【ゴーレム増産計画】○○の手も借りたい

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月06日〜05月11日

リプレイ公開日:2008年05月15日

●オープニング

 メイディアのゴーレム工房では、ウッドゴーレムやストーンゴーレムの増産が急ピッチで進められていた。職人もゴーレムニストもそれこそ休む暇がないほどに。
 ユリディス・ジルベールもその中の一人であった。ゴーレムニスト学園を開校していない今、彼女も当然のことながらゴーレムニストとして増産計画に携わらざるを得なかったのである。
 そんな彼女は冒険者ギルドで冒険者を募る事にした。別に自分が楽をしたいわけではないが、後進を育てておけばいずれ自分が楽になる事もあるだろう――もしかしたらそんなことを考えたのかもしれない。
「今回集まった皆にやってもらいたいのは、『自分が出来る事』よ」
 ユリディスはギルド職員に告げた。
「ゴーレム1つ制作するのには多大な時間と手間が必要。それにずっと携わるとしたら、1ヶ月は掛かっちゃうわ。だから私は作業の効率化を考えたの」
「効率化、ですか‥‥」
 職員は不思議そうに呟く。
「作業の分担化とでもいうのかしら。元々ゴーレムニストだってゴーレム製作工程の全てに携わっているわけじゃないしね。だから、『自分が出来る工程』『自分が進もうと思っている工程』に携わってもらおうってこと」
 つまり、例えばゴーレムニストならば風信器を作れる者は風信器に魔力を籠める作業を。水精霊砲の魔法を覚えている者は水精霊砲へ魔力の付与を。行動制御を修得しているものは行動制御魔法の行使をしてもらう、そういうことである。
 一人で1機のゴーレムを作り上げる事など出来ないのだ。時間を有効に使うために、作業を分担して、できる部分だけ増産してしまおう、そんなところである。
 なお、ゴーレムニストであってもまだ魔法バリエーションを修得していない者もいよう。その場合は他の技術を生かしてそちらの作業に従事するか、己がこれから学ぼうとしているゴーレム魔法で作業をしている先達の手伝いをすると良い。

 また今回募集されるのはゴーレムニストだけではない。これからゴーレムニストを志す者、講義は受けたものの未だゴーレムニストには転職していない者、ゴーレムニストではないが木工、石工、鍛冶に詳しい者を募集している。
 前者二つは先に述べたようにこれから学ぼうと思っている分野への手伝いが主になるだろうが、後者の一般技能の持ち主は、主に素体加工の面での手伝いをしてもらうことになるだろう。

 今回は新規開発ではなく、現状あるゴーレムの『増産』であるからして、新しいアイデアを募集しているわけではない。文字通り、『手を借りたい』わけだ。同時に、新人ゴーレムニストの育成も兼ねている。
 まさに『現場』だ。その現場に立ち入り、手を貸してもらいたい。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec2412 マリア・タクーヌス(30歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

エリオス・クレイド(eb7875

●リプレイ本文

●工房にて
 そこは実地。
 これはさながら新人研修。
 新人指導統率役はユリディス先生。

 今回の増産計画に携わることに名乗りを上げたのは10名のゴーレムニスト及び予備軍だ。ユリディスは彼らを連れ、ウッド・ストーン増産の始められている工房内に入る。まずは人員の振り分けから始めなくてはならない。
「イリアさん、確かシルバーゴーレムの魔力付与を希望していたと思うのだけれど」
「はい、そうです」
 イリア・アドミナル(ea2564)の返答に、ユリディスは申し訳なさそうな笑みを浮かべて答える。
「ごめんなさいね、今回はウッドとストーンの増産だから、シルバーは素体が用意されていないの。同時にナーガ様に関する方もだけれど‥‥こちらもウッドとストーンには竜言語魔法は使用されていないのね。だから今回は見送り。希望だということは頭の中に留めておくから、今回は別の作業をお願いしても良い?」
「それは‥‥仕方ないですね。ではもう一つ、質問と提案なのですが」
「なぁに?」
 既にゴーレムニストとして色々な事を考えているイリアに、ユリディスは耳に掛かった髪の毛を掻き揚げながら首をかしげて答える。
「天界――地球の方ですね、そちらには『ジドウシャ』というものがあると聞きました。ジドウシャ等の優れた治金技術の素材に付与を行えば、今までとは違ったゴーレムが出来るのではないでしょうか?」
「それは――天界から来落した素材を集めるということ?」
「ええ」
「一見魅力的な提案なのだけれど」
 問題が、とユリディスは続ける。
「ジドウシャなどの大きなものは来落しないのよ。だから細かい金属部品を集める所から始まると思うのだけれど‥‥地球人も自らの持ち物の材質を正確に知っているとは限らないみたいなのね。だから合金類も多いらしくて、純度が下がるの。だから実現は少し難しいかもしれないわ」
「なるほど‥‥。ありがとうございます。それじゃあ僕は初仕事、頑張ってきますね。緊張するなぁ」
 イリアは丁寧に礼を述べ、ゴーレム生成という基本魔力を付与する作業へと加わった。

 他にも『ゴーレム生成』魔法付与を希望した者は何人かいた。マリア・タクーヌス(ec2412)やラマーデ・エムイ(ec1984)は、まずは先輩ゴーレムニストの作業をじっと食い入るように見ている。やり方をしっかりと見て、自らの中でイメージを完成させ、そして落ち着いた心で実践しようというのがマリアの考えだ。最初は誰でも初心者なのだから。
「リリィ? 今は寮でお留守番よ。どうせ泊まる事になるんだし、あとで見に行くと良いわ」
 困った子猫ちゃんリリィの事を気に掛けていた門見雨霧(eb4637)とラマーデに、ユリディスはくす、と笑みを浮かべて答える。この作業期間、今回集まった冒険者達の宿舎は学園の寮となる。食事は自炊だが、食材費は工房持ちだ。
「ところで、今作っているゴーレムの設計図とか、見せてもらうことは出来る?」
「いいわよ。素体を作る石工職人や外装担当の鎧鍛冶師には許可を取っておくわ。でも設計図と言ってもある程度の形、大きさを記しただけのものよ?」
 ラマーデの問いに、ユリディスは「見てもあまり面白くないと思うけれど」と付け加える。
「というと、そんなに細かく描かれているわけじゃないのかな?」
 地球人の雨霧が口を挟む。地球で言う設計図といえばかなり細かい部分まで設定された煩雑なものを想像しがちだが、こちらではそうではないらしい。
「意外とシンプルだと思うわよ?」
「なるほど、後学の為に俺も見せてもらおうかな」
 学園在籍中に教わった通り、ゴーレムに乗る人のことを考え、ゴーレム製造の中心となるこの作業に携わる雨霧は、注意点などを先輩に確認しながら作業を始める前にしっかりメモを取っている。彼の興味は金属精錬の現場にもあるようだったが、残念ながら今回の増産はウッドとストーンであるからして、現在はそちらの作業は行われていないとの事だった。
「私として一番興味があるのは、設計図から実際の素体にする様子なのだが」
 元になる鉱物の知識や設計の知識は学んだが、それがどうやって実物になっていくかいまいちイメージが沸かないというマリア。
「じゃあ後で設計図を見に行く時に、素体を作っている現場を見学させてもらうと良いわ」
「欲を言えば、精霊砲や浮遊機関の作成も見学させていただけると幸いだ」
 意欲旺盛なマリア。ユリディスは心持ち嬉しそうな笑みを浮かべながらOK、と告げた。
「わしも設計の仕方や図面から実物を作るのには興味があるのぅ。浮遊機関や精霊砲の製作も」
 それまで先輩から魔力注入の手ほどきを受けていたシュタール・アイゼナッハ(ea9387)が、ユリディスたちの会話を拾い、口を開いた。ユリディスの返事は勿論OK、である。
「後聞いておきたいことがいくつかあるのじゃが」
 次のメンバーの元へ移動しようとしたユリディスを、シュタールは引き止めて声をかける。
「今後もこの様な依頼や、ゴーレムニスト育成の依頼があるのかのぅ?」
「そうね、今回みたいに工房から冒険者のゴーレムニストを募る予定はあるわよ。後ゴーレムニスト育成というのは学園で新規にゴーレムニストを育成のするということかしら? それなら、そちらも一応予定はあるわ」
「それと‥‥公表できる範囲でかまわぬのだが、ゴーレムの開発や生産の状況はどうなっておるのかのぅ?」
「そうねぇ‥‥」
 ユリディスは顎に手を当てて、思案するような表情を見せる。
「今は大規模な新規開発より国内全域へのゴーレム配備のための増産に力を入れている所よ。そのためにウッドとストーンの増産計画が優先されて、金属ゴーレムは工期と費用の面から後回しになっているの。具体的な機数等は、配置の都合もあるので秘密ね。ほら、貴族間の取り合いになっても調整が大変でしょう?」
「なるほど、そういう事情でしたか‥‥」
 工房も方針転換をして、色々大変なようである。


「あら、早いわね。飲み込みが良いからかしら」
 精霊力制御装置の魔力付与を行っている現場を訪れたユリディスは、すでに魔力付与に携わっているアリウス・ステライウス(eb7857)を見て微笑む。
「盗めるようであればできるだけ技術を盗みたいですからね」
 一つの魔力付与を終えて一息ついたアリウスは、先達の技術を盗むべく、他のゴーレムニストの作業を見ながら彼女に近づいてくる。
「そういえば、応急修理の場の見学は出来ますか? 後は戦場で使用する許可が出るのならば、魔法陣のレジュメを取りたいと思うのですが」
「応急修理の方法が知りたいのね? 素体に欠損があればその部分の素材を修理、補充して、その部位に対応した魔法を一からかけるわ。『ゴーレム生成』と、対応したバリエーションをね。でも素体が激しく壊れていた場合は金属は溶かして再利用。ウッドとストーンは破棄になるわ。作り直す方が多いかしら。ちなみに外装部は鍛冶師が修理するの。だからゴーレムのメンテナンスは素体は被害が出ていないかを確認するだけで、外装部が主ね。素体に何かあれば即修理。私達の出番は魔法を掛けなおして修理する場合ね」
 魔法陣については――とユリディスは続ける。
「まず前線で使用することは考慮されていないから、記録の許可も出ていないの。多分‥‥誰も申請していないんじゃないかしら。前線は移動することもありえるでしょう? だからそこにゴーレム魔法用の魔法陣は作成しないのが今までの基本だったの」
「なるほど」
「でもゴーレム増産が一段落した頃に、ある程度の腕前があるゴーレムニストには教えられると思うわ」
「あと、魔法解説に判りにくい点がありまして」
 アリウスは横目で先達の作業を見ながらも、続ける。その質問を聞いたユリディスは、今度ゆっくりと答えさせてもらうわ、と告げた。


「ご教授いただいたのに、未だゴーレムニストへの転職を行っておらず、申し訳ない」
「いいのよ、それは色々事情もあるのだろうし、気にしてないわ」
 素体作成作業に携わっているローシュ・フラーム(ea3446)をユリディスは訪ねた。
 彼としては鍛冶技能が最も自信があり、鋳造法確立にも携わった金属素体の鋳造に関与したかったようなのだが、残念ながら今回は金属素材は扱われていない。残念では有るが石素体の作成の手伝いをしているようだった。
「講師殿にお聞きしたいのだが」
「なぁに?」
「金属ゴーレムの増産計画に関してはどうなっているのだろうか?」
「ああ、やっぱりみんな気になるのね」
 ローシュの質問に、ユリディスは微苦笑を浮かべる。
「まずは各地への増産優先なので、残念ながら据え置きらしいの。危険度が高いところと大きな領地にゴーレム配備が済むくらいのウッドとストーンの増産が出来れば、金属ゴーレムも増産したいらしいけれど‥‥。その作業速度によるから、金属ゴーレム増産時期は少々不透明なのよ」
 その返答に多少残念そうな表情を見せたローシュを見て、彼女は続ける。
「けれどもね、金属鉱山では急ピッチで採掘が進んでいるはずだから、いずれ機会は訪れると思うわ」
 そうとしか言えないのが申し訳ないけど、とユリディスは告げた。
「わかりました。それとできる事であれば装甲装備の取り付け段階や、最終魔力付与段階での調整へ参加をしたいのですが」
「わかったわ、そちらへも出入りが出来るように手配はしておくわね」
 それでは、と素体加工作業に戻るローシュの背中にユリディスは手を振った。


 カレン・シュタット(ea4426)と結城梢(eb7900)はどちらも風系統のゴーレム魔法修得を目指しているが未だバリエーションを修得していないため、風魔法の魔力付与をしている所の見学へと回っていた。必然的に、風魔法を使用するユリディスの側にいることになる。風信器は学園の授業でやって見せたということで、彼女は今回は精霊力集積機能を付与する現場へと二人を連れてきていた。
「これは既に全てのパーツが組み込まれたゴーレムね。これから周囲から精霊力を集積する能力を付与するのよ」
 魔法陣の上に乗せられたストーンゴーレム。ユリディスは印を組み、詠唱を始める。彼女は高速詠唱を修得しているが、ゴーレムニスト魔法を使う際は基本的にそんなに切羽詰った場面ではないため、通常詠唱で確実に魔法を掛けていく。失敗してしまったら、再び掛けなおさなくてはならなくなるので。
「これが精霊力集積機能の付与ですか‥‥」
「見ているだけですと、普通の魔法とあまり変わらないように思えますよね‥‥」
 ユリディスの後方で、見学をしているカレンと梢が呟く。
 程なくユリディスの詠唱が完成し、彼女の身体が淡い碧色の光に包まれて魔法が発動した。どうやら成功したようで。
「ふぅ。これで後は魔力の浸透を待つのよ」
「お疲れさま」
 と、横から声を掛けてきたのはレン・コンスタンツェ(eb2928)だ。彼女は他の皆とは一線を画し、「人間のメンテナンス」にも心を砕いていた。つまり働きづめの工房の人達が交代で休みを取れるようにとのことである。
「あ、私皆さんにお茶を配ってきますね‥‥ユリディスさんにも持ってきますね」
 梢が思いついたように小走りで場を出て行く。今はまだお茶を入れたり簡単なお菓子を作ったりして工房の人達をもてなすことしか出来ないが、いつか一人前のゴーレムニストになるべくこれも修行の一つだと。
「今回みたいにさ、ゴーレムニストや技術者による手伝い製造の機会を増やして、過重労働になりがちな工房の人達に一息つけるようにした方がいいと思うんだよね。だって倒れたりしたら元も子もないし」
 レンの言葉にユリディスもそうね、と頷く。
「増産が急ピッチで進められている状態だから‥‥一人でも倒れられると痛かったりするのよね。レンさんの言うように、休む時間を増やしても長い目で見れば増産が進むようなローテーション、考えてみる必要が有るかもしれないわね」
 ユリディスはレンと話をしながら、風のゴーレムニストの先達に質問を投げかけているカレンを見やる。工房の人達も、後進を育てる事によって工房の人達の負担を軽減するという長い目で見たユリディスの計画を理解し、親切に質問などに答えてくれている。
「もちろん手伝い製造だけを増やしても飽きる人は出てくるだろうけど、研究とか開発会議とかを兼ねれば人は集まると思うんだよね」
「そうね、考えてみるわ」
 ありがと、と彼女はレンに微笑んだ。


「ねぇせんせ。ちょっと相談に乗ってもらえる?」
「あら、どうかした?」
 風信器への魔法付与を行っていたユリディスの側に、ラマーデが近寄ってきた。何か思うところがあるようで。
「せんせーは、地と風のゴーレム魔法使いよね。どうして二系統にしようと思ったの? 一系統でもっと強力な魔法を使えるようにしようとは思わなかった?」
「そうね‥‥最初はね、一人で全ての工程を出来るようになりたかったの」
 ラマーデの問いにユリディスはくす、とかつての自分を笑いながら答えた。
「けれどもね、ゴーレムは一人じゃ作れないのよね。ゴーレムニストだけじゃ無理なのは当たり前として、ゴーレムニストでさえ複数系統必要になるでしょう?」
 彼女の言葉に、ラマーデは真剣に頷く。
「何か造りたいものがあるならば、一系統を極めるのもありだと思うわ。ただしその場合は自分の作りたいものに協力してくれる術者や技術者を集めることが必要。逆に色々できるようにした場合は、協力者を集める労力は減るかもしれないけれど、技術を極めるのに時間が掛かるわ。どちらにしても一長一短。だからどっちが良いなんて気軽には言えないけれど」
 言葉を切り、ユリディスはラマーデの頭をふわりと撫でる。
「まずは自分が目指すものに対して、何が一番必要かを見極める所から始めて。全てはそこからよ」

 まだまだ歩みだしたばかりの新人ゴーレムニストたち。
 色々疑問も葛藤もあることだろう。
 だが少しずつ、少しずつ彼らを導いていければ、メイのゴーレム工房の未来は明るいだろう――そう考えるユリディスであった。