けていた。記憶を無くす前のアウラシアは優秀な写字生というだけでなく、生真面目な修道女の模範と評される人物だったらしい。
「背中にコインを隠していた理由をどなたか知ってますか?」
アニエスの訊ねに一人のシスターが答えてくれた。どんな状況でも人々を救えるようにと、この修道院では内緒で隠してあるそうだ。
アウラシアは尊敬されていたので、隠し縫いつけた者が、特に多くを入れていた。それが余計な誤解を生む結果となった。
アニエスは考えが外れた事を残念に思ったが同時に安心した。ちびブラ団の四人に何もなくてよかったと心の底から思ったのだ。
「記憶が蘇るまでは『アウラシア』の名で過ごそうと思います。しばらくこちらで生活すれば治るでしょう。ありがとうね〜♪」
アウラシアが笑顔で冒険者とちびブラ団に特別なパンをプレゼントする。
「記憶が蘇ったアウラシアはどんな感じになると思う?」
サーシャの疑問に、みんなはいろいろな答えをする。
冒険者達はちびブラ団を各々の家へと送り、報告の為にギルドへ向かうのだった。