母なる大地に感謝の祈りを
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月20日〜05月25日
リプレイ公開日:2008年05月28日
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●オープニング
●由来
五月のお祭りは、大地の恵みに感謝する地霊祭だという。
メイディア国内でも各地で地霊祭が行われるようであったが、中でもこの村ではちょっと変わった方法が用いられていた。
一説によると、近年祭りの方針転換がされたようである。その原因となったのが地球側の天界人がもたらした「母の日」というイベントの情報だ。
そのイベントは毎月5月に行われるらしく、母親に感謝をする日だという。
それを聞いた村の誰かが言いだしたのだ。
作物を育て、恵みを与えてくれる母なる大地に感謝をする地霊祭に似通った部分があるのではないかと。
かくしてこの村の地霊祭は、男性が中心に取り仕切ることになった。
祭りに欠かせない料理や催し物や音楽はもとより、その日一日は洗濯や掃除や育児も男性が行うという。
母なる大地と共に女性に感謝しようデー。
母の日の話を広めた天界人は、その様子を見てそう名づけたという。
そのまんまじゃん、という突っ込みはこの際飲み込んでおくとしよう。
●祭りへの誘い
「そんなお祭りがあるのですよ。まだまだ歴史の浅いお祭りですが」
冒険者ギルドの片隅で、支倉純也は足を止めた冒険者と話をしていた。
「で、そのお祭りの準備、当日の運営共に全て男性の手で行うそうです。女性は祭りの準備に手を出すことは許されず、祭り当日は思う存分祭りを楽しむという」
なるほど、変わった祭りだ。だが。
「まだ歴史の浅いお祭りでして、こう‥‥なにかメインとなる物が欲しいそうです。というわけで、知識の広い冒険者達に白羽の矢が立ったのです」
つまり、お祭りのメインとなる「何か」を考えてほしいというわけだ。
「これから長く続けることが出来て、このお祭りの趣旨に似合うような何かを提案していただけませんか?」
純也は笑顔を浮かべながら冒険者に語りかけた。
もちろん、通常通り祭りの準備や家事育児に手を貸してやるのも良い。
また女性冒険者は祭りの案を出して準備を手伝うだけ手伝って、当日は遊ぶ側に回っても良い。
ただし男性冒険者は当日もホスト側だ。それは忘れないで欲しい。
「皆で協力して、何か新しいものを作り出せると良いですね」
同行する気なのだろう、純也は柔らかく微笑んだ。
●リプレイ本文
●意気込みと
地霊祭――それは大地の恵みを祝うお祭り。
「地霊祭をプロデュース! 祭祀研究をしてきた成果を今こそ見せる時ですね!」
村で企画会議用にと充てられた部屋で、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が気合を入れる。それを見たフォーレ・ネーヴ(eb2093)が「ソフィア姉さん凄い気合」と笑った。
「基本的には『休日』と『何かプレゼント』を贈る日で良いと思いますわ」
フィリッパ・オーギュスト(eb1004)は集まった男性陣にゆっくりと説いて聞かせる。
「お母さん達毎日大変だものね。少しくらい休ませて上げてもバチは当たらないと思うわ」
愛犬のオロを撫でながら、ラマーデ・エムイ(ec1984)は「母の日」というものを教えた天界人にいたく感心していた。
「楽しい形の祭りにして、後に続くのが良いですね」
「後に続くかどうかは私達の企画に掛かってますね」
カレン・シュタット(ea4426)の言葉を受けて、ソフィアの気合が更に高まる。
「音楽やパフォーマンスはお祭りの定石でしょうが、後は食べ放題のバイキングなどがあるといいと思います」
と、アルトリア・ペンドラゴン(ec4205) の言葉にざわ‥‥ざわ、と会場の男性陣が沸く。恐らく料理に自信がある者が少ないのだろう。普段、奥さんや母親任せにしている者が多いのかもしれない。
「安心してください。私達も手伝いますゆえ」
そこで助け舟を出したのはルイス・マリスカル(ea3063)だった。今回参加する冒険者のうち、数少ない男手だ。
「我々男性戦力は少々数は心許ないものの、できる限り女性達を満足させるために尽力するよ」
こちらも数少ない男手の一人、キース・レッド(ea3475)が笑んだ。
彼らに支倉純也を含めた三名は、既にメイディアを発つ前から女性陣のパシ‥‥もとい、指示に従い、彼女達の提案に必要な材料を集めてきていた。村に着いてから求めたのでは手に入らないかもしれないからだ。なにせ今回は「今まで行われてきた祭り」を手伝うのではなく、「新しく提案して」行うからして。手本として用意した材料を教えれば、きっと来年からは村人達が自分でメイディアへと足を運ぶだろう。
用意されたものは贈るための花、来年用の種や球根、草木染めの為の染料、お菓子作りに使うもので手に入りにくそうな砂糖や蜂蜜、フルーツ類、そして料理に使えそうな食材。染める端切れは村で用意してもらうとして。
●準備と
さてこちらは料理班。ルイスを筆頭に十数人の男性が集まっている。指導役としてフォーレとバイキングを提案したアルトリアがついた。
「時間を掛けず簡単に作れるケーキを教えるね。ドライフルーツを入れて混ぜて焼くだけなら、時間を掛けずに沢山作れるからね♪」
フォーレは手際よく、ただし急ぎすぎず丁寧に村の男達に作り方を教えていく。本番は女性は手伝う事が出来ないから、今のうちに覚えてもらわないと。
「私が教えられるとしたらクッキーなどの簡単な焼き菓子でしょうか。後は大量に作れて味の調整が利き、味を比較的外し難いスープですかね」
ルイスは手際よく残った男性をクッキー担当とスープ担当に分ける。
「スープなら今までのお祭りで色々美味しい物を食べました。私のいた地球と比べると使える材料が限られますが、お手伝いします」
食べる事が好きなのだろう、アルトリアはスープ担当に立候補する。スープはベースを大量に作っておく。そうすると後は小分けして色々な味つけをすれば、違った種類のスープが色々と楽しめるわけだ。
こちら、植物班。今回は野生の花を捜して摘んでいる時間はないということで、メイディアにて切花や鉢植えを仕入れてきた。植物好きのソフィアの指示の元、日持ちするように水切りや水換えをこまめに、そして光が直接当たらないように覆いを掛けて日陰にて運んできた。おかげでその花達はまだぴんぴんしている。
「花言葉、というのもあるのですよ。例えばカモミールは親交。イチゴは幸福な家庭。カーネーションは母への愛。最後のは地球出身の天界人に聞いた花ですけどね」
「素敵ですね」
ソフィアの指示で花の保存を手伝いながら、カレンがうっとりと花を見つめる。いつか自分もそんな素敵な花をもらえたらいいな、と少しだけ思いながら。
草木染め班は各家庭から持ち寄られた端切れと染料となる草木を前に、フィリッパの講習が始まろうとしていた。染料となる草木は良く見てもらい、この村付近に自生しているものがあれば来年以降はそれを使ってもらうようアドバイスをする。
「ハンカチならこのくらい‥‥でしょうか。この端を切り取った布は、花を束ねるリボンに使えそうですね」
男性陣に混じって端切れを適切なサイズに切り取っていた純也が訊ねる。
「そうそう、そのくらいですわね。あ、そちらの方、もう少し力を入れて挽いてくださいな。その草は根が良い色をだしますから。少し硬いですけれどね」
端切れを縫って小物にするのは技術がいるが、端切れを適切なサイズに切る、草木を煮詰めたり挽いて染料を作るのにはそれほど技術は必要ない。これならば当日までに十分間に合いそうだった。
「ところでレディ、僕は一体何の手伝いをさせられているのかな?」
女性冒険者も含め、村の全ての女性達を満足させると決めていたキースは、ラマーデの指示に従い泥だまりを作っていた。
「え? 『感謝も一緒に遊んでます競争』の準備よ」
「なんだね、それは?」
「ほら、その日は働かなくていいっていってもただ見てるだけじゃ女の人も退屈しちゃうし」
泥だまりを作るキースから、泥跳ねを避けるためにちょこんと距離を取ってしゃがみこんだラマーデは得意げに言う。
要するにこういうことだ。男の人とお母さんか奥さんの二人組を作る。だが走るのは男の人だけ。スタート地点から障害を通ってゴール地点まで、相手をおんぶかお姫様抱っこで運ばないといけない。障害の泥だまりでは相手の服に泥が跳ねてはいけないという厳しいルールもある。
「なるほどね。それではレディのオーダー通り、仕事をこなすとしようか」
この後キースは村人の手を借りてソファを運び出し、ゴール地点に据えてしっかりとコースを整えたのだった。
●祭り
当日。
軽快な音楽が流れる特設舞台。
ケーキやクッキー、数種類のスープなどが並ぶ軽食コーナー。
花と草木染めの品をセットにした、プレゼント配布コーナー。
そしてアトラクションコーナー。
村人総出で、そして噂を聞いた近隣からのお客達で祭りは賑わいを見せていた。
それらをもてなすのは全て男性陣。慣れない事で右往左往しながらも、なんとかそれをこなしていく姿を、女性陣は微笑ましく見守る。
アルトリアは自分が味付けに携わったスープを全部制覇して、作った男性達にご苦労様、と労いの言葉を投げかける。
特設舞台でリュートを爪弾くルイスは、素敵な音楽に惹かれてやってきた女性達を魅了し。
「はい、そこちょびっと泥が跳ねているからアウト!」
「ちくしょーっ!!」
自ら提案したアトラクションの審判と化したラマーデは、厳しく泥跳ねをチェックする。指摘された男性は悔しそうに叫んだ。中には泥だまりの中で躓いてしまい、泥跳ねどころでは済まずにパートナーに怒られるカップルもいたり。だがそれも全て笑いを誘い、お祭りだから、の一言で済まされる――それがお祭りの醍醐味。
「ちょ‥‥キースさん、ほ、本当にこれで女性の方々は喜んでくださるのですか?」
「勿論だとも。男の鎖骨から胸元のラインが、ご婦人は大好物らしいからね」
「‥‥女性の方々が喜んでくださるなら‥‥致し方有りません、私も覚悟を決めます」
とある家の1室から、そんな会話が漏れ聞こえる。
「あら? 純也さんとキースさんは?」
「あちらのお部屋ですわね」
軽食コーナーで貰ってきたケーキとクッキーを口に運びながら、フィリッパはソフィアの問いに指で答えを示す。
「一体何をしているのでしょう――」
ガチャ
「――か――‥‥‥‥‥」
扉を開く音に振り返ったカレンが、口に運ぼうとしていたクッキーを思わずぽとりと落とした。
「あら、まぁ」
「これはまた、凄いですね」
「うわ〜純也にーちゃんもキースにーちゃんもはだけたね〜」
順にフィリッパ、ソフィア、フォーレの感想。
何の感想かって?
それはキースと純也の格好にあった。通りかかった女性達からキャー! 黄色い声援が浴びせられる。
二人は意図的に胸元をはだけるような服装に着替えていた。キースは女性の視線に慣れているのか、「声援有難う、レディ達」などと答えているが、元来真面目な純也は覚悟は決めたものの、どうして良いのかわからずほんのりと顔を赤らめて俯いている。
「ほら支倉くん、もっとレディ達にサービスしたまえ」
「こ、こんな感じでしょうか」
キースにせかされるもやはり照れくささが抜けない純也は、女性陣を直視する事はせず、僅かに視線を外して遠くを見つめるようにする。ばっちり女性陣に視線を投げかけているキースとは対象的であり、それはそれで女性陣を喜ばせているようだった。
「あの格好で手伝いをするのでしょうかね‥‥」
「手伝いどころじゃないみたいだけれど、喜ばせてはいるようだしいいんじゃないかな〜?」
ぽつり、漏らしたカレンの呟きに、ケーキを頬張りながらフォーレが答えた。
後に彼らの姿を見た他の冒険者たちは、唖然とするか笑い出すか、苦笑するかだったという。
なにはともあれこの村のお祭りは、今回の反省点と成功点をきちんと踏まえて来年度の対策を練れば、来年もまた女性陣たちが喜ぶ祭りを行うことが出来るだろう。
祭りの準備に、当日にと頑張ってくれた男性冒険者には、村からささやかだがお礼が配られたという。
ごくろうさまでした。