陽の舞姫
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月26日〜05月31日
リプレイ公開日:2007年05月30日
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●オープニング
美しいメロディーに乗せて、小さな台座の上で舞姫はくるくる舞い続ける。
天井の落ちた廃墟の中で、メロディーも舞姫の踊りも止まらない――陽精霊の光降り注ぐ間は。
「これが夜の出来事ならば怪談と言えるんだけど」
その天界(地球)人は言った。
「ふふ、でもこの世界の人にとっては十分不可思議な出来事か」
納得したように男は一人、顎に手を当てて呟く。
「まあともかく、メイディアから少し離れたところに打ち捨てられた廃屋から昼間、メロディーが聞こえ続けているらしいんだ。中を垣間見た人によると、光を受けた女性がくるくると舞い続けているとか」
まぁ、うん、僕には心当たりがあるんだけどね? と男は微笑んだ。
「それは多分、僕の居た世界から来たもので、僕が大切にしていたものと特徴が似ていてね。自分で確かめに行こうと思ったんだけど、ちょっと困ったことになってて」
ちっとも困ったような表情には見えないが、困っているらしい。
「舞姫像自体には全く危険は無いんだ。陽精霊の力の働いている間その光を受けて、メロディーに乗って舞い続けるだけさ。高さも30cm程度。まぁ、この世界の人達にとっては何もしていないのに音楽を発して動き続けている事自体『なんでもない』では済まないか」
申し訳ないね、まだこの世界に来て日が浅くて、と男は嘘臭い言い訳をした。
「その廃屋に、虫のモンスターが住みついていてね。僕一人じゃ舞姫像のある部屋まで辿り着くのは難しそうなんだ」
そこで頼みに来たわけ、と20代前半の男は胡散臭い笑顔を浮かべた。
「別に廃屋の中のモンスターを全部退治する必要はないけどね。僕としては最奥の部屋にあるオルゴ‥‥じゃなくて舞姫像を無事に持ってきてくれるだけでいいんだ」
さらりと言い、男は羊皮紙を取り出した。
「簡単だけど、廃屋の見取り図を用意してあるよ。天井が崩落しているのは舞姫像のある部屋だけ。元々何に使われていた建物かは解らないけれど、玄関を入ると真っ直ぐ廊下が最奥の部屋まで続いている。その廊下の両脇にはいくつか部屋があって、扉は閉まっている」
こんな見取り図どうやって手に入れたのですか、という職員の質問に男は「まぁ細かい事はいいじゃないか、精度は保障するから」と笑った。
「出てくる魔物は蝶と蜘蛛みたいだよ。まぁ途中の部屋に立ち寄ってその部屋の魔物を退治してもいいけどね、もしかしたら昔住んでいた人が何か遺しているかもしれないし」
でも欲をかいて、折角閉じている部屋の中にいる余計な魔物と戦うことになっても、僕は知らないけどねと男は冷たく笑う。そして付け加えるように告げた。
「あ、ごめん、言ってなかったね。僕の名前は天堂・泪樹(てんどう・るぎ)っていうんだ。それじゃあよろしくね」
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┃∴間∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴舞∴∴┃
┃∴扉∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴┃
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■‥壁
□‥閉じている扉
部‥小部屋
舞‥舞姫像
●リプレイ本文
●まだ見ぬ美姫
打ち捨てられた理由はおろかなぜそんな場所に建てられたのかすらわからないが、一行の前に立ちはだかる廃屋は石が欠けたり一部苔生したりと、確かに手入れがされなくなってから数十年が経っているだろうと伺える代物だった。廃屋への侵入に昼間を選んだので、その傷み具合も良く見て取れる。
「それにしても泪樹様‥‥一筋縄ではいかない不思議な方でしたわね」
ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は愛馬から降りて廃屋を見上げつつ、呟く。彼女は依頼人が他にも知っていることがあるのではないかと思い、カマをかけて質問してみたのだが
『ふふ、ちょっとこれ以上はわからないんだ、ごめんね。必要な情報は開示してあるよ』
と嘘臭い笑顔であっさり返されてしまったのだ。
「さすがに舞姫像を届ければ、色々話してくださると思いますよ。ご本人にとっては大切な思い出があるのかもしれませんし」
頑張りましょう、と励ますようにクウェル・グッドウェザー(ea0447)は声をかける。泪樹が本当に何も知らないのかそれとも何かを隠しているのかは解らないが、目的の像を手に入れた後まで隠し立てするような悪人には見えないという印象があった。
「舞姫像か‥‥興味深いな」
ぽつりと呟いたレインフォルス・フォルナード(ea7641)。像に興味を抱いているのは彼だけではない。アンドレア・サイフォス(ec0993)も物語の様なちょっとふわふわしたその像の話に興味を持った一人だ。「見てみたい気がしますねぇ」と口にした彼女の言葉に反応したのは隣に立つツヴァイ・イクス(eb7879)。
「俺は頼まれた事をやる。それだけだ」
「もちろん、きっちり仕事は済ませますよ」
アンドレアの言葉にツヴァイは満足気に頷いた。
「陽精霊の元、踊る舞姫、ぜひ見てみたいものである‥‥が」
その稼動には何か仕掛けがあるのだろう、とグレナム・ファルゲン(eb4322)はあらゆる可能性を考えつつ廃屋を見上げる。
「メロディーが昼間にだけ流れるということは光センサーか何かで動くオルゴールか何かなんでしょうかねえ?」
他の者に聞こえぬよう呟いたのは結城 梢(eb7900)だ。これは彼女が泪樹と同じ天界人だから出来る推理。この場にそれに答えられる者はいない。
「地図が正しいならばこの扉を開ければ正面に舞姫像が見えるはずだよね」
注意しつつ行こうか、と玄関扉に手を置いたサーシャ・クライン(ea5021)は仲間に声をかけた。
●虫達の歓迎
「‥‥廃墟に蟲は似合わないでしょう‥‥! 蟲なららしく森にいなさい!」
アンドレアのスマッシュを乗せた槍が蝶1体に突き刺さる。蝶の振りまく燐粉はクウェルのホーリーフィールドである程度防ぐ事が出来ていたが、それでも敵の数が多い。事前に梢のブレスセンサーである程度敵の位置と数を確認していた分、玄関扉を開けてすぐに待ち構えていた敵たちに遅れをとることはなかったが、戦闘音を聞きつけたのか最奥の部屋からも敵がこちらへ向かって移動してきているのが見て取れる。
群れる蝶達の向こうにちらりと件の舞姫像が見えた気がしたが、ゆっくり拝む事はまだできそうになかった。メロディーに関しては戦闘音でかき消されて一行の耳に届いては来ない。
「ち、数が多いな、鬱陶しい!」
ひらひらと飛び回る蝶を槍で捉えながら、ツヴァイが舌打ちした。
「皆さん、蝶だけでなく蜘蛛にも注意してくださいね」
後方から梢が叫ぶ。ブレスセンサーで感知したところ、蝶よりも大分大きな物の呼吸が何体か感知できた。恐らくそれが蜘蛛のものだろうと思われる。
「毒は厄介ですからね、早々に倒したいです」
先ほど蜘蛛の攻撃を避けきれず、運悪く麻痺毒を受けた者を解毒剤を持っていた者が治療したばかりだった。これ以上の被害は避けたい。クウェルは高速詠唱でコアギュレイトを唱え、蜘蛛1体の動きを止めた。
「ストーム使うから、気をつけて!」
サーシャは仲間に注意を促し、高速詠唱に入る。サーシャの手から渦巻いた突風が扇状に広がり、視界内を飛び交っていた蝶達と蜘蛛達とを床に落とした。
「見た目は美しいですが‥‥これだけの数が飛び交うのは何とも‥‥」
ジャクリーンの矢が蝶を射抜く。レインフォルスとグレナムは動きを封じられている蜘蛛に剣を振り下ろし、その牙が再び仲間に毒を与える事を防ぎに掛かる。梢は後方から高速詠唱を使用したライトニングサンダーボルトでそれを援護した。ホーリーフィールドの範囲外で燐粉を吸い込んでしまった者や怪我人にはクウェルがすぐに治療を施し、前衛は魔法使い達の援護を受けて再び武器を振るう。
着実に敵は弱り、数も減っていく。
「…なあに、丈夫で慣らしたメイ女が二人揃っているのです。早々抜かれはしません」
隣で槍を突き出すアンドレアに、ツヴァイは「ああ」と頷いた。
●直進か、それとも‥‥
ひとまず迫り来る敵を退けた八人の吐息と共に、最奥の部屋からは微かにメロディーが流れ続けている。このまま直進して一気に像まで行く案も出たのだが‥‥
「廊下はひとまず安全そうですし、周りの部屋の安全を確認しながら進んでも良いでしょうか」
この後ここに誰かが入る事があったら大変ですし、とクウェルが提案する。
「相手にする敵は増えますが、後で挟まれるのもぞっとしませんしね」
アンドレアは同意を示し、グレナムは少し考えるようなそぶりを見せたが
「まぁ余裕があれば小部屋の敵も排除しておきたいと思っていたしな。子供達が迷い込んだ場合などの安全性の確保の為にも」
と頷く。その言葉を聞いたツヴァイは表情には出さぬものの心中に複雑な思いを抱えていた。
「(なるほどな‥‥依頼をこなせばいい、だけじゃないのか。はぁ、俺も少し考えた方がいいのかな)」
依頼をこなすことだけを考えていた自分と、その他の事にまで気を配る仲間。そのスタンスの違いに少しばかり考えさせられるところがあった彼女だった。
「それでは私は廊下から舞姫像を注視している事にしますわね。まだあちらから敵が来ないとも限りませんし」
ジャクリーンの様にサーシャと梢、レインフォルスも廊下での待機を申し出た。万が一どの方向から敵が来ても対処できるようにという配慮からだ。舞姫像確保が目的である以上小部屋を探索している間に万が一像に何かあったら大変だという心配もある。廊下で待機していればすぐに駆けつけることも出来るだろう。
「全員で一部屋に突入は無理があるしな‥‥」
「出来る限り後ろから援護しますからね」
レインフォルスと梢は一つ目の扉を開けようとしている者達に声を掛ける。各部屋の中には少なからず敵がいるだろうと予想される。全部を相手にしていくとなると時間もかかるだろうしある程度消耗もするだろうが、全部の小部屋を開けていくことに特に反対する者はいなかった。
●夢幻舞踏
空から差し込む陽精霊の力を受けて、くるくるくるくる‥‥
異国のメロディーを奏でながら舞姫は舞い続けている。
その幻想的な様子はなんと言い表したらいいのだろう。
その音は、何に似ていると言ったらいいのだろう。
「これが‥‥」
ツヴァイはただただ感嘆の溜息を漏らした。
「近くで見ると一層、不思議なアイテムですね」
クウェルは目を細め、部屋中央の舞姫を見つめた。
「触っても大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。立派なオルゴールですね‥‥」
興味深げにその構造を眺めるサーシャに、堂々と像に近づいた梢が答える。
舞姫像のある部屋にもう虫がいないことは確かめた。小部屋も全て開けて虫の退治をした為に多少の消耗はあるが、後はこの像を持って帰るだけだ。だがその不思議な存在故に、この世界の者にとっては興味はあれども忌憚なく近づくことに少し躊躇いが残る。像自体にも何かの仕掛けがあるのだろうと、グレナムは最後まで警戒を解こうとしない。
「おるごーる‥‥? やはり梢や依頼人のいた天界の物なのか?」
レインフォルスに問われた梢は「多分そうですね」と言い、それを持ち上げた。サーシャは側で興味深げに観察を続けている。
「日差しの中で踊る舞姫像を一目見てみたいと思っていましたが‥‥想像していたよりも素敵ですね」
恐る恐るジャクリーンは像に近づく。梢の両手の上で舞い続ける像を見つめ、アンドレアが不思議そうに首を傾げた。
「舞っている像を壊さず持ち帰るのは‥‥少し骨が折れそうですね」
「それなら多分‥‥」
梢は壊さないように気を使いながらも大胆に舞姫像を傾けて、台座の裏を探る。彼女が台座の裏に触れるとカチリという音と共に舞姫は舞を終えた。
「おぉ‥‥舞わなくなった」
ただ台座の裏にあるスイッチをオフにしただけなのだが、この世界の者には彼女が何か魔法を使ったように見えたかもしれない。
ともかくこれで輸送しやすくなったことには変わりない。後の疑問は帰還してから依頼人を問い詰めることにしようではないか。
●食えぬ男
「へぇ‥‥小部屋の虫も全部退治してくれたんだ」
泪樹はくすと笑った。その人を小馬鹿にしたような態度、腹が立たないと言ったら嘘になるかもしれない。
「お求めの像は持って来ました。泪樹様はあの廃屋について他にもご存知なのではありませんか? 教えてもらえません?」
小部屋でも色々と見つけましたわ、とジャクリーンは泪樹に問う。出立前にはかわされてしまったが、知っているなら教えて欲しい。
全ての小部屋を開けた八人は、そこに残されたたものを見た。
その屋敷の小部屋は奥の部屋に向かって右手の4部屋はどうやら魔法の使い手が住んでいたような跡が、左手の4部屋には武人が住んでいたような痕跡があったのだ。ただ屋敷自体放棄されて久しいものだから、使えそうな物はあまり残されていなかったのだが。
「ああ、何か見つけたなら持って行ってもかまわないよ? 僕が欲しいのは舞姫像だけだしね」
「その舞姫像についても詳しい事、教えて欲しいんだけど」
軽くはぐらかそうとした泪樹に、サーシャも問う。言葉に出さぬとも像が舞う秘密を知りたいのは他の者も同じだ。
「‥‥どうやら話さないと像を渡してもらえそうにないね?」
特に気分を害した様子もなく、泪樹は「話すから像を渡してくれるかい?」と笑みを浮かべる。
「光センサーですか?」
「惜しい所だね」
丁寧に梱包された像を梢から手渡された泪樹は、優しい手つきでそれを紐解いていく。
「この像は僕のいた世界で言うところの太陽電池で動いているんだ。太陽の光を動力エネルギーに換えている、と言えばわかるかな?」
そしてその像に破損がないことを確かめると、満足気に一人頷いた。
「太陽は、この世界でいう陽精霊。まぁ、まさか陽精霊の力でも稼動可能だとは思わなかったけどね」
「その像は、あなたにとって大切なものなのですね?」
泪樹の像を見つめる瞳がとても柔らかいものであることに気が付いたクウェルが問うた。彼は「ああ」とあっさり肯定する。
「幼い頃に蒸発した母の姿を模しているんだ。‥‥笑うかい? この像に母への思いを向けて育ってきた僕を」
「特におかしいことではないだろう」
答えたグレナムに、泪樹は微笑んだ。
「私から見ればある種魔法にも思えますが…其方では珍しい物でも無いのですか?」
「メロディーを発しながら動く『オルゴール』自体は珍しくはないね。何を動力にしているかの違いはあっても」
アンドレアには少し想像し難かった。こんな魔法の様なものが珍しくない世界など。
「天界のものがあの廃屋で見つかるということは、これからも起こるのだろうか」
ツヴァイの問いに「それはちょっと僕にも見当は付かないな」と泪樹は首を傾げた。
「ああ‥‥ちなみにあの廃屋はね、数十年前に何処かの貴族が酔狂なことを考えて建てさせた物らしいね。子供や若者に魔法と武術をそれぞれ学ばせて、そして広間で戦わせて『武器と魔法のどちらが強いか』を競わせたらしいという噂を聞いたよ」
「そんな貴族もいたんだね」
「あくまで僕にあの廃屋を格安で譲ってくれた老人の話だけどね」
笑顔でサーシャに答える泪樹の言葉を、レインフォルスは聞き逃さなかった。
「あの廃屋は‥‥あんたの物なのか」
「今は、ね」
自分の屋敷の見取り図を持っていてもおかしくはないだろう? とさらりと言う泪樹に、騙されたような感を覚えたのは一人ではあるまい。
「モンスターに困っていたのは本当だし」
いやぁ、全部退治してくれて助かったよ、と微笑むその笑顔さえ嘘臭く思える。
依頼人の言葉がどこまで本当かはともかく、廃屋で陽精霊の光を受けて舞う舞姫の謎は解けた。
謎が解けたと言ってもこの世界に住む人々にとってそれが不思議で幻想的なものに違いはない。
一行はその美しい舞姫を目にした時の感動を忘れないように、と目を閉じるといまだ浮かぶその光景を深く脳裏に焼き付けた。