【ハロウィン】責任は楽しむ事で取るべし

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月30日〜11月04日

リプレイ公開日:2008年11月07日

●オープニング

●ハロウィンって?
そういえば少し前に、「はろうぃん」という地球のお祭りについて、ギルドに立ち寄った地球人に尋ねたことがあった。
「はろうぃん、とはどういったお祭りなのです?」
「南瓜でランタンを作ったり、南瓜料理をだしたりとか」
「かぼちゃ‥‥?」
「え、もしかしたこの世界、南瓜ないの!?」
「ええ。聞いたことがありませんね」
 そう答えた支倉純也の言葉に、その地球人は眉根を寄せて。
「じゃあ代わりにサツマイモでもいいよ」
「サツマイモもここにはありません」
「じゃあ何があるんだよー! 最後の手段、栗はどうだ!」
「栗なら、何とか」
「じゃあそれで栗料理を沢山作って皆で食べるとか。後は仮装。お化けに仮装するんだよ」
「‥‥‥アトランティスには宗教が存在しないので、幽霊やお化けといった概念がなく」
「ああー、もうっ! 何ならあるのさっ!」
 相当短気なのか、その青年はどんっとテーブルを叩いた。
「わかった、じゃあお化けじゃなくてもいいよ。『自分の恐い物』に仮装するんだ」
「恐いもの、ですか‥‥」
「そう。そしてトリックオアトリートといって、各家にお菓子を貰いに行くんだよ」
「鳥苦尾は鳥と?」
 鳥を使った料理でも出すのだろうか。それとも鳥を連れて歩くのだろうか? 純也は多少混乱したが、とりあえず話の続きを聞こうとしてみる。
「訪問される側は事前にお菓子をいくつも用意しておき、訪問してきた人たちにお菓子を振舞う。家々を渡り歩いて御菓子を貰っていく祭り」
「ふむふむ、では祭りを行う村側には栗を使った料理を用意していくように伝えなくてはなりませんねぇ」
「後は南瓜でランタンをつくったりだけど‥‥南瓜ないんだよね。だったらもう普通のランタンでいいんじゃない?」
 なんだか、投げやりだ、この男。
「死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が訪ねてきたりする日なんだよ。霊が訪ねてくる事はないとして、魔女はウィザードがいるから面白くはないけど、精霊ならいるんだろ?」
「ええ。この世界は精霊信仰の強い世界ですからね。ランタンの灯りだけでなく精霊の灯りもあれば綺麗でしょうね」
「まあ、それで持ち寄った御菓子や食べ物を食べてパーティをするんだよ。こんなんでいい?」
「ええ、ありがとうございます」
 純也は笑顔でその、調香師だという地球人に礼を言ったのだった。


●自分の恐いもの
「自分の恐いものに仮装するんだってさ!」
「恐い? カオスの魔物とかか?」
「実際にカオスの魔物見たことあるのかよ?」
「あはは、ねーな。後はカオスニアンか?」
「カオスニアンの格好するのはちょっと嫌だな」
「俺が恐いのはかーちゃんだ」
「‥‥‥‥‥‥」
 集った町の男集の間に沈黙が下りる。そして目配せしあい、結論を出す。

 恐いのは‥‥‥女だ!

 妻、恋人、母親‥‥何にせよ確かに恐い。ああ、恐い。
 その「恐い物」に仮装するという事はすなわち――


●料理
「栗をつかった料理ねぇ‥‥お砂糖は貴重だから、あまり甘いものは作れないけれど‥‥。ああ、でも折角お祭りに来てくれる方々に差し上げるのだから、貴重なお砂糖や蜂蜜も使っちゃいましょうか」
「でも色々な家を渡り歩くのでしょう? という事は持ち運びしやすくする必要があるんじゃないの?」
「あと鳥よ、鳥! 首に紐をつけた鳥を連れ歩くのでしょう? 沢山用意しておかないと」
「ランタンの灯りを灯すのよね。でも本当に精霊様がきてださったら良いのにぃ」
 少女や夫人達の相談はちゃくちゃくと進んでいく。一部なんだかおかしいが、とりあえず料理の面では大丈夫なようだ。
「精霊様は美しい音楽がお好きってきいたわ。でも‥‥ねぇ?」
「その辺はお客さんに何とかしてもらってもいいでしょ。お客様の中に音楽がお得意の方はいらっしゃいませんか〜って」
 くすくすくす、女達の中で笑いが漏れる。そんなこんなで準備は着々に進んでいった。

●絶句
「なっ‥‥‥」
 何となく気が向いたから。べ、別にハロウィンが懐かしくなったとかそういう意味じゃない。断じて違う。
 地球人調香師の石月蓮は以前ギルドでハロウィンについて話した事を思い出し、そしてパーティが行われるという村を訪ねた。そして絶句。

 吊るされたランタン――まあよし。
 供される栗料理――まあ南瓜に代わる甘味として悪くはあるまい。
 町の入り口で客達に貸与されるという衣装――ぱっと見、地球とは違うが努力は認める。
 柵の中にひしめく、首から紐をつけたニワトリ達――‥‥‥?
 そして仮装した村の男達――絶句。

「仮装というより女装じゃないか!」
「だって『自分の恐い物』に仮装するんだろう?」
 不思議そうに首を傾げる男達は、一様に女装している。中には似合っているものもいるのだが――全体的に、コメントに困る。
「お客さんにはそこの衣装から自分の一番恐い物に近いのを着てもらってさ、鶏を連れて各家を回ってもらうんだ。ちゃんと料理は女衆が作っているから安心だ。そして各家を回った後は、広場にある休憩所で料理を食べてもらう。どうだ!」
「‥‥鶏はどうするのさ」
「あー‥‥まあ、一周したら柵に返してもらって、次の客に渡せばいいんじゃねーか?」
「――‥‥‥‥」
 どこをどう間違ったらこんなパーティになるのだろう。けれども蓮は自分の説明が悪かったとはちっとも思っていない。
「仕方ないから少しだけ手伝ってあげるよ。折角きた客たちが不機嫌なまま帰ったら後味悪いじゃないか。土産くらい用意するよ」
「それは助かる! さあさ、アンタもこの格好でお客様をお迎えしてくれ」
「それは断る」
 即答。女装はごめんだ。

●今回の参加者

 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●事の元凶を探せ
 このおかしなハロウィンの元凶、石月連を探せ!
 なぜか一部の冒険者達は結託していた。
「誰ですかね。これをハロウィンとして地元の方々に教えたのは」
 額に怒りマークが浮き出そうな声色で呟くのは雀尾煉淡(ec0844)。ちなみに彼は今、彼の姿ではない。町の入り口で変装を求められ、ミミクリーで変身をしていた――エプロン姿のオカマッチョに。
 筋骨隆々のオカマ――エプロンつきは破壊力抜群である。きっと彼も過去にこの破壊力にやられたのだろう。
「さてと、うらづけを取りに参りますか。このお祭りの音頭をとっていらっしゃる方はどこに?」
 仮装としてまるごとかたつむりを着込んだ晃塁郁(ec4371)が町人に尋ねる。彼女がかたつむりを恐がる理由は不明だが、きっと語りたくないくらい恐い思い出があるのだろう。
「あっちだねー。広場の方に真っ赤なドレスを着込んだ町長がいるよ」
 これもまたワンピースを着こんで女装した男に示され、煉淡と塁郁は頷き合ってそちらを目指す。
「お嬢さんは‥‥なんでタコなんだい?」
 赤い服に足を模したひらひらがついている衣装を選んだアルトリア・ペンドラゴン(ec4205)。頭に赤頭巾を被っていると町人に不思議がられた。
「地球ではタコは海の魔物ともいわれるからです」
「巨大なタコにでも襲われた経験があるのかね? 顔に吸盤が張り付いたとか、墨をぶっ掛けられたとか」
「まあ、そんなところです」
 きゅっと頭巾を結び、アルトリアは鶏を繋いだ紐を貰い、町内へと入る。
 恐いって言ったら恐いんだからいいじゃない。
「ゆっくりするのは石月君を捕まえてからだな。ハロウィンの正解は知っちゃいるが、まさかここまで歪んで伝わるとはね」
 女装の男達、コッコッコッと鳴く鶏の入った柵を見て呟いたキース・レッド(ea3475)の顔を見上げ、隣に立ったエリヴィラ・セシナはぷっ、と吹き出した。
「エリィ‥‥」
 ちょっと恨みがましく彼女を見るキース。彼の頭にはつけ耳、顔には犬らしく髭と鼻の頭にメイク、そしてつけ尻尾。
「ごめんなさ‥‥」
 謝るもどうやら相当つぼにはまったらしい彼女。犬が恐いなんて子供みたい、そう思っても口に出さない。誰にでも恐い物の一つや二つあるものだ。
「エリィは何が恐いんだ?」
「私は‥‥」
 キースの問いにエリヴィラは口ごもり、一人になることだ、と答える。
「それは仮装のしようがないが‥‥もう大丈夫だろう。君には沢山の友人ができた。そして‥‥僕も傍にいる」
 キースに手を握られて、そうですね、とエリヴィラは笑みを浮かべる。彼女は結局恐い物を狂化の引き金になる「闇」とし、黒系のワンピースを借りて黒いヴェールを被った。
「とりあえず鳥はもういるから俺はいらないかな。え、恐い物? 脂肪かな」
 ぷにぷにと自分の腹部の肉をつまんでみるのは桃代龍牙(ec5385)。地球では趣味と実益を兼ねてジム通いなんかしてたけど、こっちの世界に来てから運動量が減ったのに食べ物の摂取量は増えたもので、このまま熊のように太ってしまわないか心配だと零せば、町民達が聞きつけたのは彼が地球人だという部分で。
「君も地球人なんだな? それなら君も一緒に化けようではないか!」
 と町民達に引きずられるままあれよあれよという間に着替えさせられたのは勿論女性用の服。身体のラインが出ないだぼっとした服を着せられて、まあいいかとそのまま町の中へと入っていく。


 一方、各家で貰える栗料理をすっとばして広場へ駆け入ったのは煉淡と塁郁。赤いドレスを纏った男性を見つけるや否や近寄って。
「お楽しみのところ申し訳ありません。このハロウィンの情報源になったという地球人を探しているのですが」
 塁郁に問われて、祭客と話をしていた町長は少し驚いたような表情を見せたが、
「ほれ、あそこにいるひょろっとした兄ちゃんだよ。黒い鞄を広げてるだろう。客にいい香りのする水を配ってくれてるん――」
「塁郁さん、行きますよ。キースさん、見つかりました!」
 町長の言葉が終わらぬうちに煉淡が蓮目掛けて走り出す。遅れてエリヴィラと歩いてきたキースもそれに参加。勿論塁郁もついていく。
「ふっ。さあ、観念するがいい石月君‥‥悪いようにはしない、はずだ」
「な、な、何なのさっ!?」
 自分に向かって走ってくる(一部)見知った顔の冒険者達を見て、蓮は本能的に危機を悟ったのか、黒い鞄を締めてしっかり抱え、あとずさる。
「貴方が元凶の方ですね。神妙にしてください」
「なんだか嫌な予感がする! 神妙になんてできるか!」
 塁郁に言われた蓮は黒い鞄――フレグランスオルガンを抱えて人垣を掻き分ける。集まっている人々は何か出し物でも始まったのかと好奇の目でそれを見ていた。そりゃそうだろう。オカマッチョとかたつむりとつけ耳付け尻尾で犬の扮装をした人が一人の男性に迫っているのだ。きっとハロウィンの出し物なのよー、そんな無責任な声も聞こえるが、蓮はそんなはずはないとわかっているので逃げ出す。
「無駄です。覚悟してください」
 だが煉淡が巻物を広げているのを蓮は見逃していた。途端、彼の動きが鈍くなる。煉淡が使用したのはアグラベイションのスクロールだった。その上キースのホイップが連の身体を縛り付けて彼の動きを封じる。
「さあて‥‥間違ったハロウィンを教えた責任は、皆を楽しませることで取るんだな」
「間違ったことは言ってない! 勘違いしたのはこいつらだろう!」
「ふふ、それでも責任は取っていただきますよ」
 煉淡とキースが動けなくなった蓮を引きずっていく。塁郁は注目している人々に丁寧に頭を下げて、「暫くお待ちください」と告げたのだった。


●ハロウィン講座
「焼き栗に栗のケーキに栗のスープ。秋という感じがします」
 タコを装ったアルトリアは両手一杯に料理を貰い、そして近くにいた女装姿の村人に鶏を返すと、広場に置かれた丸太に座り込む。料理が好きな彼女は勿論食べることも好きで。
 地球人の彼女は勿論正しいハロウィンについての知識もあったが、特に訂正しようとは思わなかった。楽しく美味しく過ごせれば、こういうのもありだと思う。
「蕪ならあるだろ? ランタンは蕪でもいいんだ」
 広場近くの民家でなにやら騒ぎ声が聞こえたが、アルトリアはそれよりも中をくりぬいた蕪の中に光る物体を入れて、即席ランタンの説明をしている女装の大男が気になった。
「あ」
「あ」
 ふと、目が合う。そういえば、彼は一緒に依頼を受けた地球人。龍牙といったか。
 見るに彼は人々に正しいハロウィンを教えているようで。
 蕪の中で光っているのは龍牙が連れてきた不思議な銀の光の塊、しゅろだ。ランタンの中からしゅろが照らし出す光に、わぁという感嘆の声が漏れる。
「仮装をするのはまあ、魔よけみたいなもんで。後は精霊や魔女が遠慮せずに寄って来てくれるようにだな」
「じゃあ、精霊様が喜ぶような仮装をすればいいんだな」
「まあ、そういうことかな」
 どうすれば精霊が喜んでくれるのか龍牙には見当がつかなかったが、まあそういうことだ。この特殊なアトランティスの地で本来のハロウィンの説明をしても、理解してもらえないだろうから解釈は地元民に任せる。やっていることは蓮と変わりないような気もするが、まあ変に助長させていないだけ善意があると思って欲しい。

 わぁぁぁぁぁぁ!

「?」
「?」
 その時、広場に歓声が上がった。龍牙とアルトリアはその歓声の出所――近くの民家を見やり、そして堪えきれずに吹き出した。
「な、なんだよ! じろじろ見るなよ!」
 そこに立っていたのは立派な「女性」の蓮。
 煉淡と塁郁が総力を挙げて「仕立て上げた」彼は黙っていれば間違いなく「淑女」に見えて。
「大丈夫、大丈夫。誰でも最初は恥ずかしいものですが、慣れればどうってことないですから」
「慣れたくないし!」
 塁郁の言葉に蓮は即答。だが彼女は意に介した様子もなく。
「石月さん化粧のノリがいいですから、少しばかり妬けました」
「別に嬉しくないし!」
「いや、久々に腕が鳴りました」
 満足そうに微笑むのはオカマッチョ――煉淡だ。彼はローレライの竪琴を持ち出して、一曲いかがですか? と周囲の人に問いかける。
「放置プレイ!?」
 蓮の叫び声にも振り返らない。ある意味彼は一番の目的をもう達成してしまったわけで。というか、演奏するならその格好やめたほうがいいと思いますが。
「いや、黙っていればそれなりに美人じゃないか。エリィには敵わないけどね」
「惚気はいらないってば!」
 キースは蓮をからかうと、エリヴィラの手をとり民家を回ることにする。
「男らしく腹をくくって開き直っちまえばいいんじゃないか?」
 龍牙の言葉にも、口を尖らせたままの蓮。
「似合っていますよ。本物の女性に見えます」
「‥‥‥そんなに言うのなら、少しくらいこの格好でいてやってもいいよ」
「あ、デレた」
 アルトリアの言葉に、そっぽを向いてまんざらでもない様子の蓮。龍牙の頭によぎったのは「ツンデレ」の4文字だった。


●それぞれの時間
 ローレライの竪琴から紡ぎだされる旋律が、響きわたる。
「ありがとう、戴いていくよ」
 キースはエリヴィラと共に民家を巡り、栗を使った料理を貰い歩く。
「‥‥‥今日は僕だけが、エリィ、君を独り占めできる」
「‥‥え?」
 エリヴィラがふと隣に立つ彼を見上げると、彼はいつの間にか彼女をじっと見詰めていた。
 今までは彼なりに、一緒に依頼を受けた仲間に対して気を使っていた。けれども今日は、彼女は自分だけのものだ。
「何か‥‥?」
 先ほどの言葉は雑踏に紛れ、彼女の耳には届かなかったらしい。
 不思議そうに見上げるエリヴィラに対してキースはふっと軽く笑顔を浮かべ、そして。
「いずれはエリィも僕の事を尻に敷くんだろうなぁって思ったのさ」
「それ、どういう意味ですか‥‥」
 じと、と彼をねめつけるエリヴィラ。拗ねさせてしまったかな? そう思ったが、彼女の顔にこうした些細な心情の変化が現れることが、彼にとっては嬉しい。自分達が彼女の表情を呼び覚ましたのだ、そうした達成感がこみ上げる。
「いや、こんな可愛いお尻の下になるのなら、本望かな」
「もう‥‥」
 ぶんっ‥‥振り上げられた腕を掴み、そのまま彼女を引き寄せる。
 そしてそっと、唇を近づけた。


 紡がれる音はこの日を祝福し。
 精霊たちは遠くからこの楽しげな様子を見守っている。
 町が、明るく活気付いている。
 人々の楽しげな笑いが、響き渡っている。
 願わくば、この笑い声が壊されませんように。
 全ての人に祝福を――ハッピーハロウィン!