老婦人と首飾りとエルフの商人と
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月25日〜05月30日
リプレイ公開日:2008年05月31日
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●オープニング
「あのねぇ、冒険者さん達を雇いたいのですけれどねぇ‥‥」
その日若いメイドに支えられるようにして冒険者ギルドに姿を現したのは、上品そうな初老の老婦人。職員は急いで彼女に椅子を勧め、自らも素早く着席をした。
「何かお困りの事でも?」
職員の言葉に、老人は溜息をついてから口を開く。
「私の亡き主人は商人でして、主人亡き後も色々と便宜を図ってくれる良い友人もいるのですけれど」
「その中に、奥様の最も大切にしている首飾りを狙っている者がいるのです」
メイドが後を引き継ぎ、きっぱりと告げた。
どうやら旦那さん亡き後色々と手続きをしてくれたり、わからないことは相談に乗ってくれたりと良い商人仲間だと思っていたエルフの商人の狙いが、実は夫人の大切にしている首飾りにあったのだという。
「あの人の狙いがあの首飾りだと確信できたのは、冒険者さん達のおかげなのだけれど」
どうやらそのエルフの商人は、嘘をついて冒険者達に首飾りを盗ませようとしたらしい。そのたくらみは冒険者達が事前に倉庫の持ち主を調べる事で崩れ去ったのだが。
「その後、冒険者を騙して首飾りを盗ませようとした事が発覚して、彼は商人としての地位を追われたわ。そして暫くはなりを潜めて大人しくしていたようなのだけれど」
老婦人は再び溜息をつく。
「ここ数日、妙な泥棒がうちにはいってきて」
家の中の数部屋を物色して荒らしていくものの、何も取らずに帰っていくらしい。
「被害という被害は家が散らかることくらいで。取られたものは何もなかったわ。一応お役人に届け出たけれども‥‥お役人も泥棒の目的がわからないから、もしかしたら泥棒じゃなくて動物が入り込んだだけかもなんていいだすのよ」
「そうなんです、きちんと足跡も残っている事から、泥棒だとしたら素人だろうとのことですが、やはり何も取られていないので最後には動物説が湧き上がって‥‥」
メイドが夫人の後ろで悔しそうに拳を握り締めている。恐らく彼女達の中には一つの結論が出ているのだろう。
「毎回、違うお部屋をその人は漁っていくの。自分の技量に自信が無いからでしょう、一部屋ずつ」
――そのエルフの商人が犯人だろうという事。
主人のいなくなった商人のお屋敷。使用人も最小限で、警備の兵など置いていないという。残っている使用人も殆どが女性であり、何となく予想は出来ているものの姿の見えぬ泥棒を相手にするのは心細すぎる。そこで冒険者を雇おうというわけだ。
「次に狙われるだろう部屋は、二階の角部屋よ。恐らく彼も一番目的のものがあるだろうと考えている部屋――私の寝室」
老婦人は家の見取り図らしきものを取り出してテーブルに広げた。その部屋は続き部屋になっており、続き部屋の方は狭く、どうやら衣装部屋として使われているようだ。部屋の中にはベッドとチェストなどが置かれているらしい。
「彼を捕まえるには現行犯でないと‥‥。勿論彼が狙っているのは、主人が私にプレゼントしてくれた、一点もののエメラルドの首飾り。囮が必要ならば、その首飾りは貸し出すわ。冒険者さん達なら信用できるから」
夫人は微笑み、職員は「わかりました」と頷く。
「とりあえず、ご夫人は別の部屋でお休みになった方が安全上よろしいかと」
「ええ、そうね。その辺は冒険者さんの指示に従うわ。逆に誰もベッドに寝ていないと不自然かもしれないけれど‥‥」
老婦人は微笑をたたえ、宜しくお願いします、と頭を下げた。
●リプレイ本文
●再会
老婦人の家は主のいなくなった後もこぎれいに片付けられていて、その家を取り仕切る老婦人の人柄が感じ取れた。
「あらあら、良く来てくれたわね」
老婦人は優しく冒険者達を出迎え、応接間へと通す。
「わーい。またよろしく〜♪」
突然飛びついてきたフォーレ・ネーヴ(eb2093)を優しく抱きとめた老婦人は、孫を見るような目で彼女を見て微笑んだ。
「あのねあのね。私、御礼したくてお菓子作ってきたんだけど‥‥食べてください」
「あら、嬉しいわね。ありがとうね」
フォーレの差し出したクッキーを満面の笑顔で受け取った老婦人は、後で戴くわね、と大切そうに膝の上に乗せた。
「ところで、前回僕達のこと騙して捕まったっていうのに反省してないのかな。盗んでまでも欲しいなんて何か理由があるのかな?」
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)の問いに、老婦人は小首をかしげる。本当に心当たりはないらしい。
「マダム、よかったらエメラルドの首飾りに魔法を掛けてみてもいい? その首飾りがマジックアイテムかどうか知りたいんだ。マジックアイテムだったら、おぢさんが執拗に狙う理由もわかるかもしれないし」
リヴィールマジックのスクロールを手にしたルシール・アッシュモア(eb9356)の申し出に、老婦人は快く承諾してメイドにエメラルドのネックレスの入った箱を持ってこさせた。ルシールはスクロールを開いて念じ、エメラルドのネックレスに魔法を掛ける。
――。
「反応、しない」
固唾を呑んで見守っていた一行だったが、ネックレスはマジックアイテムを示す光を発しなかったようだ。
「マジックアイテムではないとなると、目の色変えて欲しがる理由を本人に聞いてみたいわね」
「そうですね‥‥盗んでまで欲しがるなんて相当の執着ですし」
ディーネ・ノート(ea1542)の溜息交じりの言葉に、アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が答える。
「でもでも盗む事は悪いことなんだからいけないんだよ」
レフェツィアの言葉に一同うんうんと頷く。そんなこと子供でも知っているが、今回はそれをわかっていない大人が相手だ、たちが悪い。
「マダム、この首飾りの入手先についてや曰くとか、知らないかな?」
元商人が目の色変えて狙うには理由がある――そう考えるルシールが老婦人に問う。老婦人はそうねぇ、と頬に手を当てながら少し考え、口を開いた。
「このエメラルド、大粒でしょう? 夫もかなり探して漸く見つけた品らしいの。それをね、有名な女性職人さんに加工を頼んだらしいのよ。その職人さんの細工は見事でね、とても高値で取引される人気職人さんだったらしいの。けれどもこのネックレスを加工した直後に亡くなってしまって‥‥」
「つまり、それが最後の作品ということ?」
ディーネの問いにこくんと頷いた老婦人。
人気職人の遺作、最後の作品となればその筋のコレクターにとっては喉から手が出るほど欲しいものなのかもしれない。
「それでもやっぱり、盗んだり騙し取ったりする事はいけない事だと思います」
アルトリアの言葉は当然。
さぁ、それを判らない大人にお仕置きを始めようかね?
●お仕置き
老婦人には別室に休んでもらう事にして、事前に部屋の中と間取りを確認した5人はそれぞれの待機場所へと潜む。
ルシールは老婦人に就寝用のローブとナイトキャップを借り、身長差は足元にホワイトブーツを借りてその上からブランケットを掛けてごまかす。そして自らもその中に入り、ベッドで寝ている老婦人の振りをする。
フォーレは小柄な身体を生かしてベッドの下に入り、息を殺す。ここならばこっそりと外の様子も窺えそうだ。
レフェツィアとディーネとアルトリアは、寝室と続き部屋になっている衣裳部屋の入り口付近に待機だ。ここならば相手から死角になりやすいし、何かあってもすぐに動く事が出来る。
現行犯で捕まえるのが重要、ということでベッドから少し離して置かれたチェストの上には蝋燭の灯りが揺らめき、室内をぼうっと照らしている。その横にはいかにも「お宝入ってます」な豪華なジュエリーボックスが置かれている。相手が素人の泥棒であり、尚且つ首飾りに固執しているならば、まずその箱に手をつけないはずはない、一同はそう考えていた。
息を殺し、元エルフの商人が――いや、泥棒が入ってくるのを待つ。
メイドに聞き込みをした結果、彼女達の巡回時間とルートから鑑みるに、そろそろのはずだった。
そっと身を起こしたルシールがチェストの前の空間に、ライトニングトラップのスクロールを使用して罠を張る。もちろん仲間にはその場所に罠を作ることを通達済みだ。
ワォーン‥‥‥
その時、外から狼の遠吠えに似た泣き声が聞こえてきた。
合図だ。ルシールの愛犬ジュディスが曲者を見かけた証。
となると、そろそろ来るはずだ。
トタンッ‥‥‥
バルコニーに降り立つ足音が、耳を済ませて息を殺していた一同の耳に届く。
ガチャガチャ‥‥‥
板張りの窓扉を開けようとする音が響く。
ガチャガチャガチャガチャ‥‥‥
響く。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「ねぇ」
ディーネが小さく口を開き、隣のレフェツィアとアルトリアを見る。
「1階に侵入された時って窓の鍵、どうなっていたってメイドさん言ってたっけ?」
「確か、掛け忘れと壊されていた箇所とあったって」
「壊されていた部屋は、不審な物音にメイドさんが気がついたものの、すぐには怖くて確かめられなかったと言っていましたね」
相手の泥棒としての技能は素人レベル――鍵を開けておいてやればよかったか。
そこまで思い至って、深く溜息をつく三人。恐らく力づくであけようとすれば中で眠っている夫人を起こしてしまうと思い、普通にあけようとしているのだろうが、普通に考えれば鍵が掛かってないわけなく。
「(いい加減に早く入って来なさいよ〜)」
ベッドの中で寝た振りをしているルシールは、今か今かともどかしく窓が開くのを待ち。
「(うーん‥‥本当に素人さんなんだなぁ)」
ベッドの下で息を潜めるフォーレは、変な所に感心したりして。
ドガッ、バキンッ
すると、業を煮やしたのか相手は強硬手段に移ったようで。力任せにこじ開けられた扉を抜けて、ひたひたとベッドに近寄る足音が。ここまでなりふり構わずだと素人以前なきもする。まぁ仕方ない。だって元々この人は悪知恵働かせるような商人だし。
その足が、チェストに向かうのをフォーレはベッドの下から確認した。そしていつでも出られるようにと態勢を整える。
バリバリバリバリッ!
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
かかった!
男がチェストの側に足を踏み入れた瞬間、ライトニングトラップが発動し、男の身体に電気を走らせた。そしてそれを合図として、隠れていた一同が男の側に素早く展開する。
フォーレが男の背後からスタンアタックをかます。アルトリアが鞘に入ったままの剣で男を打つ。ディーネが高速詠唱でアイスコフィンを唱える。
どたん、ばたん、がしゃんっ!
チェストが倒れ、中に入っていた小道具とジュエリーボックスに入っていたエメラルドの首飾りが部屋に飛び散る。
「確保っと」
ルシールが首飾りをしっかりと手に握り締め、その無事を確かめる。
その頃にはレフェツィアのコアギュレイトも男を拘束するのに成功していた。
●お金では買えないもの
役人につれられていく男を見つつ、老婦人が呟いた。
「そういえばあの首飾りね、エメラルドの大きさと加工した職人の技術、そしてその最後の作品だという事もあって、マニアの間では高値がつけられるそうなの」
「なるほど〜だからあやつは狙ったのか」
納得したように頷くルシール。
「けれどもね、私はそんなことよりも、夫が私の為に探し回ってくれた石で作られたプレゼントだという事が嬉しくて。お金よりも、そちらの方が大事なの」
「お金で買えないものだってことだね」
レフェツィアの声に、夫人は頷いて笑顔を見せた。
「本当に有難う、ね」
「いえ、私達は私達にできる事をしたまでですから」
恐縮するアルトリア。
「さーて、ディーネ、散らかっちゃった部屋のお掃除、しよーか?」
「って、私も部屋掃除!? ち、ちょっと待てい。そこのチビ助!!」
「あははは〜勿論一蓮托生だからだよ〜♪」
笑いながら屋敷の中に入っていくフォーレとそれを追いかけるディーネ。
気心の知れた友人同士のそのやり取りを見ていた一同は、笑いを隠せなかった。