緩んだ兵を奮い立たせよ
 |
■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月26日〜11月02日
リプレイ公開日:2008年11月04日
|
●オープニング
●リンデンのこれから
リンデン侯爵領――そこには王都メイディアから海岸線に沿って北上し、ギルデン川を越えると到着する。三角形を左側にぱたりと倒したような形の領地で、下辺はギルデン川が領地の境だ。上辺はセルナー領と接している。
この領地を襲っていた謎の長雨は上がった。空は雨で覆われていた夏を取り返そうとでもするように、晴れ渡っている。
馴染みのシフールが館の入り口で応対に出た執事に手紙を渡しているのが窓から見えた。確かあのシフールは領地の西方にあるデオ砦の辺りを配達区域にしているのではなかったか。
侯爵子息セーファス・リンデンは開いていた本を閉じ、ふと考える。
デオ砦は砦とは名ばかりの小規模なものである。元々侯爵領の西端、北をセルナー領、南をステライド領に隣接した領境の見張りとして置かれた砦だ。バやカオスの穴から遠いリンデンにおいてはあまり稼働率の高くない砦である。常駐している兵士は近隣から寄せられるモンスター退治や盗賊退治などには対応するが、滅多に配備されているゴーレムを駆ることはない。
侯爵領は東方が海に面している。故にそちら側の警備が優先され、海側にはゴーレムシップが何隻も配備されている。ちなみにモナルコスだけでなくオルトロスやアルメリアなどの人型ゴーレムやグライダーも配備されている。
つまり必然的に海側に優秀な兵士達が集まり、西方の砦側への配備は左遷だと囁かれるほどだ。
だがその説が覆されることになった。
バの再侵攻の報を受けて、デオ砦の規模拡大が行われることになったのだ。現在施工中である。
砦に配備しているのはグライダーが8機に人型ゴーレムが6機。ラインナップはモナルコス4機、オルトロス2機。
だが今までろくにゴーレムに乗って実戦などしたことのない兵士達は、今回の規模拡大によって自分達の勤務地が突然危険に晒されたような危機感を覚えた。自分達はゴーレムに乗る訓練は受けているとはいえ、実戦に出た事は殆ど無い。実戦を積んだ鎧騎士達は殆どが東側に配置されている。今ここでゴーレムの出動を要するような事態になったら――
「馬鹿どもが――」
リンデン侯爵ラグリアはたった今受け取ったばかりの手紙を握りつぶし、溜息をついた。
「お呼びですか、父上」
「そこに座れ」
息子セーファスを部屋に招きいれ、再び溜息をつく。
「デオ砦で何か?」
「‥‥‥砦近く、領境の町がカオスニアンに占拠され、砦に救援要請が来た。カオスニアンは恐獣を連れているという」
「‥‥うちの領までカオスニアンがくるなんて、珍しいですね。冬になって恐獣が使いにくくなる前に蓄えでも残しておくつもりなのでしょうか。けれどもデオ砦にはゴーレムがありますから、それを出動させれば現地の兵だけでも何とか――」
セーファスはそこまで言って、父の顔を見る。その顔は険しい。
「――‥‥もしかして」
「そのもしかして、だ」
ラグリアはくしゃくしゃにしたままの羊皮紙をセーファスに放ってみせる。セーファスはそれを丁寧に広げて文字を目で追った。
要約すれば
『近くの村にカオスニアンと恐獣が出たと救助要請がありました。どうしたらいいでしょう?』
「――‥‥」
読み終わったセーファスも頭を抱えた。この期に及んでわざわざ指示を求めるってどういうことだろうか。
「デオ砦の兵士の配置を考えなおしたほうがいいですね。今回は、私が行きましょうか」
「配置換えをするだけじゃダメだ。兵士を育てる事をしなくては。それにお前は今回はコンサート鑑賞があるだろう。雨が上がって初のコンサートだ。民達を安心させるためにも侯爵家が皆そろわねばならない」
「それでは――」
顔を上げたセーファスに、侯爵は頷いてみせる。
「冒険者ギルドへ依頼を出した。初心者でも熟練者でも構わない、とりあえずうちの腑抜けどもに戦闘を見せてくれる冒険者を募集する。イーリスを行かせる。あと支倉殿に同行を頼んでおく」
「なるほど。ところで敵の人数は書いてありませんね。『大きな恐獣1体とカオスニアンが乗ってきた恐獣が何体かいるらしい』って‥‥これは報告書の意味も成していませんね」
その手紙のあまりのできの悪さに、セーファスも苦笑を隠せない。
「恐らく大きな恐獣はアロサウルスでしょう。カオスニアンが乗ってきた恐獣というのはヴェロキラプトルでしょう」
「町の東は草原だ。そちらに誘き出して戦うのが良いだろう。町にはまだ生きている者もいるだろうし」
侯爵はカオスニアンによって残虐に殺害されたであろう民を思い、額に手を当てて目を閉じる。こんなときに迅速に対応できなくてどうするのだ、現場にいたら兵達を怒鳴りつけてやるのに――こうしている間にも被害は増えるだろう。
とりあえずこれが終わったら兵士達の配置転換を考えなくてはならないだろう、責任を感じる領主であった。
●使用可能ゴーレム
・モナルコス4機
・オルトロス2機
・グライダー8機
・ゴーレムに乗り手がつかない場合は砦の鎧騎士をかりだすことが可能です
※ただし戦闘経験の浅い者達ばかりです
●リプレイ本文
●
場所はリンデン侯爵領の東の端、デオ砦。
「助けを請う人々がいるというのに指示待ちとは情けない! この間にどれだけの人の命が危険に晒されていると思う!? 恥を知れ!」
砦内を揺るがすほどの声に、集められた騎士達がびくり、と怯える。声を発したのはリンデン侯爵家仕えの騎士、イーリスだ。彼女は年若いとはいえ侯爵の信頼厚い騎士である。その忠誠心は確かなものであり、この砦で指示待ちをしていた形ばかりの騎士たちとは違う。
「今回彼らには一緒に戦って、ゴーレムを使う戦闘を実体験してもらいますか」
「町が襲われているのに指示待ちとか‥‥普段やってる盗賊退治などと本質は同じはずなんだけど。よほどゴーレムに抵抗感があるのだろうか」
萎縮する兵士達をイーリスの後ろから眺めるのはルエラ・ファールヴァルト(eb4199)と龍堂光太(eb4257)。ここの騎士達は何故こんなにも「使えない」のだろうか。
「カオスニアンと恐獣というものが、ここの人達にとっては普通の敵とは一味違う畏怖の対象なのでしょう。特にゴーレムに抵抗があるというわけではないと思います。ゴーレムに抵抗があるならば、鎧騎士ではなく騎士になるという選択肢もありますから」
静かに推論を述べるのはリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)。確かにこの国には騎士だって沢山いる。ゴーレム技術が伝わってからは鎧騎士のほうがエリート職だが、ゴーレムに抵抗を感じてまでエリート職にこだわる必要もないだろう。
「なるほどね。僕には敵は敵、という括りだけどこのメイディアの人たちは違うのか」
地球人の光太には分からない感覚があるのかもしれない。
「それにしても人の命が懸かっているというのに臨機応変に対応できないのは致命的です。この指示待ちの間に何人の人が――」
ルエラがそこまで口にして、言葉を切る。初めての(ゴーレムを使っての)実践に緊張する気持ちは分かる。だが人の命が懸かっているのだ。いざというときに民を守れずして、何が騎士か。
「整備が終わったらすぐに出撃しましょう。時間が惜しいです」
リュドミラはゴーレムが置かれているという格納庫の方角へと目をやった。そこでは今、二人のゴーレムニストがゴーレムのメンテナンスを行っていた。
「大分放って置かれたって感じだね」
「装備の方は埃被ってるな」
二人のゴーレムニスト門見雨霧(eb4637)と布津香哉(eb8378)は格納庫の様子を見て苦笑を漏らす。イーリスに聞いたところでは時折ゴーレムニストが点検に訪れるそうだがそれも2.3ヶ月に一度の事らしい。やはり海側の方が重要視されているとか。今後はそれを改めてもらったほうがよいだろう。
「人型ゴーレムの方から優先して点検していこう。鍛冶師はどこにいるんだ?」
香哉が近くにいた少年に声をかけると、その少年は驚くべき言葉を発した。
「師匠は今日もお休みです」
「なにぃ?!」
どうやら少年は鍛冶師見習いらしいが、実際に何かをやらせてもらったことはないという。そしてその師匠は今日「も」休みだとか。
「怠慢なのは兵士だけじゃなかったんだね‥‥少しだけなら俺にも心得があるから、俺がやるよ。香哉さん、おかしいところがあったら教えてくれるかな? 俺は備品をチェックしてくる」
いざ必要なときに必要なものがないとか十分ありえる――雨霧は埃の被った備品置き場へと足を進めた。人型ゴーレムの基本的な装備とグライダー用の槍は見受けられたが、砲丸や散弾、石灰散布器、貴婦人の踵などはやはり置かれていなかった。だが砦を増改築しているということは警備が強化されるということ。今後これらグライダー用の装備や他に人型ゴーレム用の武器が充実して困ることはない。彼は足りないものと今後用意した方がよい物をリストアップし、羊皮紙に纏めていく。
一方香哉はオルトロスのチェックをしていた。関節部に引っ掛かりがないか、バランスがおかしくなるような破損がないか確かめる。
「(いやー、久しぶりにゴーレムニストらしい仕事をしているなぁ)」
確かにゴーレムニストの仕事はなかなか表に出ることがないため、携わる機会は少ないかもしれない。だが、今回のようにいざというときにゴーレムニストがいると助かるのも確かだ。
「ん、ここ‥‥雨霧さん! 銅を持ってちょっと来てくれないか!」
備品置き場にいる雨霧を大声で呼ぶ。雨霧と鍛冶師見習いが銅を持って走ってくるのが見えた。
「何かあった?」
「ここ、銅を溶接して修繕したほうがいいと思うんだ」
「ああ、そうだね」
「じゃあ、俺がヒートハンドで銅を溶かすから、指示頼める?」
そんな感じでゴーレムニスト二人のオルトロスのメンテナンスは進んでいく。銅を溶接した部分に雨霧がゴーレム生成をかけて、応急処置は終了。これで何とか大丈夫だろう。
「後はモナルコスとグライダーかな? 急がないとね」
雨霧が呟く。一刻も早く出撃できる状態にしなくてはならないのだ。
ゴーレムニストは命を奪う道具を作る仕事。命を守る道具を作る仕事。なんとなく、その言葉を実感した。
●
『あ、あの‥‥大丈夫でしょうか』
東の草原。待機しているのはオルトロスが2機にモナルコスが4機、グライダーが2機。モナルコスに搭乗した砦の鎧騎士が、不安そうに風信器を通して尋ねてくる。
『大丈夫です。訓練でやった事を思い出して、落ち着いて行動してください。アロサウルスは僕とルエラさんが引き受けますから、その他の恐獣とカオスニアンを頼みます』
『は、はいっ‥‥』
光太の言葉に、緊張を隠せぬ様子で鎧騎士が答える。
ちなみに搭乗内訳はオルトロスが光太とルエラ、モナルコスに雨霧と砦の鎧騎士三名、グライダーにリュドミラと香哉だ。
事前に偵察に赴いたリュドミラによると、アロサウルスは1体、ヴェロキラプトルが5体ほど確認できたという。その他に目視できる所に、惨殺された村人達の遺体が見えたとか‥‥。
散ってしまった村人達の命は砦側の初動の遅れによるものも大きい。彼らの命を背負い、そしてまだ生きている命を救う為に心してかかるように、と騎士達には言い含めてある。さすがに被害をリアルに伝えられて、皆自分達のした重大なミスを実感したようだった。ここでそれが分からぬようであれば、騎士の位を返上しろとイーリスに怒鳴られたであろう。
ゴーレム部隊が東の草原で待機しているのには理由がある。それは恐獣とカオスニアンの誘き出しを砦の騎馬隊に頼んだからだ。これは光太の考えで、近くで戦闘が見られるのが一つ、こちらの討ちもらしを防いでもらうのが二つ、戦闘後即座に街の救助活動をするのに人手がいるという三つの理由がある。それに砦の騎士達が何もしなかったとあれば今後に差しさわりがあるだろうという配慮もあった。イーリスはその提案に頭を下げ、騎士達を代表して礼を述べた。
今、イーリスと純也を含む騎馬隊が町へと駆けつけ、そして撤退する振りをしてこちらへと敵を誘き寄せてくるところである。
「騎馬隊が戻ってきます!」
グライダーの上で石灰入りの袋を確認しながらリュドミラが叫んだ。総員、武器を構える。
どすん、どすん‥‥体長12mはあろうかというアロサウルスの歩調に合わせた地響きが聞こえる。
接触は、間もなくだ――。
●
ギャオォォォォォォォ!
アロサウルスの牙を受けたルエラ機が、カウンターアタックとポイントアタックを併用し、皮膚の薄い部分に剣を突き出す。攻撃を受けたアロサウルスは痛みに暴れるようにし、麻薬で自らを操っていたカオスニアンを振り落としてしまう。
アロサウルスがルエラに気を取られている間に、光太機が前脚に斬り付け、斬り落としを狙う。
何度も戦った事のある相手だが、機体の保存状態がよくなかったためか、なんとなく少し動きが鈍いように感じる。だがゴーレムニスト達が整備してくれたおかげで、彼の技量からすればそれほど気にならない程度だった。他の騎士達の手本となれるように、確実に、確実に攻撃を加える。
『光太さん!』
ルエラが暴れるアロサウルスの牙を受け、そして叫ぶ。彼女が反撃を繰り出すその瞬間にあわせるようにして、彼も剣を繰り出す――この連携を、騎士達がしっかり学んでくれることを祈りつつ。
『騎馬隊は一度下がって! モナルコスは前に出てヴェロキラプトルの相手をするんだ!』
雨霧の指示に応じ、三体のモナルコスがカオスニアンの騎乗したヴェロキラプトルに向かって走る。雨霧はゴーレム弓を使い、その他のカオスニアン達を狙った。モナルコスの腕は射撃を考えて造られていない為、照準を合わせるのが難しかったが今回は当てることが目的ではない。外す事で威嚇し、カオスニアン達を騎馬隊の方へと誘導するのが目的だ。恐獣を使役していないカオスニアン達ならば、騎馬隊でも十分相手ができるだろう。
グライダーに搭乗した香哉も、上空から弓を構えていた。だがグライダーの操縦をしながら両手を離して弓をいるというのはとても難しい。ゴーレム操縦技術、航空技術、射撃技術に秀でた者ならば的に当てることもできるだろうが、それも並大抵の技術ではこなすことはできない。香哉の技術では、グライダーを操縦しながら弓を引き絞る事が難しかった。だがここで諦めて何もしないというわけにはいかない。気合で弓を引き、地上のカオスニアンに向けて矢を射って敵を誘導する。
やっぱり鉄球の配置を上申しよう、ついでにボーラなんかも提案してみよう。麻袋に石を入れて袋の口をしっかりと縄で縛り、それを二つないし三つ作り適度な長さの縄で結んだ簡易的なものでも構わない。投擲に特化していない人型ゴーレムでは使用が難しいかもしれないが、歩兵や騎馬隊が恐獣の足止めを狙って投擲する分にはよいかもしれない。
「「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
カオスニアンたちの悲鳴が聞こえた。騎馬隊目掛けて一塊になって走って来ていた歩兵カオスニアン目掛け、リュドミラが石灰をばら撒いたのだ。突然視界を封じられたカオスニアンたちは転倒したりぶつかり合ったりと体勢を崩す。
そこに騎馬隊が弓を打ち込んでいった。粉の乱舞が大分落ち着いた所で怒ったカオスニアン達は騎馬隊に向かって押し寄せてくる。その頃には前面には剣や斧を持った騎馬隊が出ており、弱ったカオスニアン達を次々と倒していった。
「加勢します!」
騎馬隊は優勢とみたリュドミラはグライダーを操り、ヴェロキラプトルと交戦するモナルコス達を援護する。初の実戦にしては彼らは善戦していた。手数で押されているだけあって多少傷は負っているものの、雨霧と香哉の援護を受けて踏みとどまっていた。そこにリュミドラが加われば、更に鎧騎士達の士気が上がる。上空から一気に高度を上げて突撃し、そして再び上空に逃げるリュドミラ。その攻撃を受けた隙を狙って香哉と雨霧が矢を放つ。上手く連携すればいいと気がついたのだろうか、何度目かには鎧騎士達もその隙に攻撃を繰り出し、上手いこと当てていった。
『ルエラさん、大丈夫か?』
『私は大丈夫です、早く止めを!』
機体に何度か牙を受けたルエラ機だったが、傷を負っているのは相手も同じ。その上御する者がいないとなれば、このまま畳み掛けるのみ。
光太はルエラ機に牙を立てる為に下ろされたアロサウルスの頭を狙う。
ズシャッ!!
ギャオォォォォォォォォォォォン!!!
瞳に剣を突き立てられ、アロサウルスが天を仰いで叫び声を上げた。じたばたと痛みに身体をひねるその巨体に、ルエラ機が斬りつける。
『これで最後にしようか』
光太機の剣が、アロサウルスの腹部に突き刺さる。
ぐらり‥‥その巨体が傾いだ。
●
モナルコス、オルトロス共に損傷が出たが、味方に死者は出なかった。騎馬隊において数人の怪我人が出たという話だ。
ゴーレムは砦に戻された後、鍛冶師とゴーレムニストが呼ばれて修理が施されるらしい。香哉と雨霧でできる部分は済ませておいたので、もし彼らが到着する前にまた出撃などということになっても何とかなるだろう。
リュドミラの提案したグライダーでの戦法はしっかりと記録され、騎士達は訓練に盛り込んでみると告げた。雨霧の纏めた必要備品リストと香哉の出した新武器案は侯爵家に届けられて検討されるとの事だ。
町においてカオスニアン達に殺害された人々の数、32。
それが町が占領された時にでた被害なのか、砦の初動が遅れたせいで更に増えた数なのかはまでは分からなかったが、砦詰めの兵士や騎士達は皆その命の重さと共に唇を噛み締めた。
もう、二度と同じ過ちは犯すまい――。
散っていった命と冒険者達に、そう誓う彼らだった。