まほうつかいのごようじなぁに?

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月09日〜05月14日

リプレイ公開日:2008年05月15日

●オープニング

「すいませーん、依頼はここで受け付けてくれるんですかー?」
 15歳くらいの少年の声が冒険者ギルド内に響いた。
「はい、ここで大丈夫ですよ」
 対応に出た支倉純也は柔らかい笑みをたたえて少年を椅子に座らせる。
「お師匠様からのお使いできたんですけど、ここで冒険者を雇えるって聞いて」
「はい、内容次第ですけれど雇えますね。どんな内容でしょうか?」
「えっと‥‥物資の調達、部屋の片付け、家事全般です」
「‥‥‥‥‥えぇと、それは随分手広いですね?」
 少々困ったように純也は頬をかいた。
「お師匠様は魔術師で、今精霊碑文学の勉強に力を入れていらっしゃいます。スクロールを写し取る作業に追われているところです」
「なるほど、スクロールですか‥‥」
「そこで魔法用スクロールをいくつか調達して、お師匠様の家まで運んでもらいたいのです。これが物資の調達です」
 その他に‥‥と少年は困った顔で続けた。
「家の中の掃除の手伝いをしていただきたいのです。本やら羊皮紙の束やらが散らばっているので、それらを棚に戻したり、ここ数年使われていない台所を使えるようにしてもらったり‥‥そして、根を詰めているお師匠様に何か美味しいものでも作ってもらえれば助かります。あと洗濯もしてもらえると大変助かります」
「あの‥‥‥‥君はいつも弟子としてそこで何をしているのですか?」
 純也の最もな問いに、少年は頭をかいて答えた。
「主に食事の買出しです」
「‥‥‥‥‥‥‥」
 つまり、魔法使いの弟子としての仕事は何もしていないわけだ。
「いや、別にお師匠様が何も教えてくれないわけじゃなくてっ。ただ、今の仕事が一段落つかないと、僕に教えている暇が無いからって」
 なるほど。この依頼は少年の、早く魔術師としての修行を受けたいという気持ちもこもっているわけだ。
「手伝ってくれれば、御礼はするそうです。多分、お師匠様が写したスクロールをもらえるんじゃないかと思いますけど。ただ‥‥」
 気分屋なので、何のスクロールをもらえるかはわかりません、と少年は告げた。
「‥‥‥‥」
 ここは家政婦紹介所ではないのだけれど、という気持ちも含みながらも、純也は依頼書の作成に掛かった。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb9356 ルシール・アッシュモア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec1370 フィーノ・ホークアイ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec2869 メリル・スカルラッティ(24歳・♀・ウィザード・パラ・メイの国)

●サポート参加者

イェーガー・ラタイン(ea6382)/ 月下部 有里(eb4494

●リプレイ本文

●まほうつかいのおうちは?
 少年――ラークと名乗った彼に連れられて一行が訪れた建物は、凄まじいものだった。
 建物は人が住まないと劣化するというが――それとはまた違った趣というかなんと言うか。
 蔦が壁に絡まっていたり、壁は薄汚れていたり、どうぞと通されようとした玄関には荷物が山積みになっていて、入るのに苦労したり。
「(本当に此処に人が住んでいるの!?)」
 それは冒険者全員が思ったことであり、かつ玄関を見るからに室内の惨状も容易に想像できて、頭痛がしそうだった。
「‥‥もう、これだから男所帯は‥‥」
「あ、違いますよ」
 呟いた美芳野ひなた(ea1856)にラークは案内の足を止めて笑顔で振り返る。それはともかく歩くごとに舞い上がる埃はどうにかならないものか。
「お師匠様は女性です」
「‥‥‥‥‥」
 なんだかそれって余計に問題の様な気がする。
 ガツンッ
「‥‥〜っくぅぅ〜」
 驚愕の事実に油断したからか、シャクティ・シッダールタ(ea5989)は良い音を立てて梁に頭をぶつけた。ジャイアントの彼女には、一般家庭の天井は低いかもしれない。
「シャクティさん、大丈夫ですか?」
 彼女の友人でもあるひなたがシャクティを心配そうに見上げる。
「大丈夫ですわ」
 シャクティは額をさすりながら笑顔を返す。でもちょっと切ない。もう少し小さければ可愛いお洋服もたくさん着られるのに‥‥。
「お師匠様ー、お掃除始めますからねー」
 少年は廊下半ばで最奥の部屋に声をかける。どうやらそちらがお師匠様の作業場のようだ。奥から「勝手にしてちょうだいー」という女性の声が返って来る。
「先輩魔法使いとしては、ラーク君が一日も早く一人前の魔法使いになれるように手伝ってあげたいと思うのですよ」
 ソフィア・ファーリーフ(ea3972)の言葉に彼は「有難うございますっ」と可愛らしく頭を下げた。
 何にせよ、掃除開始。
 ここは、これから戦場になる。


●仁義なき戦い?
 スクロールや食料品の買い物に出かけたルシール・アッシュモア(eb9356)、白金銀(eb8388)、メリル・スカルラッティ(ec2869)を除いて、室内では戦いが始まっていた。
「魔法使いの端くれとしては、他のウィザードの仕事場を見る機会なぞ滅多にないし、楽しみじゃった――という以前に汚いっ!」
 そこはまるまる一部屋貴重な本や、羊皮紙、スクロールなどが散らばっている。もちろん足の踏み場などない。フィーノ・ホークアイ(ec1370)は足元の本を拾い上げ、書棚へ戻そうとするがその書棚への道が遠い。
「普通の魔法使いの部屋はみんなこんなものなのかのう」
「さすがにこれほどでは有りません」
 フィーノから適当に投げられたスクロールを何とかキャッチしたソフィアが同じ魔法使いとして反論する。確かにこれと同じとは思われたくない。
「Gがいたりしてな。どれ、ブレスセンサーで確かめてみるか」
 「G」――その一言でソフィアの手から抱え上げたスクロールがばさりばさりと落ちる。
「これ、まだいるとは一言も言ってないだろうが。いや、いたとしても甲虫とかわらぬであろ、アレは」
 森育ちのフィーノにとってはただの虫でも、ソフィアにとっては恐怖の対象。ふるふるふる、と首を振って恐怖を表すソフィア。
「安心せい。いるとしたらきっと台所じゃろ」
 後であちらにも行ってみようかと思いつつ、フィーノは手を動かす。ソフィアは心持ち恐る恐る落としたスクロールを拾い始めた。
「本もスクロールもジャンル分けして、使用頻度の高いものは手の届く所におくなどした方がよさそうですね」
 なんとかまだ見ぬGの恐怖から立ち直りつつあるソフィアだった。


「なんですか、この汚れ物の山はー!?」
 所変わって別の部屋。そこには出しっぱなしの衣類に加えて、未洗濯と思われる衣類が山のように積まれていた。それを見たひなたの腕がうずく。
「たとえ無双の剣豪だろうと、たとえ練達の魔術師だろうと、今のひなたに敵いません! 小町流花嫁修行目録、美芳野ひなた‥‥行きます!!」
 とりあえず庭に運び出すことから始める。洗濯をしようにも、まずはこれらを運び出すことから始めねばならない。
「ひなたさん程の腕前はございませんが、お手伝いいたしますね」
 ひなたが抱える数倍の汚れ物をシャクティが抱え、庭へと運んでいく。部屋はみるみるうちに汚れ物が取り除かれて、窓へと近づく事が出来るようになった。締め切りだった窓を開けて風を入れ、シャクティがうっとりと――
「うふふ、澱みを退け清浄になっていくのは、何事にも代え難い喜びですわ。皆様もうひと頑張りしま‥‥」
 がつんっ!
 窓から外に声をかけようとした彼女に立ちはだかったのは、窓枠という壁だった。


「さて、お師匠様もお疲れになっているそうですし、頑張って精のつくものをつくりましょう。‥‥‥‥その前に掃除が必要ですか」
 台所に赴いたクウェル・グッドウェザー(ea0447)が、そこに広がる光景を見て一瞬遠い目をする。そこは食事作りにすぐにとりかかれるような場所ではなかった。
「黄ばんだシーツに煤けたカーテン、食べ散らかした残飯の山‥‥ここは人間の住むところじゃないです! ゴキさんの住処です!」
「同感ですね」
 台所の様子を見に来たひなたがあまりの様相に叫び、クウェルが同意を示したその時――カササササッと何かが足元を走り抜けて行った。
「「‥‥‥?」」
 一瞬、顔を見合わせる二人。
 あっちでカササササッ、こっちでカササササッ。そっちでカササササッ。
「「で、でましたー!?」」
 二人は声をそろえて思わず叫び声を上げた。


「ねぇ今さ、何か聞こえたんだけど」
「荷物でも崩れてきたのかな?」
「もしかして、Gが出た――なんてことはないですよね?」
 買い物から帰宅したルシール、メリル、銀の三人が互いの顔を見合わせて呟く。
 ルシールは持ち前の商人スキルを駆使して、大分安く魔法用スクロールを仕入れてきた。メリルと銀は皆から少しずつお金を預かって、魔法用スクロールの他に食料や清潔な布など様々なものを買い込んできた。それらを愛馬からおろし、玄関から運び入れようとすると――
「銀さん、そっちにいきましたよ!」
「え?」
 突然の声。これはクウェルだろうか。
 何が来るのかと問い返す間も与えられなかった。
 「それ」は飛ぶ。
 黒い点がだんだん大きくなってくるのが見えたかと思うと――

 ぴと

 顔にくっついたー!?
「うわぁぁぁっ!」
 銀は慌てて自分の顔を払う。ぽて、と落ちたその黒い物体は、そのままカササササッと隣の部屋へ。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「こんなのただの虫じゃろ」
 どうやらソフィアとフィーノが書物整理をしている部屋へと紛れ込んだ模様。
「あー、出ちゃったんだ」
「みたいだね」
 ルシールとメリルはなんとなく玄関から中にはいるのが躊躇われて。とりあえずGの退治が終ってからにしよう、うん、そうしよう。


●何事もなかったかのように
 買出し組も加わって、掃除のピッチも上がっていく。ルシールは庭にシーツを広げ、ソフィアと共にスクロールの虫干しを始めた。ちょこっと、空を見て物思いに耽る。
「(このまま冒険者を続けてもいいものかなぁ‥‥)」
 その時ふっと浮かんだのは友達の、碧の羽のシフールの顔。
「うん、とりあえずがんばるよ」
 自らの目に浮かんだ幻影にそう答えて、ルシールは再び作業に戻った。


「ラーク君、よかったらこの桜まんじゅうをお茶と一緒に持って行ってあげて」
 買いだして来たお茶と、ソフィアの持ってきたローズマリーのハーブティーを載せた盆をメリルは少年に差し出す。
「頭を働かせるにはおやつが必要だからね」
「有難うございます!」
 ラークはぱぁぁっと顔をほころばせて、小走りで奥の部屋へと行く。
「(ラーク君はどんな魔法使いになりたいのかな?)」
 後で聞いてみよう、と思いつつメリルは少年の小走りで舞い上がった埃を静めるべく、ウインドレスを唱えた。


「こんな感じでいいでしょうかねぇ‥‥」
 先ほどのG顔面着陸のショック覚めやらぬ銀は、キキーモラの布巾で台所の棚を拭きつつ、近くで掃除をしているクウェルに訊ねる。
「ええ。これだけ綺麗にしてもらえれば、食器をしまうことも出来ますね」
 なんとか、なんとか台所は料理が出来るようにと整えられつつあった。
 銀は布巾で棚をこすりながらふと、思う。仕事や趣味に没頭しすぎずにこの様に家事の手伝いをしていたら、バツイチにならずに済んだのかな、と。
「さてと、まずはハチミツを使って」
 疲れが取れるようにと蜂蜜とレモンで栄養ドリンクを作ろうとするクウェル。ヒヨコ柄のエプロンをしたその姿は、まさに主夫。
「クウェルさん、台所使えるようになりました?」
 そこへ洗濯と掃除を終えたひなたが顔を出した。クウェルが頷いてみせると、彼女は買出し組が仕入れてきた食材を物色し、隣に立った。この二人がいれば、さぞかし美味しい料理が作られるだろう。戒律で食せないもののあるシャクティにも十分配慮した食事が。


●お師匠様
 綺麗に片付いた部屋。
 一番大きな部屋の床に新しい敷物が敷かれ、そこに大量の料理が並べられる。
 この家には大きなテーブルも人数分の椅子もなかったので、仕方無しにこうした手段が取られることになった。
 クウェルとひなたが存分に手腕を発揮した料理が並んでいる。中でも目をひいたのは、シャクティが提供した新巻鮭だったりする。丸ごと焼かれて大皿の上に乗せられていたから。
 きちんと野菜中心の料理もあり、これならば皆で一緒に食べられそうだった。
「お師匠様、ご飯ですよ、早く」
「なによもぅ‥‥」
「家の中を片付けてもらったのに、顔を出さないのは失礼です。それにちゃんと食べたほうがお仕事もはかどりますよ」
 少年とお師匠様のそんなやり取りが聞こえたかと思うと、部屋の入り口に二人の人物が現れた。
 一人は言うまでもなく少年。もう一人は当然お師匠様なのだが――それがとんでもない美女で。
 耳が尖っていることからエルフであることは察せられるのだが、きちんと紅を差した唇。しっかりと櫛を通された髪は艶やかで。
 自分の身を繕うのは怠らないらしい。だが冒険者達が驚いたのはその外見が想像していたより若いことで。女性というよりも、むしろ少女と言った方が近いかもしれない。
「いや‥‥でもエルフだから実年齢はわからないよ?」
 みんなの心の内を読み取ったかのようにルシールが呟く。同じエルフだからこそ、なんだか説得力のある言葉だ。
「あなたたちがうちを掃除してくれたのね、ありがとー」
 なんだかゆるーい言葉遣いで礼を述べる美女お師匠様。
「これ、お礼だけど」
 その腕に抱かれているのはスクロール。どうやら全員分あるらしい。ただし中身が何なのかはわからない。それをお師匠様はランダムで手渡していく。
「僕には必要ないですから、ソフィアさんにお譲りしますね」
「ひなたも、シャクティさんにあげます」
 クウェルとひなたがそれぞれ友人に譲渡を申し出る。申し出られた二人は、ありがたくそれを受け取ることにした。
「あらーおいしそうねぇ」
 お師匠様はそんな所には目もくれず、並んだ料理を眺めてゆるーく感嘆の言葉を述べた。すでに床に座り込んでいる所から察するに、食べる気はあるらしい。
「それじゃあ皆さん、いただきましょうか」
 ソフィアの音頭で、皆が口をそろえてた。

「「「いただきますー!」」」

 綺麗に片付いたお家での豪華な夕食。
 働いた後のご飯は美味しいものだった。

 え?
 黒い物体?
 何のことですか、それは。
 もうカサコソ蠢いてなどいませんよ?
 このまま綺麗な状態が続けば、ね。