【硝子の翼】鋼を鍛え上げる処
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月30日〜12月05日
リプレイ公開日:2008年12月08日
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●オープニング
●リンデンのこれまでとこれから
リンデン侯爵領は王都メイディアから北上した所に流れるギルデン川の向こうにある。王都から侯爵領の港ファティ港までは定期的にゴーレムシップが運行しており、首都アイリスへ向かう際は大体このゴーレムシップを利用する。
侯爵領はその領地の東側が海に面しているため、海上警備の関係もあって海側にはゴーレムシップや人型ゴーレム(モナルコス、アルメリア、オルトロスなど)、グライダーなどが配備されている。
侯爵家はその内部を一時、心惑わすものというカオスの魔物に乱されたが、その魔物は冒険者達によって退治され、侯爵家も平和を取り戻したかのように見えた。
その後侯爵領を襲ったのは謎の長雨。やまぬ雨は人々の不安をかき立て、頻発する津波や川の氾濫は人々の生活を脅かした。
長雨はやみ、侯爵領は平和を取り戻したかに見えた。しかし浮かび上がってきたのは国を襲うバの軍の再侵攻問題。バやカオスの穴から遠いリンデンには遠い話のように聞こえたが、侯爵領の東側に位置するデオ砦では急遽防衛のための改装が行われ、ゴーレムも新しく配備しなおされた。
リンデンでは海側の防衛に力を入れていることもあり、陸側であるデオ砦に回されるのは経験の浅い騎士や鎧騎士達であった。その結果、カオスニアンと恐獣の襲撃にうまく対処できず、民の命が奪われたのは記憶に新しい。
●視察、訓練命令
侯爵の私室に呼ばれたイーリスは、ひとつの命を受けた。それはデオ砦の兵士達の視察と訓練、そして砦付近でカオス魔物の動きが無いか調べること。
デオ砦にはグライダー8機、オルトロス2機、モナルコス4機が配備されている。多少経験のある騎士と鎧騎士が派遣されてきたが、まだまだ新人の域を出ていない者も多数存在する。そういった者達の訓練を、経験の多い冒険者たちと行うというのが任務。
訓練メニューは冒険者たちの提案に従う。できるだけ多数の兵士が訓練に加われるようなカリキュラムが望まれる。
ちなみに現在砦に逗留している兵士はナイトが約80名、鎧騎士が約20名。そのうち六割が新人に毛の生えた程度の者達だ。
カオスの魔物に対する聞き込みは砦の兵士たちに行えばよいだろう。
訓練指導者は、もちろんゴーレムを動かせる者に限らない。
今までの経験を生かしてほしい。
●リプレイ本文
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まずは砦の兵士達それぞれの適性を見極める事から始められた。鎧騎士とナイトそれぞれを別の場所に集合させ、冒険者達が説明をしていく。
鎧騎士達を集めた龍堂光太(eb4257)、スレイン・イルーザ(eb7880)、ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)はまず彼らが人型ゴーレムとグライダーのどちらに適性があるのか自己申告を求めた。どちらとも言い難い者はこの後試乗させてみるつもりだ。
ナイト達を集めた風烈(ea1587)とルイス・マリスカル(ea3063)は得意な得物別に兵士達を分けた上、習得しているオーラ魔法を尋ねてまわる。
「対カオスの魔物ではオーラパワーとオーラエリベイションが便利だ」
実際に烈が使ってみせる。
「オーラパワーは通常の武器でダメージの与えられないカオスの魔物にもダメージが与えられるようになります」
「オーラエリベイションは、精神系の魔法で操られる可能性が減るしな」
ルイスの言葉を桃色の光に包まれた烈が引き受ける。
今まであまりカオスの魔物と対するときの事を考えた事はなかったのだろう。若い兵士達から感嘆の声が上がる。
「それではまずは二組に分かれてください。片方は烈さん指導で模擬戦。片方は私の指導で騎乗して訓練を行います」
ルイスの言葉を受けて、現場の指揮官であろう少し年嵩のナイトが若いナイト達を二組に分けていく。
烈は組み手を行わせるつもりだった。本気で戦わせる事で格上の敵と相対した時の経験を積ませるのが目的だ。
ルイスは戦闘馬に騎乗させ、砦外の平原にて馬をそろえての進軍、そして合図によって迅速に連携を取る訓練を行う。
翌日は組を入れ替えて、昨日と同じ様に訓練をする。小隊に分かれてゴーレム部隊と組むのは騎馬隊がしっかりとしてからだ。
「もうここにくる事はないと思っていたのだけれど、やはり世の中には縁と言うものが存在するのだと思う」
鎧騎士の自己申告によってグライダー担当と人型担当に振り分けを手伝っていた光太がぽつり、呟いた。前来た時はここの騎士達は酷い有様だったけれど、あれから少しでも成長したのだろうか。
「一応振り分けは完了した‥‥が」
「自己申告だけじゃちょっと危ないですよね。やっぱり実際に乗ってもらわないと」
スレインとベアトリーセが光太の側に集まる。一応「どちらが得意か」という名目で分かれてもらったが、中には「こっちに乗りたいから」という単純な希望で分かれた者もいるかもしれない。そういった者を見極めるには実際に乗せてみる事が一番なのだが。
「‥‥‥とりあえず、整備が終わるまで待とう」
光太はゴーレムが格納されている格納庫の方を見やった。そこでは急ピッチで整備が行われているはずだ。
「だからさ、普段から真面目に整備してりゃ、こんなにあせる事はなかったんだよ!」
ゴーレム格納庫に布津香哉(eb8378)の怒鳴り声が飛ぶ。
「だってぇ、毎日毎日チェックしててもぉ、おかしいところなんてそうそう見つかるもんじゃないしぃ」
「だからといって整備点検しないで放って置いたら、おかしいところが出てくるに決まっているだろ!」
怒鳴りつけているのは「良く休暇をとる」この砦付きの鍛冶師。どんな親父かと思ったら30代くらいの女性で。どうやら亡くなった父から仕事を譲り受けたという話だったが、毎日のチェックがあまりにも代わり映えがなさ過ぎて、飽きたらしい。
「点検して異常がなければ自分の整備がしっかりと行われているという事。それが仕事の成果。技術屋としてのプライドってもんがないのか、あんたは!」
そのとろとろとした動作と変に間延びするしゃべり方に、香哉のイラつきは最高潮だ。技術屋としての誇りをけなされているようで我慢ならない。
「プライドぉ? そーねー」
「うあー、もういいから手を動かせ! 騎士達が待ってるんだ」
そのやり取りを弟子の少年がおろおろしながら見守っている。絶対しっかり教え込めばこの少年の方が、真面目に働くと思う。香哉は鍛冶師がしない分自ら少年に指示し、まずは数の少ない人型ゴーレムから点検・整備を始めていく。
「このモナルコスは大丈夫だ。少年、外の俺の仲間にこの機体を運び出すように伝えてくれないか?」
「はい、わかりました!」
少年は香哉の言葉にはっきりと返事をし、外へとかけていく。鍛冶師はグライダーを覗き込んでいたが、なんだかいまいち信用できない。仮にもゴーレムを置いている砦に配備されるくらいなのだから、それなりの腕を持っている‥‥と思いたいのだが。前回のサボリのこともあってか、よい印象はない。
「(兵士達のところに出す前に自分で確認したほうが確実だよな‥‥)」
鍛冶師の様子を見ながら心の中で溜息を付く香哉だった。
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整備・点検されて次々と出てくるグライダーと人型ゴーレムに順番に兵士を乗せ、その適性を見る。
「あなたはグライダーの方が向いているみたいです。あ、あなたはそのまま人型ゴーレムの方で」
鎧騎士の名簿を作ってもらい、それにチェックを入れながらベアトリーセが指示を飛ばす。
「えー、俺はオルトロスに乗りたかったのに」
「自らの力量を知り、得意な分野で活躍する方が砦為にもなるし、活躍の場も増えるよ」
文句を言う兵士を尤もな意見でなだめ、光太がその兵士の背を押す。
「基礎訓練、お願いします」
「わかった」
兵士をスレインが引き受け、グライダーに乗せる。
「グライダーは武器を積んで攻撃する事もできる。だが偵察や哨戒などにも役に立つやりがいのある役目だ。人型だけがゴーレムではない」
「す、すいません‥‥」
「分かればいい。後5人集まったら一度、飛んでもらう」
スレインの言葉に恐縮する兵士に、彼はそれ以上厳しくは言わない。誰にだって理想はあるものだ。だが現実はその理想通りに進むものではない。それが分かったのならばあえてきつく言う事もないのだ。
「香哉さん、槍と斧と盾はありましたか?」
全機整備を終えて出てきた香哉に、ベアトリーセは問う。前回デオ砦には基本的な装備しかなかったが。
「前に要望出したのが通じたかな。基本的な装備はもちろん、盾と鉄球と石灰散布機があった。とりあえず練習では盾と斧と槍でいいかな?」
「ええ、お願いします」
香哉は格納庫に戻り、弟子と共に該当の装備を持ってくる。
適性で分けられた兵士達のうち、人型ゴーレムを操る者達は防戦の訓練を行う事になった。
「ゴーレムに乗るのは有事の時だけじゃなく、日常から搭乗して訓練を行う事が大切だと思う。ゴーレムに慣れれば慣れるほど乗っていられる時間は長くなるし、この間みたいに消極的な態度になることもなくなる」
「まずはモナルコスの扱いに慣れてください。私と光太さんがオルトロスで攻めますから、4名ずつモナルコスで防衛訓練を行います」
光太とベアトリーセの言葉を真剣に聞いていた兵士達は「はい!」と元気良く返事をして。
「私がモナルコスで搭乗限界の時だったのですが、相手に攻撃を先にさせて盾ぐらいくれてやり、反撃にかけるぐらいの勢いで盾を使いすてました。その後歩兵で止めをさすと。技量に差があるなら連携も必要です」
「せめてモナルコスでは物足りないと感じるくらいにはなって欲しい」
二人の言葉に兵士達は頷いた。
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鎧騎士、騎士に分かれて訓練をした後日、兵士達を6つの小隊に分ける方法が取られた。人型ゴーレム1、グライダー1、ナイト10名程度で1隊。残りのナイトとグライダーは戦闘での偵察、指揮系統、報告、連絡へと回す。
「グライダーは戦闘だけでなく偵察や哨戒もこなせる。それがとても重要だという事をわかって欲しい。平時の哨戒も、その様子を見る民達の安心感にも繋がる。何も無くとも見回ってくれていると分かれば、守られているんだと安心しないか?」
光太の言葉に確かに、と頷く兵士達。兵士達の顔つきが以前この砦に来たときと変わっているのが分かる。
「哨戒飛行するときは二人で飛ぶ事を推奨するな。一人で周りを見るよりも二人のほうが負担も減るし、万が一ゴーレムの稼動限界近くで敵を発見した場合も操手を交代する事で新たに数時間飛ぶ事ができるから」
これは香哉からのアドバイス。
「それでは実際に模擬戦をやってみましょう」
ベアトリーセの指揮により、兵士達は小隊に分かれていく。
今回使用する武器は本物ではなく木でできた模擬戦用のものだ。模擬戦で貴重なゴーレムを壊して破棄にするわけにはいかない。その武器の先には染料をしみこませた布がつけられており、攻撃を受けるとその染料が付着するというわけだ。付着した時点で戦闘不能と判断される。審判は冒険者が行う。
「いいか、ゴーレムは集中攻撃されると脆い。中型恐獣をひきつけて、ゴーレムが大型恐獣に専念できるような環境を作るのが大切だ。そして対中型恐獣では騎手を先に弓で叩く事ができれば楽になる」
こちらは騎士達に今までの経験を聞かせる烈。
そして、模擬戦が始まる。
模擬戦だからといって手を抜いてはいけない、それは兵士達もわかっているはずだ。だが武器が木製とはいえゴーレムの力で騎士に攻撃すれば、ただでは済むまい。仲間をカオスニアンと思って容赦なく――などとできるはずがない。その辺の戸惑いがまだ見える。そしてやはり戦いは、ゴーレム対ゴーレム、騎士対騎士となる。
「すこし、いいだろうか」
スレインは模擬戦を観戦している兵士達の合間を縫って情報を集めていた。何か近隣で変わった出来事は起きていないか、不審なモノを見たという事はないか。
「関係あるかはわからんが‥‥ここからちょっと東に行った所にある町に住んでいた悪徳商人が殺されたって話だよ。手口も犯人もまったく分からないなしい。まぁ‥‥すごい悪いやつでね、いろんなとこから恨み買ってたみたいだし」
「ああ、俺も聞いた事ある。裏で高利貸しみたいなことやってたらしくて、何人も家を差し押さえられたり、首くくる羽目になったって聞いたぜ」
「ふむ‥‥」
これだけではカオスの魔物の仕業だと断定する事はできない。だが。
「俺は男に貢ぐだけ貢がせてぽいっと捨てちまう酒場の女が、死体になって川に浮いてた事件を聞いたぜ?」
「そりゃ事故かもしれないって話だろ。酔って足を滑らせたのかもしれないし」
「どんな小さなことでもかまわない。何か他にはないか?」
烈が近隣の略地図を持って来て兵士達の話に加わる。砦詰めというのは娯楽が少ないもので、自然と近隣のちょっと変わった話が耳に入ると忘れないものだ。
「ここの村の地主が死んだって話聞いたぜ?」
「いじめっ子が突然死したという話もある」
「‥‥‥‥」
よくよく話を聞いてみれば、人が死んだという話が多い。一つ一つはただの事故かもしれないといえるが、この砦近隣に限って言えば、なんだか多すぎる。
スレインと烈は目を見合わせて頷いた。
確証はないが、カオスの魔物が手を貸している可能性がある。
「そこまで!」
審判をしていたルイスの声が響いた。
もしかしたらゴーレムよりも、ルイスが砦に寄付した魔法の剣や槍、石の中の蝶の方が役立つ日が来るかもしれなかった。