追憶に生きる白花〜風の傷〜
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月10日〜05月15日
リプレイ公開日:2008年05月17日
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●オープニング
●ギルドにて
三度、冒険者ギルドに、見るからに騎士だとわかる格好の女性が現れた。
鎧の下のチュニックからショートパンツ、ブーツ、そしてマントに至るまで全て白という徹底のしようだ。年の頃は二十歳を少し過ぎた辺りだろうか。何か決意を込めた瞳でカウンターに近寄ってくる。
彼女はリンデン侯爵家の騎士、イーリス・オークレールという。
謎の怪異解決の為、冒険者達に力添えを願いに来てからまだそんなに日は経っていない。
「こんにちは、イーリスさん」
応対に出たのは支倉純也だ。彼は柔らかい表情で椅子を勧め、記録をとる準備をする。彼女への応対はもう慣れたものだ。
「また同様の地域で怪異が?」
「うむ」
イーリスは頷き、進められた椅子に着席する。彼女はリンデン主都アイリスからかなり南の位置、ステライド領に近い辺りで頻発している怪異の解決を任じられている。
「今回調査に赴くのは、侯爵領の南西部、ステライドに近い位置にある村だ。この間行った村二つより北にあり、位置関係はこの間行った2つの村を三角形の左右の点とすれば、今回行く村は上の点ということになる。そこでローブを着た男性ばかりが切りつけられる事件が発生している」
「ローブを着た男性とはまた‥‥随分と限定的ですね。通り魔か何かですか?」
言ってから純也は自分の言葉が外れているだろう事に気がつく。通り魔であれば彼女が出てくることはないのだ。彼女が追っているのは『怪異』であるからして。イーリスは溜息を漏らすようにして先を続けた。
「その顔ならもうわかっていると思うが‥‥ただの通り魔ではない」
「やはり‥‥」
「つむじ風が起こったと思うと、ローブを着た男性が切り付けられていた。辺りに犯人と思える、刃物を持ったような人物は見当たらなかったという」
「それでは、そのつむじ風が?」
純也は首をかしげる。
「ああ。恐らく。トッドローリィという精霊を知っているか?」
「お話を聞くからに、風の精霊のようですが‥‥」
「ああ、風の精霊だな。つむじ風と共に現れ、道行く者にいきなり切りつける」
「ではそのトッドローリィが犯人でしょうか?」
「ああ、間違いないだろう。ただ‥‥」
イーリスは再び溜息をついた。そして続ける。
「何故『ローブを着ている男性』を限定して切り付けるのかがわからぬ」
確かにだれかれ構わず切り付けるのであれば、精霊の気まぐれによる悪戯とも取れるが、ローブを着た男性を限定して狙っているとなると、何かあるのではないかと思いたくなる。
精霊――信仰の対象となる彼らだが、中には悪意を持つものもいる。今回はその一部という事だろうか?
「トッドローリィがローブを着た男性ばかりを狙う理由がわかれば、説得に応じてくれるかもしれない。説得で被害を減らせるなら、それに越した事はない」
「そうですね‥‥この地の精霊信仰の面から考えても、倒してお仕舞い、というのは避けられるなら避けたいですね」
「何かローブを着た男性に悪戯でもされたのだろうか‥‥」
イーリスの呟きは、冗談とも本気とも取れない。
「今回は謎の切り付け事件の解決、恐らくトッドローリィであるが、彼らの説得の手伝いをしてほしい。ただし説得できない場合は、退治もやむをえない」
そして、とイーリスは申し訳なさそうに付け加える。
「申し訳ないが、武装に関して、今回も槍の携帯は避けて欲しい」
「はい、解りました」
「私個人の事情で申し訳ないのだが、どうしても槍は苦手でな。味方であっても使う者がいると私は震えが止まらなくなり、役に立たなくなってしまうのだ」
恥ずかしい事なのだが、どうか宜しくお願いしたい、と彼女は深く頭を下げた。
●リプレイ本文
●風の精霊の真意は?
馬車はステライド領とリンデン侯爵領の境を抜け、リンデン侯爵領にある問題の村へと向かってた。
「じゃ、わたくしたちI・M・R(イーリス・ミステリー・リサーチ)の捜査開始ッス! I・M・R! I・M・R〜!! な〜ぞ〜を暴け〜♪」
軽快に歌いだしたのはクリシュナ・パラハ(ea1850)。相変わらずである。
相変わらずといえばこちらも――
「うふふ‥‥また、逢ったわね‥‥貴方。どう‥‥たまには、奥さんと‥‥話してみた、ら? 私の体‥‥貸してあげる、から。‥‥そう、いいのね‥‥」
イーリスの肩越しに独り言を呟き続ける忌野貞子(eb3114)。
「死んだ者、は‥‥何も出来ない‥‥しちゃいけない。うふふ、普通は現世に執着、しすぎるのに‥‥生前も、慎み深かったのね」
「‥‥‥貞子殿?」
困惑するイーリス。
ねぇ、やっぱり誰と話してるの? ねぇ?
「基本的には説得の方向で行きたい」
静かに意見を述べるレインフォルス・フォルナード(ea7641)。ただし無理な場合は退治するしかないな、と付け加える。
「トッドローリィの仕業、かぁ。風の精霊さんにはいつもお世話になっているし、私も話し合いで解決できるようにしたいな」
鎧騎士であるフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)はいつもグライダーでお世話になっているからと。
「精霊が暴れるのは珍しいが、最近多いらしい。誰かが不届きな事をしているなら、それを懲らしめる事でトッドローリィ殿に怒りを納めて欲しいと思う」
「私も、退治しないで済むならその方がいいと思います」
力強いファング・ダイモス(ea7482)の言葉にアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が頷いて見せた。
「トッドローリィ? 鎌鼬のことか」
「そうよ‥‥ジャパンの鎌鼬に近い精霊獣、ね」
洋名を和名に呼び変えてみればなるほど、風烈(ea1587)にも想像がしやすくなる。貞子がぼそりと己の知識から導き出した肯定を投げかけた。
「次は土だと思ったんだけどねぇ。必ずしも呪詛の類の構築を狙って事件を仕向けている存在があるわけでもなさそうだ」
考えるようにして呟かれたクライフ・デニーロ(ea2606)の言葉に、ルイス・マリスカル(ea3063)がイーリスを見やる。
「今の所、水火風の順で三角形を描く位置の地にて事件が起こってますね。イーリスさん、過去に地の精霊によると思しき事件はなかったでしょうか?」
「ふむ‥‥地の精霊か」
その問いかけにイーリスは記憶をまさぐるようにして考え込む。だが出た結論は、否。
「森を害そうとする者は、森の精霊の化けた姿に襲われるというような言い伝えはあるが、事件らしきものは起こっていないと記憶している」
では、この連続した怪異は何なのであろうか。
今回の「ローブを着た男」がもしかしたら鍵を握っているのかもしれなかった。
●ローブの男
「ああ、ローブの着用は控える事にするよ」
ルイスの訪問を受けた男は警戒にそう言い、ほら、着てないだろとばかりに両手を広げて見せた。
「すいません、それと最近精霊を怒らせるようなことをした者に心当たりはないでしょうか?」
「精霊を?」
続く彼の言葉に男は不思議そうに首をかしげる。
「怒らせる、なぁ。逆にどうやったら怒らせられるか見当がつかないんだが」
この辺りの精霊信仰はやはり深いらしく、男は首を傾げるばかりだった。
廃棄物や死体を沼に放り込んで大気を汚染しているものはないか、との聞き込みを行ったクライフだったが、こちらも芳しい返答は得られずにいた。
「後は何処かの魔術師の作った建造物で風の流れが阻害されているとか心当たり有りませんか?」
訪ねられた婦人は、少し考えるようにして口を開いた。彼女が反応したのは魔術師という言葉。
「魔術師かどうかはわからないけれど、少し前にローブを着込んだ見知らぬ男が数人、村の外を徘徊していたって聞いたよ」
「当の‥‥犯人が、移動しているかもしれないわ‥‥。酒場や、宿屋‥‥聞いて回りましょう‥‥」
陽精霊の日差しを呪うように眺めながら貞子が呟く。共に歩くアルトリアが心配そうに彼女を見つめた。
「貞子さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、じゃないけれど‥‥大丈夫、よ‥‥」
なんともいえない雰囲気を醸し出しつつ、二人も情報収集に勤しむのであった。
「ローブなんて、わたくしたち魔術師か神職者か、いずれにしても日常的に着用している方は思い浮かばないですねぇ」
「意図的に精霊に怪我を負わせたのかもしれない。となるとローブの男ということはウィザードという事が考えられる。もしウィザードがトッドローリィと戦ったのならば負傷している可能性がある」
「おお〜、ファングさん、頭良いっスねぇ」
感心したクリシュナをつれて、ファングはまず被害者の男性達がトッドローリィと戦った加害者ではないかどうかの聞き込みを始めた。
「トッドローリィは」
聞き込みを続ける合間にフィオレンティナが呟いた。
「本物の通り魔が精霊の仕業に見立てて人を傷つけた事に怒っているのかな?」
「さぁ、わからんが‥‥村外を徘徊していたローブの男たちというのが気になるな」
レインフォルスが先ほど手に入れた情報。それは事件が起こる数日前にローブを着込んだ見知らぬ男性たちが村外をうろついていたというものだった。
「その男性たちが原因ということも考えられるな。だがその男性たちは何者で、何をしたんだろうな?」
烈が疑問を口にする。さすがにそればかりは情報が得られず、肝心な所が判らずじまいだった。村人たちもその奇妙な集団に近づくことを恐れ、見ない振りをして早く去ってくれることを祈るばかりだったという。
「まぁ、その状況じゃあ仕方ないよね。何か目的があって村に入ってくるんじゃなく、ただ村の外でたむろしているだけだったら気味悪いもん」
確かにフィオレンティナの言う通りだった。自分が村人だったら進んでお近づきになりたい、というような集団ではない。
「囮作戦でトッドローリィ自身に聞くしかないか‥‥」
レインフォルスの提案に二人は頷き、仲間と情報交換をするべく合流地点へ向かうのだった。
●風の
フレイムエリベイションを付与され、ローブを着込んだルイスが、路地を歩く。辺りに人影はなかった――否、仲間達が隠れ、固唾を呑んでトッドローリィの出現を見守っている。
そしてそれは突然、現れた。つむじ風が3つ現れたと思うと、鋭い爪の様なものがルイスに斬りかかり――だが彼はそれをひらりひらりと華麗に回避した。
「トッドローリィ! 何故あなた方はローブを着た男を狙うのです!?」
一通り攻撃を避けたところで、ルイスが問う。仲間達も急ぎ出てきて、その姿を視界に納めた。
トッドローリィ。つむじ風が去ってみればその姿は両腕に長く鋭い爪を持つ狐。
「お願い、ワタシ達の話も聞いて!」
フィオレンティナが風のエレメンタラーフェアリーを伴って、一歩前に進み出る。
『ローブの‥‥男‥‥許さ、ない‥‥』
「一体何があったというんだ?」
烈の言葉に、今にも再び人を襲い出しそうな雰囲気を抱きながらも、3体のトッドローリィは答える。
『ローブの男、カオスの魔物‥‥放った』
『カオスの‥‥魔物、暴れる、不快』
『不快、不快、不快‥‥!!』
どうやらトッドローリィは不快が原因で半ば暴走状態にあるようで。
「落ち着い、て‥‥そのローブの男、達は‥‥もうこの村には、いないわ‥‥」
貞子は自分の身が引き裂かれようとも彼らを説得するつもりで前へ出た。この世界は精霊の存在で成り立っている、その均衡を崩してはいけない、と。
「カオスの魔物ですか‥‥聞き捨てなりませんね。そのカオスの魔物は今でもこの近くで暴れているのですか?」
何とかトッドローリィ達の気を静めようと、クライフは更に質問を重ねた。ローブの男たちだけが原因ではないらしい以上、そちらへの対処も必要になってくる。
『カオスの魔物‥‥暴れている、不快、不快!!』
「どこかにカオスの魔物がいるということか‥‥」
レインフォルスが思案気に呟く。
「ならば、我々がそのカオスの魔物を退治すると約束します。それで怒りを静めてはもらえないでしょうか?」
ガルムの訴えに、トッドローリィの殺気立った雰囲気が少しばかり丸くなった気がした。
『カオスの魔物、退治、する?』
「ええ、退治しましょう」
アルトリアがきっぱりとそれを約束した。
『退治、する‥‥退治‥‥』
『それなら‥‥いい。約束‥‥』
「うん、約束するよ!」
トッドローリィの言葉に、フィオレンティナが力強く頷くと、彼らは満足したかのように再びつむじ風と共に消えて行った。
「さて、という事は我々は風の精霊と約束をしてしまったわけだな」
イーリスが苦笑気味に呟く。
「この約束を反故にするわけにはいきませんね」
確かにルイスの言う通り、この約束を反故にすればトッドローリィは再びローブの男だけでなく、今度は約束をした冒険者たちに似た容貌の者達をも襲うだろう。
「それにしてもカオスの魔物が近くにいる、か」
クライフがぼそり、呟いた。
カオスの魔物――、一体どんなカオスの魔物が暴れているのだというのか。
それにカオスの魔物を暴れさせているローブの男たち――その正体も気になる所であった。