花嫁さんが来た!〜手作り結婚式〜

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2008年06月15日

●オープニング

●花嫁さんが来た!
「お館様、ご無沙汰しています」
 メイディアの街のどちらかといえば下町に近いところにあるお屋敷。その一室を若い男女が訪れていた。
「フリーデリーケ、大きくなったね」
 その館の主、通称お館様は目の前の少女をまぶしそうに見つめた。

 ここは元冒険者のお館様が運営する孤児院である。0歳〜12歳までの子供達がこの館で生活している。12を越えた子供はそれぞれ働き口を見つけるなどして、館を巣立っていくのが基本的にこの孤児院での決まり。
 裕福とはいえないが善意の寄付やお館様が冒険者時代に溜めた資金で運営している、そんな孤児院。

 フリーデリーケと呼ばれた少女は今年18歳。6年ほど前に住み込みでの仕事先を見つけ、この館を巣立っていた。その彼女が今回館を訪れた理由は――
「結婚するんだってね。おめでとう」
 お館様の言葉に、頬を染めて隣の青年を見上げるフリーデリーケ。
 そう、彼女は結婚の報告の為に館を訪れていた。
「式はどうするんだい?」
「式は‥‥あげない予定なのです。私も彼も身寄りが有りませんし‥‥それに新生活にもお金がかかりますから。ですから、こうしてご報告だけ」
「そうなのか。それは残念だが、君たちがそう決めたのならば仕方がないね」
 お館様は優しい声音でそう言い、二人を見つめた。


●結婚式って?
「妖精さん、妖精さん!」
「ん?」
 メイディアの街中、碧の羽のシフール、チュールは掛けられた声に反応してくるりと振り返った。見ると、子供が数人。どこかで見覚えがあるような?
「あー、あんたたちあの孤児院の?」
「そうです。以前は劇を見せてくれて有難うございます」
 一番年上と思われる少年が、ぺこりと頭を下げた。それに続くようにして、他の子供達も頭を下げる。
「いやいや、あれは冒険者達があんたたちに見せたいって望んだんだしね? で、今日はどうしたの?」
 良く見ると子供達は10歳〜12歳前後だろうか、あの孤児院でも年上の部類に入る子供達だろう。
「それが‥‥妖精さん、結婚式の仕方って知ってます?」
「え? あ?」
 予想だにしなかった質問に、チュールはぽかんと口を開けて一瞬固まった。


「話はわかった」
 場所を広場に移し。子供たちを噴水の淵に腰掛けさせて話を聞いたチュールは、腰に手を当てるようにして頷いた。
 どうやら彼らは、小さい頃に世話になったお姉さんが結婚するというので、結婚式をしてあげたいとの事らしい。どうやらそのお姉さんは、事情があって式を挙げないつもりみたいだから、と。
「結婚式の方法ねぇ‥‥」
 ジ・アース出身のチュールは教会での式を思い浮かべたが、宗教のないこちらではそれは一般的な方法ではないと思いなおして。
「確かね、普通は領主様を呼んで結婚の許可を貰って、それで式を挙げるんだったと思う。結婚する人が貴族の場合は、領主様はそのままパーティに出る場合もあるんだって。でもそうじゃない場合は、領主様は結婚式で結婚の許可だけして、パーティには出ないの」
「領主様‥‥?」
「えーと、メイディア在住の場合の領主様って‥‥王様?」
 いや、それはさすがに無理だろう。
「まーそーだね、今回の場合君たちの家で内輪の結婚式を挙げたいんでしょう? だったらお館様に結婚の証人になってもらえばいいんじゃないかなー?」
「なるほど」
 子供達は真剣にチュールの話を聞いている。
「式を挙げたあとは、皆で料理を食べたりして祝ってあげるパーティ。村とかだと村総出でやる場合もあるみたいだよ?」
「料理‥‥パーティ‥‥」
 一様に顔を曇らせる子供達。たしかに孤児院の子供達だけで開催するとしたら、色々と荷が重いかもしれない。料理にしろ、新郎新婦の衣装にしろ、お金がかかるものだから。
「あれじゃん、あのお姉さんに協力してもらったら? あの人、貴族でしょ?」
「レディアさんですか? 確かにそうですけど‥‥さすがにそこまで甘えるのも‥‥」
 いつも善意で寄付をしたり手伝いに来てくれたりする貴族の女性を思い浮かべる一同。だが子供達にはそこまで甘えるのも申し訳ないという気持ちもあって。
「勿論、お館様にも協力してもらうんでしょう? 後はさ、冒険者に手伝ってもらうのもどうかな? 冒険者の中にはジ・アースから来た人もいるし、こっちでは珍しい結婚式の仕方とか教えてもらえるかもしれないよ?」
「でも‥‥協力してくれる人がいるでしょうか」
「それはやってみなくちゃわからないでしょ。とりあえず冒険者ギルドへゴー! いい?」
 子供達は戸惑いを隠せぬまま、チュールに引っ張られるようにして冒険者ギルドを目指した。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●一人一人ができることを
 お世話になったお姉さんの新しい門出を祝いたいという気持ちは、冒険者達に伝わった。
 アマツ・オオトリ(ea1842)は孤児院責任者のお館様に子供達の企画の説明をし、許可を求めた。お館様は快く承知し、そして同時に子供達の自発的な行動を喜んでもいた。
「さあ子らよ、紹介状も戴いたことであるし、買い物を兼ねてレディア殿に此度の催しについて告げに行こうぞ」
 彼女は孤児院の支援者でもあるレディアを迎えに行きがてら、仲間から頼まれた買出しをこなしてくるつもりだ。レディアの家は一応貴族の家。懇意にしている上にお館様からの紹介状があるとはいえ、一応自分と、同行する子供達の身なりは出来るだけ綺麗に整えて。
「豪華で手間の掛かったものより、周りから祝福される方が重要ですからね」
 子供達に説いてみせるのはフィリッパ・オーギュスト(eb1004)。見栄えや掛かった金額よりも、皆がそれぞれ持つ祝うという気持ちが大切なのだから、と微笑んでみせる。
「例えば献立ですけど、野菜スープをベースに冷製スープとして前菜に少し取っておいて、手直しした暖かいシチューや同じ材料をチーズ・フォンデュにしてしまうとか。パスタを絡めるソースを何種類か用意しておくとかですね。フォーレさん、出来そうですか?」
「そうだねー、さっきちょっと食料庫を見せてもらったけれど、それならアレンジが効きそうだよ。実際に作るのは前日夜からになるけれど」
 料理を担当するフォーレ・ネーヴ(eb2093)がにこっと笑う。周りを囲む子供達からあれ食べたいこれ食べたいという意見が飛び交っているので、できる限り反映するとして。
「食料庫にある材料全部使えるわけじゃないからねー? 好き嫌いしないで色々食べるんだよ♪ あ、料理の配置はフィリッパさんの美的感覚に任せていいかな?」
「構いませんわ。お任せ下さい。それではまずは私のところでは飾り付けの準備を行います。飾り付けの準備をしたい子は私のところへ。新郎新婦の衣装のアレンジに加わりたい子はフォーレさんの所へ行ってくださいね」
「「「はーい!」」」
 フィリッパの号令に、子供達がさーっと動く。飾り付けの準備は小さい子でも簡単に出来るからして、比較的小さい子たちがフィリッパの元へ集う。逆に新郎新婦の衣装はやはり任が重いのか、年齢が高めの女の子達がフォーレの元に集まった。もしかしたら彼女達は、いつか自分も花嫁衣裳を着てみたい、そう夢見ているのかもしれない。

 一方レフェツィア・セヴェナ(ea0356)はメイディアの下町にいた。6歳〜8歳くらいの中間層の子供達数人と、物陰から一軒の果物屋を覗いているのだ。
「あの人で間違いない?」
「「うん」」
 彼女が指したのは、今丁度お客にオレンジを数個手渡した店員の娘。その娘がこの間孤児院に来たというフリーデリーケであることを子供達に確認したのである。ちなみに年嵩の子供達をつれてこなかったのは、万が一一緒にいるところをフリーデリーケに見つかったときの為である。
「じゃあちょっと聞いてくるから、皆はいい子でここで待っててね? いい子にしていたら、おやつに皆で食べられるようにオレンジ買って来てあげるからね」
 はーい、と元気の良い返事が聞こえた所で、レフェツィアは物陰から果物屋の通りに出た。そして何気ない様子で果物屋の前で足を止める。
「すいません」
「はい、何かお探しですか?」
 にこりと笑顔の美しいその少女に、レフェツィアも笑顔で声をかける。
「えっと、今ちょっと年頃の女の子に意見を聞いて回っているんだけど、今いいかな?」
「はい、何でしょうか?」
 不思議そうに首を傾げたフリーデリーケだったが、レフェツィアの持つロザリオを見て天界人の聖職者だと気がついたのか、警戒するそぶりは見せなかった。
「うん、僕見ての通り聖職者なんだけどね、今メイでは結婚式を挙げるならどんな形式が喜ばれるかの調査をしているんだ。やっぱりメイ式なのか、それとも天界式なのかってね。良かったら意見、聞かせてくれる?」
「結婚式、ですか‥‥」
 彼女の言葉にフリーデリーケは瞳に羨望を浮かべる。
 何故レフェツィアがこんな回りくどいことをしているかというと、子供たち主催の結婚式はいわば新婦にプレゼントするびっくり結婚式なわけで。けれどもやるならば出来るだけ新郎新婦の意に沿う結婚式にしてあげたくて。だが、趣旨上式を挙げるつもりの無い二人と、事情を話さずにどんな結婚式が良いかを訊ねるのは無理なのであって。知恵を絞った結果、こういう手段に出ることになったのだ。
「そうですね‥‥私は孤児院育ちで、結婚式というものに縁がなかったものですから。メイ式でも天界式でもどちらでもかまいません。ただ、沢山の人に祝福されれば十分‥‥」
「ふむふむ、なるほど。確かにお祝い事なのだから、祝福されたいよね。有難う、参考になったよ。あ、このオレンジ一山もらえるかな?」
「はい、有難うございます!」
 まさか後輩達が自分の結婚式を準備してくれているとは、夢にも思っていないだろう。フリーデリーケはにっこり笑ってレフェツィアにオレンジの入った籠を差し出した。


●お世話になったおねえさんへ
 孤児院の食堂は、普段とは打って変わって素敵なパーティ会場へと変貌していた。
 古い服の端切れをセンス良く組み合わせたリボンや、テーブルの足や椅子につけられた飾り。壁に飾られた飾りはクリスマス用のものを少し流用した。加えて部屋の入り口に置かれた椅子に、地球で言うウェルカムボードのごとく立てかけられているのは、花婿と花嫁、そしてまだ見ぬ二世が描かれた絵。これらはフィリッパの仕事だ。端切れを割く仕事を遊びと混ぜながら上手く小さい子供達をリードして行った。
 テーブルの上に所狭しと並ぶ料理の数々。これらはフォーレの担当。昨日の夜遅くまで下ごしらえをし、朝早くから女の子たちと共に作った力作。
 孤児院に招待された新郎新婦たちは何事かとわからぬまま、子供達に一階の部屋に通される。そして「これに着替えてね」と差し出されたのはホワイトドレスと礼服を元にしてアレンジされた衣装。着替えが終ってみれば、やはり何も告げられぬまま、食堂へと導かれる。
 そこで入り口に置かれた絵を目にしたとき、新郎新婦は漸く事態を把握した。同時にフィリッパが音楽を奏で始める。
「さ、こっちへどうぞ」
 部屋の奥には正装したお館様と、ロザリオを手にしたレフェツィアが。子供達はアマツとレディアとチュールと共に壁際に並び、何かを待っている。
「これは‥‥」
 促されるまま食堂に足を踏み入れ、不思議そうに辺りを見回す新郎新婦。二人がお館様とレフェツィアの前に辿り着いた所で、音楽の演奏が止まった。
「カルステンさん、フリーデリーケさん、今日の良き日を迎えられた事を、まずは精霊に感謝を」
 レフェツィアが告げる。各地で結婚式を行った経験のある彼女は、色々な結婚式の良いところを取り、今日この場所に一番ふさわしい式を行おうと考えていた。
「そしてお二人が精霊の庇護を受け、めでたく結ばれる事を、この館の主フェリックスに許しを請い、そして証人として祝福を受けると良いでしょう」
 新郎新婦はお館様の前に膝を付き、頭を垂れる。お館様は落ち着いた、そして慈愛に満ちた声で二人の頭に手を乗せた。
「カルステン、フリーデリーケ、二人の婚姻を此処に許可する。精霊の見守る中、私がその愛の証人となろう」
 わぁっと子供達の歓声が上がる。年長の少年と少女が一人ずつ歩み出て、リボンで作ったコサージュを新郎新婦に差し出した。
「指輪とかを用意できればよかったんだけど‥‥無理だから、これを指輪の代わりに」
 それはレフェツィア監修の元、子供達が手ずから作ったコサージュ。新郎新婦はそれを受け取り、互いの胸につける。
 アマツが、手を上げて合図をした。フィリッパの演奏が再び始まる。そして流れ出したのは皆の、合唱。

『さあともに手を
 広いこの世界 君にめぐり合えた絆
 それは小さな奇跡 それは未来への希望

 ありがとう 僕に巡り合った君
 指折り数えた幸せの日 眩しい笑顔
 嬉しいのに なぜ涙があふれるのだろう』

 数日の練習ではまだ歌詞がおぼつかない子供もいる。そこは楽団員という肩書きを持つアマツと、バードであり実は合唱の練習にしか参加しなかったチュールがリードしてカバーする。フォーレもレフェツィアもお館様も、共に歌う。レディアだけ、やっぱりその天性の音を外す技術は治りはしなかったが、気持ちが伝わればよいのだ。

『さあこの手を掴んで
 二度と離さないで 貴方の温もりを感じる
 それは甘いおとぎ話 それは愛するという強さ

 ありがとう 私に巡り合った貴方
 鮮やかな喜びの日 震える胸
 笑顔なのに なぜ涙が頬をつたうのだろう』

 どの子供も笑顔で、心から祝福の意を示している。その様子を新郎新婦はしっかりと見つめていた。祝福をひとかけらも受け止め損ねぬように。

『その人を選んだ事 後悔したくないから 
 悲しみも苦しみも 共に分かち合おう
 二人なら乗り越えていける
 輝く扉 開こう 夜明けを告げる鐘が鳴る

 あぁ共に歩いていこう 光差す道を
 新しい日々 美しくあれ‥‥』

 新婦は涙で前が見えなくなっていたのだろう。歌が終ると堰を切ったように泣き出した。勿論、嬉しくて。そんな新婦の肩を、新郎が優しく抱きしめる。

「「「結婚、おめでとう!!!」」」

 皆の心からの祝福が響き渡った。
 青く晴れ渡った空も、窓から吹き込む風も、全てが新しい夫婦を祝福している。
 嬉しさがこみ上げて、涙が零れるばかりで言葉にならない新婦に、世話になった子供達が一人一人祝いの言葉を掛けていく。
 アマツも、新郎へ祝い金を渡す。最初は辞退していた新郎だったが「祝い事なのだから」と言われて拒否し続けるのも失礼だと思ったのだろう、最後はとてもとても感謝して受け取った。
 たくさんの人に祝福されれば十分、そう語ったフリーデリーケの願いを叶えられて、レフェツィアはほっと息をつく。やっぱり結婚式は好きだ。幸せが一杯詰まっているから。
 子供達に食事を取り分けてあげながら、フォーレは「子供達が殆ど作ったんだよ」とフリーデリーケにこっそり告げる。あんな小さかった子たちが、大きくなったのねという彼女の言葉に、そうだね、と頷いて。
 フィリッパは歓談の場の雰囲気を壊さないような音楽を奏で続ける。お館様が彼女に近づき、また孤児院の為に協力してくれてありがとうと謝辞を述べた。


 その後、新婦フリーデリーケの意向により、このパーティで使用されたドレスと礼服は孤児院に寄贈される事になった。
 いつかまた、ここを卒業した子供達が大人になった時、沢山の人に祝福されながら幸せになれるように、と。