【リンデン幻奏楽団】秋空に届く調べと

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月24日〜10月29日

リプレイ公開日:2008年11月01日

●オープニング

●リンデンのこれから
 リンデン侯爵領――そこには王都メイディアから海岸線に沿って北上し、ギルデン川を越えると到着する。三角形を左側にぱたりと倒したような形の領地で、下辺はギルデン川が領地の境だ。上辺はセルナー領と接している。
 この領地を襲っていた謎の長雨は上がった。空は雨で覆われていた夏を取り返そうとでもするように、晴れ渡っている。


『リンデン幻奏楽団野外コンサートのお知らせ』

 そんな張り紙が、リンデン侯爵領だけでなくメイディアのギルドにも張り出されていた。
 雨が上がってはじめての公式コンサートだ。件の精霊招きの歌姫、エリヴィラ・セシナも出演するとあって、楽しみにしている人も多い。
 今回のコンサートは野外のステージで、そしてチケットを販売するという形を取らず、来るもの拒まず誰でも聞きに来れるという無料コンサートだ。その為、混雑と混乱が予想される。
 冒険者ギルドに依頼が出された理由はそれが一つだ。当日の警備と事前のステージ設置、それが依頼内容の一つ。不特定多数の人間が集まる以上、何らかの騒ぎが起きる可能性は高まる。今回は侯爵家の面々も最前列で鑑賞予定だというから、更に警戒が必要だろう。
 次に、団員の募集だ。
 リンデン幻奏楽団の宿舎はリンデン侯爵領の主都アイリスにあるが、そこに住み込んで様々な行事に参加する専業団員と、冒険者やその他職業と兼業し、特定の時のみ楽団の活動に加わる兼任団員とがいる。今回募集されるのは後者だ。
 楽器や歌の心得のある者からこれか何かを始めたいという初心者まで、幅広く募集されている。勿論、今回のコンサートにも出場できる。我こそはと思うものは入団してみてはどうだろうか。

 コンサートが開かれるのは4日目。
 それまでに出場準備を整えたり、ステージを設置したりとやることは沢山ある。
 コンサートへの参加はソロでも誰かとの合同でも可能だ。

 ステージはアイリスの街中にある、大きな広場に立てられる。街中という事もあり守りづらいかもしれないが、何とか工夫してコンサートを守って欲しい。
 コンサートを視聴する侯爵家の者達は侯爵ラグリア、夫人のティアレア、そして子息のセーファスとディアスである。


 さあ、秋空に――希望の調べを。

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3625 利賀桐 真琴(30歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 この期間中、一番忙しかったのは恐らく彼女だ。
 利賀桐真琴(ea3625)――腕利きの服飾職人である彼女は、ステージに上がる楽団員の衣装の点検や手直しだけでなく、警備に当たる騎士の為に演劇風の衣装を数着用意し、その上リンデンの者であると分かるようにと私兵たちも使用できる刺繍入りの腕章を作成していた。取り急ぎ今回コンサートの警備に当たる者の分だけでもよかったのだが、そんな中途半端な仕事は仕立て屋を名乗る彼女のプライドが許さない。しっかり騎士と私兵の数を聞きだし、そして予備の分まで夜なべして作成。これには頭が下がる。
「今後も長く使っていただけりゃ、あたいもこの腕章も幸せでやんすよ」
 真琴は徹夜の疲れを欠片ほども見せずにそう微笑んだ。
 リンデン侯爵は、侯爵領と同じ名を冠するリンデンの葉と花をあしらった家紋の刺繍が入った腕章と衣装をいたく気に入って、彼女にお抱えにならないかとまで申し出たとか。それに対して彼女は「またご贔屓にしてくれやす」と笑って答えたという。


「当日の警備の予定は――」
 机の上に広げられた大き目の羊皮紙にはコンサート会場となる広場とその周辺の建物が書き込まれていた。セーファスの白い指がそれをなぞるのを、真琴とレインフォルス・フォルナード(ea7641)、雀尾煉淡(ec0844)は注視している。
「侯爵様方は客席の最前列、エリヴィラは楽団の人達と一緒に舞台裏‥‥彼女がステージに上がっている時はともかく、同時に守れる位置を取るというのは難しいでしょうか」
「俺は音楽を聴きたいと思って来た。侯爵家の者達と同席させてもらえれば、同時に警備の任も負おう」
 煉淡の悩みに答えたのはレインフォルスだ。音楽を愛すると同時に卓越したファイターである彼としては、侯爵家の者達の側という特等席でコンサートを視聴できるかわりに彼らの警護を、というのは利害が一致するというわけだ。
「あたいも目を光らせておきやすから。煉淡の旦那はエリヴィラのお嬢の側で演奏を頑張ってくだせぇ」
 真琴も当日の私兵や騎士による警備のローテーションを頭に叩き込んでおく心算だ。
「すまない、遅れた」
 そこにやってきたのはキース・レッド(ea3475)。彼は明日に向けて最後の準備に追われている会場をもう一度見て回ってきていた。夜明け頃に一度下調べには出ていたが、やはり人の往来の多くなる昼間とは状況が違う。人の流れを少しでも把握するには昼間にも現場を見ておく必要があった。
「まさか襲撃なんてないとは思いたいけど、念には念を入れないとね。こことここの横道に木箱が積み上げられていたね」
 キースは広げられた地図の該当の箇所にチェスの駒を置いていく。
「通行の邪魔にもなりますし小火騒ぎなど防止の為になるべく道には荷物を置かないようにと連絡しておいたはずですが‥‥まだありましたか。急ぎ撤去させましょう」
「それと、ここの位置。鑑賞中セーファス君達は背を向けることになるだろう。狙撃などの可能性は――」
「それは側につく方々と、舞台側から監視する必要がありそうですね」
 セーファスが騎士を呼び、命を下す。キースと煉淡は警備の詳細を詰め。
「そういえば具合が悪くなった人達を介抱する休憩所の設置はどうなりやした?」
「急でしたが、広場近くの家に住む方々の協力を得られました。何軒か、お宅の1階を開放してもらえるそうです」
「具合が悪くなって折角のコンサートを聴けなくなるというのは気の毒でやすんからな。それはありがたいでやす」
 セーファスの言葉に真琴が微笑む。彼は細かいところまで配慮していただいて有難うございます、と微笑み返した。
 と、
「真琴! お仕事終わった? また剣を教えてよ!」
 扉を蹴破らんばかりの勢いで開けて入室してきたのは一人の少年――侯爵子息のディアスだ。ぽふ、と真琴はディアスを受け止める。
「こら、ディアス。真琴さんはお疲れなのですから無理を言ってはいけませんよ」
「いや、構わないでやす。なぁに、これもあたいの仕事のうちでやすよ」
 以前のセーファスへの指導の際に自分も混ぜてもらえたのがよほど嬉しかったのだろう、ディアスはセーファスにたしなめられても遠慮しようとはしなかった。
「ならば俺も手伝おうか?」
 だがすっと進み出たレインフォルスには怯えるようにして、真琴の影に隠れるディアス。訓練を見ていたディアスはクールなレインフォルスの姿に憧れを抱きつつも、少し恐いと感じているのかもしれない。
 室内の緊張が解け、小さな笑いが満ちた。



「(彼女と出逢ってから半年‥‥か)」
 当日。衣装を身に纏ったエリヴィラを眩しそうに見ながらキースは心の中で呟く。先ほど楽団員の皆に彼女をよろしく、と挨拶をした時のくすぐったそうな表情、それは半年前にはなかったものだ。
「ふふ‥‥半年前、メイの噴水広場の時みたいだね」
「ええ。あの時の私は、笑えなくて――」
 思いを馳せるように遠くを見るエリヴィラ。
 仲間を愛し、愛される事で笑顔を取り戻した彼女の歌声は、あの時とは違う――良い意味で。
「さあ、君の歌声を皆が待っている。僕は、いつでも君の側にいるよ」
 キースに優しく微笑まれ、エリヴィラも柔らかな笑みを返す。
 ――私は、ここにいていいのだ。



 広場は沢山の客で埋め尽くされていた。少しでも前へと押し合う人々を、腕章をつけた私兵と演劇風の衣装を着用した騎士達が整列させる。何か困ったことがあったらすぐに腕章をつけている者に言えば対処してくれる。分かりやすくて助かるという声が方々から上がっていた。ディアスにすっかりなつかれた真琴は、侯爵家の者達のいる貴賓席に同席しながらそんな声を聞いて心温かくしていた。自分の作ったものが役に立っているという声は、嬉しい。
 楽団の団長の挨拶、そして経験の浅い団員達の演奏が始まり、その暫く後に登場したのは戦乙女のドレスに身を包み、竜羽剣を持ったアマツ・オオトリ(ea1842)。彼女は団員の演奏に合わせて高らかに声を張る。


 絶望の闇を払い 光は導かれる
 悲しみの雨を晴らし 喜びの陽は溢れる

 天に希望を 大地に笑顔を

 我らは来たれり 彼の地に平和もたらす為に
 右手に闇裂く 金色の刃を振るい
 左手に影遮る 銀色の盾をかざし

 過去と今を越え 我らは願う永久(とわ)の未来


 歌いながらも観客席の隅々までを見通し、不審な動きをする輩がいないか注意を怠ることはない。そして、小道具として持ち込んだ剣を引き抜く。


 全騎抜刀! 集え勇者よ 菩提樹の旗の元に
 全軍突撃! 進め戦士よ 若き獅子王と共に
 我ら討ち果たさんは 邪悪なる混沌 黒衣の悪鬼
 さあ 共にいざ参らん!

 我らは今一人ではない 如何なる苦境にあろうとも
 共に歌おう 我らが仲間よ
 そう 我らは一つ 共に歌おう 平和の歌を‥‥


 続いて舞台に登場したのは水無月茜(ec4666)。地球人である彼女は地球の曲を披露することに決めていた。地球と同じ音源は得られないし、特殊なメロディラインを楽団員に覚えてもらうのに準備期間の全てを費やしたが、それでも何とか形にはなった。新しく団員となった彼女は、メイドドレスを着て登場。演歌歌手である姿とは正反対だ。
「じゃあ歌います。16歳のデビュー曲!!」
 マイクはない。電子音源もない。けれども歌声は万国共通。


 星空が揺れる まるで万華鏡みたい 
 貴方の指先に触れて ココロ無重力
 
 見つめる瞳がまぶしくて 私 貴方の引力に惹かれる
 宇宙の彼方までいこう一緒に あの流星に乗って
 
 貴方となら怖くない どんな暗闇も飛び越えていける
 銀河の彼方まで叫んでもいい 貴方が大好き

 KIRARI☆宇宙飛行士
 何光年離れたって 絶対貴方にめぐり合うの
 だからお願い 私を受け止めて 
 悲劇が待ち構えていても構わない 
 貴方となら後悔しない

 ココロは輝く小宇宙 ちっぽけな願いでも
 想うの強く 瞬くように
 だからねぇ お願い 早く見つけて
 私の宇宙飛行士さん‥‥


 その不思議な旋律と歌詞に、会場が沸く。最初は不思議そうにしていた彼らも、そのうちそのテンポに乗せられて。
 ちなみに暫くの間、歌を聴いた人々の間は「宇宙飛行士とは何か?」という話題で盛り上がったとか。



 わぁ‥‥とひときわ大きな歓声が上がる。銀の髪を揺らしながら舞台に上がったエリヴィラは観客に一礼。彼女が顔を上げた時にはその歓声は静まって。
 エリヴィラの背後には数人の奏者が控えている。その中にはローレライの竪琴を抱いた煉淡も混ざっていて。彼は足元にランタンを置き、光が絶えぬようにしつつ竪琴を構えた。

 ポロン‥‥

 繊細なその音を合図にエリヴィラが大きく息を吸う。頭の中には煉淡が作ってくれた詩が詰まっている。


 秋色咲く木陰に
 優しい微笑みが待つ
 見上げた空の向こうで
 虹の橋が揺れた

 瞬く星の数の
 奇跡を越え出逢えた
 ありふれた日常が
 生まれ変わり目覚めた


 優しい瞳をして、微笑を浮かべて歌う彼女の声に、誰しもが惹きつけられる。場内にいる真琴もレインフォルスもキースも、侯爵家の面々も、舞台袖から覗いているアマツも茜も、その旋律に聞き入る。

 キン‥‥

 実際に聞こえたわけではないがそんな張り詰めたものを感じ取ったのは殆どの冒険者。その出所を探して振り返ろうとする真琴とレインフォルスの腕を、誰かが押さえた。キースがその出所に向かって走る。だが間に合いそうにない。アマツは舞台袖から歩みだしかけた足を、止める。今自分が出て行っては歌を中断させてしまうかもしれない。

 シュンッ‥‥!

 ステージの向かいの建物の屋根から数本の矢が放たれた。それは明らかにエリヴィラを狙って――
 冒険者の誰もが心の中で祈った。彼女の無事を。
 だが、その矢はエリヴィラに当たることなく何かに弾かれるようにして舞台へと落ちる。張り詰めたものを感じたその時に煉淡が高速詠唱でホーリーフィールドを唱えていたのだ。直径6メートルの球体にその矢は弾かれた。
 突然の襲撃だというのに、エリヴィラは全く驚いた表情を見せずに旋律を紡いでいる。そして真琴とレインフォルスは、咄嗟に動こうとした自分達を止めた人物を見た。
「セーファスの坊ちゃん、どうして‥‥!」
 小声で囁かれた真琴の言葉に、セーファスは唇に人差し指を当てて静かにと示した。
「歌姫が矢を弾いたぞ‥‥!」
「見ろ、歌姫の周りに‥‥!!」
 ぽう‥‥
 ぽつりぽつりと場内に小さな姿が浮かび上がる。エレメンタラーフェアリーがエリヴィラの歌を聴きに来たらしい。
「歌姫は精霊様に守られているんだ!」
「精霊様に愛されている歌姫がいれば、リンデンは安泰だ!」
 人々が口々にそんな言葉を紡ぐ。それは次第に大きな歓声となって。
「‥‥もしかして、これが狙いだったのか?」
「すいません、お話していなくて。でもまさか、また精霊様がいらっしゃるところまでは予想していませんでした」
 レインフォルスの言葉にセーファスはすまなそうに頭を下げる。
 恐らく矢を射ったのは侯爵家の者。そしてエリヴィラと煉淡は事前にこのことを知らされていたのだろう。歌の間は自然にエリヴィラに視線がいく。奏者の一人である煉淡が発光したとしても気に留める者は少ないだろう。奏者と彼女の位置がそんなに離れていないのも、彼女をホーリーフィールドの射程に入れるため。
「歌姫を更に神格化して、民達を安心させるため‥‥か」
「それにしても、事前に私達に教えてくれてもよかったと思います」
 舞台袖で先ほどの出来事の意図に気付いたアマツと茜が小声で呟く。
 射手の登っていた建物の屋根では、登り詰めたキースが射手の胸倉を掴んでいた。それを見たエリヴィラは、小さく微笑みながら、歌を紡ぎ続ける。


 揺るがない この胸の中
 鮮やかな物語が
 季節巡る日々のように
 暖かく心 染め上げて

 謳うよ
 風や鳥達と共に
 謳うよ
 明日も貴方がたが
 幸せであるように


 歌声がこの秋空を渡って皆の元へと届きますように。
 人々が、大切な人たちが、幸せでありますように。