追憶に生きる白花〜暴れ狂う風精〜

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2008年06月17日

●オープニング

●ギルドにて
「ウイバーンが暴れている」
 彼女、イーリス・オークレールがギルドに足を踏み入れて最初に零したのは、そんな言葉だった。彼女の表情は苦々しく歪んでいる。
「その上、ウイバーンの側にフードの男が一人、確認されている」
「それは‥‥!」
 聞いていた支倉純也は思わず立ち上がりかけた。以前トッドローリィ達が言っていた怪しげなフードの男だろうか。
「そ、その男も気になる所ですが、ウイバーンが暴れているというのは? 被害はどうなのですか?」
「ウイバーンとは外見は緑色の皮を持つ、翼の生えたトカゲだ。確か‥‥尾に毒を持っていたと記憶している」
「それが、暴れている‥‥と」
 純也の言葉にイーリスは重々しく頷く。
「5メートルほどの大きな風のエレメントが、2匹。素早く上空を飛び回ったり地上を行く商人の馬車など目に付くものを襲ったりしている。場所は、この間行った3つの村のうち、メイディアに最も近い村――三角形で言うと下辺の右角に当たる海に近い村の側だな」
「このままではいつ村に被害が及ぶか判りませんね‥‥」
「ああ。村人も遠目に暴れる龍の様なその姿を見て、酷く不安になっていることだろう。一刻も早く何とかしなくてはならない」
「説得は、通じそうですか?」
 純也の硬く強張った言葉に、イーリスは僅かの間思案するようにし、それからゆっくりと口を開く。
「判らない。気が立っているゆえ説得が効かぬかもしれないし、ローブの男が原因だとしたら、その男を始末するまで気を治めぬかもしれない」
 素直に説得に応じてもらえればよいのだが、万が一聞く耳もたれなければ退治するほかない。イーリスの懸念どおり、ローブの男が原因だった場合、その対処も考えなくてはならない。
「それに今回は相手が空を飛んでいる。ゆえに、ゴーレムグライダーの貸し出し許可を願いたい」
「グライダー‥‥ですか」
「交戦する事になった場合、遠距離攻撃を出来ぬものは攻撃を仕掛けに降りてきたところを返り打つか、弱らせて高度が下がった所を攻撃するしかあるまい。それには魔術師や航空戦力が必要だ」
「いえ、グライダーを貸し出すことは問題ないのですが‥‥」
 顎に手を当てるようにして不安げに考え込む純也。
「グライダーには、その、槍が‥‥」
 イーリスは夫を亡くした時のトラウマで、槍を見ると恐怖で身体が動かなくなってしまうという。それが敵であれ、味方であれ。
「覚悟している。いざという時は私のことは捨て置いて構わぬ」
 躊躇うように口にされた純也の言葉を、イーリスは強い語気でもって返した。今は自らのトラウマよりもウイバーンへの対処が重要だと感じているのだろう。責任感の強い彼女だからこそ。
「‥‥‥わかりました。ではグライダーの手配をしておきます」
「ウイバーンは一筋縄では行かない相手だと思う。それだけでも大変だが‥‥できればローブの男から情報を引き出したいとも思う。今回確認されているのは一人だが、他にも仲間がいるようだしな」
 だがもしウイバーンの要求が男の始末だとしたら?
「説得が通じるかもわからぬ。いっそのこと、頭から退治のつもりで作戦を組むべきか‥‥」
 イーリスはカウンターに肘を突き、額に手を当てるようにして考え込んだ。

●貸与ゴーレム
・ゴーレムグライダー5機

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3443 ギーン・コーイン(31歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●皆の思い
 できることならウイバーンを倒すことなく穏便に済ませる――それが冒険者達の出した結論だった。最悪の事態――ウイバーンを退治しなくてはならない事になるかもしれないというのも考えてはいるが、やはりできる限り穏便にことを済ませたいもの。これまで精霊に対してはよほどの事がない限り、説得でやってこれたのだから。
「捨て置けって言われても、そんなこと出来ないよ。空はワタシ達に任せて! イーリス達にはローブの男を任せるから!」
 安心させるように手を握り、言うフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)に、イーリスはかたじけない、と頭を下げる。
「イーリスさん、捨て置け、なんて悲しいこと言わないで下さい。槍を使わない方法を思いつけなかった、わたくしたちが悪いんです」
 うなだれたままイーリスに声をかけるクリシュナ・パラハ(ea1850)。イーリスは彼女の頭をくしゃ、と撫でる。
「気にすることはない。皆が私の為に色々思案してくれた事、感謝している。今回の作戦にグライダーが必要だということ、それは私も良くわかっている。大丈夫だ」
 そう、今回はウイバーンへの対処と共に謎の男に対する対処も求められている難しい作戦だ。個人の都合がどうこういっている場合でもない事、騎士である彼女は良くわかっていた。それでも、自分のことを考えてくれる者がいることを嬉しく思って。
「イーリス様の視界に槍が入らぬように、大柄なわたくしが目隠しとなりましょう」
「‥‥すまぬ」
 シャクティ・シッダールタ(ea5989)の言葉に、感謝してもし足りない、とイーリスは再び頭を下げるのだった。


●序戦
 今回の作戦は空中班がウイバーンを押さえている間に地上班がローブの男を押さえるという作戦だ。
「足による爪と尾についている毒針が攻撃手段らしい」
「尾の毒には要注意だね。掠っただけでも命取りだもん」
 グライダー搭乗準備をしている龍堂光太(eb4257)の言葉に、グライダーランスを取り付けながらフィオレンティナが答える。
「話し合いで済めばいいんですけどね」
 同じくグライダーに搭乗するスレイン・イルーザ(eb7880)が呟いた。それは皆が思っている願い。
「可能ならできるだけ穏便にことを治めたいな」
「エシュロンもトッドローリィも、穏便に済ませられたんです。彼らだって本当は傷つけたくないんですよ」
 光太の言葉に、一般兵の乗るグライダーの後ろに乗り込んだクリシュナが、思いつめた様子で返す。そう、穏便に事を済ませたいと願わぬ者はいない。故に、彼らは空中班として時間稼ぎをするのだ。
「行こう」
 スレインの言葉に一同は頷くと、グライダーに精霊力を集めて浮かべ始めた。


「黒ローブの男が何を企んで動いているか判りませぬが。風精龍の怒りを鎮め、村の安寧を護らねばなりませんね」
「この男っちゅうのはカオスの魔物に連なるもののようじゃなぁ。こりゃふん捕まえて、事件についてキリキリ白状させにゃならんの」
 空中で気短げに暴れまわるウイバーンを見て、ルイス・マリスカル(ea3063)とギーン・コーイン(ea3443)は辺りを見回す。ローブの男はウイバーンの近くにいるはずだった。
「支倉に3つの村とその周囲について調べてもらった」
 ただの村のはずの3つの村近くに精霊とカオスの魔物が頻繁に現れるのはおかしいと考えた風烈(ea1587)は、出発前に支倉純也に村の伝承などを調べてもらっていた。すると少しばかり興味深い事実が発覚したのである。
「数年前だが3つの村で一時期、異端信仰が若者の間で流行ったという。異端信仰を続けた者達は、それぞれ村から追放されたとか」
「異端信仰‥‥ですか?」
 烈の言葉にシャクティが首を傾げる。この地には宗教は根付いておらず、深く根付いているのは精霊信仰。その異端というと――
「カオスの魔物信仰か‥‥」
 呟いたイーリスの言葉に、ある者は目を見開き、ある者は渋い顔を見せた。烈が否定しないということは、その通りなのだろう。
「そしてその追放された者達らしき者が、3つの村の中心にある小さな森――その付近で見かけられているとか」
「では、そこが彼らのアジトという可能性も?」
 問うたアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)に、「今の所推測に過ぎないが」と烈は返す。だがこれから男を捕まえて話を聞けば判ることだろう。そのために空中班が時間稼ぎをしてくれているのだ。
 ウイバーンに近づくグライダーを一度見上げ、一同は顔を見合わせて頷く。そして注意深く辺りを見回しながら、ウイバーンの飛んでいる真下辺りを動き回る。空中班がウイバーンの気を引いてくれていなかったら、速攻ウイバーンの攻撃を受けていただろう。だが彼らのおかげで安心して探索が出来る。しかし時間は無限にあるわけではない。

 サッ‥‥

 大樹の陰、翻るマントの裾が見えた気がした。
「あそこじゃ!」
 ギーンが叫ぶ。それとどちらが早いか、烈やシャクティなど素早い者が逃がしてなるものかと駆け行く。他の者も後ろを封じるべく、駆けた。
「(わたくしたちの為に刻を稼いでくださっている、その刹那を無駄には出来ません。ええ、無駄には致しませんとも)」
 いち早くローブの男に追いついたシャクティが、その襟首を掴んで引き寄せる。今度は男がバランスを崩した隙にその胸倉を掴み上げ、地面にたたきつける。
「ぐあっ!」
 背中を打ちつけ、呻き声を上げる男。その退路を断つように烈はペガサスに触れながら立ちはだかる。他の仲間も順次追いつき、男を囲んで見下ろす形になった。
「さて、何故逃げるのでしょうか? 何が目的か、お聞かせ願えますか?」
 ルイスがホイップ片手に落ち着いた声色で、男に質問を投げかけた。


●説得
 炎を纏ったクリシュナが、ウイバーンの周りを飛び回る。格闘に秀でていない彼女の攻撃はウイバーンに当たることはなかったが、元より牽制が目的だ。
 スレインのグライダーが二体のウイバーンの攻撃を華麗にかわし、隙を作る。
「君達が怒っている理由を聞かせて!」
 フィオレンティナが機体を操りながら大声で叫んだ。
「無条件で危害を加えようと考えているわけではない。言い分があれば聞く!」
 光太も大声で叫んだ。するとウイバーンの巨大なその身体が、ぐるりと二人の方を向く。
『理由‥‥? 判らぬのか? こんなにも、この地にはカオスの魔物が蔓延っているというのに!』
『カオスの魔物を奉じる輩が目障りだ! 我々の住処をカオスの魔物に侵させるなど!』
「カオスの魔物を倒せば、怒りは収まるのですか?」
 旋回してウイバーンに近づきながらスレインが問う。しかしウイバーンは翼をはためかせながら、どうも落ち着かない様子で。
『あのローブの男がカオスの魔物を奉じている。あの男を殺せ!』
 イライラするようにぶんっと振りぬかれた尾をフィオレンティナは機体を傾けてかわす。あくまでこちらから攻撃することはしない――まだ。ふと地上を見れば、地上班が男を取り囲んでいるようだった。
「あの男だけ倒しても、何にもならないよ!」
「他の精霊は命までは望まなかった。今後同様の事件が発生することを防ぐ為には、男を締め上げて情報を吐かせて、一味を全て捕えなくてはならない!」
 フィオレンティナと光太はウイバーンの攻撃をかわしながら説得を続ける。クリシュナはその二人の手助けとなるように、空を飛びながらウイバーンの牽制を続けた。
「他の精霊にも、同じ様な苦しみを味あわせても良いのか?」
「大元を断たねば、不快感は収まらないだろう!」
 出しうる限りの大声を発し、光太とスレインが訴える。するとウイバーンは二体とも考えるように動きを止め、しばしの間グライダー達を見つめた。
『同胞達も同じ苦しみを味わっている。これ以上同胞達を苦しめてなるものか!』
「だったら‥‥」
『お前達に、あの者達を壊滅させることが出来るのか? カオスの魔物の蔓延を止めることができるのか?』
 光太の言葉を遮って紡がれたのは、威圧的なウイバーンの言葉。ウイバーン達もわかっているのかもしれない。眼下にいるあの男だけを倒したとて、この不快感が収まらないということを。
「約束するよ! だから、私達にもう少しだけ時間を頂戴!」
 フィオレンティナはウイバーンの爪も尾も恐れずにその機体をウイバーンに近づけた。自分の真剣な瞳が、彼らにも良く見えるように。
 ウイバーンはそれまでイライラを跳ね飛ばそうとするかのように暴れていたが、彼女の接近を拒むことは無かった。

 かくして風精龍は――


●問答
「答えぬか」
 ギーンがオーラパワーを宿したハンマーを男に突きつける。だが男は上体を起こしたものの、きつい瞳を冒険者達に向けたままきっと口を引き結んでいる。
「‥‥‥」
 烈はちら、と指に嵌めた石の中の蝶の反応をみた。蝶の羽ばたきは、ない。どうやらこの男自身はカオスの魔物ではないようだ。
 男が懐に手を入れた。その手を引き抜き様、ナイフの刀身が光を反射して――だが男の手はそれ以上動くことはなかった。シャクティのコアギュレイトが男を束縛したのだ。
「答える気はなさそうですね」
 アルトリアが男に近づき、その手からナイフを掴み取る。
 6分、待った。コアギュレイトが切れる。すると男は立ち上がって逃げようと――そこをルイスのホイップが絡め取った。
「大人しく白状すれば、無闇に傷つけたりはしない」
 石の中の蝶の反応で相手がカオスの魔物ではないとわかったところで、烈が言葉を投げかけた。すると男はそれまでとは打って変わった明るい調子で口を開き始めたのだ。
「君達もカオスの魔物の力を知ってみるといいんだ。今なら僕達の仲間にしてあげるよ。素晴らしいんだよ、カオスの魔物は。魂を捧げれば、素晴らしい力を貸してくれる。ほら、君たちも力が欲しくないか――」
 その勧誘じみた言葉はシャクティのビンタによって途切れた。これ以上聞きたくない、と手を上げようとしていたイーリスの手は行き場を失って宙に上げられたままだ。
「申し訳ありません。これ以上この男の戯言を聞いていたくはなかったものですから」
 力の込められたビンタで気を失った男を見て、シャクティが謝罪する。だが誰も彼女を責める者はいない。あれ以上聞いていたい者も、あの勧誘に靡く者もこの中にはいないはずだから。
「この男はこのまま捕えておくとしましょう。どうやら空の説得も上手く行ったようです」
 ルイスの言葉にイーリス以外の一行は空を見上げる。滞空する三機のグライダーとクリシュナ。そして去ってゆくウイバーン。
「さきほどの情報とあわせると、黒外套の男達の正体がわかりかけてきたという感じじゃな」
 ギーンは烈が純也に調べてもらったという情報と、男が口にした情報を頭の中で照会する。
 恐らく男達はカオスの魔物を信奉する集団なのだろう。魂を捧げるという契約を行っている者もいるようだ。
 後はウイバーンがどう言っていたか――こちらへ向かって高度を下げてくる空中班との情報交換をすれば、かなりの情報が出揃うだろうと思えた。