その一枚に思いの丈を
 |
■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月31日〜08月05日
リプレイ公開日:2008年08月07日
|
●オープニング
●おやかたさまのほしいもの
「おやかたさま、おやかたさまはなにがほしいの?」
メイディアの街の、どちらかといえば下町に近い所に1軒の洋館がある。2階建てのその建物からは、子供達の声が聞こえて止まない。小さな庭に出て、桶に汲んだ井戸水をぱしゃぱしゃと掛け合う子供達はとても楽しそうだ。庭に面した部屋の窓からは、年嵩の少女がまだ赤子といって差し支えのない乳児を抱いてあやしている。
そう、ここは孤児院。元冒険者の『お館様』が冒険者時代に溜めた資金を元手に十数年前に興した場所。0歳〜12歳までの、身寄りのない子供達が共に生活をしている。お館様の資金と懇意にしている貴族や商人からの善意の寄付で経営をやりくりしているので決して生活は楽とはいえないが、お館様の愛情を受けて幸せな生活が繰り広げられている。子供達は真っ直ぐに、そして健やかに育っていた。
「欲しいものですか? そうですね‥‥」
二階の自室を訪れた8歳ほどの少女に尋ねられたお館様は、首を傾げるようにして少しの間考え、そして優しく微笑んで見せた。
「私は君たちの笑顔があれば十分ですよ」
「えがお?」
「そうです。君達が元気で健やかに、いつも笑顔でいてくれれば私はそれで十分です」
傷のある大きな手が少女の頭を優しく撫でる。少女は腑に落ちないような表情をしていたが、暫くして部屋を出ると、とてとてと階段を降りて行った。そこには2階の様子を窺うようにして、数人の子供達が待ち構えていた。
●なにをしたらいいんだろう
「お館様の欲しい物が分からないんじゃ‥‥」
「折角お金、溜めたのにね」
年長の子供達が中心になり、館の隅で何か話し合いをしている。その手には銅貨が20枚ほど。以前冒険者達に教えてもらった知識や技術を利用して、お館様に内緒でこつこつと溜めたものだ。
お世話になっているお館様に何かプレゼントしてあげたい、そう考えたのだが、お館様は特に欲しいものがないという。欲しいのはみんなの笑顔だ、と。
「‥‥物をあげるだけが、感謝の気持ちの示し方じゃないかもしれない‥‥」
その時、それまで黙っていた少女がぽつりとこぼした。子供達の目が彼女に集中する。
「私達の感謝の気持ちとかを、手紙とか絵とかで表すのはどう‥‥かな? シフール便を使って、届けてもらうの‥‥。それなら、お館様、びっくりして喜んでくれるかな‥‥って」
少女は他の子供達の顔色を窺うように、だんだん小声になりながら自分の意見を述べる。
しばしの沈黙。
少女が自分の意見はまずかったのだろうかと不安になり始めた頃、誰かが声を上げた。
「いいかも! きっと、何か物を買ってくるよりもお館様は喜んでくれると思う!」
「うん、シフール便を使うなんて良く思いついたね! お館様、きっとびっくりするよ!」
それを皮切りに、少女に対して賛辞が浴びせられる。少女ははにかんだように微笑んで、ほっと胸を撫で下ろした。
「小さい子たちは絵とか‥‥手形とか足型とかならどう? 大きい子達は絵でも手紙でもどっちでも‥‥」
年嵩の少女がそこまで言った所で言葉を切る。重要なことを思い出したのだ。
「ねぇ‥‥誰か、文字かける?」
「「「‥‥‥」」」
そう、アトランティスの識字率は低い。それが孤児院の子供となればなおさらのこと。
「どうしよう‥‥」
良い案だと思ったのに、と皆がしゅんとうなだれていく。
「冒険者だったお館様は文字読めると思うけど‥‥あ、冒険者!」
「そうだ、冒険者ならきっと文字も絵もシフール便の頼み方もしってるよね! もしかしたら、他にお館様に感謝する方法を教えてくれるかもしれない!」
「でも‥‥お金はこれしかないよ?」
そう、子供達の手には銅貨が20枚しかない。冒険者を雇うには到底足りないだろう。シフール便を頼む事は出来るかもしれないが、そのシフール便に預けるための羊皮紙や筆記用具も用意しなければならない。これだけのお金で足りるだろうか。
「とりあえず‥‥ギルドのお兄さんお姉さんに聞いてみようか‥‥?」
子供達は頷きつつも不安なまま、ギルドへ足を向けるのだった。
●リプレイ本文
孤児院の子供達の日常。それを非日常にする存在――冒険者。
今この孤児院には6名の冒険者が訪れ、子供達の意識を一気にひきつけている。
「クウェル・グッドウェザーです。宜しくお願いします」
「わー、綺麗なおねーちゃんだー!」
にこり、微笑んだクウェル・グッドウェザー(ea0447)の表情が笑顔で固まる。その線の細い美丈夫は女性に間違われてもおかしくないほど美しくて。
「いえ、僕は男で‥‥」
「綺麗なおねーちゃんじゃないの?」
不思議そうに首を傾げる6歳くらいの少女を後ろから確保した年嵩の少年が、ごめんなさいと深く頭を下げる。礼儀正しく謝られたら、いえ気にしてませんよというしかない。
「予算は20cってことだけど、このお金、倍以上に増やしたくなーい?」
えー、そんなことできるのー? という声が上がればふふりと微笑むのはルシール・アッシュモア(eb9356)。商人の娘である彼女の腕の見せ所だ。
「安く仕入れて露天で売って、その分の利益でまた仕入れて翌日売る。そうやって増やしていくのが商売なんだよ」
おもしろそう、やるー! そんな声が方々から上がる。だが市場で飲み物を売るにはあまりに小さな子では色々と危険が付きまとう。ルシールは7歳以上の子供数人をピックアップした。
男の子数人はクウェルの提案した釣りに興味を持ったらしく、そちらに参加するつもりらしい。こちらも小さな子は危険なので留守番だ。
「呼ばれてきましたが‥‥ずいぶんとにぎやかですね」
微笑を絶やさず現れたのは純也。隣に立つ巴渓(ea0167)に声をかければ彼女は苦笑して。
「これでお館様にばれずにってーのはちぃと無理があると思わねぇか? ま、その為に俺がいるんだがよ」
そう言うと渓は子供達に気づかれないようにして二階への階段を上がっていく。お館様に事情を話し、内々に許可を貰うためだ。勿論、子供達がサプライズを狙っていることも話し、その辺は口裏を合わせてもらう。
「いやさ、シフール便装うったってあたし、お館様と面識あるし」
階下で乳幼児達に追い回されていたチュールがそんなことを言っていた気がしたが、まあそれもご愛嬌。シフール便のバイトを始めたとでも言えばよいし、第一事前にお館様の許可を貰うならその辺は気にする必要はなかった。
「それじゃあ、露天組はでかけるよー! みんな迷子にならないように手をつないでー」
子供達に比較的綺麗なコップをいくつか持たせたルシールは、先頭切って孤児院の外に出る。門のところに繋いである愛馬近くまで来たところで、ふと建物を見上げると、2階の窓に人の姿が見えた。開け放たれた窓から外を見ている人物は、ルシールと目が合うと軽く頭を下げる――お館様だ。
「(たぶん『お館様』は現状に満足していない。己の限界を知っている。でも、それを子供達に悟られてはいけないことも、判ってるんだ)」
ルシールは子供達に気づかれないように軽く目礼を返した。子供達をお預かりします、そんな気持ちを込めて。
クウェルと釣りに行く子供達(主に男の子達だ)を見送ると、後に残ったのは乳幼児とそれを世話する年嵩の少年少女達だった。乳幼児に昼寝をさせ、あるいは膝の上に乗せて彼らは講義が始まるのを待つ。今回講師として子供達の前に立つのはフィリッパ・オーギュスト(eb1004)だ。
「「お姉さん、宜しくお願いします」」
礼儀正しく下げられた頭を見て――いや、もしかしたらその呼ばれ方に、かもしれないが――満足げに頷いたフィリッパは、朗々と語り始める。
「私が今回教えたいのは『飾り方』のバランスと配置。今回は花で説明するけど、これは絵を描くにも飾るにも共通するの。いいかしら、飾る時には周囲を見てあわせないとダメよ? 簡単なパーティをするとして、ポイントって何だと思う?」
子供達が働きに出たときに役に立つように、とフィリッパはまもなく働きに出るだろう年齢の子供達を見回す。
「えぇと‥‥一番大事なのは主役の人だと思うから、主役より目立ってはダメ、かな?」
「そうね。逆を言うと主役にあわせ、引き立てるということ」
手を上げてから迷うように発言した少年にやわらかく微笑み返し、フィリッパは続ける。
「主役は貴族なら御当主さま、花なら一番綺麗な花。お館様もパーティ会場で自分がお礼の為の主役だってすぐ判れば、皆が貴族の家や商家へ働きに出ても大丈夫だと安心できるわ」
と、フィリッパは実際に用意してきた花を使用して例示してみせる。同じくらい綺麗な赤い花と白い花を沢山並べるよりも、白い野の花の中に綺麗な赤い花が一輪の方が目立つということ。もちろん、置く場所も飾り付ける花器も大切だということ。このように、何か一つでも深い知識を持っていれば、きっと働きに出た先でも重宝されるだろうから。
「上手い下手は関係ありません。心がこもっていればお館様も喜んでくださいますよ」
テーブルや椅子などを部屋の端にどけたホールで幼児を相手にしているのは雀尾煉淡(ec0844)である。持参した魔法用の白紙スクロールを羊皮紙代わりにと提供し、その場に広げる。その長さ5メートル。子供達はその紙を見てきゃあきゃあとテンションがあがるあがる。子供の頃、大きな紙や布を見てわけもわからず興奮した経験、ありません?
「これに、お館様に上げる絵を描きましょう。絵の具は用意しましたからね」
顔料セットを出し、絵の具となるまでの加工はしてあげる。他にもいくつか絵を描くために必要な道具は仕入れてきていた。
ある子は木炭を手にとって人のようなもの(おそらくお館様なのだろう)を書き始め、3.4歳の子は絵の具を手につけてぺたり、ずりずりとスクロールへ直接お絵かき。顔料を口に入れないように、スクロール以外のところに絵を描かないようにだけ目を光らせながら、煉淡は子供達の自由な発想を見守る。今回は子供達の主体性を尊重すると決めているだけに、過剰な口出しは無用。
「おやかたさまかいたの」
手を木炭で真っ黒にしながら、それでも誇らしそうに微笑む少女に自然と煉淡の頬も緩んだ。
「おー、やってるな」
メイディアの広場。ルシールが知人に口を利いて安く仕入れた果物を連れてきた子供達で協力してコップに絞り、彼女の愛馬の背に乗せた木箱に入れる。そこにスクロールでフリーズフィールドを発生させればあら不思議、冷たい飲み物の出来上がり。かんかん照りの暑い夏のメイディア。その冷気に惹かれて自然と人が寄ってくる。そこで子供達が教えられたように呼び込みを開始すると、即席の冷たいジュース販売店は大盛況に。
「少しだが、俺からの差し入れだ」
渓が抱いてきた果物を差し出す。日の照っている今日という日が良かったのか、最初に用意した果物はすぐに尽きかけたからちょうど良かった。明日はその利益で倍以上の果物を仕入れることができるだろう。
「すごい、おいしそー!」
渓に呼ばれてついてきた酒場の娘、ミレイアも物欲しげにちょっぴり凍りかけたジュースを見ている。
「ミレイアよぉ、お前本職だろ? 呼び込みと給仕手伝ってやってくれよ。終わったら俺からご褒美やるからよ」
「よし、任せておいて!」
ミレイアは腕まくりをして、まだ慣れない様子の子供達をフォローしていく。
「やっぱり暑い日は冷たいものが欲しくなるもんね。これで明日はもっと果物仕入れられるし、口コミでお客さんも増えるだろうし」
計画成功、とルシールは上機嫌だ。だがお金を増やすだけが目的ではない。こうして商売を経験させるのも目的だ。
「明日からはもっと忙しくなるよー?」
激励するように告げるルシールに、子供達は「きゃー」と楽しそうな声を上げながらそれでも顔は笑顔だ。明日からは時間が空けば煉淡もクーリングのスクロールで手伝ってくれるという。
「釣れたっ!」
ゴールドフレークを撒き、釣り糸をたらす。引きが来るまで待つのに少しばかりの忍耐が必要だが、引きが来てしまえばそれまでの退屈さなんて忘れて皆で興奮して。
「慌てないでくださいね。あまり慌てると魚が逃げてしまいますよ」
釣れた魚を見てすげーすげーと歓声を上げる子供達を、クウェルはにっこり微笑みながら見つめる。
「おにいさーん、どうしよう、ひっぱってるー! すごい重い!」
「おや、大物でもかかったのでしょうか?」
しなる竿を必死で支えている少年の後ろから手を貸してやり、共に竿を引く。水面でばしゃばしゃと抵抗を続けている魚のあげる水しぶきが、顔にかかりそうだ。
「竿を折られないように、慎重にしましょうね」
他の少年達も、拳を握り締めて成り行きをじっと見守っている。
「よっ!」
機を見て一気に引っ張る。
ざっぱーんっ!
そんな音を立てて水面から飛び出したのは、それは大きな魚だった。
陽精霊の光に鱗と飛沫を輝かせるようにして飛び出した魚に、子供達の歓声がいっそう大きくなった。
「すまないな、強行軍で。大丈夫か?」
「‥‥大丈夫です‥‥私でお役に立てるのでしたら、どこへなりとも」
アマツ・オオトリ(ea1842)は傍らを歩く歌姫、エリヴィラを気にかけていた。
有事の際以外に個人でフロートシップを動かすには莫大な資金がかかるため、行きはゴーレムシップでリンデン侯爵領入りし、侯爵に歌姫の外出許可を得たアマツ。帰りは運良くメイディアへ向かうというフロートシップを捕まえられたので、海路よりは快適な旅になったと思われる。
「こちらは、晴れているのですね‥‥」
久々に侯爵領から出たエリヴィラは、燦燦と輝く陽精霊をまぶしそうに見上げた。
「子供達の笑顔も、陽精霊の光に負けぬ輝きだぞ?」
「笑顔‥‥」
アマツの言葉にぽつり、呟いたエリヴィラ。彼女のその呟きの意図するところがわかっているアマツは、彼女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。エリヴィラの歌はすばらしい。子供達も喜んでくれるだろう。大きくなったらエリヴィラのようになりたいと言い出す子もでるかもしれぬぞ?」
「私の、ように‥‥」
「さて、少し急ごう。パーティが始まってしまうゆえ」
ほんのりとエリヴィラの心の中に沸いた暖かいもの。それは繋がれたアマツの手の暖かさと似ている気がした。
「つーか、重いよ、これ」
「たいした距離じゃありませんわ。頑張ってくださいね」
「うー」
フィリッパに有無を言わせぬ笑顔で送り出されたチュールは、畳まれた布を両手いっぱいに抱えて館の外からお館様の部屋を目指す。
その布は孤児院の物置から、埃まみれになりながら純也が探し出したもの。真っ白な綿は少々高価だからだろうか、物置にあったのは多少黄色味のかかった麻の布だったが、大きさは問題ない。その布の真ん中に「お館様、ありがとう」と年長者が書き、あとは周りに子供達それぞれが名前を書いて行く。ルシールが羊皮紙に書いた自分の名前を見ながら写す子、手を添えてもらって一緒に書いた子、代筆してもらい、その小さな手形を横に押した乳児。ほとんどの子供達が初めて自分の名前の書き方を知り、そして書いた。多少角ばっていたり曲がっていたりするのはご愛嬌。だって下手に綺麗に整った字より、そのほうが「らしい」し心が伝わるでしょう?
かくして大きな布を持ったチュールは、シフール便のバイトを装ってふらふらとお館様の部屋を目指したのである。おつかれさま、事情を知っているお館様は小声でチュールを労い、その布を開く。
お館様の眼前に広がったのは、子供達の思い。一つ一つの名前を順に見ながら、子供の顔を思い浮かべて行く。
「知っていたはずなのに、どうしてでしょうね、なんだか涙が」
「泣くのはまだ早いよー? 下に下りて、皆の顔を見てからにしてあげてよ」
飾りつけられ、パーティの準備が整えられた一階では、子供達が今か今かとお館様の登場を待ち望んでいるはずだ。チュールに促され、お館様はゆっくりと階段を下りていく。
「これは‥‥」
素敵に飾り付けられた花、並べられた料理。そして張られた絵。話には聞いていたはずなのに、それはお館様の想像以上のものだった。
「本当に、子供達が‥‥?」
「そうです。私達はほんの少しお手伝いをしただけです」
誇らしげに顔を輝かせている子供達を見渡し、煉淡が微笑む。
「そ、私達はほんの少しお手伝いをしただけだよ。料理の材料費も、この子達が貯めたお金を元手にして増やしたんだ」
ルシールが告げる。最終的にたまったお金で蜂蜜や甘草、別の果物を仕入れてきていた。
「暑い中、皆頑張って売り子したんだよ」
ミレイアがすっかり日焼けした子供の頭を撫でた。
「釣りも、だいぶ上手になりましたよね?」
テーブルには魚料理が沢山並んでいる。主に調理したのはクウェルだったが、もちろん子供達も手伝った。彼が調理方法を絵で記したレシピを作ってくれたため、次からは子供達が自分で作ることができるだろう。
「飲み込みがとても早いんですの。もういつ働きに出ても安心ですよ」
フィリッパは飾り付けをはじめ、全てを取り仕切った11、12歳の子供達を温かな目で見つめた。
「お館様、座ってください」
年長者に導かれ、お館様は主役用の席へと腰をかける。
「涙で皆の顔が見えなくなりそうですね」
「そいつはまだちぃっと早いぜ?」
にやり、と笑みを浮かべた渓の言葉で前に歩み出たのはアマツとエリヴィラだ。ぺこり、とお辞儀をして大きく息を吸う。
『さあ感謝の気持ちを
愛を与えてくれたあなた 慈しんでくれるあなた
ここに生まれてよかった 生きている、幸せ』
エリヴィラとアマツがまず、声を合わせて歌いだす。リンデンからの移動に時間がかかったため、子供達と練習する時間はほとんど取れなかった。故に旋律は以前結婚式を行った際にアマツが教えたものを、歌詞はそれにあわせてエリヴィラが考えたものをシフール便で届け、旋律を知るフィリッパが現地指導したのだ。だからリハーサルはしていない。ぶっつけ本番だ。
『ありがとう 希望与えてくれた人
感謝の気持ちよ届け、もっと あの人の元へ
風精霊よ この声、あの人の元へ届けて』
子供達の声が重なる。アマツとエリヴィラは少し声を落とし、子供達の引き立て役へと回る。
『いつの日もどんな時も 忘れたくないから
あなたに愛されたこと 心に大切に刻んで
あなたの元、巣立つ日が来ようとも
忘れない 忘れない あなたの腕が温かいということ
あぁなんて幸せなのだろう 夢路のように
この素晴らしい日々 それはあなたの愛‥‥』
「「お館様、いつもありがとう!!!」」
にこにこ輝く笑顔を誰もが浮かべている。そんな中、お館様だけが人目を憚らず涙を流していた。
普段は決して涙など見せないのだろう。だけれども今日くらいは子供達の前で泣いても良いではないか。
だってその涙は、子供達の気持ちが伝わった証以外の何物でもないのだから。