たとえ裏切られようとも
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月30日〜06月04日
リプレイ公開日:2007年06月06日
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●オープニング
●求めるものは誰が為の
茶色の髪を短く借り上げた筋肉質の男は酒場に入ると、一人の黒髪の男性に目を留めた。ここ数日、王都内の色々な酒場に出没しては静かに周りの話に耳を傾け、そして頼んだ酒も飲まずに出て行く男性。彼は数日前からこの酒場でその男性と話をすることが増えていた。妙に気になったというか、その男性の帯びている雰囲気が彼を惹き付けたのだ。
「よぉレシウス、またお宝の情報収集か?」
男が声をかけると、カウンター席に座っていた男性は振り向き、男に向かって軽く手を上げた。
「今日は少し収穫があった‥‥王都西の海岸付近にある小さな洞窟に宝が隠されているという‥‥」
「あぁ? その手垢のついたような噂を信じるのか?」
レシウスの言葉を遮り、男は隣の席にドスンと腰を下ろした。
「もう何十年も前からある噂だぜ? しかも誰もその最奥まで辿り着いたってやつはいねぇ。仕掛けだか罠だかも沢山あるらしいし、その洞窟に挑んで帰ってこなかった奴も、死に掛けた奴もいるらしい。今じゃお宝の存在なんか誰も信じちゃいねぇような噂だぜ?」
「‥‥だからいいんじゃないか。帰って来なかった者や逃げ帰って来た者はいても、最奥に『宝が無かった』と確かめた者はいないのだろう?」
「‥‥‥まぁ、確かにな」
レシウスの言う事は最もなのだが。男はエールの満たされたカップを傾け、尋ねる。
「だが、裏切られたのに主人の為にそこまでする必要はあるのか?」
彼が仕える主に突然裏切られ、捨てられたという話を男は聞いていた。それなのに彼は主人の負債を返済する方法が無いものかと王都中を情報収集に回ったり、近隣の村や町へ行く商人の護衛を勤めて情報収集をしたりと精力的に動いている。
「今は男爵の為というより、セルシアの為‥‥だな。メイディアに来てからどうも援助を申し出た貴族のいい噂を聞かないのが気になる。出来る事ならばそんなところに彼女を嫁がせたくは無い‥‥」
勿論彼女の縁談がなくなったからといって、自分が彼女と結ばれる事が出来ると思っているわけではないが、とレシウスは付け加えた。
「それにな‥‥冷静になって考えてみると、もしかしたら男爵は俺に一縷の望みをかけたのかもしれない、とも思うんだ。俺を放出したのは、セルシアの婚姻以外で負債を返済する方法を見つけられるかもしれない、と」
馬鹿な男だと笑うなら笑えとレシウスは言い、珍しく古ワインを口に含んだ。
「損な性格だな、お前はよ」
男は空になったカップをテーブルに置き、苦笑する。
男にはレシウスの言う貴族の背負った負債の具体的な額などわからない。だが簡単に返せる額ではないのだろう。それこそ一攫千金でも狙わないことには返しきれないほどの額。しかもその負債の肩代わり条件が婚姻という事では長い目で見るわけにもいかない。レシウスが手垢の付いたような噂、天界(地球)人の言うところの都市伝説じみた情報に頼らざるを得ないのもそのせいだろう。
「で、その洞窟に一人で行くつもりか?」
「いや‥‥さすがに俺とて自分の力量はわきまえているさ。今まで多数の者が挑んで駄目だったのならば、俺一人では無理だ」
酒場内は騒然としているのに、レシウスのカップを置く音は男の耳に鮮明に届いた。
「幸い、数十年前にその洞窟に挑んだという老人から情報を得ることが出来た。これを元に、冒険者を募ってみようと思う」
「ほう‥‥で、お前さんは高みの見物かい?」
男の揶揄するような言葉にレシウスはふ、と笑みを返した。この男の物言いはここ数日でもう慣れている。
「まさか。俺はウェルコンス家に援助を申し出てきた貴族についてもう少し調べてみようと思う。気になる点がいくつかあるんでな」
「そうか‥‥気をつけろよ? 下手に貴族様の周りを嗅ぎ回って始末されねえようにな」
この男の歯に衣着せぬ物言い、それをレシウスは気に入っていた。
ああ、と軽く返事をし、彼はワインを飲み干した。
●レシウスによる依頼内容のまとめ
目的・洞窟の最奥にあるといわれる宝を持って帰ること
場所・王都西の海沿いの洞窟
噂内容・もう何十年も前から「宝が隠されている」という噂がある。行って帰って来なかった者、命からがら逃げ帰ってきた者がいる、誰も最奥に辿り着いた者は居ないという事から、宝はおろか洞窟の存在自体が近年では「下らない昔の噂」として一笑に付される。
洞窟内には3箇所の分岐が有り、そしてそれぞれどれが正しい道なのかをほのめかすヒントが記されている。間違った道を選ぶと罠が発動するという。
一箇所目の分岐は2つ。左の道には『剣を象った彫り物』、右の道には『盾を象った彫り物』がある。
記されている文章は『王たる証の道を進め』
間違えた道を選ぶと尖った岩の群生する落とし穴に落とされるという。
二箇所目の分岐は4つ。左から『火』『水』『風』『地』をイメージさせる彫り物がある。
記されている文章は『其は時に全てを無に帰す力。其は時に硬き物に変化をもたらす力。其は時に甦りの象徴と表される事もある力』
間違えた道を選ぶと炎に包まれるという。
最後の分岐も4つ。左から『エルフ』『シフール』『ドワーフ』『マーメイド』をイメージさせる彫り物がある。
記されている文章は『酒と芸と土産話を持て、勇ある者、たおやかならざる我の宝を検分すべし』
間違えた道を行った時の罠は不明。
これらはレシウスが老人達に聞き込んで得た情報であり、老人達の記憶も曖昧な部分がある。故に謎の答えまでは聞き出せなかった。
最奥に宝があった場合それを持ち帰ることが目的だが、もしも宝が無かった場合は無かったことを証明すればいい。
出来ることならば、ウェルコンス家の借金を返済できるような宝が眠っていて欲しい、と彼は願っている。
●リプレイ本文
●不自然な洞窟
そこに洞窟がある、と知らされていなければその存在には気が付かなかったかもしれない――洞窟の周囲は苔生し、入り口は蔦で覆われていて容易に中を覗けそうにない。
「誰もが知っているが誰も信じない財宝の噂、ですか。さて、いかなる財宝が眠っているのやら」
ルイス・マリスカル(ea3063)は荷物の整理と戦闘馬への命令をし、洞窟内へ入る準備を整える。
「存在すら不確かな財宝を捜し求めるのは如何なる夢想家かと思えば、借金返済目当てとは、世知辛い話もあったものだな」
「レシウスさんにも色々あったからね。でも元気になってみたいでよかった」
ランディ・マクファーレン(ea1702)の言葉にレシウスが放逐された事情を知るリアレス・アルシェル(eb9700)が答えた。以前絶望の淵にいた彼を助け出してからこの方その後を気にしていた関係で、今回の洞窟探索にも熱が入る。
「レシウスさんの思い‥‥その手助けに少しでもなれれば」
リアレスと同じくレシウスを知るフランカ・ライプニッツ(eb1633)は祈るように呟いた。「それにしても、王都の貴族のよからぬ噂‥‥気になりますね」と付け加えられた彼女の言葉に御多々良岩鉄斎(eb4598)は「本当に『噂』で済めばいいのじゃがな」と答える。
「もしこの洞窟に本当に財宝があれば助かる人がいるのですね〜がんばりますっ」
気合を入れて「どこから入るのでしょうね〜」と蔦を眺めていたベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の肩を岩鉄斎が叩いた。
「よく見ると右下の方は蔦が茂りきっておらん。ここから入れるじゃろう。他の蔦も切ってしまえばよい。茂り方が不自然じゃから、最近誰かが出入りしたのかもしれんがのう」 確かに良く見ると、一部蔦の茂り方が不自然な部分がある。
誰かが出入り‥‥?
一行はそれぞれが準備を整えたのを確認すると、存分に注意を払いつつ洞窟へと侵入した。
●分岐点の謎
第一の分岐は二つ。
それぞれ『剣』と『盾』の彫り物、記されている文章も情報通りだった。
6人の意見が剣と盾で僅かに割れたため、飛ぶことの出来るフランカが両の道で実際に罠を作動させて落とし穴の有無を確かめようとした‥‥が、そうするまでもなかった。地面に注意していたフランカが片方の道に継ぎ目の様なものを発見したのだ。
それは『盾』の道。『剣』の道に継ぎ目は見つからず、念の為にランディが壁に剣を突き立てつつ一歩一歩進んだが落とし穴が作動することはなかった。どうやらここの問いは単純に『阿修羅の剣』を指している物と考えて間違いないようだ。もしかしたら他の謎掛けと合わせた隠された意図もあるかもしれないが。
「分岐の数はそう多くないのに奥まで辿り着いた人がいないなんて‥‥もしかしたら宝は持ち帰れないとか何か変なものじゃないでしょうか」
第二の分岐への道を進みながら不安げに口にしたベアトリーセ。
「うーん‥‥火の無いところに煙は立たないとも言うし、『お宝がある』という噂があって、『誰も最奥にたどり着いたことが無い』のに『くだらない噂』と見向きもされないって事は、今もまだ最奥に宝は眠ってるって事だと思うんだけど」
「どんな物かは分かりませんが、お金になる物だと良いですね……」
リアレスの言葉にフランカが答える。もしも最奥に眠る宝が価値のあるものだとしたら、セルシアは意に沿わぬ結婚をせずに済むのだ。今回の結婚話がなくなる=レシウスと結ばれるというわけでないことは解っている。解っているが‥‥想い合う二人を、努力をしているレシウスを見ていると少しでも力になってあげたい、と思うのだ。かつて助け出した命が選択した道だからこそ。
「そういえばランディは先ほどから何を拾っておるのじゃ?」
時折何かを拾って布袋に積めているランディに岩鉄斎が問う。ランディは子供一人程度の重さになった布袋の中身を見せた。
「石を拾っていた。この袋を投げ込んで罠の起動を誘ってみようと思ってな」
「なるほど、それは妙案ですね」
先行していたルイスが頷き、前方を指し示す。
「さて、第二の分岐地点のようです」
「ここの分岐の意見は『火』で一致していたな」
ランディは布袋を片手に『火』の彫り物のある道へと向かう。
「ああ。『地』以外は他の選択肢も当てはまるのじゃが、第一と第三分岐の回答と統一された思考があるのだとしたら『火』しかないと思う」
岩鉄斎を始め、皆の意見は一致していた。答えは一致している、だが
「ちょっと待って!」
「どうかしましたか?」
『火』の道へ布袋を投げ込もうとしたランディを止めたのは、彫り物に注目していたリアレスだった。ルイスに問われ、リアレスは記憶をまさぐるようにしながら思ったことを告げる。
「彫り物の並び順が、レシウスさんの情報と違わない?」
「!?」
『火』の彫り物のみに注目していたが、よく見てみると彫り物の並び順は左から『水』『土』『風』『火』‥‥レシウスのもたらした情報だと『火』は一番左だったはずだ。
「それにほらこの彫り物の周り、溝があるよ。もしかしたら取り外せるのかもしれない」
「‥‥取り外して誰かが入れ替えたということでしょうか‥‥?」
リアレスの指摘に、フランカは飛んで行き他の彫り物も確認する。確かに取り外しが出来そうな造りになっていた。
「誰かが彫り物の順も入れ替えて、一緒に罠も掛け変えたりとかしていたのでしょうか?」
「ここに来た事のある全員が文章を読めたわけでしないでしょうし、彫り物に注目しない人もいたでしょう。だとしたら」
ベアトリーセの仮定にルイスが更に仮定を重ねる。それがすべてとはいえないが、彫り物の入れ替えが最奥に辿り着く可能性を減らしているのは間違いないだろう。とすると、奥には彫り物を入れ替えたり罠を掛け変えたりする者がいると想像されるわけで。
「本当に取り外せるか試して、何か他の罠が発動したりしても厄介じゃのう」
「とりあえず『火』の道に袋を投げ込んで安全を確認して進もう。ここまで大掛かりな洞窟の奥に何も無いと言う事は無いだろう。注意は怠らないで行こう」
藪をつついて蛇を出すことになるのは本意ではない。岩鉄斎の呟きに頷く形でランディは皆を促した。
「ここが最後の分岐ですね」
ルイスが一歩、歩み出る。第二の分岐の答えは『火』で合っていた。そして辿り着いた先が最後の分岐――情報が正しければ。
第三の分岐の意見は一致していたが、いまいち確証に欠ける。しかも分岐を間違えた時の罠も不明だ。ここに来るまで様々な可能性を考えて辺りに注意を払ってきた一行だったが、幸いというべきなのか『妨害』といえるべきものには出会っていなかった。逆にこの先に『何かがいるかもしれない』可能性が高まったともいえる。
「間違えたらドワーフさんが出てきてボコられるんじゃないかな‥‥」
思わず口にしたリアレスの呟きに、一同から軽い笑みが漏れる。
「体力にも自信がありますし、もしもの時は頑張って避けてみましょう」
安全確認の為に一番に通路に入ることを立候補したルイスが笑んで告げた。
「ここの彫り物も入れ替え可能なようですね」
「だが『ドワーフ』の彫り物の位置は情報と同じようだな」
フランカは四つの彫り物を見て回る。ランディの記憶が確かならば彫り物の位置が入れ替えられているのは『ドワーフ』以外の三つだけだ。
「意図があって『ドワーフ』だけ入れ替えていないのか、それとも偶然情報と同じ位置にあるだけなのかは判断できないのう」
「やっぱり行ってみるしかないですかね〜。ルイスさん、くれぐれも気をつけてくださいね」
この奥に何かあるのだとしたら正しい道の彫り物だけ入れ替えられていないということも考えられる。だが確証はない。ここは自分達の推理を信じて進むしかない。
「では、入ってみますね」
ベアトリーセの応援に頷き、ルイスは左から三番目の『ドワーフ』の道へと歩み行く。何が起こっても対処できるようにと気を張って。
他の五人もその様子を固唾を呑んで見守る。万が一敵などが出てきた場合を考えて警戒は怠らない。
一歩。
また一歩。
‥‥何も起こらない。
ルイスの姿を分岐路の入り口から殆ど捉える事が出来なくなるまで進んでも、何かが起こる気配はなかった。
「どうやら正解のようですね」
奥から聞こえる彼の声に胸を撫で下ろし、一行は『ドワーフ』の道へと足を踏み入れた。奥に何が待っているのかはいまだわからないので未だ気を抜くことは出来ないが、少なくとも謎の罠に掛かることは免れたのだ。罠の内容は気にならないでもないがさすがにわざわざ間違えた道へ入って確かめようとは思わない。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――。
●最奥の宝
通路の先は開けた空間が待ち構えていた。ただ「何もない」空間ではなく、逆に乱雑なほどに机や書物、工具や生活用品が積まれている――そう、誰がどう見てもそこは何者かの生活空間だ。
「絶景でも鉱石でもなさそうじゃのう‥‥精霊がいる場所とも思えん」
「悪かったのう、小汚い住処で」
「!?」
行き止まりらしい空間を見渡して思わず呟いた岩鉄斎の言葉に答えた声があった。その声は壁際のガラクタの山から聞こえて――そのガラクタが動いている。思わず身構えた一行の前に姿を現したのは、一人のドワーフの老人であった。
「この洞窟に挑む者が現れるのは、久々じゃのう‥‥久々すぎてつい妨害しそびれてしまったわい」
老人はよろよろと身を起こして六人を順に見据える。どうやら攻撃を仕掛けてくるような様子は見られない。
「貴方がこの洞窟の、主‥‥ですか?」
ベアトリーセの問いに老人は重々しく頷いてニヤリと笑みを浮かべた。
「分岐の謎掛けは読んできたのじゃろう? だったらまずは酒と芸と土産話をいただきたいのう」
老人は何か問いたげな冒険者達を制止し、有無を言わせず語る。
「なぁに宝は逃げはせん。ワシも逃げん。何十年ぶりにまともに人と話す気になったんじゃ。のんびりして行け」
「‥‥敵意を持つ相手でないだけ良かったのかもしれませんが‥‥」
言われるままに精霊の滴と発泡酒を差し出すルイスとリアレスを見つつ、フランカはぽそりと呟いた。
老人に対して問いたいことは沢山あるが下手に逆らって宝を貰えないと言う事態になっても困る。警戒を解くわけではないがここは大人しく老人の要求に従うしかないのかもしれない。
何故か最奥の部屋は接待の場と化していた。
芸を求められてルイスがリュートベイルで演奏をし、土産話を求められて岩鉄斎がジャパンの話を、リアレスがゴーレムに乗った話を、ベアトリーセが冒険の話をした。その間ランディとフランカは老人と室内を観察し、注意を払っている。
「そろそろこちらが話してもらってもいい頃合じゃないか?」
話が一段落ついたところで痺れを切らしたかのようにランディが老人に問う。老人は「そうじゃのう」と蓄えた顎鬚を撫でた。
「ただの老い先短いドワーフ‥‥じゃ納得‥‥」
「できないよー」
言葉を遮ったリアレスに「そうじゃろなぁ」と返し、老人は自らのことを語り始めた。
昔から変わり者だと言われていた老人は火を専門とするウィザードで、数十年前は王宮のお抱え鍛冶師だったこともあると語った。だが人付き合いに疲れてこの洞窟へ隠遁。洞窟を改造して罠を仕掛け、宝があるという噂を流し、欲に駆られてやってきた者達をあの手この手で引っ掛けて影で楽しんでいたという‥‥相当な捻くれ者のようだ。
「‥‥いわゆる人嫌いだったのですね? ‥‥では何故私達とこのように交流を?」
「苛めすぎたのか噂が人の口を介して変わってしまったのか、人が来るのは久々だったからのぅ。それにワシもそろそろ寿命じゃしのう。丸くなったのかもしれぬ」
寿命、という言葉になんともいえぬ表情を見せる者もいた。死を身近なものと自覚して待つだけとなったこの老人の心中はいかばかりなのだろうか。
「ところでおぬしらは何故この洞窟に来た? ただ欲に駆られて宝を探しに来たようには見えぬのじゃが」
老人の問いに岩鉄斎がレシウスとセルシアについて語り始める。未だ終わりの見えぬ二人の話を。必死に互いを想い合う二人の話を。老人がこの話に感銘を受けてくれれば、高く売れそうな『宝』を譲ってくれるかもしれない、そんな願いを込めて。
●白き宝
「レシウスさん、これからどうするの?」
「‥‥そうだな‥‥」
リアレスに問われ、レシウスは考え込むように瞳を伏せた。その瞳の先には六人が老人から譲り受けた『宝』がある。
老人が接待のお礼とレシウスの為にとを兼ねて譲ってくれたのは、精緻な細工の施されたレリーフだった。さすが『自称』ではあるが王宮に召抱えられていたと言うだけあり、その細工は見事なものだ。分岐路に設置されていた彫り物より更に手がかけられているのが素人目にも解る。芸術品としての価値は十分あるだろう。
「まずはこのレリーフがどのくらいの価値になるのか、信頼できる者を探して鑑定に出そうと思う。‥‥素材も謎だしな」
そのレリーフは白く軽い金属で出来ていた。白い金属といえばブランが連想されるが、そもそもブランは貴重で大変高価なものだ。本物を見たことのない彼にそれがブラン製であると判断することは出来なかった。
「ブラン製である可能性は高いと思うがのう。まあおいそれと断言をしてぬか喜びさせるわけにもいかんな」
鍛冶の知識のある岩鉄斎もあえて明言は避けた。もしも本当にそれがブラン製であるならば、老人が王宮に召抱えられていたというのもあながち嘘ではないのかもしれない。
「何も無かった、という最悪の事態にならずに安心しました」
「そうだな‥‥奥に何も無くて、俺達が持ち逃げしたと思われるのも困るしな」
ルイスとランディは役に立ちそうなものを見つけることが出来て、安心していた。
「私は、それが少しでも高く売れる方法を探すお手伝いをさせていただきますね」
フランカの申し出に、レシウスは「かたじけない」と頭を下げた。
「これでセルシアさんが助かるといいのですが」
「そうだな‥‥」
ベアトリーセの言葉に遠くナイアドに残した大切な彼女を思い出したのだろう、レシウスの表情が一瞬曇った。
その数時間後、レシウスの住処の扉を叩く音が部屋に響くことになる。
その来訪者が彼の次の進路を決定付けるだろうとは、その場にいる誰も想像だにしなかった。