追憶に生きる白花〜黒衣の堕者〜
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月03日〜07月08日
リプレイ公開日:2008年07月10日
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●オープニング
黒外套の男が暴れ狂うウイバーンの側で捕獲された。
彼が語ったのは、カオスの魔物の力の素晴らしさ。
魂を捧げれば素晴らしい力を与えてくれると。
そして何を思ったか、その男は冒険者達に「仲間にしてあげよう」と誘いをかけてきた。もちろん、その誘いに乗る者などいはしなかったのだが。
対してウイバーンが語ったのは、男たちがカオスの魔物を奉じている集団だという事。この地にカオスの魔物が蔓延しようとしているという事。
そして、それを止められるのならここは引こうと彼らは言った。
冒険者達はその集団を壊滅させてカオスの魔物の蔓延を止めてみせると、力強くウイバーンに約束したのだった。
そして冒険者が調べた情報で、男達のアジトらしき場所と素性が判明している。
数年前にリンデン侯爵領の南にある、ここのところ精霊が暴れて問題になっていた村周辺で、若者の間に異端信仰が流行った事があったという。
異端信仰――カオスの魔物信仰を続けた者達は、当然ながら村から追放された。
そんな彼らが3つの村の中心にある森付近で度々見かけられているのだという。その森に、「何か」があるのは間違いないだろう。
「今回は、その森を調査してもらう事になる」
イーリス・オークレールはギルドのカウンターで支倉純也に依頼内容を告げる。
森まではイーリスが用意した馬車でいけるが、森の中では徒歩になる。そして森の中に何があるのか、それは全く判らない。前回捕えた男は口を開けば勧誘ばかりで、ちっとも有益な情報を喋らないからだ。
「森には、村人達は普段立ち入らないらしい。だから森の中にモンスターがいないとも限らない。男の仲間を捕獲した事から、男の仲間達の襲撃が無いとも限らない。注意して欲しい」
「つまり、森の中がどうなっているのか全く見当がつかないということですね?」
純也の確認に、イーリスは重々しく頷く。何かあることだけはわかっている。常に警戒しながら進み、その何かを見つける必要が有るだろう。
仮にアジトらしきものが見つかったら、そのまま飛び込むか、今回は調査だけにするか――その辺の判断は任せる、とイーリスは言った。
いずれにしても、カオスの魔物を信仰している者達を野放しにしているわけにはいかない。話によればカオスの魔物から力を与えられている者もいるようだ。十分に注意が必要だろう。
●リプレイ本文
●出動
森。鬱蒼と茂っており、少し覗いたくらいではその内部を垣間見せない森。
カオスの魔物を信仰するという異端信仰者たちのアジトがあるといわれれば、なんとなくそれらしいなと思ってしまわなくもない。
馬車を降りた冒険者達とイーリスを含めた5人は、その森に足を踏み入れようとしていた。
今回の目的はあくまで「調査」である。敵のアジトに攻め込むには圧倒的に戦力が足りない。今回の調査でアジトの場所、敵の人数などできる限りの情報を集めたい。
「よーし、I・M・R、出動っス!!」
「参りましょう!」
クリシュナ・パラハ(ea1850)の威勢の良い掛け声に、可愛いメイドドレスを着用したシャクティ・シッダールタ(ea5989)が意気込んで頷く。二人とも「このままでは終われない」という強い意志を持ってこの依頼に臨んでいた。
決して多くはないが、しとしとと雨粒が降り注いでいる。森の中に入ってしまえば枝葉が屋根となってくれるかもしれないが――そういえばここは端っこではあるがリンデン侯爵領であったか。
「リンデンといえば摩訶不思議な事件が起こっているようじゃし、それに加えてカオス信仰とは、ここの所何かと不穏じゃのう」
主の命で、主や民を守る為に敢えて領地から離れて密偵がてら冒険者家業をしているというトンプソン・コンテンダー(ec4986)は、森と空とを見比べてうぅむ、と唸る。
「その摩訶不思議な事件を歌姫と追ってる親友には負けられねーっスよ♪」
カオスの魔物と戦っているという親友を思ったクリシュナは、ふと呟いた。
「‥‥しっかし、チチでけーっスよね歌姫」
「ふむ‥‥?」
その言葉を拾ったイーリスが、軽鎧に包まれた己の胸を見下ろし、そして真顔で。
「クリシュナ殿、女の価値は胸だけではないと亡き夫は言っていた」
「‥‥‥オクレねーさん、それ、旦那さんに怒ってもいいところだと思うっスよ?」
そうなのか? と不思議そうに問うイーリスに「まあねーさんが気にしてないならいいっスけど」とクリシュナ。
「ともかく、領内に異端信仰が広まったとあれば、領主殿が責を問われるやもしれません。ここは我々冒険者が内々に処理するのが最善かと」
帽子で雨粒を凌いでいるルイス・マリスカル(ea3063)の言葉。領主が責を問われる――そうなる前になんとかするのが己の仕事だと、イーリスは頷いて返した。
「世が平穏であれば、私の希望するような装いが出回る機会も増えると思いますの。その為にも、いかがわしい者ども達を退治せねばなりませんわ」
「とりあえず今回は、成敗の足がかりを掴みましょう」
シャクティはなんだか奥の方に別の目的を持っているようだが、通過点は皆と一緒。ルイスの言葉に皆で頷き、そして森へと足を踏み入れるのだった。
●探索
勝手知らぬ森の中で何処にあるとも分からぬアジトを探索する。しかも敵が何処から出てくるかすら分からない、そんな場合に頼りになるのはやはり森歩きに慣れた者と魔法。
森林に慣れているクリシュナがその良い視力に加えてインフラビジョンの魔法を使う事で、不意打ちされる事は避けられそうだった。加えてシャクティがバイブレーションセンサーのスクロールを使用すれば、ほぼ完璧といったところか。
「連中が村を追い出された後アジトを築いたのであれば、必要物資を運ぶのに踏み固められた『道』があるはずです」
ルイスはその『道』を見つけ出し、「おそらくこれが」と指し示した。確かに地面の草と土が踏み固められたような跡がある。
「クリシュナさん、シャクティさん、この先の反応はどうでしょうか?」
「そうっスね〜近づいてくる大きめな熱反応があるっスよ」
「その反応とは別に、もっと奥の方にいくつかの‥‥10前後でしょうか、振動が感じられますわ。根城でしょうか」
ルイスに問われて答えたクリシュナとシャクティ。近づいてくる反応が信奉者の一人ならば、なるべく接触は避けたいところなのだが‥‥。
「何用かあって森の外に出るところかのう? どうするぞな?」
進むことも考えて下枝や邪魔な草木を斧で狩っていたトンプソンが、護衛となるべく一歩前に出る。イーリスも同じ様に前に出て剣を抜いた、が。
「鎮圧を次回以降にするのでしたら、今回下手に警戒されるのはまずいでしょう。幸いまだ森の入り口、外に出てやり過ごす事にしましょう」
「そうですわね。慎重に参りましょう。無用な荒事を起こしては、私達の存在を他に明かしてしまうも同然です」
ルイスとシャクティの理論に「なるほど、わかった」と返してイーリスは剣をしまう。トンプソンも了解を示して頷いた。
「出るなら急ぐっスよ、かなり近づいて来てるっス」
使用魔法をバイブレーションセンサーに変えていたクリシュナが、小声で、だが切迫した様子で一行を促す。
なるべく音を立てぬように、だが急いで一行は一度森から出たのだった。
●発見
森から出てきたローブの男をやり過ごし、一行は再び森の中へと入った。勿論警戒は怠らない。
「しかしまっこと情けない連中であるぞなもし! 安易に力なんぞ欲して、いかがわしい風体でフラフラするでないぞな」
草をなぎ払いながら進むトンプソンの言葉は怒りよりも嘆息に近い。自分の領地にこんな情けない者達がいたらどうしてくれようか。
「先に捕えた者の様子からするに、改悛の余地無き狂信の徒のようですしね」
「不快な輩でしたわ」
先日信奉者の一人を捕えた時の事を思い出し、ルイスとシャクティが溜息に似たものを漏らす。
「おっとオクレねーさん、そこちょっと待つっス。罠があるっぽいっス」
「む‥‥? 済まぬ、そういうことにはとんと疎くてな」
自身の能力を存分に生かすクリシュナの静止で立ち止まったイーリスには、どれが罠でどれが自然の木々なのかはわからない。戦うことしか出来ない己を少しばかり情けなくも感じて。その戦いでさえ、槍への恐怖という足枷があり、存分にできるとは言いがたいのだから。
「人には適材適所というものがありますわ」
そのイーリスの表情を見て取ったのか、シャクティが優しく説く。罠を解除しながらクリシュナも口を開いた。
「そーっス。こういうサポートがわたくしの仕事っス。その代わり、戦いとかはお任せするっスよ」
「今回のわしのようにゴーレムに乗らん鎧騎士なんぞただのファイターじゃしの。じゃがそれはそれで出来る事があるぞなもし」
「む‥‥そうだな。それではサポートは存分に任せる」
納得したように頷き、イーリスは微笑んだ。居場所をくれる仲間たちに感謝しつつ。
「見えましたね。これ以上近づくのは危険かもしれません」
『道』を通って慎重に進んできた一行は、小さな泉の側に二軒の小屋が建てられているのを発見した。木製の、簡素な造りだが信奉者たちが村を追い出されてこのかたずっと使われてきたのだろう、修繕も加えられているのか思ったよりもしっかりしたものだった。
「見張りが立っている様子は有りませんが‥‥」
どうせ人々はこの森を恐れて近づいて来ない、そう高を括っているのか小屋の外に見張りらしき存在は見えなかった。ルイスはさっと手に嵌めた石の中の蝶の反応を見る。蝶は羽ばたいていない――どうやら今ここにカオスの魔物はいないようだった。
「魔法で敵の数の調査をお願いできるかの?」
トンプソンの言葉に、クリシュナとシャクティは勿論、と頷く。クリシュナがインフラビジョン、シャクティがバイブレーションセンサーのスクロールを使用、だ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ‥‥」
シャクティが振動を数える横で、クリシュナは赤く見える者の数を数えていった。二人の情報をあわせれば、より正確な情報となるだろう。
「敵は2つの小屋を移動するかもしれないっスから、敵の数だけ分かればいいっスよね?」
「そうじゃのう」
万が一にモンスターが襲ってこないとも限らない。トンプソンは警戒しながら答える。
「両方の小屋に合わせて11ってところっスね」
「後、先ほど森の外に出た男を合わせれば12になりますわ」
クリシュナとシャクティの報告に、ルイスは顎に手を当ててふむ、と唸った。
「突入するか否かですが、わたくしは‥‥やはり万全を期して、此度は下がるのが得策かと存じます。このままでも可能でしょうが、思う以上の不利益を支払う事になりましょう」
「私も撤収に賛成です。思っていたより敵の数が多いですから。今回はその数が分かっただけで十分でしょう」
シャクティとルイスは突入を反対する。それはクリシュナも同じだった。こちらのメンバーの倍以上の敵がいる上、敵はカオスの魔物により力を与えられている可能性もあるのだ。無理をして突入するより、改めて戦力を整えてきた方が良い。
「異論はないぞよ」
勿論トンプソンにもイーリスにも反対する理由はない。
「敵のアジトの構成と、何よりその数が分かった事は心強い。協力、本当に感謝する」
イーリスは仲間達に心から頭を下げた。
素早く森から撤退した一行。
多少外に出ている者がいる可能性もなくはないが、そのおおよその数が判明しただけでも大きい。
次の機会にアジトを強襲する。
彼らが奉ずるカオスの魔物がどんなものなのかはわからないが、恐れていては始まらないのだから。