【子息の家庭教師】闇に立ち向かうために

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2008年10月13日

●オープニング

●リンデンのこれから
 リンデン侯爵領――そこには王都メイディアから海岸線に沿って北上し、ギルデン川を越えると到着する。三角形を左側にぱたりと倒したような形の領地で、下辺はギルデン川が領地の境だ。上辺はセルナー領と接している。
 この領地を襲っていた謎の長雨は上がった。空は雨で覆われていた夏を取り返そうとでもするように、晴れ渡っている。
 だがこの領地は「黒衣の復讐者」と呼ばれるカオスの魔物に狙われているという事が発覚した。それがどんなカオスの魔物なのか、単独で動いているのか果たして誰かの命で動いているのか、手下はどのくらいいるのか――全ては未だ謎だ。
 リンデンを侵していた「過去を覗く者」が討伐されて一月近く経つが、その後どこかでカオスの魔物が動いたという情報ははいっていなかった。


 リンデン侯爵ラグリア・リンデンは当初の予定通りいずれ長男のセーファスに爵位を継がせようと考えている。だがセーファスは幼い頃に出会った事件による自責の念からか争いごとを好まぬ性質で、武術よりも部屋で書物を読み、学問に打ち込むことを好んだ。貴族の嗜みとして乗馬や剣術を多少は修めているが、それは実戦に耐えうるかというとそうは言い難い。
 以前訪れた冒険者に手ほどきを受けたことがあり、少しはその腕は上達したが、歴戦の冒険者に比べるとまだまだだ。
 侯爵となれば――いや、ならずとも嫡男として有事の際はリンデンに配備されているゴーレム部隊や兵士達を仕切る必要性が生じるだろう。
 その優しい人柄には問題がないとしても、いざ実戦となれば室内にこもって学問ばかりの指揮官に不満を持つ者が出ないともいえない。
 また、過去二度も侯爵家付近にカオスの魔物が入り込んだことから、三度目が無いとは限らない。その場合自衛の意味も込めて、武術の腕を磨いておくに越した事は無い。
 だが、本人にその気がなければ上達するものも上達しない。
 しかしその点は心配しないでも大丈夫だ。今回武術を修める事を望んだのは、他ならぬセーファス自身なのだ。
 これまでの事件を振り返り、自ら思うところがあったらしい。義母との和解が進むにつれて、自らが強くならねばという意思も生まれたのだろう。彼も夫人と同じく、過去の事故に囚われていた者の一人。その過去から脱出するために、一歩踏み出そうというのだ。

 今回の授業はリンデン侯爵家からの正式な依頼だ。子息セーファスに武術を教える事。
 剣の使い方や武器からの身のかわし方だけではなく、色々な武器を持った敵に対処する方法、そして魔法を使う敵に対する対処法などを模擬戦を交えて叩き込んで欲しいという。模擬戦で侯爵子息を傷つけたとしても咎めは無いので安心して欲しい。

 セーファスはナイトである。最初にゴーレムについての講義も受けたことから少しばかりゴーレムを動かす事ができるが、基本的にゴーレムには乗らない。流派は我流の上級を修得している。コンバットオプションはまだ修得していないので、お勧めがあれば教えてやると良いだろう。

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3625 利賀桐 真琴(30歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

シファ・ジェンマ(ec4322

●リプレイ本文

 柔らかな微笑をたたえたその青年は、話に聞いていた通り争い事を好まぬ男に見えた。だがそうともいっていられないのが嫡子の辛いところでもある。いずれ地位を継ぐ以上、その土地に仕える兵士達を統率する以上、己が全く武術に通じていないなどというわけにはいかない。
 だが今回の訓練については、セーファス本人の一念発起だという。ここの所カオスの魔物に狙われているリンデンの地。その惨状を見て色々と思うところがあったのだろう。
 メイディアの王宮に仕える兵士達の中にも、ナイトは多い。勿論リンデンにもいる。だが彼が冒険者から教えを請う事を選んだのは、彼らが一番実践に近いところにいると思うから。一番、色々な経験をしていると思うから。
 長々とした前置きは抜きにして、まずは基礎から始まる。
「兄上と一緒に訓練できるなんて嬉しいや!」
「ディアス、遊びではないですからね?」
 利賀桐真琴(ea3625)の提案で、セーファスの弟ディアスも加えての基礎練習となった。ディアスは8歳。今から初めて早いという事は無い。
「準備体操はしっかりとするでやす。足腰は格闘技の基本でやす。あと、走って疲れた状態から始めることが逆境状態の擬似訓練になるでやす」
「まだ走るの〜?」
 ディアスは子供ならではの元気さで体力はまだ持つようだったが、ただ走るだけのランニングに飽きてしまったようで。一方セーファスはやはり基礎体力がまだまだ不足しているのか、やや息を乱しつつあった。
「さ、もう一周頑張りやしょう。次は障害物を避けながら走ってくだせぇ」
「‥‥これは、何の‥‥意味が‥‥?」
 途切れ途切れに問うセーファスに、真琴は真剣に答える。
「弓や魔法に狙われた時の為です。魔法は射程範囲から逃れるか、相手から見えねぇ位置に逃げるとかしかかわしようがありやせん。初動が大事でやすよ」
 なるほど、と納得して走り始めるセーファス。普段しない動きをしていて大分疲れただろうが、不平を口にすることは無かった。


 刃を潰した剣を手にしたレインフォルス・フォルナード(ea7641)とセーファスが向き合う。ディアスは見学を言い渡され、多少不満げだ。
「セーファスは線が細いから、打ち込むより回避に長けた方がいいかもしれない。打ち込んでみてくれないか?」
 レインフォルスの言葉に頷いたセーファスは、間合いを詰めて剣を振り下ろす。だがレインフォルスは素早く再度ステップを踏み、攻撃を回避。そして流れるように剣を繰り出して、セーファスの横腹を打ちつける寸前で剣を止める。格闘技術に長けた彼だからこそ、できた技だ。
「っ‥‥」
 セーファスは剣を振り下ろした状態で固まったまま、次の動きを出せないでいた。
「筋力に自信が無いなら、回避を重視してカウンターで不意をつくといい。だがまずは基本からだな。あまりにも大振りすぎる」
 ふぅ、と溜息をついたレインフォルスに、申し訳ありませんと小さくなるセーファス。
「まだ始まったばかりだ」
 レインフォルスは落ち込みそうになっている青年の頭を、軽く撫でた。


 セーファスの大振りの攻撃を、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)は水晶の小盾で受け止める。そしてカウンターアタックから繰り出されるのはスマッシュの重い一撃。
「くっ!」
 まともにそれを受けたセーファスは、訓練場の地面に倒れこんだ。
「申し訳ありません、大丈夫ですか?」
 ルエラの差し出した手を受け取り、セーファスは立ち上がる。負った傷はルエラのペガサスと導蛍石(eb9949)が癒していく。
「ですが攻撃を止められたらその後カウンターが来るかもしれない事を心しておいてください」
「ルエラさんはその細い身体から良くあれだけの攻撃を‥‥いえ、その変な意味ではなく」
「鍛え方次第で、如何様にもなります。セーファス様はこの訓練で、ご自身に向いていると思われる剣の捌き方を見つけてください」
 ルエラは一礼し、再び剣を構える。セーファスも剣を構えた。今度はルエラが突進型の敵が出た時の場合を考慮し、チャージングとポイントアタックを合成して攻撃をする。まだまだ未熟なセーファスにとっては避ける事のできない攻撃だが、こうして傷を負っていくことで、身体がしっかりと覚えていくものなのかもしれない。傷を負うことを嫌がっていたら、剣技は上達しまい。


「セーファス君、疲れましたか?」
 少し休憩を、と言われルエラの振舞った栄養補給用の液体を飲んでいたセーファスに近づいたのは美芳野ひなた(ea1856)。その手にはコップが握られている。
「沢山怪我していたみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。回復魔法をかけていただきましたから」
 綿の布で汗を拭き取りながらもいつもの柔らかい笑顔を浮かべる彼。慣れぬ訓練で疲れているはずだが、彼はまだ音を上げてはいなかった。
「でも魔法で傷は治っても、疲労までは回復しないですよね? これ、ひなた特製の『すぽーつどりんく』です。どうぞっ」
 差し出されたコップの中の液体に鼻を近づけると、甘いような塩のような、ハーブのような不思議な匂いがした。
「‥‥これは、薬湯の類でしょうか」
「身体に悪いものは入っていないので大丈夫っ」
 どんな味がするのか少々恐ろしかったが、中に入っている物体を聞けば悪いものではなさそうだ。人の親切を断ることができないセーファス。ひなたの笑顔に押されてその液体を飲み干したのだった。


「私の戦い方は参考になるかは分かりませんが、手段の一つとして覚えておいてください」
 木剣を持った蛍石に言われるままに打ち込むセーファス。最初の頃は重い両刃の剣に振り回されている感じがしたのが、今は少し様になってきたような気がする。だが蛍石はその攻撃をリュートベイルで受け止め、
「少林寺流、蛇絡!」
 と叫んで合成技を繰り出した。それにかかったセーファスは、見事に地面へと転がる。
「‥‥今は、何を?」
 したたかに打った腰を抑えながら問う彼に、蛍石は一つ一つ説明を重ねた。
 今のは相手を転倒させるのが目的だったこと。スタンアタックは寸止めを狙ったこと。
「私は本職ではないので、相手を転倒させ気絶させる位が関の山なのですが、戦闘中に相手を転倒させるだけでも相手は起き上がるという動作をする必要がありますので、接戦や他に仲間がいて相手に追撃を加える場合など、時と場合を選べば効果を発揮します」
 ただ、と蛍石は苦笑しながら続ける。
「支援行動ですから、自らの手で敵を倒したいという気持ちの方にはお勧めできません」
「けれども勝利の裏には、必ず支援があるものですよね?」
 下から見上げるセーファスの問いに、蛍石は笑顔で答えた。


「セーファスさん、まだ頑張れますか?」
「‥‥‥大丈夫です」
 鞭を手にしたベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の問いに、まだ少し呼吸を整えながらセーファスが答える。今回の依頼はセーファスの意思と覚悟だ。だとしたら彼が駄目だというまでこちらがやめるわけにはいかない。それが依頼内容。そして真剣に武術を学ぼうとする彼に対する誠意だと彼女は思っている。こちらで勝手に限界を決めてしまう事は、彼に対する侮辱だ。
「それならば、遠慮はしません」
 びゅんっ!
 ベアトリーセのローズウィップがしなる。セーファスは彼女の予想通り、最初は間合いがつかめずに避けようとするのが精一杯だった。
「くっ‥‥!」
 彼女の鞭が、更に軌道の読めない動きをする。フェイントアタックを交えられ、避けきれぬセーファスに小さな傷が増えていく。それでも攻撃を重ねるごとに、段々と彼がその間合いに慣れてきているのが分かった。元々筋は悪くないのかもしれない。ならば――
「!?」
 突然ベアトリーセが間合いを変えた。そして飛び出してきたのは衝撃波。もちろん、予想をしていなかったセーファスは、それををまともに受け、身体を二つに折って咳き込む。
 誰かが彼を案じて名を呼ぶ声が聞こえた。だがベアトリーセはそれを制してゆっくりとセーファスに近寄り、肩を抱いて立ち上がらせようとしたところでスタンガンを彼のわき腹に押し付ける。
「くはっ‥‥」
 再び膝を折るセーファス。今度こそしっかりと彼を支え、ベアトリーセは告げた。
「間合いに慣れてしまって、他の距離からの攻撃に対して油断があります。メタボリズムやデスなどの触るだけの魔法などありますので、どの間合いでも注意は必要です。初めて戦う相手は全てが未知だと思ってください。でないとこういう痛い目にあいます。痛い目だけじゃすまないこともあります」
 カオスの魔物と戦うなら、文字通り全てが未知だ。ベアトリーセの言うことは正しい。
「なるほど‥‥。よくわかりました。確かに油断した私が悪いですね」
 ご教授有難うございます、とセーファスは嫌味のまったく無い調子で頭を下げるのだった。


「では、私は本職ではありませんが、魔法に関する訓練を僭越ながら行わせて頂きたいと思います」
 真剣な顔でセーファスと向かい合うのは雀尾煉淡(ec0844)。彼はこの中で一番セーファスと付き合いが長かった。リンデン侯爵家を二度襲ったカオスの魔物。その事件の両方に関与していたため、カオスの魔物が使う魔法が厄介であることは十分分かっている。
 煉淡はホーリーフィールドでセーファスを包むと、やや離れた位置に移動してスクロールを広げる。セーファスには動かないように告げ、彼が発動させたのはライトニングサンダーボルトのスクロール。
 バリバリッ!
 雷は見えない壁に防がれ、直接セーファスには届かない。だが彼は突然飛んできた雷に思わず腕で顔を隠しすような仕草を見せた。
「魔法の発動は殆どが一瞬です。高速詠唱を使用しない場合は詠唱を邪魔することで防げますが、高速詠唱を利用されれば気が付いたときにはもう既に魔法が身体を襲っているということが多いです」
 それを実際に体験させるのがこの目的。ホーリーフィールドで防がれている為実際にダメージは受けないのだが、精神的ダメージは溜まる。その上魔法は本当に回避し難いものだと実感させられるのであった。
 次に煉淡はスモークフィールドのスクロールを使用して霧を発生させた。互いの姿が見えなくなったところで煉淡が使ったのはディティクトライフフォース。それでセーファスの位置を確認し、ブラックホーリーで彼を打ち抜く。
「え‥‥?」
 善なる者に分類されるセーファスはダメージこそ受けなかったものの、何故自分の位置が分かったのかわからない。ゆっくりと歩んできた煉淡は、解説を始める。
「今回は一応ある程度上位のカオスの魔物の使いそうな魔法がセーファス様を襲う場合を想定して、魔法を使いました」
 ホーリーフィールドはエボリューションやカオスフィールドなどの耐性付与魔法、スモークフィールドは透明化、ブラックホーリーはデスハートンを模している。
「直接的な攻撃でなくとも使われると厄介な魔法は多々ありますので、セーファス様にとって少しでもお役に立てれば幸いです」
 短剣を持つ手さえ震えていたこの青年が自らを鍛えようとするのだ。ならばその手伝いをしてやりたい――今ほど意志の強くなかったセーファスを知っている彼は、そんなことを思っていた。

 統率者としても戦地へ赴くならば、生還するために防御系の技を。
 そして積極的に攻撃をするのでなければ、回避からカウンターの技を。
 仲間を補助するなら、補助的技を。
 そしてカオスの魔物と戦うならば、オーラ魔法を。
 それぞれのアドバイスをセーファスは頭に叩き込む。
 この数日のうちで身体はガタガタになっていたが、それでも彼は訓練を休むことは無かった。まるでわずかな時間でも惜しいというように、手の空いている冒険者に訓練を頼んでいた。
 最初のうちは付け焼刃に思えたさの動きも、段々と様になってきたように見えるのは贔屓目だろうか。


「子息はいずれリンデンの家督を継ぐ者。将としてリンデンを背負う立場」
 アマツ・オオトリ(ea1842)は、階段の段差に腰をかけマメのつぶれた手に包帯を巻いているセーファスに語りかける。
「武術にかけなかった今までの時間、その分兵法は頭に入っておるのだろう?」
「そうですね‥‥本は沢山読みましたから」
「ならば武術の実践は、知識に長けた子息ならば用兵術の一助となろう」
 セーファスは隣に立つアマツを座ったまま見上げたが、彼女の視線は遠くに固定されていた。
「子息よ、一人では領地を治めることは無理ぞ。あらゆる状況を見極め、古い因習に囚われる事無く方法を改めながら、部下の屍を踏み越えて血の涙を流し、最後まで生き延びて指揮を取られよ」
「‥‥‥‥‥」
 それは王都に近く、比較的平和な領地で育った彼には想像しづらい光景。平和主義の彼にとっては余り想像したくない光景。だが、指揮者として避けることはできない覚悟。
「貴殿には、その義務があるのだ」
 セーファスは包帯を巻き終えた手にルエラから受け取った魔剣「ストームレイン」デビルスレイヤーを握り、数歩前に出てアマツに背を向ける。
「‥‥分かっております。私は強くならねばなりません」
 それは物理的な強さだけではなく。
 その言葉の重さは、彼自身が一番良く分かっているだろう。

 彼は歩み出す。
 彼を支え、教え導いてくれる冒険者達の元へと。