誓いの種 約束の苗
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月23日〜09月28日
リプレイ公開日:2008年09月30日
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●オープニング
9月、秋の種まきの季節であり、各地方で秋祭りが行われる。
この日ギルドに舞い込んできた依頼は、その秋祭りへの招待だった。
昨年まで村内で小さな祭りを行っていたこの村では、今年初めて大々的に村の祭をアピールし、参加者を請うという。
種まきが終わった後夜に飲食物が供されて、皆で撒いた種の成長を祈って楽しく過ごすのは勿論なのだが、メインは昼間に行われる種まきと苗植えだ。
『誓いの種を撒き、自分の心に誓いを抱いてみませんか。
約束の苗を植え、誰かと大切な約束をしてみませんか』
そんな言葉がギルド職員の手で添えられている。
誓いの種――種自体は普通の種だが、それを植木鉢に植える時に、何か一つ種に誓う。その種は来年の収穫期まで村人が大切に育ててくれるという。来年の収穫期までその誓いが守れるのだろうか。来年の収穫期にどんな思いでその植木鉢を見つめるのだろうか。植えた種と名を記したプレート(文字がかけぬ者は自分のだと分かるように絵を描くという)を、どんな思いで見つめるのか。誓いが守られれば種はきっと芽吹き、すくすくと育つ――そんな思いを込めて種を植えて欲しいという。
約束の苗――自分との約束、大切な誰かとの約束。約束を守るという思いを苗に託し、畑に植える。その苗は来年の収穫期まで村人が大切に育ててくれるという。来年の収穫期までその約束は破られずにいるだろうか。来年、その約束が守られた証のように苗は実をつけるだろう。植えた苗と名を記したプレート(文字がかけぬ者は自分のだと分かるように絵を描くという)を、どんな思いで見つめるのか。約束が守られれば苗はきっとすくすくと育ち、実をつける――そんな願いを込めて苗を植えて欲しいという。
「自分自身の誓いを立てるのも素敵だし、誰かと約束をするのも素敵だよね〜」
「約束する相手がいるんですか?」
依頼書に目を留めた、お祭り好きの碧の羽根のシフール、チュールの後ろを通りかかった支倉純也がさらっと言う。彼には悪気はない。ただ思ったことを聞いただけだ。深い意味もない。
「さらっと酷いこというねー、純也ー。だって相手は異性に限ったわけじゃないでしょー? あたしにだって友達くらいいるもんー」
ぷーとほっぺたを膨らませたチュール。純也は「すいません、そういう意味じゃなかったんです」と苦笑して、彼女の前に一枚の焼き菓子を差し出した。
「さっき届いたばかりの焼きたてのお菓子です。お詫びの印に」
「わぁい♪」
差し出された焼き菓子を両手で持ってぱくり、とかぶりつくチュール。
花より団子の彼女には、色恋沙汰は当分縁がなさそうだった。
●リプレイ本文
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人間は弱い。
心に誓いや約束を持ったとしても、半ばでそれを諦めてしまう事は多々ある。
だから、何かに対して誓うのだ。約束するのだ。
誓いを、約束を形として残しておくのだ。
その「形」を見れば、誓いや約束をにわかに思い出せるように、と。
「誓いの種を埋め、願いをかけて一年を過ごす‥‥何とも風流ですわね。では、わたくしも一鉢戴いて願いをかけましょうか」
早速鉢を手に取りスコップで土を入れ始めたのはシャクティ・シッダールタ(ea5989)。それをふわふわと自前の羽根で飛びながら覗き込んだのはチュール。
「ふーむ、改めて願いと申されましても」
「お願いないのー?」
「愛しい殿方はもうおりますし、普段の生活に何ら不便はございません。欲しい物も特には‥‥あッ!?? そうですそうです、そうですわっ! いつぞやの市場にて捜し求めて結局見つかりませんでしたアレ!!」
「な、なんだろう‥‥」
シャクティのあまりの迫力に何だか触れてはいけないもののような気もしたのだが、少しばかりの好奇心は隠せないチュール。そんな彼女の様子を気にするでもなく、シャクティは種を植えて手を合わせる。
「(愛しいあの方にお見せしたい、わたくしのぶるまーとせーらー服姿ッ!)」
――それ、煩悩って言うんじゃ‥‥
「もっと可愛がって戴きたいから、これは是非に願をかけねばなりませんわっ! うふふ〜、もうチュールさんったらっ!!」
ばしんっ、ずぼっ! ばたばたばた!
ジャイアントであるシャクティの平手を背中に受け、チュールは植木鉢にめり込んだ。ええ、顔から丁寧にすっぽりと。
「チュールさん‥‥ああ!!? チュールさんが鉢植えに埋まってしまってますわ〜!!」
助けてあげてください。
「ゴーレムニストになった初心を忘れない事」
ぽつり、種を植え終わった鉢植えに呟いたのは門見雨霧(eb4637)。ゴーレムニスト学園の施設に寄り、猫のリリィに首輪のプレゼントをした後、ユリディスを誘ってこの場に来ていた。ユリディスは隣の雨霧の呟きを拾ってふ、と小さく笑み、自分も何事か誓いを立てる。
「次はこっち。約束の苗だね」
畑の一部を掘り返し、苗を植える。普段土仕事などしないだろう白いユリディスの指が、苗に土をかけていく。
「一年前の自分と比べて成長している事」
雨霧は真面目に苗に約束をする。くす、再び笑んだユリディスに、雨霧はその根拠を語ってみせた。
「『真に恥ずかしいのは一年前の自分自身から成長していない事だ!』って地球の恩師に教えられたしね。それに、自分の夢の為には今以上に成長しないと駄目だしね」
『Cd』と記入したプレートを見て、来年の自分を思う。来年ここに来た時、自分の心境はどうなっているだろうか。それとも見にこれないほど誓いや約束を守れていないだろうか。
「ところで先生はどんな誓いや約束を立てたの? 学園の二期も始まるっていうし、そっち絡みかな?」
「聞きたい?」
駄目元で尋ねたのだが、雨霧は素直に頷いて見せた。
「そうね‥‥そろそろ理解あるいい伴侶を見つけること、かしら?」
そういえばユリディスはもう25。これは冗談なのか? 笑っていい部分なのか?
いまいち判断がつかず、リアクションに困る雨霧なのであった。
ユリディスの真の願いと誓いは、きっと彼女の心の中に。
「あー、久々にのんびりできるなー。あ、俺は誓いの種のほうで、‥‥ああ、どうせ約束する相手なんていないし‥‥いいなー、約束できる人がいるのって」
植木鉢に入れる土を掬うべく渡されたスコップで、ずぼずぼ土をさしてちょっといじける布津香哉(eb8378)。ふ、そ彼の隣に影が下りる。
「お隣、空いていますか?」
空の植木鉢を持ったカレン・シュタット(ea4426)が立っていた。彼女も香哉と同じくゴーレムニストだ。
「ああカレンさん。どうぞどうぞ」
少しばかり横に詰め、香哉はカレンがしゃがむ場所を作る。
さくっさくっ‥‥スコップが土を掬う小気味良い音が響く。
「あの、カレンさんは何を誓うんですか?」
ぽち、と種を植え終わった香哉が興味本位で隣の彼女を見やると、彼女は柔らかい微笑を浮かべて答える。
「自分自身でゴーレムニストとして、新しいゴーレムを作り出すこと、ですね」
「なるほど。俺はゴーレムニストとしてもっと腕を高めて、より多くのゴーレム機器に携われるようになる事。後一つは‥‥まぁこっちは報われそうに無いからいいか」
「報われそうに無い?」
「いや、独り言」
そういうと香哉はささっとプレートに最近習ったアプト語で自分の名前を記入する。
「カレンさんもできたら、皆のところに行きません? 差し入れも持ってきたんで」
「そうですね」
香哉よりも流暢なアプト語で名を記したプレートを付けたカレンは、ゆっくり立ち上がって香哉の後をついていった。
「ユリディス・ジルベール教官!」
雨霧と共に飲食スペースへと向かおうとしていた彼女を呼び止めたのは鷹栖冴子(ec5196)だ。過日の開発依頼でユリディスとは面識がある。
「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね」
「そうさね。この前の礼を言いたくてね。それにジルベールの姐さんにゃあ、多分これから世話になりそうさね」
「‥‥あら、じゃあもしかして?」
口元に笑みを浮かべながら首を傾げるユリディスに、冴子は力強く頷いてみせる。
「ゴーレムニストっていうゴーレム技師の登用をするだなんてのを風の噂に聞いてね」
「そうね。育てるのよ。ゴーレムニストを」
「姐さんを正式に教官と呼ぶ日も近そうだね」
冴子はスコップにたっぷりと土を盛り、豪快に鉢へとうつしていく。
「あたいの願いは1つ、ゴーレムの平和利用!!」
「この前もそういっていたわね」
「‥‥正直、あたいたちの世界だってそんなに誇れたもんじゃないさ。未だにあっちこっちで戦の種火が燻ってる。ゴーレム以上の武器を山と造ってやがんのさ。そんな世界の住人だったあたいが言えた義理じゃないけどね」
はは‥‥と故郷を思い出した冴子は自嘲気味に笑った。
「けれども、こっちの世界もヤバいじゃないのさ。そんな世界を変えていけるかもしれないと思うと、ちょいとドキドキしてこないかい?」
「きっと、あなたみたいな地球人にしかできない事も、沢山あると思うわ、頑張ってね」
冴子の植えた種には、しっかりと地球の言葉で「鷹栖冴子」とプレートが立てられたのだった。
「僕は誓う。この種が力強く芽吹く様に、僕の誓いを貫き通す‥‥!」
土で一杯になった植木鉢。その前で種を手にしながらキース・レッド(ea3475)が力強く呟いていた。
人は何かにすがらなければ生きていけない。それが些細な願いであろうと、心に強く求めるものがあれば励みにもなる。尤もそれが過ぎれば酷い執着にもなるということを彼は知っている。
「僕がこの種に誓う事――悲しき女性、ディアーナ君の奪われた魂を取り戻し、今度こそ本当にリンデンに平和な青空を取り戻す事だ」
全ての元凶『黒衣の復讐者』を討ち滅ぼし、きっと彼女を目覚めさせる――ただ一人の男への愛情故に、罪を重ねていった女性を。
彼女を目覚めさせるのは酷なことかもしれない。けれども人としてしっかりと罪を償って欲しいと願うのは、彼だけではなく彼女に関わってきた全ての人の願い。
キースは人一倍長く、種に思いを込めていた。
●
誓いと約束を終えた後は、祭りにはつきものの飲食タイムだ。収穫時期をちょっぴり早めたという野菜や穀物料理をはじめとし、そこには冒険者の持ち寄った品々も並ぶ。
「甘酸っぱい保存食に、ダイナソアの保存食に、黄金の蜂蜜酒、詩酒「オーズレーリル」、招興酒・老酒、銘酒「桜火」。どれでもどうぞ」
「そいじゃ姐さん、今日は呑もうかい!」
村人が出したお酒に、雨霧の出したちょっと変わったお酒類が加わる。冴子がぽんとユリディスの背中を叩いた。
「色々持ってきたわねぇ」
「飲むのにちょっと勇気のいるお酒もあるしね‥‥」
どれとは言わないが、ユリディスの呟きにぼつりと零す雨霧。村から借りたカップに素家を注ぎ、酒盛り開始だ。
「ダイナソアの保存食‥‥退治した恐獣ってこんな味なのかしら」
「ぎゃー、それ考えないようにしてたのに」
ユリディスの呟きに、その保存食に手を付けようとしていた香哉が叫び声を上げた。さすがにこれがゴーレム達が出動して倒しているあの恐獣たちの仲間だと思うとちょっと食べる勇気が出でない。
「あら、そのまま食べてくれたら面白かったのに。味の感想聞かせてよ」
「人事だと思ってる!?」
くすり、微笑むユリディスに食べるならこっちにします、とバックパックをあさる香哉。出てきたのは甘い味の保存食にリコリスのクッキー、クルミ入りクッキー、チーズ・ブランシュに紅茶のティーバック、ワイン「プランタン」。
「あ、クッキー戴いてもいいですか?」
その品に興味を示したのはカレンで、香哉の許可を得るとぱくりと口に入れて幸せそうに微笑んだ。
「シャクティ〜あたしを食べ物のところに連れてってー」
「‥‥先ほどは申し訳ありませんでした。つい力の加減が」
土に顔から突っ込んだチュールを引っ張り出したシャクティは急いで彼女を水の張った手桶に入れ、土を洗い流した。巨人族の彼女がシフールのチュールを相手にしていると、まるで人形遊びをしているように見えてほほえましかったのだが、本人達はそれはそれは必死だ。
「うーん、だいじょうぶー。でも飛ぶ元気が無いー」
「はいはい、食べ物ですのね。あ、私はお肉と般若湯以外で」
手に抱いたチュールと共に食事の供されている界隈に足を踏み入れるシャクティ。色々と料理を勧められるも、彼女には戒律により食べられないものがある。とりあえず野菜と豆のスープと、チュール用に干し肉のサンドイッチを受け取り、腰を下ろす。
「でもさー、叶うといいねー、誓いというか願いだけど」
「絶対叶えてみせますわ! そして愛しのあのお方にもっと可愛がって戴きますの‥‥きゃっ♪」
やっぱりそれって煩悩じゃなかろうか。
「やあ、わざわざ来てもらってすまないね。どうしても礼がしたくてね」
エールのはいったカップ2つを手に、キースは純也の元へと戻ってくる。カップの一つを受け取り、「いいえ、お誘い有難うございます」といつも通り柔らかく微笑むのは支倉純也。
「以前歌姫に関する依頼があったら優先的にギルドに回して欲しいという願いをしたね。その礼だ」
「礼には及びません。それが私の仕事でもありますし、彼の地に一度関わった事がある以上見てみぬ振りはできません。それが私の性分ですから」
「そうか‥‥」
男二人は軽くカップを掲げて乾杯の合図をし、そして口を付ける。ほろ苦いエールの味とアルコールが、日頃の疲れを癒してくれるような気がする。
「まだまだ色々大変な日々が続くとは思うが、それでも」
「来年、種と苗の様子を見に来られるように、この村が、その村だけでなくメイの国が平和であるように」
キースの言葉を純也が引き継いでみせる。そして顔を見合わせて二人はカップをカツンッと軽く合わせた。
「――がんばろう」
明るい空の下、集った人々が和気藹々と平和に酔う声が響き渡る。
来年の今頃、誓いは守れているだろうか。約束は果たせているだろうか。
月精霊は優しく、新しく植えられた命たちにその光を注ぎ続けている。