【ウォールブレイク】紫紺の女商人
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:11人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月06日〜06月11日
リプレイ公開日:2008年06月13日
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●オープニング
●謎の壁と石たち
その日冒険者ギルドの扉を開けたのは、紫紺のドレスに身を包んだ妙齢の女性であった。
「ねぇ、知ってるでしょう? 突如各地に現れた謎の壁『グレートウォール』‥‥」
女性はカウンターに擦り寄るようにして、その向こうに立つ支倉純也に話しかける。純也は「ええ、まぁ」と少々戸惑いつつも答えを返し、「それがどうかしましたか」と訊ねた。
「あの壁を壊すと、宝石や鉱石が出てくることがあるんですって」
「宝石や鉱石‥‥ですか」
「あたしはこう見えても商人なのよ。でね、その宝石と鉱石に興味があるわけ。でも自分で掘りに行くのはこの細腕には無理」
女性はしなを作るようにして純也に話しかけるが、如何せん真面目な純也にはあまり通用しないようである。
「だ・か・ら・ね、冒険者さんと取引をしたいの」
「取引、ですか?」
「これ」
そう言って女性がバックから取り出したのは、ガラス細工。そう、巷で話題のレミエラだった。
「これ、合成用に使うレミエラなのだけど、見ての通り私が持っていても宝の持ち腐れ。冒険者さん達に使ってもらってこそ、真価を発揮するもの」
だから、と女はそのガラス細工をカウンターの上にカツンと置いて言う。
「壁を壊して、宝石と鉱石を持ち帰ってくれたら、それとこの合成用レミエラを交換してあげるわ」
「‥‥なるほど」
「どう? 悪い取引じゃないと思うけれど?」
椅子に腰を掛けてドレスのスリットから出した脚を惜しげもなく晒しながら組む女性。
「良いですね、挑戦する冒険者を募ってみましょうか」
しかし純也は最後までその色香に惑わされる事はなかったという。
鈍いのか、眼中になかったのか――それは本人のみが知る所である。
●リプレイ本文
●壁
立ちはだかる壁は大きい。ゆえに無性に立ち向かいたくなったりするのである。
女商人の要請でここに集まった冒険者たちも例外ではなかった。得体の知れない壁があるからとりあえず掘ってみよう、そんな感じ。
クリシュナ・パラハ(ea1850)と美芳野ひなた(ea1856)の用意したタライや手桶に水を張り、採掘する人達の側に置けば準備万端。取り出した宝石や鉱石はここに入れてもらい、汚れを落とすという算段だ。
面白そうだから来ちゃった、というアスタ・ユリスタ(ec5049)は幼いエルフの細腕でドワーフのつるはしを振るう。
カキンカキンカキン‥‥とても掘れている音には聞こえないが、なんだか運良くぽろっと落ちたものが‥‥土に紛れているが、どうやら色からしてジェイドのようだ。
「あら、もう取れたわ。幸先良いわね」
ぽちゃり、桶に放り入れる。その後彼女は2.3個何やらゲットしていたが、つるはしも永久に保つわけではない。ぽきりと壊れてしまってからは、しゃがみこんでスコップでカシカシと掘り始めた。
「さぁて、元気良く行こうか〜」
手にはハンマー、頭にはヘッドランプをつけて耳栓までして準備万端のエイジス・レーヴァティン(ea9907)。まずは元気良く
「ひ〜か〜り〜に〜、なれー!」
ハンマーを手にスマッシュEX+チャージング+バーストアタックをかますエイジス。
ガシッドガッバキッドッカーン!
派手な音を立てて壁の一部が崩壊する。効果は抜群のようだ。だがハンマーの方はその威力に耐えられなかったのか、あらぬ方向に曲がってしまった。それでもエイジスはまだまだ武器を用意している。今度はそれに持ち替えて再び採掘だ。
一方、こちらも派手に採掘しているのはフォーリィ・クライト(eb0754)。
「単純に壁を砕いて壊せばいいんだよね、簡単簡単」
騎乗してのチャージング+バーストアタック+スマッシュ+ポイントアタックという派手な技でランスで突撃!
ガスッゴスッ!
何とか勢い余って馬もろともの激突は免れる。他のCOは効いている気がするが、ポイントアタックはいまいち効果がないようにも感じられた。
「よし、次は最大重量の偃月刀ね!」
巨大な武器を持ち出したフォーリィ。まだまだやる気である。
ヒュージクレイモアでのスマッシュ+バーストアタックを景気付けにと叩き込んだルイス・マリスカル(ea3063)は、その手応えにふむ、と頷いてみせる。4.5回打ち込んだところでクレイモアは折れてしまったが、なかなかにダメージは与えられた気がする。その後は少し休憩を挟み、スコップで掘り進めるつもりだ。
こつこつとスコップで掘り進めるうちの一人、アルベルト・ユッカ・ペッカ(ec5050)はふう、と額に浮き出た汗を拭う。
「結構骨の折れる作業ですね」
ただ掘り続けるだけ、というのも意外に辛いものである。単純作業であるからこそ。
「ふむ、何か見えてきたな」
それまでスコップで掘り進めていたスレイン・イルーザ(eb7880)は、何か宝石らしいものが見えてきたのでスコップをマトックofラック+1に持ち替えて壁を叩く!
するとそこから顔を出したのはダイアモンド。ぽちゃりとたらいの中へ投げ入れ、彼はもくもくと作業を再開する。
「修行代わりに丁度いい」
拳で壁を叩き続けていた風烈(ea1587)だったが、いまいち効率が良くないと感じたのか、その手にスコップを持つ。スコップを使ってバーストアタックを‥‥と試みたのだが、スコップは武器でないため上手く発動する事が出来ず、普通にさくさく掘ることになってしまった。それでも彫り続けていると、スコップの先に固い感触が。
「何か見つかったか?」
注意して掘り出してみれば、それはルビーのようで。
「無茶で無謀と笑われようが! 意地が支えのケンカ道!
壁があったら殴って壊す! 道が無ければこの手で作る!
無理を通して道理を蹴飛ばし、心のマグマが炎と燃える!!
俺を誰だと思っていやがる!!!
天界一の暴れん坊、巴渓様たァ俺のことだァッ!」
大声で啖呵を決めたのは巴渓(ea0167)だ。だが格好よく決めても獲物はスコップである。そんなことは気にならないのか、彼女はスコップで掘る掘る掘る。壊れたら次のスコップ、次のスコップと取り替えて掘る掘る掘る。手持ちのスコップが無くなれば、愛馬に搭載しているスコップを取り出して掘る掘る掘る。いつしか彼女の側に置かれた桶には、鉄鋼石やら宝石やらがそれなりの数沈んでいた。
「さてと」
一方こちらマイペースなのは伊達正和(ea0489)。仲間の邪魔にならない位置を取ってスコップでサクサクサク。朝ごはんをしっかり食べて掘って、昼ごはんをしっかり食べて掘って、夜ごはんをしっかり食べたら少しだけ掘って切り上げて休む。あくまで規則正しい生活を崩さない正和である。
単調な作業が長く続くと、やはり集中力が無くなったり疲れがたまって作業効率が悪くなったりするものである。そんな状況を改善すべく働いたのはひなただった。自費で買い込んで来た食材と保存食を上手く調理し、スタミナのつく食事作りを心がける。持ち込んだ鮭や鮑も利用し、飽きられない食事作りを心がけた。採掘者たちが途中でばてずに快適に採掘を行えたのは、彼女の努力のおかげもあろう。
もう一つの快適支援はお風呂である。強くなってきた日差しの下、汗水たらして採掘を続ける。すると不快感も増すというもの。事前に依頼人に交渉して用意してもらったタライにクリシュナがヒートハンドで熱した両手を突っ込み、湯を沸かす。女性陣はテントを一つ使い、そこで湯で身体を清める。
「疲れた身体にはお風呂が一番! でも女の子の入浴覗いたらダメっスからね!!」
「お兄ちゃんたち‥‥のぞいちゃメーなのよ」
テントから顔を出したクリシュナとひなたに言われ、はーい、と大人しく返事をする男性陣。覗いたら後が怖いし、紳士は覗いたりしません。
「渓お姉ちゃん、褌一丁でふらふらしないで〜!」
と、暫くしてテントの中が騒がしくなった。心なしか入り口付近の天幕が揺れる。
「手ぬぐい首にかけて隠してるだろ!」
「だめだめぇ〜!」
想像するに、渓とひなたの攻防のようだが‥‥外の男性陣が一体何が起こっているのだろうと揺れるテントを見ていたところ、テントがぐらぁっと傾いで――
「「きゃー!!」」
倒れた。
お湯を使っている女性陣の姿がテント倒壊の土埃に霞んで見える。
「見るんじゃない〜!」
タライが飛んだ。
「見ないでよね!」
手ぬぐいが飛んだ。
「回れ右っス!」
何故かスコップが飛んだ。
このままじゃライトニングサンダーボルトやソニックブームまで飛んできそうな勢いだ。
大人の都合により、ただ今音声と飛来物のみでお送りしています。
いや、うん、でもこれは不可抗力というものではないか?
そんなことを感じつつも見事に飛来物を避けながら男性陣は倒壊したテントに背を向けるのであった。
●調査
「うーん、どうもおかしいっスよねぇ。こうも脈絡無く鉱石だの宝石だの出てくると」
クリシュナはここ数日で皆が掘り出した鉱石と宝石を水で綺麗に洗い、鑑定しながら呟く。それぞれ種類ごとに分けて袋に入れ、依頼人に渡しやすいようにと配慮しながら。
ライトニングサンダーボルトやスコップ、つるはし、そしてCOを使いながら今も採掘を続けている仲間たちの邪魔にならぬよう、彼女は壁に触れ、己の知識を利用してその謎の存在を調査する。学問の知識豊富なクリシュナは、鉱物知識や精霊の知識などにも詳しい。壁に手を触れ、沿って歩くようにすると突然壁が途切れているように見えることがあった。魔法の力により、次元が歪んでいるようである。
また、精霊力を調べてみた所、なんだか月の精霊力の異常を感じる事ができた。
「噂じゃジ・アースに繋がっているらしいとかなんとかいってるっスけど、まさか、ね‥‥」
月の精霊力、ジ・アースとの繋がりといえば思い出すのは月魔法ムーンロードにより作り出される月道。しかし月の精霊力の異常を感じたからと言って、即座にこれらと結びつけるのは早計過ぎる。
「とりあえず観察記録をつけとくっスかね」
クリシュナはスクロールを開き、感じた事を丁寧にメモしていった。
●採掘詰めの五日間
間もなく五日目の日も暮れようとしている。あらかたアイテムと体力を使い果たした冒険者達は、あと少し、と頑張って壁を掘る。
それまで仲間達の世話中心に働いていたひなたも、ちょっと掘ってみようとシルバーナイフを取り出したりして。
あっちではスコップでこつこつ、こっちではつるはしでガツガツ、あるいはライトニングサンダーボルトでばりばりっと。ライトニングサンダーボルトは岩に当たると吸収されるという性質上、全く効かない様に思えたが、この壁には何故か少しはダメージが通るようで。アスタはスコップで掘るのに疲れると魔法で採掘を続けていた。
エイジスやフォーリィはCOを使った派手な一撃で壁を粉砕したり、調子っぱずれの歌を歌いながらスコップを使ったりといたってマイペースだ。ちなみにソードボンバーは特に与えるダメージに変化はないように見えたが、広範囲を掘れる為採掘量がちょこっと上がっている気がした。
渓はスコップだけでなくオーラショットも試してみる。COだけでなく魔法も飛び交う賑やかな現場となった。
「しかしこの壁、壊れた後どうなるんでしょうねぇ」
アルベルトは最後のスコップを壁に突き刺しながらぽつりと零す。
「さぁ、そればかりはわからないな」
近くで掘り進めていた烈がそれに答えた。発泡酒を飲んでぐっすり眠ったおかげか、疲れをあまり見せないルイスが石の入った桶を運びながらその後ろを通りかかる。
「まぁ、よくわからん壁でありますが‥‥これだけ宝石と鉱石が取れれば依頼人にもご満足いただけることでしょう」
桶を少し掲げるようにしたルイス。彼が運ぼうとしていた先には、すでにいくつか宝石と鉱石の詰まった桶が置かれていた。
「やれやれ。ただ掘るだけというのも案外退屈なものだな」
最後のつるはしが折れたところで、スレインも採掘終了とする。
「たまにはこういうのもいいんじゃないか?」
桶を運ぶのを手伝いながら正和が笑ってみせた。
こうして汗と泥と石にまみれた五日間は終わりを告げたのである。
採掘した鉱石と宝石は一つ残らず依頼人である女商人に提出され、女商人は約束どおり冒険者達に合成用のレミエラを与えたのだった。
参考までに。
今回の採掘で使われたスコップは300本以上。つるはしや各種武器や魔法をあわせると、かなりの量になったという。