まほうつかいのお掃除おねがい♪

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月04日〜12月09日

リプレイ公開日:2008年12月12日

●オープニング

「あのー、冒険者を雇いたいんですがー」
 ギルドに響く少年の声。
「ああ、君は確か‥‥前にも来ましたよね?」
 応対に出た支倉純也が微笑むと、「覚えててくれたんですか!」と少年は破顔した。
「改めて。僕は魔法使い見習いのラークです。スクロールを作るのが好きなお師匠様(女性)の元に修行に来てます」
「あれから修行は進みましたか?」
「それがー‥‥」
 ラークは声のトーンを落として溜息をつく。どうやら芳しくないらしい。
「一応毎日の家事の合間に掃除はしているんですけど、一人じゃ手が行き届かなくて。それにお師匠様、いつの間にかすごい散らかしてくれちゃうものですから」
 どうやらまたすごいことになっているらしい。
 きっと壁はツタに覆われて、玄関にも所狭しと荷物が積み上げられて、洗濯物もそのままで、洗っていない食器も山積みで、本もスクロールも乱雑に本棚に置かれていたり、布団は敷きっぱなしだったり――きっとそんな感じなのだろう。
「年の瀬も近いですし、お師匠様を何とか外に追い出しておきますから、その間に玄関と寝室と書斎と台所とリビングと庭のお掃除をお願いしたいのです。あ、書斎には大切なスクロールや羊皮紙が転がっているので注意してくださいね」
「お師匠様を連れ出すとは‥‥」
「だって仕事をしていたり寝ていたりすると、その部屋は掃除できないでしょう?」
 確かに、彼の言うとおりだ。
「ついでに買出しもお願いしたいんですが‥‥費用は出しますから、真っ白な魔法用スクロールを30巻と、日持ちがしそうな食料を買ってきてもらえませんか」
「‥‥つまり、家政婦というわけですね」
 苦笑する純也に対して、ラークは真顔で声を落とし
「でも‥‥出るんです」
「でる?」
「黒くて‥‥小さくて、カサコソとしているあの生き物が‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥わかりました」
 純也は依頼書に『G出現の可能性あり。注意されたし』と付け加えた。

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec5497 セイヴァー・アトミック(51歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ec5604 フェイ・フォン(29歳・♀・ファイター・人間・メイの国)

●リプレイ本文


 さてさて、この家。主人が女性だというのに見事に荒れ果てて――
「だが女の身で家事が不得手なのは、私とて同じ。魔術師殿を笑う事はできぬさ」
 といいつつ身体が少し震えているのはアマツ・オオトリ(ea1842)さん。
「なに、皆と協力すれば恐れる事はない。‥‥ギルドの説明では、かなり手ごわい懸案らしいからな」
 うんうん。でもそれは掃除だけじゃなくてゴ‥‥
「ええいっ! 皆まで口にするな!」
 怒られちゃいました。
「うっわすごい部屋っていうかすごい家‥‥」
 室内に入る前からその汚さにあっけに取られているのは、綺麗好きのフェイ・フォン(ec5604)さん。
「じゃあ、バーストアタックで家ごと破壊‥‥え、ダメ?」
 ダメです。
「一番簡単に綺麗にできる方法なのに」
 しゅんとしてしまったフェイさん。バーストアタックで破壊したら、綺麗どころじゃなくなります。壊れた残骸のお片づけが大変です。
「ああもう‥‥たった半年で逆戻りどころか悪化しているじゃないですかー!」
 怒り心頭なのは以前もここのお掃除をした事のある美芳野ひなた(ea1856)さんです。前にも同じ様な依頼があったんですよ、と皆さんに話して聞かせます。
「えーと、外側だけで多分皆さんの想像以上だと思いますが、中はもっと酷いですから覚悟してくださいね☆」
 うんうん、黒い物体も出るみたいだしね。きっとすごいはずだよ。
「お掃除ですか。私は綺麗なのが好きですが‥‥これは酷い」
 今回唯一の男手、セイヴァー・アトミック(ec5497)さんもあまりの様子に嘆いてます。
「やるからには徹底的に片付けるとしましょうか」
 ぜひそうしてください。
「よし。行くか。頼もう!」
 アマツさんがどんっと扉を開けると、かび臭い臭いと腐敗臭に似た臭いがむわ〜っと漂ってきました。
「もう、こんなところ人の住むところじゃありません!」
 ひなたさんが意を決して飛び込んでいきます。ここの住人は掃除の邪魔にならないように外に引っ張り出されているという事ですから、思う存分掃除ができるでしょう。
「汚い部屋を見るとつい手が動いちゃうのよね‥‥じゃ、徹底的に掃除しちゃいましょうか♪」
 フェイさんもやる気満々です。
 こうして冒険者達の大掃除が始まったのでした。



「この部屋にある書物やスクロールはお仕事用の大切なものらしいですから、丁寧に扱ってください。あ、お庭で虫干ししてからしまってくださいね」
 お掃除を取り仕切るのは、やっぱり一度このお家に来た事のあるひなたさんです。てきぱきと的確な指示をしていきます。
「力仕事なら任されよ。しかし‥‥床が見えぬ」
 確かに、羊皮紙やスクロール、本や良く分からない道具、羽ペンなどが散らばっていて床が見えません。それでもアマツさんは一つ一つ丁寧に拾い重ね、虫干しの為に外へ出す準備をします。

 カサ‥‥

「っは!! い、いまそこにくろいのがはしった!!!」
 アマツさん、口調が乱れてます。落ち着いて落ち着いて。
「む、むむう‥‥ゴホン。今、そこに黒い影が走らなかったか」
 さあ?
「うむ。見間違いだな。許されよ」
 大丈夫です。見間違いなんて誰にでもあるものです。
「では私は買出しに行ってまいりましょう。指定された物の他に何か必要なものはありますか?」
「じゃあ、替えのシーツや衣類、他に日用品などもお願いできますか? 依頼にあった食べ物は干し肉や魚の燻製になりますが‥‥あとでひなたが腕を振るいますから、野菜や果物も買って来てください」
 ひなたさんに指示されて、セイヴァーさんは嬉しそうに頷きながら一つ一つ頭に詰め込んでいきます。
「ずいぶん沢山になっちゃいますけど、大丈夫ですか?」
「もちろんです。女性の頼みを断るなんて真似、いたしませんよ。お嬢さんの手料理をいただけるとあれば、尚更気合が入るというものです」
 女性が好きでナンパの達人のセイヴァーさん。にっこり笑顔で市場へ買い物に出かけました。
「ふう‥‥なんだか掃除しても掃除しても綺麗になる気がしないわね」
 リビングで掃除をしていたフェイさんが溜息をついてます。そうなのです。たまりにたまった埃はなかなか落ちないのです。でも、フェイさんは諦めません。ごしごしごし、力を入れて雑巾で床をこすります。

 サササササッ‥‥‥

「ひぃっ!」
 そんなフェイさんの目の前を、何かが走り抜けました。
「でたぁーっ!」

 どかーんっ!

 フェイさんの叫びと共に、リビングの壁が一枚ぶち抜かれました。
 冒険者達の仁義なき戦いが、今始まろうとしています。
「どうかしたか!?」
 慌てて駆けつけたアマツさんの足の甲を、黒いモノがささささーっと走り抜けます。
「ご、ごきっ‥‥きゃああああああ!!」
「大丈夫ですか!?」
 台所からひなたさんが飛んできました。アマツさんは顔に動揺を浮かべつつも、こほんと咳払いをして。
「‥‥あ、きゃ、客人が来訪したらさぞ、驚かれる様相であろうな。はっはっはっ!!」
 確かにリビングの壁がぶち抜かれていたら、驚くでしょう。
「例のGがでたのよ。まだその辺にいるはず。1匹見たら30匹!」
 現実逃避しそうになっているアマツさんに容赦なく、フェイさんが事実を告げます。
「ああ、また出ちゃいましたか〜。綺麗に片づけをすればもう出てこなくなるはずです。頑張りましょう♪」
 家事の達人、ひなたさんはさすが、Gが出たと聞いても余裕です。ためらいなく部屋の中へ入り、フェイさんのお掃除の手伝いを始めました。
「む、わ、私も、てつだ‥‥」
 本人は一生懸命隠そうとしていますが、アマツさんはGが怖くて部屋に入るのを躊躇っているようです。
「あ、そっち行ったわ!」
「え」

 ぶーん

 フェイさんの声にアマツさんが顔を上げると、その視界には飛行する黒い物体が。こちらめがけて飛んできます。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「消えなさい!」

 どがーん

 壁が破壊される音と悲鳴が、おうちの中に響き渡ったのでした。
 お隣さんが何事かと心配して遠巻きに見守るほど、Gとの仁義なき戦いは続けられたのでした。



「ずいぶんとすっきりしましたねぇ」
 買い物から帰ってきたセイヴァーさんが見たのは、ぶち抜かれて隣の部屋と続き部屋になってしまったリビングです。きちんと壁の残骸も掃除されています。もちろん、Gも。
「後は虫干しした書物とスクロールをきちんと棚に収めて、庭を掃除すれば終わりかしらね」
 フェイさんが腰に手を当てて言うと、ひなたさんが口を開きました。
「ひなたはお台所で美味しいものを作っていますね」
「で、では私がラークと魔術師殿を呼びに行こう」
 疲労困憊。アマツさん、顔色悪いですけど大丈夫ですか?
「それでは私は庭のお掃除をしましょうか。買出しだけで掃除をしていないというのは申し訳ないですしね」
 買出しも相当な量があったので一人じゃとても大変だと思いますけど‥‥セイヴァーさんは身体に似合わず良く働いてくれます。
 ひなたさんが台所に。フェイさんが庭から仕事部屋へ荷物を移動させて、セイヴァーさんがお庭の草刈り。アマツさんはその間にラーク君とお師匠様が時間をつぶしているという食堂へと行く事にしました。



 しばらくしてアマツさんがラーク君とお師匠様をつれて帰ってきました。その頃にはセイヴァーさんがお庭をとっても綺麗にしてくれていました。転がっていた石を取り除き、雑草を丁寧にむしりとり、落ち葉を掃き集めてくれたのです。
「ずいぶんと、こざっぱりしたわね」
「お師匠様、これで年が越せますよ!」
 ラーク君はおうちの外を見ただけで涙目です。
「これはこれは想像以上にお美しい‥‥。この後ご一緒にお茶でもいかがですか?」
 セイヴァーさんが素早くナンパスキルを発動させます。お師匠様はその部屋の中からは想像できないくらい、自分自身の身は綺麗に保っている人だったのです。
「でも、家の中からいいにおいが漂って来ているわ。この後ご飯なんでしょう? 一緒に食べればいいじゃない」
「それもそうですね。ではお手を」
 差し出されたセイヴァーさんの手を取り、お師匠様はおうちの中へ入ります。ラーク君も後から付いていきます。
「‥‥‥ずいぶんと、見通しがよくなったわね」
「この方が、広くなっていいと思ったのよ?」
 リビングと繋がった隣室を見て呟いたお師匠様の言葉に、フェイさんが答えます。Gが出てバーストアタックを使ったなんていえません。でもGが出るような環境にしたお師匠様にも責任はあるのですから、言ってもいいかもしれません。
「仕事道具や本は全て虫干ししたぞ。綺麗に棚につめてある」
 アマツさんは若干青い顔をして椅子にぐったり座りました。何か恐ろしい事を思い出したようです。
「‥‥家事が苦手だというのは人のことは言えないが‥‥しかしな、あの黒い悪魔がでるまでにするのはどうかと思うぞ」
「そうですよ〜。溜まっていた食器も洗って、生ごみも処理して、溜まってたお洗濯もしっかり洗いましたからね〜」
 ちょっとお怒り気味なのは、出来上がった料理を運んできたひなたさんです。彼女の怒りも尤もなのです。だって数ヶ月前にもお掃除をしに来たばかりなのですから。
「さて、仕事の後には美味しい料理で疲れを癒しましょう。皆さんどうぞ♪」
 そのお料理の匂いに惹かれるようにして、皆が食卓につきます。
 綺麗になったおうちで美味しいお食事。なんと幸せなことでしょう。
「感謝するわ。これで数ヶ月は持ちそうよ」
「数ヶ月‥‥」
 ですがさらっと言ったお師匠様の言葉に、一同ぴたりと凍りついたのでした。
「これは‥‥きっと衣替えの頃にまた依頼が出ますね‥‥」
 ひなたさんの言葉に反論できる人は、誰もいないのでした。