人魚姫の感謝〜無人島への招待状〜
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月15日〜08月20日
リプレイ公開日:2008年08月22日
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●オープニング
●三度の邂逅
「あの‥‥」
一人の少女が怯えるように声をあげた。
「‥‥あの」
もう一度、その背中に声をかける。
「あのっ‥‥!」
むぎゅ
「ぎゃあっ!」
少女は思い切って目の前の背中をわしづかみにした。
――わしづかみ?
「なにすんのよー‥‥ってディアネイラ!?」
そう、わしづかみにされたのは碧の羽根のシフール、チュールであった。彼女は自分を掴んだ人物を見て、驚きの声を上げる。その人物は普段メイディアにいるはずは無かったのだから。いや「陸」にいるはずが無かったのだから。
マーメイドのディアネイラ。過去二度にわたって陸に上がってきては足がひれに戻ってしまって難儀しているところをチュールに救われ、そして冒険者に願いをかなえてもらった少女である。
「何してるの、こんなところで!」
幸い今日は晴れている。店頭の水撒きとかに巻き込まれなければ、彼女の正体が露見することはあるまい。それでもマーメイドである彼女が陸に上がってくるのは並大抵の勇気ではすまなかったはずなのだが。二度の上陸で少しは慣れたのだろうか。
「あの‥‥皆さんにお礼を、したくて‥‥」
たどたどしく告げる彼女。そばを人間が通るたびにびくり、とする怯えようは以前とあまり変わらない。
「あの‥‥この街の北東、ギルデン川の河口の南方に島があるの‥‥ご存知ですか?」
「ギルデン川‥‥? あー、なんだっけ、ステライド領とリンデン侯爵領を隔ててる?」
チュールのその言葉に「領地のことは良くわかりませんが」とディアネイラは苦笑する。まあ当然だろう、彼女は海の中に住む少女。
「その島は‥‥無人島で、クラウジウス島と呼ばれています‥‥。私も‥‥時折こっそりとその付近に遊びに行くのですが‥‥よければ冒険者の皆さんも、と思いまして‥‥」
「えっと‥‥水遊びとキャンプ?」
「ええ‥‥。一緒に泳ぐのも楽しい、かと‥‥」
ディアネイラはほんわかと微笑む。過去二回助けられたことで、冒険者というものに絶大の信頼を置いているのだろう。故に今回の招待だ。
「でも陸の世界ってあんまり水泳の習慣がないんだよねー。地球から『水着』とかいう泳ぐための服がたまに落ちてくるらしいけど。あと、水遊びの道具とかも」
「皆さん‥‥来てくださらないでしょうか?」
チュールの言葉にディアネイラの顔が曇る。チュールは慌てて彼女を慰めた。
「毎日の暑さに辟易している人も多いと思うから、海水浴にキャンプとなれば行きたい人もいると思うけど」
チュールは少し思案して、そしてぽんっと小さい手を打ち付ける。
「わかった、あたしが一肌脱ごう! 地球の水遊びアイテムを売ってる商人に声をかけておく。無償で提供というわけにはいかないけど、安くそれらを売ってもらえるよう交渉しておくから。そうすれば水遊びへの期待も高まるよ!」
「ありがとうございます‥‥! 私、楽しみにしています」
ふわり、微笑みに変わったディアネイラの表情。それが一拍置いて思い出したように曇った。
「あの‥‥遊びの前にですね、モンスターを退治してもらいたくて」
「え?」
「大きなイソギンチャクとですね‥‥波間を漂うふよふよしたゼリー状のモンスターが出ていて‥‥」
「あー‥‥それ退治してからじゃないと安心して遊べないってわけか」
案外モンスター退治が本題だったのではないかとちょっと疑うチュールだったが、無垢なディアネイラに限ってそんなことは無いだろうと思いなおす。
「わかった、それもちゃんと言っておく。ところでさ、その島まではどうやって行くの? 船? さすがにゴーレムシップじゃないよね?」
「え?」
チュールの質問に、今度はディアネイラがきょとんとする番だ。
「まさか、自分は泳いでいけるから、考えて無かったとか‥‥?」
その質問におずおずと頷いたマーメイドだった。
●購入できるアイテム
シュノーケル、ゴムボート、フィッシングロッドセット、ドルフィンボート、バナナボート
水中眼鏡、ビキニ水着、ワンピース水着、ビーチボール、ビニール製浮き輪、耳栓、海パン、ウェットスーツ
※価格は時価。予算があれば明記のこと。
●リプレイ本文
●みんなで海へ
買い物を終え、荷物をたくさん抱えた冒険者達はチュールの導きで船着場へと向かっていた。地球の水遊び道具だけでなく、現地での食事の材料としてスパイスやハーブ、干し肉や野菜などを買い込んだ美芳野ひなた(ea1856)はさらに荷物が多かったが、その辺は気を利かせた男性陣キース・レッド(ea3475)と布津香哉(eb8378)が分担して荷物を預かり、運ぶことにする。やっぱりいざというときは男性にがんばってもらわないと。
「あ、あの方でしょうか」
水無月茜(ec4666)が白い指で示した先には海を見つめる一人の少女が立っていた。簡素な白いワンピースの裾と長い髪の毛が、海風に揺れている。
「お久しぶりです、ディアネイラさん!」
ひなたがぱっと表情を明るくして駆け寄れば、寄られた彼女のほうも久々の再会に笑みを浮かべる。
「誘ってくれてありがとうな」
「やぁ」
後から追いついた香哉とキースも彼女に挨拶をする。二人ともディアネイラとは顔見知りだ。
「はじめまして、ディアネイラさん。水無月茜です」
礼儀正しく初対面の挨拶をした茜に、ディアネイラも少しばかりびくっとしながらゆっくりと頭を下げた。やっぱりまだ少しだけ初対面の相手は怖いのか。だが同じ女性同士、すぐに打ち解けることはできるだろう。
「うわぁ‥‥すごい美人。まるで外国のトップモデルみたい」
握手を交わしたディアネイラの容貌にほう、とため息をつく茜。ディアネイラは茜の言葉の中に一部理解できない単語があったが、褒められているということはわかる。
「あ、ありがとう‥‥ございます」
顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「それはそうと、船で行くとなると水がかかる可能性もあるだろう? ディアネイラが人魚だってことはばれちゃまずいし‥‥どうする?」
「あ、それなら‥‥」
香哉の疑問を受けて、ディアネイラは何を思ったのか着ているワンピースに手を掛けた。そしてそれを脱ごうと――
「「「「わーーーーーーーーーーーー」」」」
ひなたとあかねが飛びついてそれを阻止し、香哉は両手で目を隠し、キースはよそを向く。チュールがふっ、とまるで慣れたことのようにため息をついた。
「??? 私は泳いでいきますから、現地で合流しましょう‥‥?」
なぜ止められたのかわからない、そんな表情で人魚姫は首を傾げる。
「ディアネイラ君、服を脱ぐのと水に入るのはくれぐれも人が見ていないことを確認してからしたほうがいい」
「そうですよ。まったくもう‥‥正体バレたら大変なんですよ〜」
苦笑するキースとひなたに言われ、ようやく己の過失に気がついたディアネイラ。
「あ‥‥そうですね、きをつけます」
「それだけじゃないけどねー」
ひらひら飛びながら、相変わらずちょっとズレた人魚姫にチュールが笑ってみせる。普段海の中で下半身が鱗の姿ですごしている彼女には、裸に対する羞恥心というものがほとんどないのかもしれない。だがここは人間のテリトリー。こんなところで全裸になっては明らかに可笑しい。目立つこと間違いない。そして男性達が目のやり場に困ること間違いない。
「では、現地で」
用意された船に乗り、手を振る茜に対してディアネイラは白い手を振り返した。
「ところであんた達、冒険者のようだがあんな島に行くなんて王宮からでも派遣されたのかい?」
船を操ってくれるおじさんに聞かれても、まさか「マーメイドから招待を受けたんです」と答えるわけにもいかず。「まあそんなものです」と言葉を濁すにとどめた一行。
これから向かうクラウジウス島は無人島という話だが、一体どんなところなのだろうか?
●到着したら
指定日になったら迎えに来るよ、と言い残して船は島を後にしていく。砂浜に下ろされた一行は、きょろきょろとあたりを見渡した。
「っーか、思ってたよりでかい島だな」
「ひなたも、もっと小さな島だとおもってました〜」
そう、クラウジウス島は「無人島」という言葉から連想されがちな小さな島ではなく、地図にしっかりと乗っていそうな規模の島だった。もっとも一行が下ろされた浜辺の奥は木々が茂っており、その奥は山にでもなっているのだろうか様子は伺えない。今回は浜辺で過ごすのが目的だから、危険なモンスターでも襲いかかってこない限り何があろうと関係ないのだが。
「まずはモンスター退治といこうか。これを済ませなくては夕飯の食材をとることすらままならないからね」
「そうしましょう」
早々と荷物を置いたキースに倣い、茜も戦闘に必要な荷物だけに持ち替える。ひなたは大きな包丁を片手にもっていた。
「え、それで戦うの?」
驚く香哉に「もちろんです」と頷くひなた。
「モンスターですけどきちんと調理をすればイソギンチャクもたべられますよ〜?」
「じゃ、期待してるよ」
だが一行が立ち向かうのは通常の何十倍もある巨大なイソギンチャク。ひなたの料理の腕の見せ所だ。ちなみにチュールは料理、できない。
「お帰りなさい‥‥」
ゼリー状の生物と巨大イソギンチャクを退治して浜辺へ戻った一行を出迎えたのは岩場に腰を掛けたディアネイラだった。どうやら人に見つからないように注意して遠回りしてやってきたらしい。その下半身は鱗に覆われている。
「ディアネイラ‥‥だよな?」
「はい?」
彼女のマーメイド形態を初めて目にした香哉は思わず彼女を上から下まで眺めてしまった。物語では人魚という存在を知ってはいたが、実際に見るのは勿論初めてだ。そして頭では彼女が人魚だと知っていたが、目にすることで改めて実感する。
「ディアネイラさん、お食事の好みってありますか?」
仕留めたイソギンチャクを引きずりながらひなた。料理は彼女が今回最も腕を振るう場所だ。
「えぇと‥‥お野菜とか、海草とか中心にしてもらえると助かります‥‥味付けは薄めで‥‥」
「はい、ひなたに任せてくださいね」
「あ、ひなたさん、私も手伝いますね」
ぱたぱたと砂浜を小走りに行くひなたを茜が追いかける。シルバースピアを手にしたキースはふと、疑問を覚えた。
「そういえばディアネイラ君、ここは無人島だといっていたが、本当に無人なのかい?」
「と、いいますと?」
キースの言葉の意味をいまいち理解できなかったのか、ディアネイラは小さく首を傾げる。
「いや‥‥想像していた以上に大きな島だしね。場所的にも、国が何も手をつけていないのはおかしいと思ったんだが」
「国の政策はわかりませんが‥‥私たちがこっそりとこの浜辺に遊びに来た時に人影を見たことはないものですから」
「なるほどね」
「まあ、難しいことは抜きにして〜夕食の材料獲りに行くんでしょ? いこいこー!」
肩に止まったチュールの言葉にくす、と口元に笑みを浮かべてキースはスピアを握り締めた。
「そういえばチキュウには無人島を専門に冒険するすご腕の二人組がいるらしいね。『とったどー!』といえばいいのかな?」
「どこで仕入れたんですか、そんな知識」
キースの言葉に一瞬吹き出した香哉。ちょっとばかり懐かしい話題に故郷を思い出す。
「とったどー!」
そのフレーズが気に入ったのか、拳を突き上げて叫ぶチュール。いやそれ、獲ってから言わないと。
ひなたが仕入れてきた食材、キースと香哉が海で獲った食材、それらをひなたがプロ級の腕で調理し、焚き火の側に座る皆に振舞う。
「みなさん、いきわたりましたか?」
かいがいしく茜が給仕をすれば、誰かのおなかがぐぅ、と鳴った。棒にさし、焚き火で炙られた魚はかぐわしい匂いを放っている。
「すごい、豪華なお料理ですね」
「ほんと〜。お店で出てくる料理みたい」
ディアネイラもチュールも、並べられた料理の質に驚愕だ。どれも無人島のキャンプで食べるようなレベルの料理ではない。
「ひなたの自信作ですよ。どうぞめしあがれ〜」
にっこり、やわらかい笑顔でひなたが告げると、いただきますの合唱。
「むぐ‥‥うまい」
「ひなたさん、やっぱりお料理お上手ですね」
めいめいが好みの料理に手をつけ、そして和気藹々と食事は進んでいった。
●哀
夜。海は静かに寄せて返している。
皆が寝静まったことを確認して、浜辺に歩み出る人影があった。
「‥‥‥‥‥」
その青い瞳には悲しい想いが浮かべられている。彼、キースの心の中に浮かんでいるのは別の依頼で瀕死の重傷を負って眠り続けている女性。彼が己の希望と決めていた女性。
ぽつり、その女性の名を呟く。それに重なるように彼は自分の名を呼ばれて振り返った。
「大丈夫、きっと彼女は大丈夫です!」
「茜君‥‥」
皆を自分の感傷に巻き込まないようにと気を使って出てきたのだが、事情を知る茜は彼のことを心配していたのだ。
「彼女の代わりにはなりませんが‥‥」
茜が詠唱を始める。そしてその歌声に乗せて使うのはメロディーの魔法。彼の気持ちが少しでも明るくなりますように、と月精霊の光る浜辺に彼女の美しい歌声が響き渡った。
●陽の下で
「ほらひなたさん、恥ずかしがらないで」
「大丈夫です。よくお似合いですよ」
「ひなたも茜もかわいいよ〜」
「うう〜」
女性達の使っているテントからそんな声が聞こえてくる。購入した水着に着替えているのだ。
茜はワンピース水着、ひなたはビキニ。
「(ひなた、もう二十歳なんだからね‥‥このくらい大胆になっても)」
そう思いながらもまだ少し恥ずかしさの消えないひなた。ディアネイラもチュールの用意した水着を着、今日は浜辺での天界のビーチバレーという遊びに興じる予定だ。その後水遊びも予定している。ちなみにチュールも自分サイズの水着を知り合いに縫ってもらったらしい。
「ビーチバレーの用意は布津さんがしてくれているはずですから、早く行きましょう」
きゃいきゃいと水着姿の女性達がテントから姿を現す。先に浜辺で準備をしていた香哉とキースは自然にそちらへと目を向ける。そこに現れたのは水着姿の美女4人(?)
「見るのが僕達二人だけとはもったいないね」
「眼福ですねー」
キースと香哉の間にそんな会話が交わされているとは知らず、無邪気に駆け寄ってくる女性たち。
「ほら、はじめるぞー」
香哉の投げたビーチボールをあぶなげにひなたがキャッチすると、そのままなし崩し的に女性四人対男性二人の対決が始まる。チュールが頭数に入るかは不明だが。
「いきますよー!」
ひなたがぽーんと打ち上げればすかさず香哉がひろって返す。地球にいた頃に遊んだ経験があるのか、茜や香哉の動きは他の者達に比べて俊敏だった。慣れない砂浜での運動。しかも相手はふわふわと軌道の読めないビーチボール。
「ほら」
キースが軽く押し出したボールをチュールが頭突きで返す。
「チュールさん、あまり無理しないでくださいね」
茜が微笑み、返ってきたボールを華麗なるアタックで決めた。
「容赦ないな〜」
「布津さんなら拾ってくれると思ったんですけど」
「む、ならこれでどうだ!」
茜の言葉に触発された香哉が鋭いサーブを放つ。それを何とかひなたが拾ったかと思えばキースがみようみまねでアタックを。
ずさーっ
砂浜に滑り込むようにしてそれを拾ったディアネイラが早々にギブアップを告げた。普段足を使って運動することのない彼女にとっては少々きつい運動だったのだろう。コートの端ですわり、楽しそうに彼らを見つめている。
冒険者達の夏休みは、もう少しだけ続く――。