その筆遣いに、愛と希望を込めて
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月28日〜07月03日
リプレイ公開日:2008年07月06日
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●オープニング
●祈りの
宮廷絵師の部屋に呼び出されたギルド職員は、そこに広げられた大きな布に目を丸くした。ごちゃごちゃした小物や作画用品、家具などは部屋の隅に置かれるか別室に移されているのだろう、部屋中に大きな布が広がっている、そんな状態だ。
どうやらこれはキャンバスにするための布を縫い合わせ、大きいサイズにしたものらしい。布の下には顔料の裏写り防止の為に板が敷かれているのだという。
「これは‥‥巨大なキャンバス、ですか?」
「ええ。頼まれた品なのです」
「こんな巨大なものを頼むなんて、一体‥‥」
まだ真白いその布をぐるりと見渡した職員の呟きに、ファルテはにこりと微笑んで答えた。
「リンデン侯爵家からです。雨乞いならぬ『晴れ乞い』だそうで」
「晴れ乞い、ですか」
メイディアから北上した位置にあるリンデン侯爵領では、謎の長雨が続いているという。長雨に付随する災害や、津波などの水害も出ているということから、侯爵家は領内のその対応に追われているらしい。
「天からの恵みである雨も、無くては困りますし‥‥けれども続けば続いたで害となりますからね」
この大きな布は絵が完成した後リンデンへ運ばれ、主都アイリスに飾られるという。予期せぬ長雨続きで精神的に参っている人達を癒す、そんな役目も求められているとか。
「ところで、何故冒険者を雇おうと?」
「この大きさ、私一人で描いていたらいつ終るのか見当がつきませんから。お手伝いと‥‥あとはアイデア出しをしていただこうと思いまして」
まず何を描くかを決める。絵が利用される主旨から考えて、希望を与えるようなものが相応しいだろう。大きなキャンバスだ、複数のモチーフを描くのも良いと思う。
その後、木炭を使い下書きをする。間違った部分はパンを使って消していけば問題ない。
そして使用する顔料を砕き、卵と混ぜて絵の具を作る。顔料の中には鉱物を利用するものもあるから、案外力仕事になるのが難点だ。
最後に、下書きに合わせて色を塗っていく。時折全体を見渡すために、椅子の上など高い位置からキャンパスを見下ろした方がいいだろう。
「美術の知識のあるなしは問いません。手伝い方にも色々ありますから。冒険者さん達の方が色々な事を見てきているため、素晴らしいアイデアを提供してくださるのではないかと期待しています」
ファルテは「御礼は勿論しますから宜しくお願いします」、と頭を下げた。
●リプレイ本文
●製作会議
宮廷絵師の部屋には大きな布が広げられている。近くで見ると継ぎ目らしい部分が目に付くが、きっとこれだけの大きさを壁などに貼り付けて遠くから見れば、それほど気にならないのだろう。
「うわぁ〜大きいねー」
この巨大な布を作るだけで相当大変だったのではないかと思いつつ、フォーレ・ネーヴ(eb2093)は巨大なキャンパスを見回す。
「まっこと、どデカイ絵になるようだの!」
トンプソン・コンテンダー(ec4986)が感心したように声を上げたあと、「皆の衆、わしのことは気さくに『トンちゃん』と呼んで欲しいぞな」と言って皆に挨拶を済ます。
「ファルテさん、お久しぶりじゃのぅ」
「こちらこそ、いつもお世話になっています」
ぱたぱたと羽を羽ばたかせて寄ってきたトシナミ・ヨル(eb6729)にファルテはにっこりと笑顔を返した。
「おお、これは美人の絵描きさんですの〜。握手あくしゅ〜」
と、ファルテの笑顔につられて寄ってきたトンプソンをトシナミはひらりと避ける。お見事。
「宜しくお願いしますね、トンプソンさん」
「『トンちゃん』でよいぞな」
握手を交わし微笑むファルテ。暫くの間躊躇った後
「それでは『トンちゃんさん』で」
とおっとり微笑む。うん、彼女はいわゆる「天然」なのだろう。
「力仕事ではお役に立てると思います。素晴らしい絵が出来上がると良いですね」
頑張りましょう、と差し出されたアルベルト・ユッカ・ペッカ(ec5050)の手を握り返し、ファルテもそうですね、と頷いた。
まずはモチーフ決めである。
今回の主旨は「晴れ乞い」。雨の降り止まぬ地にて人々に希望を与える為の絵画の作成だ。通常は絵師を現地に招いて描かせることが多いのだが、おそらく晴れた地で描かせた方が効果があるかもしれないという微かな希望に縋りたいところなのだろう。作成はメイディアの宮廷絵師の部屋で行われる。
「まずは皆さんの案をお聞かせ願いたいと思います」
部屋の端っこ、キャンバスが大きいこともあって端に寄せられてしまったテーブルの上にはハーブティの入ったカップと僅かながらお茶菓子が置かれ、製作会議が始められた。
「私は澄み渡った青空がいいかなーって思うよ。やっぱり晴れた空は欠かせないかなって」
「自分も、晴れた空や陽精霊などが良いと思います」
フォーレの意見を聞き、律儀に挙手をして答えるアルベルト。
「リンデンといえば最近何かと騒がしいとこじゃろ? えらいべっぴんの歌姫さんが晴れ乞いの儀式とかしとったはずじゃぞ」
「お詳しいですね」
ごくりとハーブティーを飲み干したトンプソンのカップにおかわりをつぎ込みながらファルテが微笑む。
「毎日毎日雨がざんぶと降っとるんじゃ、民も気が落ち込むぞな。わしは明るい色で青空の中、暗雲を打ち破り、陽精霊が燦然と輝き地上に降臨する感じがええの〜」
「陽精霊を象徴するという意見はわしも同じじゃのぅ」
シフール用にと用意された小さなカップでハーブティーを飲みながらトシナミが頷く。
「陽精霊を象徴する太陽の様なものを天上に抱いて、周囲を皆の衆が取り囲んで祀り称えるとかのぅ」
「太陽‥‥ですか?」
トシナミの言葉にファルテとアルベルト、そしてトンプソンが不思議な表情をする。そうだ、アトランティスには太陽は存在しないのだった。代わりに陽精霊が輝いている。
「そうか、太陽じゃ伝わりにくいかのぅ。ではこっちは友人の案なんじゃが‥‥人々の願いにより、陽精霊だけでなく他の精霊たちも協力して光を取り戻すようなモチーフはどうかのぅ。色合いは、見た方々が元気になるような明るめの色彩がよいかと」
「そうですね、陽精霊と光、青空は決定でしょうか。後他の精霊となると、火、水、風、地、月ですね‥‥これだけあれば、大分多様な色彩のものが出来上がりそうです」
どうやらファルテの頭の中では大体の構図が出来上がったようで。
「それじゃ、はじめよっか?」
お茶菓子をぽいっと口の中に放り込んだフォーレが、元気良く立ち上がった。
●作画
ファルテが木炭で下書きを始めている。騎士の嗜みとして美術をかじっているトンプソンも下絵描きに協力していた。
キャンバス右上辺りから降り注ぐ光を。その中に地上目指して飛ぶ陽精霊――エレメンタラーフェアリーの様な姿で描かれている――が。そして下方から、それを迎えるように手を広げて待ち受けている他の5精霊たち。そんな様子がだんだんと木炭で描かれていく。
「トンちゃん殿、その精霊はもう少し左側がよさそうじゃのぅ」
トシナミは空中から大きな絵の全体像を眺め、バランスを考えて指示を飛ばす。時折友人から借りたという『携帯電話』とやらの『カメラ機能』を利用して上から見た図を撮影し、下書きをするトンプソンやファルテに見せるのを忘れない。
「これは結構力が要りますね‥‥いつもこうして絵の具を作るのは大変でしょう?」
乳鉢と乳棒で絵の具の原料となる鉱石を砕きながらアルベルトがファルテを見る。鎧騎士の彼でさえ力がいる仕事だと感じるのだ。絵師達も大変苦労しているに違いない。
「そうですね‥‥時々、手伝っていただいたりもします。植物が原材料になっている時はそんなに力はいらないのですが」
額に浮かんだ汗を拭いながらファルテが答えた。
「ふーん、絵の具ってこんな風に作るんだねぇ」
アルベルトが砕いた鉱石、粉末状になったそれにフォーレが卵を加えて練る。そうすればどうやら顔料が完成するらしい。
今回沢山必要なのは勿論青。空の青にはウォードという植物が使われる。その代わり水精霊を現す青にはラピスラズリが使われる予定だ。他には赤や緑や茶色などそれぞれの精霊のイメージカラーに加えて、緑青やパールホワイトなどの高級顔料も使われる。
「結構砕きましたけど‥‥どうでしょう」
アルベルトが伺いを立てるが、ファルテは首を振る。どうやらこのキャンパスに必要な絵の具の量は相当のようだ。
「これ、リンデンまで運ぶのも大変そうだよね〜」
フォーレがウォードの青を抽出しながら呟いた。ただでさえ大きなキャンパスである。布であるからして折り畳みは可能であるが、絵の具が載るとなると相当な重量になるのが想像できる。
「トンちゃんさん、そちら側から空を塗っていただけます?」
「わかったぞい」
ファルテから刷毛を渡されたトンプソンは、左側から青空を塗っていく。ファルテはその間に右側から青空の着色に掛かった。
「少しはみ出してるのぅ」
「なにぃ!?」
空中から見守るトシナミの言葉に慌てたトンプソンだが、ファルテの大丈夫ですよという言葉に胸を撫で下ろす。精霊の部分にはみ出してしまった青は、乾いてから別の色で塗りなおせばよい。
「筆遣いで微妙な濃淡を出せますから‥‥でも今回は技術よりも、気持ちが大切ですからあまり難しいことは考えずに」
フォーレはファルテの指示を受けて火精霊の赤を塗り始める。アルベルトは着色作業にかかる面々を見つめながら、次に必要な色の鉱石を砕いていた。
「友人曰く『強い想いは奇跡を起こす』そうぢゃ。完成した絵とそれに籠められた想いが見た方を元気付け、さらに天を動かす奇跡が起きたらよろしいがのう‥‥」
「それにはわしらが強い想いを込めなきゃならんぞな!」
「そうだね〜」
「頑張りましょう」
塗り始めてみれば存外その作業は楽しく、トンプソンもフォーレも夢中になって刷毛を動かしていた。アルベルトも想いを込めて鉱石を砕き続ける。
トシナミは度々上空からの全体図を撮影してファルテに見せ、それを確認した彼女が細かいところを修正する――そんな作業が数日続いた。色を重ねる部分は前の色が乾いてからでなくては乗せられぬため、乾きを待つ時間はこの絵を見た人々が喜んでくれるだろうか、希望を持ってくれるだろうか、そんな想像で会話が膨らんだ。
そして、完成した絵は――
青空から差し込む光。
光と共に地上に舞い降りようとする陽精霊。
そんな陽精霊を暖かく迎え入れる他の精霊たち――
暖かく、希望を抱かせる素晴らしいものに仕上がっていた。
これでリンデンの人達は希望を持ってくれるだろうか。
かの地の雨は上がるだろうか。
彼らの強い想いは、奇跡を起こすだろうか――?