暑さに負けない為の、簡単な方法

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月18日〜06月23日

リプレイ公開日:2008年06月25日

●オープニング

●6月のお祭り
 6月に行われる祭りとしては『夏祭り』と『シーハリオン祭』とある。
 今回は『夏祭り』の方へ焦点を当て、とある村で毎年行われている祭りを紹介しよう。
 暑い地域であるメイは、この時期すでにそれなりに暑い。
 慣れているといえば慣れているのだろうが、慣れているからといって暑さ負けしないというわけではない。どうしても暑さに負けて、いわゆる夏バテになってしまう人もいる。
 この村の夏祭りは、その夏バテをどう回避するか、それを考えたのが発祥の由来だという。
 その考えとは

 沢山食べて沢山飲むこと。

 至ってシンプル。

 そう、ここまで言えば冒険者諸氏もおよそ見当がつくかもしれないが、この村の祭りのメインは『大食い』と『大飲み』だ。
 大食いは軽く炙ったパンに薄い塩漬け肉と葉野菜を乗せたもの。それを幾つ食べられるかを競う。
 大飲みはエールとハーブティとの2部門で行われる。どちらも勿論沢山飲んだ人が勝利だ。

 さて今回冒険者にやってもらいたいのは祭りを楽しむこと、はもちろん。
 大食い大会用のパン作りの手伝いに、大飲み大会で飲み物を地球の「わんこそば」の如く空になったカップに注いでいく係、そして大会参加者とその応援。
 大会に参加して競技を盛り上げてもらうのは勿論、手伝いもいたく歓迎される。
 その代わり提供される賃金は少ないが、もしかしたら何か現物支給があるかもしれない。
 大会で優勝すれば、何か商品が出るらしいとか。
 とにかく冗談のように見えても、村人達にとっては夏を乗り越えるための大切な祭りだ。他にも何か気がついたことがあれば積極的に意見を出してもらいたい。


「へー。大食いかぁ。あたしも参加しようかな?」
「種族でのハンデはつかないようですよ?」
 張り紙を見て行く気満々のチュールに、純也が苦笑して話しかける。
「むぅ、シフールには不利かなぁ。でもやってみないとわからないじゃない?」
「挑戦するのは良いことですけれど‥‥おなかを壊さないようにしてくださいね」
 食べ過ぎ飲み過ぎで倒れている彼女が容易に想像できて、純也は苦笑を隠せないのであった。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec5029 イキ・ショウ(27歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec5050 アルベルト・ユッカ・ペッカ(34歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

ルディ・リトル(eb1158

●リプレイ本文

●夏の思い出
 6月――メイではもう夏である。
 陽精霊の光も強くなり、雨季を前にして蒸し暑い日々が続いている。そんな日々が続けば、暑さに身体のついていかなくなる者も出てくるのは当たり前で。この村ではそんな暑さ負けを吹き飛ばすための夏祭りが行われていた。
 たまには難しいことを考えずに楽しむのもありだ、と数名の冒険冒険者達がその祭りに参加している。
 祭りのメインは大食い大会と2種類の大飲み大会だが、今回はその他に急遽設置された大きな掲示板が目を惹いていた。急遽、村にあった木材を使って立てられたその掲示板には『あなたの夏バテ回避法を教えてください!』と大きく書かれたメモが貼り付けられていた。これはソフィア・ファーリーフ(ea3972)の提案で立てられたものであり、アプト語で書かれてはいるが識字率の低いこの世界、村内ではアプト語を初めとして文字を読める者が殆どいなかったため、事前にこの掲示板の趣旨を村人達に教えて回った。
「私は『暑い時の水分補給に、熱いハーブティーを』ですね」
 ソフィアが声に出しながらメモに書き付けていく。すると掲示板を物珍しそうに眺めていた村人達から次々と手が上がった。
「薬草を漬けた湯を浴びるなんてのをやってるよ!」
「早寝早起きの規則正しい生活が一番じゃないかねぇ」
「ちょっぴり贅沢して取れたての新鮮な魚を食う! 美味いぞ」
「贅沢といえば辛い香辛料よ。あれを使った料理を食べれば、汗が沢山出てすっきりするわ」
 次々と上がる声を、涼しげなサマーローブに身を包んだシルビア・オルテーンシア(eb8174)とソフィアが手分けして順番に記していく。
「お嬢ちゃん、これをちょっと読んでくれんかねぇ」
 書き記すだけでなく代読も頼まれて、てんてこ舞いだ。


「うわぁ、さすがに凄い量ですね」
 大食い大会用に用意されたパンと塩漬け肉、葉野菜の量を見て、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が驚きの声を上げる。これだけあれば予想通り、観光客に配る分も出そうだ。
「お嬢ちゃん、かわいい格好しているねぇ」
 ベアトリーセの着ているのは、きりりとした柴犬の描かれた浴衣だ。こちらの世界では珍しい格好だろう。自然、皆の注目が集まる。
「見た目にも涼しくて、夏祭りに丁度言いかと思いまして。さて、ガンガン働きますからね♪」
 浴衣の裾を翻しながら、村娘がよたよたと危なげに持っていたハーブティのトレイを彼女は受け取り、力仕事のフォローに回る。
「いい匂いがするな」
 風烈(ea1587)が目を留めたのは操群雷(ea7553)が豪快に火あぶりにしている豚一頭。刻んだハーブが刷り込まれており、たまに火の上に垂れてじゅわっと音を上げる肉汁の香りがたまらない。
「脂滴るミディアム・レアーアルよ。食べてみるアルか?」
 そのままナイフでそぎ落とした一切れをありがたく受け取った烈は、火傷に気をつけながら口に放り込む。じゅわっと口内でハーブの香りと脂が広がり、なんとも食欲をそそる。
「これなら何個でもいけそうだな」
 大食い部門に出るつもりの烈は前日の夜から食事を抜くという徹底ぶりだ。肉を放り込まれたすきっ腹が催促するようにぐぅ〜と鳴る。
「あはは、もうすぐはじまるんじゃないかな〜。準備も整ってきたし」
 ハーブティ用のお湯を沸かすフォーレ・ネーヴ(eb2093)がその音を耳ざとく聞きつけてくすくすと笑った。
「チュールさんは大食い部門に出ることにしたのかな?」
「うん。頑張って食べるよ〜!」
 フェリーナ・フェタ(ea5066)の問いかけに、横でフワフワ飛んでいたチュールがガッツポーズを作る。
「じゃあシフールさんでも持ちやすいように、小さめの一口サイズの物をたーくさん作っておくね」
「やったー、フェリーナありがとうっ! これであたしにも優勝が見えてきた!?」
 普通サイズのものではシフールには大きすぎる。人間の一口サイズであればシフールでも持ちやすいが、だからといってシフールに有利になったわけではないのだが、その心遣いが嬉しいと喜ぶのが約一名。まあ彼女らしいといえばらしい。
「そろそろ大食い、大飲み競技を開始しますー!」
 司会役らしき青年が大声で村の中に触れて回る。特設ステージ(といっても簡易なものであるが)周りには出場者と競技の観客達が集まりつつあった。
「余り自信はありませんが、できる限りガンバリマス」
 少々緊張気味なのだろうか、大食い部門に参加希望のアルベルト・ユッカ・ペッカ(ec5050)が自分を励ますように呟いた。


●大会開始!
 まず開始されたのはハーブティ部門。やはりノンアルコールという事でか、女性やお年寄り、そして子供まで幅広い参加層だ。レモンバームやホアハウンド、レッドクローバー、キャットニップなど飽きの来ないように色々な種類のハーブティーが用意されていた。中には風邪や解毒に効くものもあり、この大会が健康への実益も兼ねているという事が良くわかる。
 ハーブティ部門に参加をするシルビアは、その中から自身の植物知識を用いて利尿作用の少なそうなものを選び、尚且つ飽きの来ないように数種類を選択した。
「それでは、はじめっ!」
 どんっと太鼓代わりに桶の底が叩かれ、参加者は一斉にカップに入れられたハーブティを飲んでいく。予め一定量が用意されているということで、ティー自体の温度は大分下がっていたが、それでも夏に飲むのには暖かく、じんわりと汗が染み出てくる。発汗を促して体温調節をするという意味では、一番趣旨に叶った種目かもしれない。
 最初こそ次々に空になっていくカップに、重いポットを持ちながらあっちへ注いで、こっちへ注いでを繰り返していたベアトリーセだったが、用意されていたお茶が底をつき、大会中に新たに沸かされたお茶が給仕される頃になると参加者のカップを持つ手も重くなっていく。カップが空になると次を告がれる前に手で蓋をしてリタイアを示す者、途中でトイレに立ってそのままリタイアする者が続々と現れる中で、ゆうゆうとまだ飲み続けているのはシルビア一人。鎧騎士として鍛えた身体とハーブを選択する薬草知識は伊達じゃないという事だろうか。
「おお、シルビアさんが一番‥‥かな?」
 挑戦者の飲んだ量を記録していたフォーレが、記録と挑戦者の顔を見渡す。
「残ったのは私だけ、ですか」
 シルビアはカップをテーブルに置き、周りを見渡した後観客に向けてにっこりと微笑んだ。その笑顔に観客から祝辞と歓声が上がる。
「シルビアさん、おめでとう」
 フェリーナの用意した花冠が、シルビアの金色の髪の上にふわりと乗せられた。


 続いて行われるのは大食い部門。出場者は烈とアルベルトとチュールの他に村の中でも体格のいい男性が数人。明らかに場違いなのはチュールなのだが、村の子供たちから「妖精さんがんばってー!」などといわれてニコニコ手を振っている。
「それでは、はじめ!」
 号令と共に、目の前に置かれたパンを貪る諸氏。一目散に口に突っ込み、おかわりを頼んでベアトリーセや給仕の女性をわたわたさせる参加者の中で、烈は口の中がパサパサになった時に備えて水を片手にペースを変えぬようにパンを口へと運ぶ。
「どれどれ‥‥結構美味しいですね、このパン」
 余裕なのか、アルベルトはしっかりとパンの味を味わっているようだ。今年は特に塩漬け肉だけでなく群雷の用意した特別な豚肉も使われていることから、味わってしまうのも無理は無い。
「んぐ‥‥もぐ」
 チュールは両手にパンを抱えるようにして、なんとかそれを頬張っている。一個食べるのに他の人の4倍は掛かっている気がするが、それは仕方があるまい。
 暫くすると、村人達の手が止まり始める。スタートダッシュで詰め込んだせいか、だんだんとペースが落ちてきているのだ。対する烈は水を時々口に含みながら一定の速度で食べ続けている。
「(単純だが、単純だからこそ真理が隠れている事か)」
 手の止まっていく村人達を見渡す余裕もまだある。だが同じく手が止まっていないのはアルベルトだ。
「‥‥う、そろそろ苦しくなってきたかもしれません」
 そんなことを言いながらも、彼はのんびりとしたペースでパンを口に運んでいる。
「くっ、あんたもやるな」
「応援してくれる人がいるから‥‥頑張らねば。途中で投げ出しては騎士の名折れです」
 気がつけば、烈とアルベルトの一騎打ち状態になっていた。え? チュール? 彼女は早々にリタイアして、フェリーナの用意した日よけの下の椅子に横になっている。
「‥‥介護要員って、暇な方が本当はいいんだよね」
 チュールの他にハーブティ部門で飲みすぎた人達に板切れでパタパタと風を送りながらフェリーナが呟く。
「そうだねー。でも次のエール部門が一番忙しくなるんじゃないかなー?」
 同じく介護場所で水にぬらした布を村人の額に乗せながら、フォーレがカラカラと笑った。
「これが今あの二人が食べているパンです。美味しいですよ。試食どうぞ」
 給仕も落ち着いてきたところで、ベアトリーセは一口サイズに切ったパンをトレイに乗せて観客席を回っていた。
「美味しいと思ったら、来年も遊びに来て下さいね☆」


 介護場所で、一回り小さくなった花冠を手にした烈とアルベルトが横になっている。
 結局二人同時にギブアップしたため、勝者二人となった大食い部門。用意されていた花冠は一つだったため、急遽二つに分けて作り直したのだった。
「お二人とも、お疲れ様でした」
 花冠を頭に載せたシルビアが、くすくすと笑いながら二人の健闘を称える。
「さあ、そろそろ始まるね」
 特設ステージにはソフィアに群雷、村のおじさんやどうやら旅人らしいドワーフもスタンバイしている。ベアトリーセはやることが沢山で汗をかきながらも給仕の為に参加者の後ろに控え、フォーレは飲んだ数を記録する記録係としてステージ前に控えていた。
「相手が誰だろうと負けるつもりはナッシング!」
「‥‥ライバル?」
 気合を入れたソフィアを横目で見てフッと笑った群雷。
「ソフィア小姐を軽んじるツモリはナイアルが、今回のワタシの対峙すべき目標は酒ソノモノ」
 二人とも、気合十分である。
 号令と共に一気にカップが傾けられる。
「エールには夏バテ負けないゾ精霊が宿っているから、これで夏は勝ったも同然ですともさー」
 すでに酔っ払い口調のソフィア。対する群雷は黙々と飲むことのみに意識を傾けているようだ。村人達は半分雑談をしながらカップを傾けている。大飲み大会というよりは宴会に近くなってきている気がするが――中に一人だけ、群雷と同じ様に黙々と飲み続けている男がいた。そう、旅人のドワーフだ。
「(あの男‥‥けっこうヤルアルね)」
 群雷がちらっと男に目を向けると、男も同族として群雷を意識していたのか、ぱちりと目が合った。二人とも酒好きのドワーフとして負けるわけにはいかないと思っているのだろうか。
「うまぁー、しやわせですともさー。う〜ん、おつまみが欲しいでつね」
 そんな中、ソフィアは観客に配られている大食い部門のパンを所望する。こちらも大飲みというより宴会だ。
「ソフィアさん、酔ってます?」
「だじょーぶ、わたひはまだじぇんじぇんちーっとも酔ってないれふよ?」
 パンの乗った皿をソフィアの前に差し出したベアトリーセ。返ってきた言葉はまさに酔っ払いそのものだ。ソフィアはぐぐいっとエールをあおり、ぷはーっと息を吐き出す。酔っ払いほど自分の事を「酔っていない」というようだが、まさに今の彼女がそれだろう。
 そのうちに、酒を注ぐ係は群雷と旅人のドワーフにつきっきりにならざるを得なくなった。二人とも顔色はまったく変わらないが、周りの倍以上はすでに飲み干している。
「すごいな、二人とも」
「ええ」
 救護場所から烈とアルベルトもその勝負の行方を見守る。
「あ、ソフィアさんが」
 酔いが回ったソフィアが、パン片手にこっくりこっくりと船を漕ぎ出した。
「救護へ一名様ご案内です」
 ベアトリーセが村人と一緒にソフィアを救護場所に連れてくる。烈とアルベルトが避けて出来た場所に寝かされた彼女は、エールを浴びるほど飲んでご機嫌なのだろう、笑みを浮かべながらすーすーと眠っていた。
「戦況はどうです?」
「うーん、二人ともどっこいどっこいかな?」
 シルビアが記録をつけているフォーレに尋ねた。フォーレはメモと飲み続けている二人とを見比べる。すると給仕係の女性が大きく腕で×印を作った。何事かと思ったら、どうやら用意していた酒が全部なくなってしまったらしい。
「えー、用意していたお酒が全部なくなってしまったため、ここまでの飲酒量で勝敗を決めたいと思います」
 ステージ上では酔っ払って良い気分になった村人達が、すでに勝負を放棄してわーわーと盛り上がっている。
「えーっとねぇ」
 記録係のフォーレが自身の記録を確認する。さて、勝ったのは?
「わ、すごい、一杯差で群雷さんの勝ちー」
 おおー!! と観客から歓声と拍手が飛ぶ。
「酒の残量が尽きナけれバ、マダマダ勝負はわからなかったアルね」
 勝者の印、花冠を乗せてもらった群雷は、健闘した同族の男に握手を求めた。
「良い勝負をさせてもらった」
 そのドワーフもまだまだ余裕があったようで、しっかりした足取りと瞳で差し出された群雷の手を硬く握り締めた。


 この後は村の婦人達が用意した料理やジュース、ハーブティで和気藹々と盛り上がる。
 夏バテ解消方法の掲示板も大盛況で、アプト語の知識がある者は代筆や代読に追われた。
 来年、この場所で再び「昨年ここで教えてもらった方法で‥‥」とか「昨年の料理の味が忘れられなくて」などの会話が行われるだろうかと考えると、自然と笑みが浮かんでくる。
 各部門参加者には賞品が贈られ、手伝いをした者達にも村から僅かばかりだがプレゼントが贈られたという。
 さて、来年は誰が優勝するのだろうか?