自称・美少女は企む!

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月22日〜05月27日

リプレイ公開日:2007年05月24日

●オープニング

●冒険者、かーしてっ!
「ねぇお兄さん、冒険者貸してくんない?」
 カウンターに肘を突いての横柄な態度。
「‥‥またあなたですか」
 職員はその姿を見て遠慮なく溜息をついた。カウンターの前の少女、名前は確かミレイアと言ったか。茶色い髪の10歳の少女。彼女が絡むとろくな事がない気がする。
「で、今回の用件は?」
 相手が誰であっても一応話は聞かなくては。それが彼の仕事だ。
「父さんと母さんの結婚記念のパーティの準備を手伝って欲しいのよね」
「‥‥‥‥‥」
「料理の材料調達から調理、会場になる店内の飾りつけ、催し物まで全部手を貸して欲しいの」
 そういうことは近所の知り合いにでも頼めばいいのでは、と思った職員の頭に嫌な考えがよぎる。まさか、とは思うがこの少女なら考え付いてもおかしくない。
「材料調達って‥‥まさか」
「私ちょっと勉強してみたんだけど、モンスターには食べられるものも居るみたいじゃない?」

 ――やっぱり。

 職員は反応に困り、正直に眉根を寄せる。
「ありきたりな食材でありきたりな料理じゃつまらないでしょ」
 だからといって――‥‥
「基本的な食材はうちの店にあるのを使ってくれればいいから。メインの食材を採って来て欲しいの」
「(‥‥本気だ)」
 確かにモンスターの中には食べて害の無いものも存在する。味も普通のものと大して変わらないものもいるのは確かだ。だからといって両親の結婚記念日のパーティの料理にモンスターを使用するとは、彼女らしいというかなんと言うか。
「たいした報酬は出せないんだけど。保存食は私特製のを用意するから持ってこなくていいよ。あとはパーティの日は料理食べ放題! あ、美少女の笑顔も勿論付いてくるからね♪」

●ミレイアのメモ
 とってくるもの。
 ・ソードフィッシュ×1(お魚!)
 ・ローバー×1(イソギンチャクみたいなの!)
  ※王都から西にいった海辺にいるって!
 ・スクリーマー×1(きのこ!)
  ※その海辺にある洞窟に生えているって!

 やってほしいこと
 ・料理の材料採り
 ・パーティ当日の料理作成
 ・会場になる店内の飾りつけ
 ・当日の余興

 保存食とか道具とか、飾りつけの材料とか基本的な食材は、用意するよ!

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●お気楽娘
「やっほー!」
 冒険者ギルドで依頼を受けて尋ねてきた一行を自室に迎え入れたミレイアの第一声はそれだった。
 今回は両親に内緒でパーティの準備をとのことなので店内で打ち合わせをするわけにもいかず、四人はそう広くもない彼女の自室に招き入れられた。
「レフェツィアは久しぶり! ルイスはまた来てくれたんだね、ありがと!」
 見覚えのある人物を見つけ、ミレイアは無邪気に笑った。レフェツィア・セヴェナ(ea0356)とルイス・マリスカル(ea3063)には彼女は以前も世話になっていた。
「そっちの二人は初めまして、よろしくね!」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)と龍堂光太(eb4257)を見、手を振る彼女。
(「この子が食材にモンスターをって考えた子か‥‥全く邪気もなく、本当に両親の為を思っているように見えるな‥‥」)
 ミレイアの意欲に満ちた笑顔を見、光太はお小言は後にしようと心に決める。
「光太さん、言いたい事は多分ボクとおんなじだと思うよ。でもボクの経験上彼女は現実を突きつけないと納得しないから‥‥食材を採って来て見せて、の方がいいと思うよ」
 光太の表情を鋭く察知したレフェツィアがこそっと彼に耳打ちをする。二人が言いたいのは「パーティの料理にモンスターを使うというのはどうかと思う」という事だ。しかしいくら現在のミレイアにそれを言ったとしても、彼女がすんなりと納得してくれるとはレフェツィアには思い難かった。以前彼女を説得するという行動を取ったことがあるだけに。
「うん、よろしくね〜♪ 早速だけど、食材を捕えて入れておくようなものってあるかな?」
「うん、保存食と一緒に用意してあるから、必要なだけ持っていって!」
 フォーレに問われ、ミレイアはベッドの向こうから籠やら袋やらを沢山取り出した。どうやら色々と必要な道具も隠しておいたらしい。
「保存食はわたしの手作りだよ、味は保証するから頑張ってきてね!」
「ソードフィッシュ‥‥カジキのモンスター級にゴツイのでしょうか?」
 だとしたら少し捕獲手段を考えなくてはなりませんね、とルイスは顎に手を当てて考え込む。
「保存食貰って行くよ、有難う」
 さすがにこれにはモンスターは使われていないよな‥‥と光太は受け取った保存食の袋をついつい眺めてしまった。

●食材を探せ!
「この辺にいるらしいね〜」
 フォーレは岩場から海中を覗き込む。運良く捕まえた漁師達に話を聞いたところ、どうやら最近は漁場から少し離れた所にある洞窟付近にソードフィッシュが集まっているという。その洞窟付近には最近イソギンチャクやキノコの魔物が集まっていて不気味だということで漁師達は近寄らないらしいのだが。
「ちょっ‥‥あまり覗き込まないほうがいいよ。この辺にローバーもいるらしいからね」
 好奇心で海中を覗き込んでいるフォーレをレフェツィアは慌てて引き起こす。ローバーの触手に絡め取られたら大変だ。
「さすがに海辺だけあってじめじめしているな。あっちの洞窟の入り口には極彩色のキノコが見えるよ」
 スクリーマーって確か近づくと叫ぶのだったよな? と岩場の後方にある洞窟の入り口から十分距離をとりつつ、光太が呟く。叫ばれて余計なものを呼び込む前にさっさと持って帰りたいところだ。
「ここで一度に全部の食材が手に入りそうなのは助かりますが‥‥一度に全てを相手にするのは避けたいですね、こちらの人数も少ないですし」
 ルイスはロープを取り出し、その先に餌とする魚を結びつけて一本釣りの準備をする。普通の釣竿で吊り上げるのは無理かもしれないと考えての苦心の作だ。幸い漁師の一人が大きなたも網を貸してくれたので、餌に喰いついてくれさえすれば皆の力を合わせればソードフィッシュは何とかなりそうだ。
「っと!」
 ルイスが放ったロープの先は弧を描いて海中へと沈んだ。後は掛かってくれるのを待つ。もしも掛かったら引き上げる手伝いをしようと光太も側で待機をした。フォーレはたも網を持ち、掬い上げる準備万端。
「ボクも準備できたよ」
 魚が掛かったら高速詠唱コアギュレイトでその動きを止めて引き上げやすくしようと考えたレフェツィアは聖なるロザリオを握り締めて海面を見つめる。

 ‥‥

 ‥‥‥

 ‥‥‥‥

 じれったいほどの沈黙。海面は中々動かない。やはり吊り上げるのは無理なのか? と一行が思い始めたその時――

「来ましたね!」
 ぐい、と凄まじいまでの引力を感じ、ルイスが縄を握り直す。
「手伝おう!」
 光太も縄を握り、腰を落として下半身に力を入れた。こうしているとなんだか綱引きを思い出す。
「わ、と、と‥‥凄い暴れてて上手く網に入れられないよ〜」
 海面に少し顔を出して餌を喰いちぎろうと暴れまわるソードフィッシュを網に入れようとするフォーレだったが抵抗激しく、中々上手くいかない。波しぶきが顔にかかる。
「もう少しだけ頑張ってね」
 高速詠唱を始めたレフェツィアの身体が淡く光る。と、それまで暴れ回っていたソードフィッシュの動きがピタリと止まった。
「今のうちだよ」
 レフェツィアの言葉にルイスと光太がロープを引き上げる。フォーレの持つたも網がそれを補助し、岩場に打ち上げられたのは1m強のカジキマグロ。「モンスターだ」という先入観がなければ食べてみたい気がしなくもない。
「大きいな‥‥」
「とりあえずコアギュレイトが効いているうちに血抜きと内臓抜きをしておきましょうか」
 呟く光太の横で万能包丁を取り出したルイスが一時処理にかかる。大きさが大きさだけあって少しだけ骨が折れそうだ。
「ローバーって触手わきわきで大きいみたいだからきっとすぐに見つかるよね〜」
「モンスターだからね、どんな攻撃してくるかわからないし、探すのにも注意しないと‥‥ってフォーレちゃん、後ろ!」
 魚の処理を男性二人に任せて岩場を散策しだした女性二人。ローバーは見つかった、岩場の下から通りかかったフォーレの背後に触手を伸ばすという形で!
「わぁっ!?」
 レフェツィアのおかげでフォーレは触手に絡め取られずに素早く距離を取る事が出来た。触手は足首にかすった程度だ。
「びっくりした〜」
「怪我はない?」
 触手の範囲外と思われるところまで離れたフォーレにレフェツィアが駆け寄る。
「いたか?」
 そこに魚の処理を終えた男性二人が駆けつけた。ローバーを見つけたんだけど、と女性陣は事情を話す。
「それでは前衛の私達で触手を牽制している間に、本体攻撃はお二人にお任せしてもいいですか?」
「そうだな、僕達が触手に捕まる前に何とか倒してくれると助かる」
 ルイスと光太の提案にフォーレは縄ひょうを、レフェツィアはロザリオを手にし、頷いた。

●潮風を伴い
 磯のにおいがする。食材からも、冒険者達からも。
 何とかローバーの触手には捕まることなく遠距離攻撃を中心に岩場の下のそれを退治した一行だったから、その後約1.5mあるそれを引き上げるのに苦労した。それに比べれば叫ぶ事しか出来ないキノコ退治など容易なもので。
「おかえりー! うわっ‥‥」
 四人を迎えたミレイアも思わず声を上げた。マグロ‥‥いやソードフィッシュやキノコはともかく、うねうね触手の巨大イソギンチャク。本当にこれを食べるのだろうか?
「ミレイア、はっきり言わせてもらうけど‥‥中には美味しいものもあるかもしれないけれど、人を食べたことがあるかもしれないものを結婚記念日の食卓に供するものはいかがなものかと思う」
「おかしいなぁ‥‥本で見たときは美味しそうだと思ったのに」
「ミレイアちゃん? そういう問題じゃなくてね、ボクも光太さんと同感だよ」
 グロテスクで巨大なローバー、光太、レフェツィアを順に見やり、ミレイアはしおれて溜息をついた。
「そうだね‥‥他の二つはともかく、これは止めておくよ」
 彼女のその言葉に少しほっと‥‥
「麻痺毒のある所を上手く避けるの難しそうだし」
 する間もなかった。
「そういう問題じゃなくてな‥‥」
「まぁまぁ、とりあえず身体を清めてから準備に入らないと間に合わないよ?」
 呆れて溜息をつく光太と食材の調理方法を考えてうきうきしているミレイアの間にフォーレが入る。確かに四人は一度身体を清める必要が有りそうなほど汚れてはいた。
「そうですね、急いで身体を清め、お手伝いに入りましょう」
 ミレイアのこの性格にはいい加減慣れつつあるルイスが皆を促した。彼女は二人の言うことがわかっていないわけではない。ただ素直に認めるのが少し苦手なだけなのだ。
「そうだね、ちょっとさっぱりしたいな」
 潮風でべたつく肌を撫で、レフェツィアは呟いた。

 着々と開場準備は進んでいく。料理も余興も自信がないからという光太はテーブルクロスを敷いたり花瓶に花を生けたり家具を動かしたりと、場のセッティングに力を発揮していた。フォーレはクロスやリボンを使って統一感のある飾り付けを考え、蝋燭立てにも気を配る。
 ミレイアの親孝行だから、とルイスはメインの調理は彼女に任せ、簡単な手伝いをすることにしていた。同じく料理の手伝いをしていたレフェツィアは、ミレイアの手によってだんだんと美味しそうな料理に姿を変えていく食材たちを見て思わず感心する。
「(本当に、押しかけ女房して家事を担うだけの腕はあるんだね。保存食も美味しかったし)」
 さすが酒場の娘として家事を手伝ってきただけの事はある。10歳の娘にしてはとても手際がよく、モンスター以外の食材も次々と美味しそうな料理に変貌していく。勿論ソードフィッシュやスクリーマーも、一目見ただけではモンスターとは解らぬ様に変貌を遂げていた。
「ふぅ〜さすがにこれだけのことを一人でするのは無理だしね、手伝ってくれて有難う!」
 見事に飾り付けられた会場、そこに並べられた沢山の料理を見て、ミレイアは満足そうに微笑んだ。
「喜んでいただけるといいですね」
 ルイスの言葉に彼女は頷く。
「(‥‥手伝い頼める友達とかいないのだろうか)」
 光太はふと浮かんだ考えを、心の中で呟くに止めた。

●宴
 店に入ってきたミレイアの両親は、変わり果てた店の様子と豪華な料理に目を丸くして驚いた。その後思わず男泣きした父親に、ミレイアは「恥ずかしいからやめてよ!」と怒鳴りつける一幕もあったが。
 ルイスの伴奏で恥ずかしがりながらも両親の為に歌うミレイアを見ながらレフェツィアは料理を取り分け、両親に差し出す。光太は父親のカップが空になるのを見計らっては良いタイミングで酒のお替りを注いでいる。
 料理の評判も上々だ。何も知らぬ両親達は喜んで全ての料理に手をつけていた。食材の一部を知る冒険者達の中にはそれらが使われている料理を巧妙に避ける者もいるが、こればかりは仕方あるまい。人によって嗜好は違うし、生理的嫌悪を持つものもいるだろうから。
「さーて、次は誰の声真似しようか?」
 特技の『声色』でミレイアや身近な人々、動物などの声真似をして場を盛り上がらせていたフォーレがリクエストを募る。それに元気よく手を上げたのはミレイアだった。
「はいはいはい! ステライド王の声真似が聞きたい!」
「え‥‥」
 さすがにそれは‥‥言われたフォーレだけでなく場が固まる。
 ステライド王の声を知らなければ真似しようがないし、第一知っていたとしても不敬に当たるのではないか? 聞く方も似ているとも似ていないとも評せない、微妙すぎる要求だ。
「ミレイアちゃん、それはちょっと無理だと思うよ」
 苦笑したのはレフェツィアだけではない。
「ミレイアさん、さすがにそれは」
 ルイスも苦笑して、代わりに私が故国イスパニアの楽曲を披露しますからやんわりと注意をする。
「えー、なんでー? 何で駄目なのー!」
 駄々をこねるミレイア。助けを求めるように彼女の父親を見た光太だったが、頑固親父は酔いつぶれて幸せそうに眠ってしまっている。
「ミレイア」
 と、そこに一声。大きな声ではないのだが、きつい口調ではないのだが場に良く通る声。それを聞いたミレイアはびくりと動きを止めた。
「人様を困らせてはいけませんと‥‥何度言ったかしら?」
 それはおっとりとしたミレイアの母。大人しい女性に見えたのだが、今のその彼女の顔に浮かんだ笑顔は有無を言わせぬ迫力があった。笑顔なのに、笑顔なのに、何か背後に恐ろしいオーラの様なものが見える気がする。
「‥‥あ、う‥‥」
 彼女は笑顔一つで娘を黙らせた。もしかしたら父親よりこの母親の方が強いかもしれない。
「ところで」
 この話はここまでとばっさりと娘の我侭を斬った彼女は、娘を初めとした冒険者達をぐるりと見回して笑顔のまま首を傾げた。
「この料理、美味しいのだけれど少し変わった味がするものもあるわね。材料は何を使ったのかしら?」
 その言葉に一行が揃って彼女から目を反らしたのは言うまでもない。
 とてもじゃないがこの母親に本当の事を伝える勇気を持つものはいなかった。