追憶に生きる白花〜悪意ある夢〜
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月26日〜05月31日
リプレイ公開日:2008年05月31日
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●オープニング
●悪夢
それがおかしいことだと村人が気がついたのは、三人目が死んだ後だった。
まず、一人が眠り続けて死んだ。
その後眠り続けた者が一週間後に、死んだ。
またその一週間後に、一人死んだ。
これはおかしい、何かあるのではと村人達が気がついたとき、既に3つの村で合計9人が死んでいた。
●ギルドにて
「3つの村、全てで死者が出ている。――全て以前私が怪異解決に乗り出した村だ」
ギルドにて、全身の着衣を白で揃えた女騎士、イーリス・オークレールは怒りを抑えた声色で呟いた。
ケルピーを退治した海辺に近い村、エシュロンを説得した村、そしてつい先日トッドローリィを説得した村――その全てで「眠り続けて衰弱死する」というおかしな死者が出続けているという。
期間を考えれば、それはイーリスと冒険者達が村を訪れていた間にも進行していた出来事であり――彼女としてはその被害を食い止められなかったことが悔しくあるのだろう。
「眠り続けて衰弱死――ですか。確かそんな能力を持ったカオスの魔物がいるという話を聞いた覚えがありますね」
己を責め続けているイーリスに、コップに入ったハーブティーを差し出し、支倉純也がぽつりと呟く。
「ああ、確か『夢を紡ぐもの』という名だったと思うが」
「今回、その魔物が犯人であるという可能性はどのくらいですか?」
さらり、純也の纏め髪が肩を伝って落ちた。
「ほぼ間違いなく」
イーリスは短く答える。前回出会ったトッドローリィも言っていた。『カオスの魔物が暴れて不快だ』と。
「ただ問題は、私には取り憑いたカオスの魔物を追い出す術がないということだ。それどころか、カオスの魔物が近づいてきても判別する手段すら持たぬ」
「カオスの魔物を判別する手段ですか‥‥神聖魔法のホーリーやディテクトアンデッドなどの事でしょうか」
ジ・アース出身の純也には多少の知識があるが、生粋のアトランティス人であるイーリスにはそれらの魔法の馴染みは薄い。咄嗟に名前が出てこなくともしょうがないだろう。
「そうだな‥‥トッドローリィと約束をしてしまった手前、確実に3箇所の村に巣食う夢を紡ぐものを退治したい。だが、少し知恵を絞らねばならないようだ」
夢を紡ぐものが現在違う憑依対象を見つけて眠らせ続けているのかどうかという最新情報は、未だ手に入っていない。現地に赴いてから確かめる必要が有るだろう。
また、村を回る順番も重要だ。運が悪ければ他の村の夢を紡ぐものを退治している間に、別の村で新たな死者が出ないとも限らない。
各村にいる夢を紡ぐものは1体ずつだと予想される。だが既に誰かに憑依している場合、それを追い出さなくてはならない。逆に誰にも憑依していない場合、敵が姿を現すのを待たなくてはならない。後手に回らざるを得ないのが現状だ。
「一応一人‥‥ホーリーやディテクトアンデッドなどの神聖魔法を修めた人物に心当たりがありますが‥‥」
「本当か!?」
純也の言葉にイーリスは飛びつくように顔を上げた。
「ええ。もしもこれから集う冒険者達が、その魔法の使い手が必要だと判断したのならば、彼に同行を仰ぎましょう」
「そうだな。集まった仲間たちで解決できるならばそれに越した事はない」
「一応、いつでも冒険に出られるようにしておけと、彼には伝えておきますから」
「かたじけない」
純也の言葉にありがたく甘える事にして、イーリスは頭を下げた。
●捕捉
三角形をなしている3つの村は、頂点がトッドローリィの出た村(風の傷参照)、右下がケルピーの出た村(水の嘘参照)、左下がエシュロンの出た村(火の戒め参照)です。
便宜上簡便な名前をつけていただいても構いません。
冒険者が必要だと判断した場合、純也の友人で神聖魔法・白の使い手である男性が同行してくれます。何とかなる場合はつれてかなくても結構です。
●リプレイ本文
●村へと
今回は少人数で3つの村を回らなくてはならない。仲間内に神聖魔法を扱える者がいなかったため、冒険者達はイーリスと、支倉純也の友人であるアロイスと名乗る男を含めた7人で目的の村を目指した。アロイスは神聖騎士であり、純也とはジ・アースで知り合ったらしい。
「イーリスさん、失礼でなければこれをお受けとりいただきたく」
「なんだ?」
馬車を降りたイーリスにルイス・マリスカル(ea3063)が差し出したのはロングソード「正騎士」一振りと石の中の蝶。それを見たイーリスの顔が不思議そうな表情に変わる。
「カオスの魔物との対峙の為に必要だと思い、持参しました。倉庫に眠っていた品で恐縮なのですが」
「いや‥‥そうではなく、この様な高価なもの、戴いても良いものか」
申し訳なさそうに辞退しようとするイーリスの手に剣と指輪を握らせ、ルイスは微笑んだ。
「然るべき時に然るべき使い手に使われてこそ、物の本懐でもありましょう」
「ふむ‥‥なるほどな、そういうことならありがたく使わせてもらうとしよう」
イーリスは深く頭を下げ、感謝の意を示した。
「なになに、イーリス・ミステリー・リサーチ? かっこよさそうじゃん?」
「そうです、たとえ頭数が減ろうとも、わたくしたち『I・M・R』が爆裂的に鎮圧するっス!!」
クリシュナ・パラハ(ea1850)の勢いを見て「おー、すごいすごい」と感嘆の拍手をしてるのが今回助っ人にと出てきたアロイスだ。
「神聖騎士ってもっと固いイメージがあったんだが」
「人それぞれということなのでしょうね‥‥」
その光景をちょっぴり呆れながら見ているのは風烈(ea1587)とカレン・シュタット(ea4426)。
「延々と眠り続けて衰弱死する‥‥一体どんな夢を見ているのか、とかは考えない方がいいのかな」
眼前に迫った村を見、龍堂光太(eb4257)がぽつり、呟いた。
どんな夢であろうとこのまま見続けさせるわけにはいかなかった。もうこれ以上被害者を出すわけにはいかないのだから。
●夢の中の民
一同は村近辺に着いたその日のうちに3つの村を回り、現在昏睡状態の者がいないか調査をした。うち、最初と最後に回った村で昏睡状態の者がみられ、特に最初の村の被害者である少年は、既に眠って5日経つという。それを聞いた一同は再び最初の村にとって帰した。どの村でもルイスの持つ石の中の蝶には反応があったが、残り時間を考えるとこの少年が一番危ない。
イーリスの騎士という身分を使って村人を説き伏せ、少年の家から少年を運び出す。狭い室内では確かに戦いにくい部分もあるし、家具などを壊してしまう恐れがあった。
「大丈夫です、必ず息子さんは助けてみせますから」
運び出される息子を不安げに見詰める夫婦に、光太が優しく声をかける。夫婦はお願いします、と涙声で頭を下げ、家の中へと入っていく。村人達にもくれぐれも家の外に出ないようにと念を押して。
「まずはフレイムエリベイションっスね!」
クリシュナが直接攻撃をするルイス、烈、光太に高速詠唱でフレイムエリベイションを付与する。その間に烈も自身にオーラエリベイションを付与した。
「アロイスさん、お願いします」
「ん、わかったよー」
カレンに促され、アロイスがホーリーシンボルとなる十字架を握り締め、詠唱を始める。
ふと、クリシュナが周りを取り囲む家を見ると、窓から心配そうにその儀式めいた冒険者の行動を見つめている村人達と目が合った。
「(こういうのはキャラじゃないんだけどな〜。でも女の子には意地があるんスよ、頑張るっス!!)」
心の中で村人達に意気込みの思念を送った辺りで丁度、アロイスの詠唱が終わり、彼の身体が白く輝いたかと思うと同時に少年も白い光に包まれた。家々から「おおー」と歓声が上がるのが聞こえる。
「いよいよですね」
ルイスは両手に剣を握り締め、夢を紡ぐものが姿を現すのを待った。程なく、少年の身体から黒い霧の様なものが抜け出し――
「うがぁぁぁぁぁ、誰だ、邪魔をす――」
その口上を全て聞かぬうちに烈が動いた。素早い動きで鉤爪のついた拳を振るうその胸にはぼんやりとレミエラの光が浮かび上がっている。
サイドに回り込んだ光太はデビルスレイヤーの名を冠する魔剣で二度、思い切り切りかかった。手ごたえは、十分ある。
ルイスは光太の反対側から両手の剣で霧に斬りつける。白刃が舞うかのように霧に吸い込まれていく。クリシュナはその逃走を防ぐためにファイヤーバードで空を飛び、霧の背後へ回る。カレンの詠唱が完成し、その手から雷光が迸った。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
冒険者達の一糸乱れぬ連携を、村人は固唾を飲んで見守っていた。普段、この様な戦闘を見る機会など無いのだろう。歓声さえも上がってこない。
程なくして霧が散った後も、暫く村はしぃんと静まり返っていた。目を開けた少年だけが、少し気だるそうに、そして不思議そうに辺りを見回していた。
●ローブの男達の真意は?
「三箇所で風、火、水。土が出ていないですね。これは関係有るのかな?」
「ローブの人物って見るからに怪しいけれど、ローブを被らなければならない理由があったのだろう」
カレンに光太。二人の考察をクリシュナはソルフの実を食べながら聞いていた。この強行軍、魔法使いにとっては多少酷である。だが急がなければ人命が掛かっているのだ。漸く二つ目の村の夢を紡ぐものを退治し終えたこの移動時間、有効に使わねばなるまい。
「ローブの男がカオスの魔物を放ったか。人間にカオスの魔物が従うのか。まさか上級の魔物が裏で動いているのか‥‥」
「ローブの男達の目的は一体何なのでしょうね‥‥」
独り言めいた呟きを漏らした烈と同じ様に、ルイスもまた疑問を述べる。イーリスは何かを考えるように黙っているし、アロイスはクリシュナと同じ様にソルフの実でMP補給をしている。
村を巡ってはいるが、ローブの男達を見かけることはなかった。村人に話を聞いてみたものの特にこれと行った情報は手に入らず、全く持ってその全容は明らかになる気配を見せない。
「とりあえず今は救える命を救いに行こう」
凛と述べられたイーリスの言葉に冒険者達は力強く頷き、最後の村を目指す。
●最後の
「逃がしはしないっス!!」
クリシュナがファイアーバードを唱えて霧の背後に回る。カレンが呪文の詠唱を始める。
1日目に昏睡者のいなかった村に到着してみれば、前日に眠ったまま目覚めないという老人が一人。冒険者達は手際よく老人を広場に運び出し、村人達には決して家から出ないように告げる。そして後は先に2回繰り返した通り。
「口上をゆっくり聞いているつもりは無いからね」
光太がデビルスレイヤーで二度斬りつける。その効果は絶大なようで、デビルに対する武器もカオスの魔物に効果があることが良くわかった。
「これ以上死者が出るのを黙ってみているつもりはありませんしね」
ルイスも白刃を振るって霧を斬りつける。三度目の対峙ともなれば手馴れたものだった。烈も自身の素早さを生かして何度も拳を繰り出す。
カレンの掌から稲妻が迸る。イーリスが剣で斬りつける。
「約束は守らないといけないからな」
その言葉と共に繰り出された烈の拳で、霧はすぅっと消え去って行った。
「さて、これでトッドローリィとの約束は守れたわけですが」
目を覚ました老人が何度も頭を下げて礼を言うのを見ながら、ルイスが顎に手を当てるようにして思案する。その奥にあるのは皆、同じ。謎のローブの男達に関すること。
「大元を何とかしなければ、同じ事が何度か続くかもしれないしね」
光太の言葉は最もだった。トッドローリィ曰く「ローブの男がカオスの魔物を放った」との事だが、真相は未だ謎のままである。
「このままI・M・Rとして怪異を解決していけば、いずれそのローブの男にも辿り着くかもしれないっス!!」
「そうだな、私もそう思う」
クリシュナの意見にイーリスもゆっくりと頷いた。
「とりあえず、助けられる命は全て助けられたわけだし、少し休もう」
今回はそれが第一の目的であったのだし、無事に命を救うことが出来た今、休む事を拒否するものはいなかった。
かくして悪意ある夢に囚われた者達は解放されたわけだが、ローブの男に関する謎だけは、未だ残ったままである。