男の護りしものは――?

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月13日〜09月18日

リプレイ公開日:2008年09月20日

●オープニング

●下町の子供達
 メイディアの下町の路地裏、薄暗いその隅っこの方で子供達が肩を寄せあうようにして座り込んでいる。
「にいちゃん、汗でべたべただよぅ」
「そうだなぁ、雨でも降らないときついなぁ」
 ギョーと呼ばれた男性は腕を組み、考える仕草を見せる。
 ここにいる数人の子供達は家を持たぬ子供ら。何らかの事情で親から捨てられたり、親元を出たり、親を亡くした子達。いつのまにやら同じ様な境遇の子供達が集まり、メイディアの片隅で何とかその日暮らしをするようになった。
「にぃちゃん、おなかすいたよー」
「お、それは大変だな。まだ昨日のパンが残ってただろ、それでも食べとけ。明日にゃまた何か別のもん食わせてやるからよ」
 ギョーは空腹を訴えた少女の頭をぽんぽんと軽く叩き、空を見上げて溜息をついた。
 この子達を護るためには、やらなくてはならない事がある。


●奇妙な遺失物
「最近、奇妙な事件が起こっているらしいですよ」
「へぇ?」
 冒険者ギルドの片隅で、通りがかった冒険者に話を振る支倉純也。別に暇なわけではない。
「天界の品を所持、収集している商人や貴族の家に泥棒が入るらしいとか」
「なんだその、はっきりしないのは」
 冒険者の突っ込みに、純也は苦笑する事しか出来ない。
「いえね、それが‥‥足跡も、窓の縁にも床にも、地面にも侵入した形跡が殆どないそうです」
「それはその泥棒の腕が良いってことじゃないか?」
「腕が良いなら、目利きも良いでしょう。高値で売れそうなものを選んで持っていくはずです。別に全て持って行っても良いわけですし。天界の品ならその手の所に売ればどれでもそれなりに高く売れますからね。なのにその泥棒はほんの数品だけしか持って行かないそうですよ。高値で売れる売れないで判断しているわけではないようですね」
「それは泥棒じゃなくて、ただ単にその家の奴が紛失したとかじゃ?」
 当然、その線でも捜索は行われたらしい。また、家の使用人が犯人ではないかと疑われている所もあるとか。
「もし泥棒だとしたら、ただ物の価値が分かっていないとか――いや、それだとしたら腕が良いっていうのと矛盾するのか」
「侵入経路も良く分からないそうなんです。この暑さなので夜窓を少しばかり開けたままだったりなど完全に密室にしていたわけではないらしいのですが、それでも開けていたのは明り取りの小さな窓だけだったり、2階以上の高いところの窓だったり、少ししか開けていなかったり。侵入形跡がなかったりとやはり謎らしいのです」
「それだったらやっぱり内部の犯行じゃないのか?」
「その内部犯行説で疑われた使用人さんたち連名の依頼が来てますよ」
「ふむ‥‥」
 純也は依頼内容を読み上げる。何とか自分達にかけられた疑いを晴らして欲しい、その為には真犯人を捕まえて欲しい、そんな内容だ。
 ちなみに次に狙われるとしたら、ゴードという商人の家だろうというもっぱらの噂らしい。ゴードも天界の品を集めているというから。
「というわけで、この奇妙な事件の真相を解明してくれませんか?」
 純也は苦笑しながら首を傾げるようにして冒険者に問いかけた。

●参考資料・今までに各家から盗まれた品物
 シュノーケル、手回し発電ライト、ソーラー腕時計、レジャーシート、シャープペンシル、筆ペン
 折り畳み傘、ハンディLEDライト、ヘッドランプ、ファウルカップ、水中眼鏡、サングラス
 ライター、ポケットレインコート、伊達眼鏡、遠視用眼鏡、近視用眼鏡、手巻き腕時計、パールルージュ
 ハンドタオル、磁気ネックレス、アロマキャンドル、栄養ドリンク、使い捨てパック入りの色々、などなど。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec4629 クロード・ラインラント(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 次に狙われると目されていたゴードという商人は、冒険者達が訪れると快く彼らを室内へと招きいれた。コレクター仲間からその泥棒のことは聞いているのだろう。それとも冒険者がタダでやって来て貴重品を護衛してくれると喜んでいるからか。
 しかしゴードは、『地球の品をお金を出して道楽のために集める好事家』という名から想像しやすい、でっぷりと太った金に汚い商人とは少し異なっていた。仕立てのよい服に身を包んだ長身痩躯の30代前半の男性で、前髪をオールバックに撫で付けてそれもコレクションなのか、眼鏡をかけていた。ぱっと見ればどこかの貴族にも見えなくはない。
「ところで、今までコソ泥を働いてた奴だがよ」
 ゴードにコレクションルームに案内される途中、絨毯をしっかと踏みながら口を開いたのは巴渓(ea0167)だった。
「犯人、シフールだろ?」
「僕もそうだと思ってたよ」
 渓の意見に同意するのはレフェツィア・セヴェナ(ea0356)。反対に男性三人、レインフォルス・フォルナード(ea7641)とクロード・ラインラント(ec4629)と桃代龍牙(ec5385)の動きが止まる。特に挨拶がてら仲間の男性にボディタッチし、その体躯の確認に集中していた龍牙は「え?」と聞き返す有様だ。他の二人はそれを聞いて納得、といった表情なのに。ちなみに蛇足だが、男性参加者のうち最も龍牙のお眼鏡に適いそうなのは、身長189cmで筋肉質のレインフォルスだった。‥‥何のお眼鏡かは置いておくとして。
「シフール? 何?」
「コレだ、コレ」
 不思議そうに聞き返す地球人龍牙に、渓は自分の肩に座っているチュールを指す。
「やほー」
 純也から酒場のオレンジジュース1杯で協力を要請された碧の羽根のシフールは、陽気に手を振って見せた。
「妖精さんか‥‥さすがはファンタジー」
「確かにシフールでしたら、侵入口が小さくても入れますし、飛べば足跡も残りませんね」
 妖精の存在にがくりとうなだれた龍牙を励ますようにその背中をとんとんと叩きながら、クロードが改めてチュールを見る。
「しかし犯人は盗人稼業に慣れていますね。いい加減捕まえないと、足を洗うどころではありません」
「でも盗まれた品物のリストを見ると、なんていうか、殆どガラクタに見えるんだが‥‥いや、こっちだと珍しいんだろうけどさ」
「簡単に運べるもので金になるものだ」
 地球人のクロードや龍牙にとってはガラクタでも、こちらの世界にとっては珍しいものばかりだ。レインフォルスの言葉に渓が足を止めて「ああ」と頷いた。
「シフールは体力的には乏しいから、それほど大掛かりなものは盗めん。宝石なんかは足がつきやすいからな。それに引き換え、出自の分からん天界アイテムは万が一疑われても『自分が拾った』って主張すりゃ問題ないってこった」
「頭のいい泥棒だよね。でも、どんな理由があっても泥棒をする以外の選択肢を思いつかなかったのに『頭がいい』っていうのもどうかと思うけど」
 レフェツィアが溜息をつく。神様信仰のない地に来たとはいえ、神に仕える彼女にとってはどんな理由があろうと犯罪は犯罪だ。
「なるほど。シフールですか」
「ペットに遣らせたり釣竿で引っ掛けたりといった線も皆無というわけではありませんけれど」
 納得したようにチュールを見つめるゴードに、クロードが他の推理も補足として伝える。
「まて、犯人はこいつじゃねーぞ。それはダチの俺が保障する」
「ああ、申し訳ありません。そちらのお嬢さんを疑ったわけでは」
 ゴードの視線を疑いのものと取ったのか、びくっと身体を振るわせたチュールを庇うように渓が口を挟んだ。するとかの商人は苦笑するように弁解の言葉を述べた。
「このように目が悪いわけでして。目つきが悪くて申し訳ありません」
 そして彼が数メートル先の部屋のドアノブに手をかける。
「こちらがコレクションルームになっています。どうぞ」
 あけられた扉から中を伺い見ると、いくつかあるテーブルに整然と何かが並べられているのがわかった。純白のテーブルクロスの上に並べられたおびただしい数の収集品。複数の明り取りの窓はあけられていて、光源は十分だ。
「これは‥‥」
 部屋に一歩足を踏み入れ、ある者は他の仲間の後ろから部屋を覗き込み、そして皆、ある意味息を呑んだ。

 そこに並べられていたのは――全て地球で「眼鏡」と呼ばれる種類のものだったのである。



「窓は明り取り用の小さいものが3つに、通常のものが2つ‥‥どちらも木戸、と」
 クロードがコレクションルームにおける侵入経路を調査する。
「‥‥夜間は、窓は?」
「通常の窓は木戸をきちんとしめ、閂をかけます。明り取り用の窓は、室内に湿気が入らないように最近は明けたままですね」
 レインフォルスの問いに、ゴードはすらすらと答える。レフェツィアが他の被害者達の話を聞いてきたところ、紛失――この場合は賊が侵入した時間なのだが一部ではまだ紛失や内部犯行の説が消えていない――はやはり夜だというから、夜の状況を確認せねばならない。
「しかし、一体どうしてこんなに眼鏡ばかり?」
 龍牙の問いも最もだ。同じく地球人のクロードも、なんだか不思議な光景を見ている気分だ。部屋の中のテーブルの上には遠視用眼鏡、近視用眼鏡、サングラス、伊達眼鏡、水中眼鏡が所狭しと並べられていた。水中眼鏡はともかく、他のものを見る限りここは眼鏡店ではないかと錯覚してしまうほどに。ただでさえ貴重な天界アイテムを、ここまで種類を絞って大量に集めるのはさぞ大変な事だろう。
「それはですね、この眼鏡というものは実にすばらしく、私は初めてこれに出会った時に運命を感じたのですよ!! この道具は私に会いに来てくれたのだと!!」
 急にゴードの顔色が変わったのが誰にでも分かった。目の色変えて息も荒く眼鏡についての愛情を語り始めたのだ。
「そもそもですね――」
「チュー坊、外から侵入試してくれや」
 話は長くなりそうだ。そもそもコレクターというものは自分のコレクションに並々ならぬ愛情を傾けるもの。マニアな話が長くなりそうなので、渓は早々に無視してチュールに指示を出す。だが特にゴードが気分を害した様子はなかった。問うた龍牙に懸命に自らの眼鏡ワールドを披露していたために、気がつかなかっただけかもしれない。
「始めるよー」
「おうよ」
 暫くすると玄関からコレクションルームの外へ向かったチュールが窓から姿を見せた。はたはたと羽根をはためかせて、部屋の中に声をかける。
「ゴードさん、ちょっといいかな? 今シフールの仲間に実演をしてもらうから、一つだけ眼鏡を借りるよ?」
「え――ええ」
 レフェツィアに肩を叩かれ、その演説を中断されたゴードは少しばかり不満な顔をしたが、言われて窓に向き直る。聞きたくもない演説からやっと解放された龍牙は、心の中で彼女達に感謝をした。
「この位の隙間なららくしょー」
 ひらり、チュールが高窓から姿を見せる。身長40cmの彼女なら、楽に通過できる大きさだ。
「よいしょっ」
 なんとなく、一番落としてもわれなそうな水中眼鏡を抱え上げるチュール。あの熱のこもった演説を聴いていたら、簡単に壊してしまいそうな物には手をつけられなかった。まあ泥棒も後で売る品に傷をつけないようにするだろうから、実演としてはコレでよいのかもしれないが。
 結果的にチュールは一度も床にもテーブルにも触れず、品物だけを抱え上げて高窓を出たのである。
「これでよかった?」
 きちんと玄関から回って、コレクションルームに入るとゴードに水中眼鏡を返す。彼は傷がついていないか慎重にチェックし、チュールの小さい指紋をハンカチでふき取って眼鏡を元の場所に戻した。
「上出来だ」
 渓に頭をわしゃっとされ、チュールは嬉しそうに笑う。
「ところで、皆さんはその泥棒を捕えてくださるのですよね?」
 実演が成ったところで、ゴードは眼光を鋭くして尋ねた。勿論だよ、とレフェツィアを初めとした冒険者達は頷く。
「ただ、捕まえたら事情を聞いてみたいな」
「捕まえるだけでは根本からの解決にはなるまい。糊口をしのぐためだとすれば、働き口を紹介してやるなど必要だろう」
「まあ、お説教と盗んだものの行く末はしっかりと問い詰めるけどね」
 龍牙とレインフォルスとクロードが口々に告げる。
「ま、情状酌量の余地があるなら、寛大な対処を願いたいところだ」
 ただ捕えるだけでは犯罪はなくならない。それは皆同じ考え。事情を聞いて更生の余地があるならば、更正させるに越した事はない。
「しかし、相手はわがコレクターたちの大切なコレクションを盗むという‥‥」
「ここは大商人様として、懐がふかーいところをみせちゃくれんか? もし相手に情状酌量の余地が認められなければ、憲兵にでもなんでも引き渡せばいい」
 渓に肩をぽんと叩かれ、大商人様と持ち上げられ、ゴードは唸るようにしていたが最終的には頷いた。
 さて、ここからが本番である。相手はいつ現れるか分からない。昼間に睡眠をとっての夜の張り込みが始まる。


 犯人が侵入する経路を絞るため、明り取りの窓は1つを除いてしっかりと閉めてもらった。その上で室内での見張り、館の見回り、窓の側の茂みで体育座りと警戒を欠かさない。相手がこの屋敷のコレクションルームの場所を知っているとは限らないが、他の場所の戸締りをきちんとしてもらえば自ずと誘導できる。この3日間、毎晩開け放たれている窓はコレクションルームの明り取りの窓1つだけだ。屋敷の人間達には暑い思いをさせてしまっているかもしれないが、仕方あるまい。部屋で張り込みをしている冒険者たちとて暑いのだ。9月に入ったからといって急に涼しくなるわけでもなし。
「‥‥‥!」
 毛布を被り、詠唱時の光を目立たせないようにしながらブレスセンサーを使用していたクロードがばさり、と毛布を取り落とした。
「なにかあった?」
 部屋の隅に待機していたレフェツィアが小声で尋ねる。クロードは毛布を被りなおしながら小声で答える。ちなみに見ているこっちが暑くなるのだが、それは仕方がない。
「ちょうど100メートル先から50cm位の生命体が1つ、こちらに近づいてきます。あまり長くは持たないので、これ以上は分かりませんが」
 そう言い、クロードは再び詠唱を始める。今度はテレパシーで窓の外にいる龍牙に声をかける。
『龍牙さん、何かが近づいてきています。気をつけてください』
 もぞっ‥‥
 クロードがテレパシーを送っている最中に毛布に入り込んできた影が一つ。チュールだ。彼女も毛布で発光を隠し、見回りをしているレインフォルスへと同様のことを伝える。
「部屋に入るの確認したら、外から窓塞げって言っとけ」
「了解」
 渓に小声で言われ、それも指示に加える。幸いコレクションルームは1階だった為、長身の龍牙とレインフォルスならば背伸びして手を伸ばせば楽に届く。
 しばらくして、闇間を縫うようにしてふっと飛び来る影があった。張り込み4日目にして漸くそれらしい姿が見えたのだ。龍牙もレインフォルスも飛び掛りたくなる衝動を抑える。あちらは空を飛べる。屋外で逃げられては追うことは困難だ。
 ふよふよ‥‥すすーっ‥‥
 影は開いている窓を探すように壁のそばを飛んでいる。月精霊の光の当たらぬ陰を利用して上手く飛んでいる。音も立てずに、すすい、と。事前に近づいてくるとの情報がなければ、見逃していたかもしれない。
 ぴた。
 影の動きが止まった。開いている窓を見つけたのだ。注意深くそぉっと中を覗き込み、そして――

 入った!

 ばたっ!
 レインフォルスと龍牙が板切れで窓を塞ぐ。コレクションルームは真っ暗闇に包まれた。



「事情は分かったけど、やむにやまれぬ事情があったとしても、盗みをするって事はいけない事だよ?」
「じゃあどうしろっていうんだよ!」
 燭台に火の灯されたコレクションルーム。その床の上に縛り上げられたシフールの男性が座らされていた。レフェツィアはなるべく彼と視線をあわせるようにしゃがみながら優しく説く。だがその男はキッと彼女を睨んで怒鳴りつけた。
「あいつらが生きていくためには食べ物が必要だ。あいつらは自分で金を稼ぐ事はできない。俺だって雇ってくれるところなんて殆どない。だとしたら、金の有り余っているところからちょっと分けてもらうしかないだろ? そうしたって罰は当たらないはずだぜ?」
 男は渋々とギョーと名乗った。恐らく本名ではなく通り名か何かなのだろう。彼は下町で、家を持たぬ孤児達――ストリートチルドレン達と暮らしているという。人間だけでなく、様々な種族の子供達が集まっているという。
「盗んだ品物は、すでに全て手放してしまったのですか? まだあるようでしたら、きちんと返しましょう」
「そうしたらあいつらはどうなる? 明日から何を食べていけばいい? どうやって生きていけばいい? 俺が帰らなかったら、誰があいつらの面倒を見てくれる?」
 クロードの言葉に、半ばつかまるというヘマをやらかした自分を責めるようにギョーは言葉を重ねる。
「まっとうに働く気があるなら、働き口を探せばいい。いくらシフールにできる仕事が限られるとはいえ、必死に探せば一つや二つ見つかると思うけど」
「その給料だけで子供達全部を養えるなら、とっくにやってるさ」
 龍牙の言葉にも聞く耳持たぬ様子。それを聞いてレフェツィアが細く息を吐き出した。
「ゴードさん、彼を雇ってみない? 更正の機会を与えるっていう寛大な処置をすれば‥‥大商人ゴードさんの名も挙がると思うんだ」
 彼女としては「神様が〜」と口にしたかったところなのだが、いかんせん生粋のアトランティス人にはその観念はわかるまい。
「ああ、それはいいかもしれないですね! 商談に使う書類の整理や手紙の配達、眼鏡の整理など、シフールにできる事を考えましょう!」
「その仕事で、あいつら全員を養えると思うか?」
 話を振られたゴードはやはり持ち上げられた事に気を良くしたのか、あっさりとレフェツィアの提案を受け入れてくれた。コレクションを狙われたものの、タダでそれを守れたのだ。彼にとってギョーは不法侵入者ではあるが盗人という感覚はもうないのかもしれない。
「お前が本当にまっとうに働く覚悟を決めるなら、いい孤児院を紹介してやる。そこの経営者は元冒険者だ。働きに出るまでしっかり面倒を見てもらえるし、しつけもしっかりしてる。望みゃ読み書きをある程度覚えられたりもするだろ。どうだ?」
「本当に全員面倒見てもらえるのか?」
「ああ、俺が根回ししておく」
 渓の真剣な瞳をギョーはじっと見つめ――そして頷いた。
「わかった。あんた達を信じる」

 こうして盗人は新たな働き口を見つけ、宿を持たぬ子供達は、決して裕福とはいえないが帰る所を得る事ができたのである。