走れ竜が如く、引き寄せよその運

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月24日

リプレイ公開日:2008年07月26日

●オープニング

●雨季
 七月は全国的に降雨量の多い季節だという。遠くエの国ではロゼの花が一斉に開花すると言われている。
 そんな七月には竜精祭という、ドラゴンの力を称えるお祭りが開かれる。その方法は各地域で様々ではあるが。

「お祭り行く人この指とーまれっ♪」
「今月は確か‥‥竜精祭でしたか」
 冒険者ギルドのカウンターに座り、碧の羽根のシフールは勢い良く人差し指を突き出した。支倉純也はそれを微笑ましく見守る。
「うん。馬車引きレースと幸運のミートパイがあるんだって」
 チュールによればちょっと大きめのその村では毎年主に男性陣による馬車引きレースと、女性陣によるミートパイ作り、そしてその後に皆でミートパイを食べて幸運を引き寄せるという祭りが行われているらしい。
 馬車引きレースは竜を模した木製の飾りをつけた空の馬車を馬の代わりに引いて押して、村から東に一キロ程度行ったところにある海岸線に用意された酒樽を5つ馬車に積み込む。そして村まで酒樽と飾りを落とさないように戻ってくる。一番に戻ってきた馬車が今年の優勝だ。このレースは1台を6人で押すなり引くなりして行く。用意される馬車は5台。基本的に参加者は男性が多いが、女性でも希望すれば参加することが出来る。
 主に女性陣には「幸運のミートパイ」の製作という仕事がある。レース終了後に皆で切り分けて一切れずつ食べるパイを焼くのだ。ただしそれはただのミートパイではない。中に竜の顔を模した小さな陶器の置物を入れる。入れる置物の数は5つ。その置物入りのミートパイを食べた者が「ドラゴンの力を幸運で引き寄せた者」として、来年まで無病息災で過ごせるとされている。こちらの製作は基本的に女性が中心だが、勿論男性が加わっても構わない。
 馬車引きレースの勝者チームと幸運のミートパイを当てた者にはささやかだがプレゼントが贈られるという。
 ちなみにこの祭りは雨天決行だ。雨の中、どれだけ迅速に、そして荷物を破損せずに運べるかが鍵となる。
「馬車引きレースさぁ、あたしは体格的に参加できないけど、テレパシーで実況中継とかしても面白いかなと思ってー」
 勿論テレパシーには効果範囲があるのだが、とりあえず今の所彼女はそれを考えに入れていないらしい。
「とにかく誰か一緒に行ってくれないかなー、一人じゃ寂しいし」
 だらり、とカウンターに伸びるようにしてだれているチュールに苦笑を向けつつ、純也はわかりましたよ、と依頼書の作成に掛かった。

●今回の参加者

 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 空にはどんよりと重く、暗い雲が垂れ込めている。雨季である7月、雨が降るのは仕方のないこと。だがこの祭りはもちろん雨天決行。

「よーい、はじめ!」
 老人の声を合図にして、5台の馬車が我先にと海岸線を目指していく。馬車を引き、押しているのはほとんどが男性だが、中に紅一点、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の姿が見えた。
 彼女はこの暗い空から雨が降り始めたときが勝負の分かれ目になると考え、水はけのよさそうなサマーシャツの下にビキニ水着を着込み、その上にレインコートを羽織るという徹底のしようだ。水精霊の加護を受けたブルーリボンをアクセントにつけるのも忘れない。
 ふと他の参加者を見渡してみると、上半身裸だったり薄手のチュニック一枚だったりと男性ならではという格好の面々が多い。さすがに上半身裸は真似できない。
「各者一斉にスタートなのだぁ〜☆」
 ゴール付近で実況中継の中継役を引き受けたファム・イーリー(ea5684)が天界のアイテム双眼鏡を手に馬車の動きを追う。
「じゃーあたしは100メートル先にいるよー中継はたのんだっ」
 チュールが手を振り、走り出した馬車たちを追って飛んでいく。彼女のテレパシーが届く範囲は100メートル。1キロ先の酒樽積み場からは届かないのが残念だ。いや、急いで飛んで戻ってくればいち早く状況を届けられる、か。
 行きは前で引っ張るのに二人、後ろで押すのに四人のフォーメーションを提案したベアトリーセの馬車が、泥を跳ねるのも気にせずぬかるんだ地面を駆けていく。空の馬車に取り付けられた竜を模した木製の飾りがぎしぎしと揺れている。あまり力を入れすぎて馬車を横転させては元も子もない。その辺の力配分が難しい。
『とりあえず今のところはみんな団子状態で差はないかなーちょっと追って行ってみるねー』
『了解なのだ〜☆』
 チュールからテレパシーを受けたファムが現在の状況を残った村人たちに伝える。
 さて、一番に帰ってくるのはどの馬車だろうか。自分の父親や兄弟が参加しているのだろう、子供たちが一生懸命声援を送っていた。
 空の雨雲はだんだんと黒さを増している。雨が降り出すのも時間の問題だ。



 村で一番大きな家の台所とダイニングには、女性陣が集まってせわしなく働いていた。この後みんなで食べるミートパイを焼くのである。焼く量は尋常ではないので、その生地も具も大量に作らなくてはならない。この家の釜だけでは到底追いつかないので、焼く時は各家の釜をフル稼働させる。
「これはどうすればいいのですか?」
「力いっぱい混ぜておくれ。お姉さん力がありそうだから助かるよ」
 持ち込んだゴールデンカッティングボードの上に打ち粉をひき、アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)は渡された生地を力いっぱいこねる。時折どんっとカッティングボードにたたきつけたりと、豪快だ。
「パイ生地作りは結構力が要るからねぇ。これをこんだけの量やると、翌日腕が筋肉痛になっちゃうんだよ」
 おばさんたちが「もう若くないからねぇ」と笑いあう。場には別の女性たちが作っている具の肉が煮詰められる良い匂いが漂っていた。
「匂いだけでお腹がすいてきますね。きっと動いた後に食べるミートパイはとてもおいしいのでしょう」
 すぅ、と胸いっぱいにおいしそうな香りを吸い込んだアルトリアが笑みをこぼす。周りのおばさんたちは胸を叩くようにして自信満々に言った。
「もちろんだとも。私たちの作るミートパイは、元からおいしいけどね!」
 その言葉に明るい笑いが舞う。
 こうしてミートパイ作りは着々と進んで行った。



「時間がかかっても後で巻き返せばいいんです! 樽が倒れたり壊れたりしないようにしっかりと積んでください!」
 ついにしとしとと雨の降り始めた海岸線。ベアトリーセの指示が走る。乱暴に酒樽を載せるだけ乗せて走り出す馬車もいる。だがベアトリーセの班はそうはしなかった。丁寧に樽を積み、バランスを考えてロープで固定する。
「途中でバランスを崩して樽を落としたり、ぬかるみに轍をとられて横転が怖いですから、その点も注意して行きましょう!」
 すべての樽を積みこんだベアトリーセの班は馬車の前に3人、後ろに3人と力配分を変えて先に出発した馬車たちを追いかける。
「おっとー、これで全員折り返しだー! あたしは先に戻ってるねー!」
 羽根をぬらしながら叫ぶチュールの声に応える者はいない。否、彼女の声が聞こえていないのだ。雨の立てる音、ぬかるみを走る足音、馬車を引く者たちの掛け声。それらが彼女の声を掻き消す。
「がんばれー」
 それでもエールを送り、チュールは村方面へと飛んで行った。

「もうすぐトップが見えてくると思うのだぁ! みんな折り返し地点を越えたって連絡があったよ☆」
 レインコートを着込んだファムはチュールからのテレパシーを受けて、雨が降っても気にせずにレース参加者たちを待ち続ける子供や老人たちに伝える。各家からはミートパイを焼く香ばしい匂いが漂ってきていて、ぐぅ、とお腹の鳴る音も聞こえた。
「走ぃれ、竜が如く♪
 雨ぇが、降ろうと突っ切って♪

 ロゼの花が咲く頃に♪
 幸運引き寄せやって来る♪

 走ぃれ、竜が如く♪
 虹ぃを、越え駆け抜けて♪

 幸運乗せて来る頃に♪
 竜も笑ってやって来るぅ〜♪」
 ファム作のテーマソングが朗々と響き渡る。それが終わる頃、遠くに先頭集団の影が見えてきた。
『今、一位と二位は僅差だよ!』
「一位と二位は僅差らしいのだー」
 チュールから受けたテレパシーをそのまま村人に伝えると、村人の声援がいっそう大きくなる。ファムは双眼鏡を使ってトップ争いをしている2台を見極めようとしていた。
「おおー、ベアトリーセさんのいる班と村長さんの息子さんの班がデットヒートなのだぁ!」
 ガタガタ、バシャバシャ。
 馬車の走る音がゴールにいる者たちにも聞こえてくる距離になった。声援にも気合が入る。
「あと少しです、これなら追い抜けますよ!」
 ベアトリーセが声援に負けぬよう大声でチームメイトに気合を入れる。
「がんばれー!」
「負けるなー!」
「お父さんがんばってー!」
 そんな声に応えるようにゴールしたのは――。



 通り雨だったのか、竜のお導きか、レースが終わってしばらくすると雨は上がっていた。急遽、テーブルを外に出し、ミートパイ配布が始まる。さすがに村で一番大きな家だといっても村人全員は入りきれない。
「はい、落とさないように気をつけてくださいね」
 アルトリアは自分の手伝ったパイを丁寧に渡して行く。列を作った村人たちは早くかぶりつきたて仕方ないようだったが、全員にパイが行き渡ってから口にするのがこのお祭りの嗜み。だって先に口にした人が当たりを引いて、もう当たりが残ってないってわかっちゃったら寂しいでしょ?
「全員行き渡りましたかー?」
 家の軒先やぬかるんでいない草の上などに腰を下ろす村人たちの間を回って、もらっていない人がいないかしっかりと確認をする。そしてアルトリア自身も一切れパイを受け取った。
「それじゃあ、今年も竜様の力に感謝して! いただきます!」
「「いただきまーす!」」
 村長の号令で、集まった皆が乾杯するようにパイを掲げ、そしてかぶりつく。パイの味も楽しみなのだが、もっと楽しみなのは――
「あった!」
「お、俺のところにも入ってたぜ」
 そう、幸運を引き寄せるといわれる竜を模した小さな陶器が入っているかどうか。
 村のあちこちから声が上がる。中にはそんなのそっちのけで空いた腹を満たしている者もいるが。
「あー、あたしははずれみたい。ファムはどうだった?」
「当たった!」
 人間サイズのミートパイをお皿に乗せて、ほじくるように食べていたチュールの横で、ファムはかじったら出てきた物体を引っ張り出す。するとそこには竜の陶器が入っていて。
「私は外れてしまったみたいですけど、馬車引きレースで優勝できたし十分です」
 ベアトリーセが濡れたレインコートとサマーシャツを乾かすために、水着姿というすばらしい格好でパイを片手に微笑む。
「‥‥あ」
 その隣で声を上げたのは、最後にパイをアルトリアだった。
「何か歯に当たると思ったら」
 その切り口から見えるのは陶器。どうやら彼女のところにも当たりが混じっていたようで。
「残り物には福があるってことですね」
 ベアトリーセの言葉に、チュールがいいなーいいなーと周りを飛び回る。当ててみたかったらしいが、でもこればかりは運だし、ね?

 馬車レースで優勝したベアトリーセと、幸運のミートパイを当てたファムとアルトリアには、村から商品が授与された。村の催しゆえに高価な商品ではないが、大事なものは物よりも竜の力の恵みに感謝するというお祭り自体だから。
 来年もまたこの村では、エの国でロゼが花開く頃に同じ祭りが行われるのだろう。