ごめんなさいが言えなくて。
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月31日〜06月05日
リプレイ公開日:2008年06月06日
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●オープニング
●喧嘩
「もうあんたなんてだいっきらいなんだからー!」
「こっちこそ、君の世話はもううんざりだ」
「二度と私の目の前に現れないで!」
「それはこっちの台詞だ!」
メイの広場である日、そんな会話がなされていた。明らかに喧嘩である。だが、痴話喧嘩ではない。
女の方は赤い髪のパラで名をレイネという。細かい作業より身体を動かす事が好きで、ヒステリーを起しやすいちょっと短気な少女。
男の方は茶色い髪のパラで名をヒューノという。身体を動かす事よりも細かい作業の方が得意な、落ち着いた感じのパラだ。
この二人、正反対だが良い友人として今まで過ごしてきた。だが‥‥
「くーっ! 言ったな! 出てってやる、お望みどおり、あんたの目の前から消えてやるんだから!」
「ああ、せいせいするよ。それじゃ、さ・よ・う・な・ら」
「私がウィルに行ってから寂しがって泣くんじゃないわよ!」
「誰が泣くかよ」
レイネは振り返りもせずに月道の方角へ向かって歩いてゆく。ヒューノはその後姿に向かって思い切り舌を出し、ぷいとそっぽを向いた。
広場でパラ同士の喧嘩の一部始終を珍しそうに眺めていた人達は、面白い見世物が終ったとでもいうように三々五々に散って行く。
ヒューノは行きつけの酒場に向かってすいすいと歩いていった。
「(レイネのバカ。ウィルになんてどうせ行けやしないんだから。月道の開放日も過ぎているし)」
●数日後、ギルドにて
「でさ、原因は何なんだい? その喧嘩の」
冒険者ギルド職員のその女性は、カウンター前に座るヒューノに訊ねた。羊皮紙に書き物をしながらという、いかにも「真剣に聞いていません」な態度だが、彼は気にしてはいないらしい。
「レイネが悪いのさ。僕が大切に取っておいたお酒を勝手に飲んだくせに、飲んでないって言い張るから」
「ふぅん‥‥お酒ねぇ。でもあんたらなら、取っておいた食べ物食べられただの飲まれただのは日常茶飯事じゃないのかい?」
「でも今回のは特別なんだ。次の僕の誕生日に空けようと思って大切に取っておいたものだから」
なるほど。それはちょっと悲しいかもしれない。
「レイネが誕生日にくれたお酒なんだよ? あいつが来年の僕の誕生日に飲もうって提案したくせに、すっかり忘れてさ!」
それは――怒って当然かもしれない、うん。
「ウィルに行くとか言ってたけど、月道も開いてないしどうせ無理なんだ。2.3日したら泣いて帰ってくるさ」
「と思ったけれど、帰ってきてないんだろ?」
「う‥‥」
ヒューノがギルド職員を訪ねたのはそれが理由である。どの道ウィルになど行けやしまいとたかを括っていたヒューノだが、ここ数日レイネが姿を見せないのだ。いや、喧嘩をしているのだから避けられるのは当然なのだが。彼としては「本当にウィルに行ってしまったのでは?」という思いが日に日に大きくなっていて。
「誕生日といえばさ、レイネがこの間誕生日だったっていうじゃないか。あんたきちんとお祝いしてあげたのかい?」
顔を上げた職員の質問に、ヒューノはもちろんさ、と頷いて答える。
「ソファで昼寝中のレイネの枕元にプレゼントを置いといたさ。なのにあいつ、ありがとうの一つも言わないんだ。頭くる」
「ふむ‥‥なるほどねぇ」
職員は意味ありげに視線を反らした。
●依頼
「ちょっと異例の事かもしれないけれど、あたしからの依頼を受けてもらいたいんだ。冒険的内容でなくて悪いんだけどさ」
ギルド職員の女性は、集まった冒険者にそう声をかける。そしてレイネとヒューノの喧嘩の件、ヒューノの言い分を告げた。
「実はヒューノがギルドに来る数日前にレイネもあたしんところに来ていてね」
ヒューノと喧嘩をした後、そのまま月道へ向かったレイネだったが当然といえば当然、月道は開いておらず、何とかウィルへわたる方法はないものかとこの女性を頼ったのである。
「あたし、ぽろっと口を滑らせてしまってねぇ‥‥【転移護符】ならばウィルに行けるよ、冒険者なら持っているんじゃないかってね」
それを聞いたレイネは、冒険者街で手当たりしだい冒険者に当たっているらしい。そして夜になると家に戻らず、このギルド職員の家にお世話になっている。
「で、まぁ彼女にも喧嘩の原因を聞いたのよ」
彼女が怒っている原因は、「ヒューノが自分の誕生日を忘れた」からである。そしてその仕返しに、こっそりワインの小樽の場所を入れ替えたのだという。レイネがヒューノの誕生日に上げたワインと、似たラベルのワインの小樽の置かれている場所を。そしてその入れ替えた方のワインを飲んだのだ。なのにヒューノが、それが誕生日に貰ったワインではないと気づかずに彼女を責めたものだから、彼女も意地になって「飲んでない!」と言い張ったのだという。
「どうだい、何処かですれ違ってしまっている感じだろう? あたしが思うに、ヒューノが置いたプレゼントとやらは寝ている間にレイネが蹴落として、ソファの下にでもあるんじゃないかと思うよ。そしてヒューノの方は、彼の家の酒の置かれている棚でも探せば問題のワインは出てくるんじゃないかねぇ?」
でもさ、と職員は続ける。
「あたしがそれを直接伝えたって意味ないんだよ。彼らが自分で自分の勘違いに気がついて、それで謝ろうとしないとね」
確かに二人とも、誰かに言われて勘違いに気がついたとしても、自分から謝ることにはためらいを感じるだろう。頭ごなしに謝れ、と言っても反発しそうなのは目に見えている。
「だからさ、依頼されて〜っていうのも内緒にして、なんとか二人に自分の勘違いを気づかせて、仲直りさせてやって欲しいんだよ」
ちょっと面倒かもしれないけどさ、と職員は苦笑する。
「家でレイネの愚痴を聞かされて、仕事に来ればヒューノが愚痴を零しに来る。いい加減仲直りしてもらわないとあたしも困るんだわ」
確かに、それは困るかもしれない。
「ね、後生だからお願いだよ」
職員は両手を合わせて拝むようにして冒険者達に願った。
●リプレイ本文
●すれ違う二人
「ったくただの痴話ゲンカじゃねーかよ」
「‥‥最近、戦士や僧兵と勘違いされているような気が致します」
「ま‥‥人死にが出る荒事よりゃ何百倍もマシだぜ」
「わたくしは僧侶なのです。‥‥この世界には伴天連教しかございませんのよね」
この噛みあっているようで噛みあっていない会話。ヒューノに声をかけるべく冒険者ギルドに向かって歩く巴渓(ea0167)とシャクティ・シッダールタ(ea5989)の会話である。長身の女性と、更に大きいジャイアントの女性。その脇を小さなチュールがふよふよすると、彼女が更に小さく見える。
「それにしてもたまに市場で天界人の方々の装いが売られていると聞きましたが、さすがは貴重品。なかなか見つかりませんでしたわね」
三人はここに来る前にちょっぴり市場へ寄り道してきた。シャクティが「せーらー服」と「すくーる水着」とやらを探したいと言ったからだ。
「まぁ、んな簡単に見つかったら、その辺の奴ら皆着て歩いてるんじゃねーか?」
渓の意見も最もである。だがシャクティはまだ諦める気はないらしく、その服の可愛さに思いを馳せていた。
「凄く可愛いんですよね〜。それにすくーる水着はもう、御仏の教えに背いちゃいそうですわ!! うふふ、恋人のあの方もきっと喜んで‥‥」
頬に手を当てて顔を朱に染め、くねくねと妄想に走るシャクティ。
「ねぇ、あれとめなくていいの?」
「いいさ。あーなったらなげぇんだ」
思わず一歩引いて見守るチュールと渓。シャクティの妄想はもう暫く続いた。
冒険者ギルドへ赴くと、依頼を出してきた女職員と目が合った。職員は目線で目の前のパラを示し、そして手を合わせてお願い、のポーズをとる。それに頷いて見せた渓とシャクティは、あくまで自然を装ってカウンターに座ってなんだかぐちぐち言っているパラ――ヒューノに声をかけた。
「よう、お前がヒューノって奴か?」
「そうだけど、僕に何か用?」
振り返ったヒューノは明らかに不機嫌そうだった。だがそれは予想の範疇。二人は怯まずに話を続ける。
「先ほど市場で買い物をしていましたら、貴方のお名前を聞きましたの」
「転移護符をパラの女にせがまれてな、事情を聞いたんだよ」
「!! レイネに会ったの!?」
二人の言葉に顔色を変えて立ち上がるヒューノ。渓は腕組みをして彼を見下ろす。
「ああ。それでちょっくら思うところがあってな、お前の家に連れて行ってもらいてぇ」
「え? うちに?」
「そうですわ。なくなったというお酒、もう一度良く確認してみませんこと?」
それは僕が何か間違えたって言うことなのかよ?! と息巻くヒューノを何とかなだめすかし、渓、シャクティ、チュールの三人は彼の家へと案内してもらう事に成功したのだった。
一方こちらは冒険者街。レイネを探して歩くフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)、アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)、水無月茜(ec4666)の三人は、早々に彼女の姿を発見していた。いや、目に付く冒険者に片っ端から声をかけているパラの女性なんて目立つから。
「ちょっとした勘違いが重なってケンカになっちゃったんだねー‥‥。よーし、このフィオさんが元通りになれるように一肌脱いであげようっ!」
客引きもかくやというほど声を掛け捲っているレイネを見て、フィオレンティナは気合を入れる。
「あの調子だときっと、側を通りかかれば声をかけてきますよね」
「そうですね、では私はメロディーの準備をしておきます」
アルトリアと茜は頷き合い、フィオレンティナを先頭にしてレイネへと近づく。すると
「ねぇねぇ、あんたたち冒険者でしょう? ウィルに行く『転移護符』っていうの探しているんだけど、もってない?」
「転移護符なら持ってるけど‥‥」
フィオレンティナがちらりとポーチから転移護符を見せると――レイネが食いついた!
いや、文字通り食いつかんばかりの勢いで彼女はフィオレンティナのポーチへとしがみついたのだ。
「ねぇこれ、ちょーだい? 御礼ならするから!」
「ちょ、ちょっとまって。いくらなんでも見ず知らずの子に簡単にあげるわけにはいかないよ」
焦る演技を見せるフィオレンティナ。その後をつぐようにしてアルトリアがレイネと視線を合わせる。
「どうしてそこまでウィルに行きたいんですか?」
「何か事情があるなら聞かせてくれませんか?」
茜も優しくレイネに声をかけ、促す。すると彼女はむーっと膨れたのち、事情をぽつりぽつりと語りだした。
「歌が魔法になるなんて‥‥私の歌を聴け〜! なんちゃって」
と叫んだ茜のメロディーにより、事情説明中に怒りが再燃しだしたレイネは落ち着き最後まで三人に事情を語った。といっても三人は全て事情を知っているのだが。
「ウィルに行くならそれなりにちゃんと準備も必要だよ?」
「よかったらお手伝いしますよ」
フィオレンティナとアルトリアの言葉に、レイネはしばし考えた後になるほど、と頷く。冒険慣れしている冒険者の言葉だからこそ、彼女は信じる気になったのだ。
「じゃあ、準備のアドバイスをしてよ」
私の家、こっちだから、と三人を誘導するレイネ。三人は第一段階成功、と頷き合い、そしてレイネの後をついていくのだった。
「意外に散らかってますね」
「大きなお世話よ!」
アルトリアの言葉にきしゃーとばかりに返答を返しつつ、レイネはずかずかと散らかっている室内へ入っていく。
「これじゃあプレゼントが行方不明になるのも判る気がする」
「そうですね」
フィオレンティナと茜も小さく溜息をついて室内を見回した。すでにレイネはくたっとしたバックに衣類だのを詰め込み始めている。
「くー、服が入りきらないっ!」
「あ、はいはい、きちんと畳んで入れないとダメですよ」
癇癪を起こし始めたレイネに茜が近寄り、手際よく衣類を畳んでいく。二人を仲直りさせるつもりなのだから荷造りなんてしても無駄になるのだが、これ以上癇癪を起こされるよりはずっといい。
「アルトリアさん、そっち持って。今のうちに探しちゃおう」
「はい」
レイネの注意が荷造りに行っているうちに、フィオレンティナとアルトリアは近くにあったソファを持ち上げて少しばかり動かす。するとそこからは可愛くラッピングされた包みがひょいと顔を出して。
「あ、これですかね?」
アルトリアがその包みを拾い上げ、埃を払う。フィオレンティナはその側に『レイネへ』とアプト語で書かれた、羊皮紙のメッセージカードを見つけて。
「間違いないみたい」
二人は頷き合い、衣類と格闘しているレイネに近づいた。なるべく散らかっているものを踏まないように努力して。
「ねえレイネ、こんなのが落ちてたんだけど?」
「え?」
振り返ったレイネはアルトリアから包みを、フィオレンティナからカードを受け取り、そしてそれに目を通す。その表情がだんだんと驚愕に変わっていって。
「私‥‥どうしよう」
搾り出すように紡ぎだされたその言葉。後押しするようにフィオレンティナの優しい声がかぶさる。
「もし『ごめんなさい』も『ありがとう』も言えないままの相手がいるんだとしたら、そのままお別れしたら絶対後悔するよ? ‥‥二度と言えなくなっちゃうかもしれないんだからね」
「いいか、こういう時は頭を冷やしてもう一度よ〜く確認すんだよ。おいチー坊、フラフラ浮いてねェでお前も手伝え」
ヒューノに案内された彼の家。そこは小奇麗に片付けられているのが外からでも良くわかった。
「え〜」
渓に呼ばれ、めんどくさーいと声を上げるチュール。一方シャクティは‥‥
「ああ!! 入れませんわ‥‥巨人族が無理に入れば壊してしまいます」
己の背丈と家の天井の低さに難儀していた。
「あのチュールさん、申し訳ありませんが代わりにお願いできませんか?」
「頑張ったら酒場で甘いもんでもおごってやっからよ」
シャクティにも頼まれてしまったチュールは元々困っている人を放っておけない性格だ。渓の甘いもの発言にもつられたのか、わかったよ〜とヒューノを追いかけてふよふよ屋敷に入る。
「はぁ‥‥やっぱり、小さくなりたいですわ」
開けてもらった窓から中を覗くようにしながら、シャクティは盛大な溜息をついた。
●誤解は解けて
「あ」
渓とチュールが発見した酒樽を見て、ヒューノはぴたっと動きを止めた。それは間違いなく、レイネに貰った酒樽だったからだ。
「どうして‥‥」
「お前がちゃんと確認しなかっただけだろうよ」
渓は溜息をついて酒樽を差し出す。
「お前のプレゼントとやらも、どうせ気がつかずに失くしてんだよ。お互い言いたいことだけ言い合って、ちっとも相手のこと考えちゃいねェんだろ? てめェに理由がある様に、相手にだって勘違いや見過ごし、色んな理由がある」
酒樽を受け取って眺めているヒューノに、渓はつらつらと説教を続けた。
「それによ、お前ってば男だろ? こういう時は男の器量をみせるもんだ。な?」
「そうですね、心の広い男性は素敵ですわ」
渓に諭され、窓の外からシャクティに微笑まれ、ヒューノは小さくこくんと頷く。
「‥‥俺はジ・アース人だ。もう故郷にゃ戻れそうにねェ。あっちのダチたちにゃ、二度と逢えん‥‥。お前はまだやり直せるんだぜ」
「やり直せる‥‥」
「さ、ギルドに行くぞ。お前が愚痴聞かせた受付の姉ちゃんに頼んで、レイネを探してちゃんと謝るんだ!」
渓に首根っこを掴まれるようにして、ヒューノは大人しくギルドへと向かった。レイネに実際に会ったらちゃんと謝れる自信はまだちょっとだけないけれど‥‥。
「迷惑かけてごめんなさい! プレゼントの事は私の勘違いだったの!」
冒険者ギルド。受付の女性にレイネが謝っているまさにその瞬間、それをヒューノは見てしまった。
「さぁ、ヒューノ様はどうなさいますの?」
お互い素直になればよろしいのに、と心の中で思いつつ、シャクティが彼に尋ねる。
「アレを見たら、男ならするこたぁ一つだよな?」
渓に意地悪く言われ、ヒューノはぎゅっと拳を握り締めてつかつかとレイネの元へ歩み寄る。
「え、ヒューノ?」
その足音に気がついて振り返ったレイネが、一瞬身後ずさるようにして驚く。
「レイネ」
後ろからフィオレンティナに小さく声を掛けられ、レイネは先ほどの彼女の言葉を思い出した。
――二度と言えなくなっちゃうかもしれないんだよ?
そんなの、嫌だ。でも、口から出てきそうなのは憎まれ口で。
そんな時彼女の耳に入ってきたのは不思議なメロディー。茜が少し離れたところで、レイネの心が落ち着くようにとメロディーの魔法を使っていた。その旋律がこの国では聞いたことのない種類の、「演歌」というものだとまでは判らなかったが。
「ごめん、レイネ。きちんと確認もしないで責めてわるかった!」
その時、立ち止まったヒューノががばり、と頭を下げた。よし、よくやった、と後ろの方で渓とシャクティが喜ぶ声が聞こえる。
「あ、その‥‥私も良く確認しなかったのが悪かったわ、ごめんなさい!」
先に謝られたことと、心を落ち着かせる旋律のおかげか、その言葉は彼女の口からするするとでてきて。
「じゃ、もうこれは必要ないよね?」
ウィンクしながらポーチから取り出したウィルへの転移護符をひらひらとさせるフィオレンティナ。
そう、「ごめんなさい」が言えたんだから、二人を分かつアイテムはもう必要ないのだった。