【聖夜祭】やっぱり格好から?
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2008年12月20日
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●オープニング
●何故!?
「ちょっと待て、石月蓮! な、な、なんだこの服はっ!」
いったん衣装を持って更衣室に入ったイーリス・オークレールだったが、服を脱ぐ前に出てきた。その顔は真っ赤で、いつにないほど取り乱している。
「何って‥‥クリスマス商戦に欠かせない制服。といっても一着しか作れなかったから、残りは冒険者に作ってもらわないとね」
「だ、だからど、どうしてそれをっ、私がっ!」
「着たら見栄えがよさそうだから、モデルになってよ」
「なっ‥‥」
「僕もイーリスがそれ来た格好、見てみたいな!」
ディアスにもきらきらした視線をぶつけられ、戸惑うイーリス。
「とりあえず着てみてよ! 見たいみたい!」
ディアスは手をパチパチたたき、イーリスを再び更衣室へ促す。
「む、むぅ‥‥」
蓮は無関心そうに、香水の入ったビンの数を確認していた。
●状況説明
クリスマス会場は確保した。
宿泊施設のみなら40〜50名ほど収容できる。ダンスホールはいいとこ中規模だが、併設されたラウンジとの間の仕切りを取れば、それなりの人数を収容する事ができる。
だが今回の蓮の目的は会場整備ではない。
ぶっちゃけ、パーティ用の資材と資金を得る事。
自分の香水を元に「お試し」として侯爵家由来の貴族に売りつける事。そしてお金、もしくは一度着て飽きてしまったドレスやアクセサリ、靴などと取り替えてもらう。
次に近くの町や村に赴く。そこではやはり物々交換が中心で、肉や野菜や穀類、果物などと引き換えで香水を配る。
もちろん本番で配るものよりは量の少ない試供品だ。試供品とはいえ量産を始めたばかりなのでそれなりの高値のもの。
で、先ほどのイーリスの格好は――地球風でいうなら『ミニスカサンタ』。
赤と白で彩られた、丈の短いスカートの衣装である。
「ちなみに女の子は皆これね。キャンペーンガールみたいな」
「だ、男性はどうするんだ」
自分ばかり恥ずかしい格好をするのは割に合わないとばかりに食い下がるイーリスに、連は
「もちろん、似たような格好してもらうよ。サンタクロースのね」
この世界で認知度の低い衣装であるからこそ、人々の興味を引くのに十分だと蓮は考えたのだ。
「問題は‥‥衣装が足りない。イーリスの分は僕が作ったけど、まず最初に衣装作りに手を貸してもらわないとね」
衣装作りの後は貴族の夫人達の集まるサロンでの香水販売(物々交換)。そしてその後は町へ出て町の女性人達をターゲットに物々交換。男性にもこっそり勧めて、奥さんや恋人へのプレゼントにと渡すのも良いだろう。
ここで仕入れたお金や品物はこの後の準備、及び当日に使用される。
逆にいえばここで沢山資金や品物を稼いでおけば、それだけ豪華なパーティができるという事だ。頑張って欲しい。
●リプレイ本文
●
何枚もの布地と沢山の香水瓶が、その場に堂々と存在を許されていた。
「堂々と、ただ堂々とすればよいのですわ」
「し、しかしだな‥‥」
椅子に座し、羽ペンを手にしたフィリッパ・オーギュスト(eb1004)ににこりと微笑まれても、イーリスの緊張は解けなかった。ミニスカサンタとやらの格好をさせられたわけだが、普段白ばかり着用している彼女は落ち着かないのだろうか。いや、きっと理由はそれだけではないだろう――。
「蓮さん、ちと確認したき事が」
ペットのエレメンタラーフェアリーの衣装も参考に、と衣装デザインを担当するフィリッパと雀尾煉淡(ec0844)の側にフェアリーを待機させたルイス・マリスカル(ea3063)は、イーリスの恥ずかしがりようをみて1つ心配している事があった。蓮を壁際に連れて行き、こそっと耳打ちしてみる。
「アトランティスにはチキュウにあるとされる女性の下着的なものがですね‥‥。ですから短い衣装は良いとして、そこらへんフォローしたのでありましょうか」
「え? そんなの決まってるよ」
一方、そんな新事実を告げられた蓮は涼しい顔で
「用意したわけないじゃん?」
――やっぱり。ルイスは予想通りの答えに、小さく溜息をつく。
「ではですね、とりあえずの間の間に合わせとしてこのビキニ水着をイーリスさんにお渡ししてください。ないよりはましでしょう。後はこのウルの長靴も一緒に」
「ビキニ水着って‥‥なんでこんなもの持ってるのさ。まあ、人の嗜好をとやかく言うつもりはないけど」
「いや、嗜好とかではなくてですね、手に入れたのは不可抗力であり――」
背中に嫌な汗をかきつつ弁解するルイスに、蓮はイイ笑顔を浮かべてこう言い放った。
「大丈夫、イーリスには内緒にしてあげるよ。一つ貸しにしておくから」
――嫌な貸しである。
●
デザイン画が出来上がるまで、こちらでは配布する香水の準備がされていた。香りをしみこませる見本用のハンカチには利賀桐真琴(ea3625)が素早く、かつ正確に刺繍を施していく。刺繍はハンカチによって違い、リンデン、ラベンダー、フリージアの三種。ワンポイント刺繍だが、普通の者がやれば彼女の倍以上の時間がかかることは間違いない。
「ふむ‥‥すばらしい腕前だな。私は裁縫は殆どした事がなくてな」
「やってみると案外、上手だったりするかもしれやせんよ」
刺繍をする真琴の横で香水瓶に紐で作った花の飾りをつけていたイーリスが呟くと、真琴はにっこりと笑った。
「その結び方、とても綺麗でやす。きっとイーリスのお嬢は手先が器用なんでやすね」
「ふむ‥‥そ、そうか?」
少し頬を朱に染めたイーリスは黙々と作業を続けていく。刺繍を終えた真琴も一緒に紐細工に加わり、匂い別に三種類の組紐を瓶につけていった。
「うふ、まさかこんな異世界で同業者にめぐり合うなんて。科学のない世界で、石月ちゃんったら頑張ったわね〜。これからは、あたしもお得意様になっちゃうわよん」
語尾にハートマークが浮かんでいるのが見えそうな長曽我部宗近(ec5186)の言葉に、蓮は視線を鋭くした後、何事もなかったかのように続ける。
「まあ、僕も香水を理解してくれる同業者に出会えたのは僥倖だとおもうけどさ。はい、これ」
差し出されたのは3つの瓶。それぞれ「リンデン」「フレッシュ」「フローラル」の香水が入っている。宗近がメイクの都合も兼ねてテイスティングしたいというので用意したのだ。
「そうね‥‥」
蓋を開けて空気に泳がせた香りを手繰り寄せる宗近の顔が変わる。真剣なのだ。彼もまた、プロだから。
「これに各自の汗や体臭が混ざって最終的な香りになるから、あまり香りに囚われすぎないようにね」
「大丈夫よ、あたしもプロだもの」
オネエ言葉だがその声色からは真摯なものが感じ取れて、蓮は満足げに頷いた。
「こんな感じでどうでしょうか」
「ええ、男性側はそれで問題ないと思いますわ」
フィリッパと煉淡が羊皮紙にサンタ衣装のデザインを施していく。
男性はヘソだし丈の半袖チュニックに長ズボン。上にロング丈の長袖コートを羽織る形。縁にふわふわの飾りが付いている。
「女性の方は一応この2タイプを軸にしようと思っていますの」
フィリッパが差し出したデザイン画にはチューブトップにフレアースカート。上にウエスト丈の長袖ジャケットを羽織る形。ピンク色の可愛い衣装に仕上がっている。縁にふわふわの飾りが付いている。もう一種類はチューブトップにミニスカート。上にウエスト丈の長袖ジャケットを羽織る形。もちろんふわふわの飾りもついている。
「おお、これでやしたら色違いで作ってみるのはどうでやすか? 赤だけでなく、ピンクや橙などあっても良いかと思いやすよ」
「そうですね。男性は基本の赤、女性は桃色や橙などでも可愛いと思います」
早速煉淡がファンタズムのスクロールを利用し、映像を作り上げる。そこにはピンク色のフレアースカートの衣装を纏ったフィリッパの姿が浮かび上がった。
「まあ、わたくしですの?」
すこし恥ずかしいですわねとホホホと笑いながらも細かいところを指摘していくのはさすが女性。目が行くところが違う。逐一真琴にそのデザインは作成可能か尋ね、そして煉淡が何度も微調整を重ねていく。
「三田さん? っておしゃれなんですね〜。ひなたはミニスカートがいいかなぁ〜」
同じく衣装作成担当の美芳野ひなた(ea1856)が覗き込み、目を輝かせる。でもちょっと気になったのはチューブトップの部分。自分の胸を見下ろして、ひそかに溜息をつく彼女だった。
「踊るなら、ふわふわ揺れるフレアースカートの方がいいでしょうか。それともチラチラ見えそうで見えないミニスカートがいいでしょうか」
地球人の日野由衣(ec5881)にしてみれば懐かしいのがサンタ衣装。クリスマス前になると、そこかしこで見つけるその姿がこの世界では珍しい。
「よし、さっそく型紙に起こして全員分作成しましょう!」
ひなたの言葉に真琴が頷き、そしてその場は一種の戦場と化すのだった。
●
サロンには何人かの夫人が集められていた。誰もがリンデン侯爵夫人との付き合いがあるという事。この度噂に聞いた貴重な香水が手に入るとの事で足を運んでくれた人達だ。お金だけでなく物々交換でも可という事を事前に伝えてもらっていたらしく、それぞれが執事やメイドに荷物を持たせていた。
「奥様方、ようこそお越しくださいました」
ピンクのサンタ衣装に身を包んだフィリッパが一礼すれば、さらりと揺れるその髪からふわりと花の香りが漂って。
「調香師自身は諸事情でこちらに足を運ぶ事はかないませんでしたが、わたくしたちのメイクとコーディネートを手がけてくれた地球人アーティストの長曽我部が、奥様方にお似合いの香水をコーディネートいたします」
「よろしくお願いしますねぇ」
ざわり、宗近の外見と言葉にサロン内が揺れるが、そのざわつきを払拭するかのようにオレンジのミニ衣装に身を包んだ由衣がダンシューズを履いて進み出る。ぺこりとお辞儀をして、ステップを踏んで軽やかにその身を躍らせると、揺れる身体からリンデンの香りが漂って夫人達の元へと届く。
「まあ、素敵な香りですわね。もっと良く嗅がせていただけませんこと?」
「あらずるいわ、奥様。私が先ですわ」
「あ、大丈夫です。テイスティング用のハンカチを用意してあります。この花の模様が、それぞれ香りを現しているので、三種類全部試してみてくださいね」
由衣がにっこりと笑って香水をしみこませたハンカチを配って回る。どういう香りなのかと聞かれれば、事前に頭に叩き込んだ香りの特徴を引っ張り出してきて説明していく。
「お金の他、もう使わないドレスやアクセサリーと交換でもかまいませんわ。一度袖を通してしまっていてもかまいませんから、気に入った香りがありましたらお申し付けくださいね」
礼儀作法に長けたフィリッパが告げれば印象はよくなる。
「香りには相性とといものがありますのよん。好みの香りでも自分の体臭に合わせてみたら、合わないという事もありますわ。そうなった時に沢山購入した香水は無駄になってしまうのだけれど‥‥今回交換していただくのはね、サンプルだから量は少なめ。もし試してみて気に入ったら、再び買いに来てくださいねぇん」
宗近が夫人一人一人についてまわる。最初こそ少し驚いていた夫人達だったが、香りだけでなくメイクのアドバイスももらえたこともあって、宗近が回ってきてくれることを待つ夫人達も多くなっていた。
ここでは主にお金とドレス、アクセサリー類を手にすることができた。
『真琴は足を出した方がいいよ。ほら、メイド服って裾が長いでしょ? だからたまには短い奴で、「ぎゃっぷもえ」を狙うんだって!』
‥‥‥これがディアスが零した忌憚のない感想である。というか、一体どこでそんな言葉覚えてきたんでしょう、この子は。
子供の素直な意見に従って、真琴はミニスカートのサンタ服を着用。ひなたがフレアースカートに変更して食料品との物々交換へと回る。勿論二人とも宗近によってヘアメイクから化粧まで施されて、普段とは違う一面を引き出されている。
「香水はいかがでやすか? これを機会に奥さんや恋人へのプレゼント。それにデートの時の自分用につけてみるのも良いでやすよ」
「香水?」
「いい香りのするお水ですよ〜。飲めませんが、香りは人の印象を変えたり、ロマンティックなムードを作るお手伝いができるのです〜。今回は特別に、お金でなく食料品などとの交換も受け付けていますよ〜」
不思議な格好をした真琴とひなたの声かけによって、下町に住む人々も何事かと寄ってくる。彼女たちの持つバスケットから花の香りが漂って来るので花売りかと思った人達もいて。
「お花は枯れちゃいますけど、香水の中に咲いたお花は枯れませんから〜。きっと喜んでもらえると思いますよ〜」
ひなたもハンカチに香水をしみこませ、ためしに人々に嗅がせてみる。香水は高価な嗜好品だ。普段ならば一般市民がよくよく手の出せる代物ではないが。
「食べ物でもいいって言ったよな‥‥。肉とか魚でもいいのか?」
「うちのパンは?」
「果物なら出せるんだけど。どのくらい出せばいいんだい?」
普段は裕福な人々しか手が出せない香りの水が食料と交換で手に入るとあって、興味を持った人々は次々に声を上げてくる。お金ではなく物々交換でも良いというのがハードルを下げているのだろう。まあ中にはそんなもの何の腹の足しにもならないという人もいたけれども。
「御代は皆さんの判断に任せやす。気に入ったなら、沢山の品物と交換してくだせぇ」
真琴がにこりと微笑む。
ここでは肉や魚、果物やお酒など食料品を手に入れることができた。手に入れた食材はひなたと真琴の手で日持ちする状態に加工され、本番当日まで保存される事になる。
さて、ここは市場。ルイスと煉淡の男性二人が急遽設営した露店で売り子を務めている。ハンドベルを鳴らし、人の目を集めて香水について説明していく。
「普段はなかなか手に入らない香水です。貴族の間でおしゃれなどに使われている嗜好品で、普段体臭が気になる人にもお勧めです。おしゃれとして使う他に、香水はマスキングという気になるにおいを消すのに使う方法もあるのです」
煉淡の話術に自然引き付けられるのは男性が多い。一応、食品のにおいと混ざらないように市場の食料品を扱う区画から離れたところに場所をとったが。
「そこのお嬢さん方、香りを試してみませんか?」
「え、私達‥‥?」
男性二人が店番をしているという事でちょっと遠巻きに見ていた女性達を目ざとく見つけ、ルイスは香水を含ませたハンカチを差し出す。
「でも、私達そんな高級なものを買うお金を持ち合わせていなくて」
女性のその言葉に周りに集まった男性達も「そうだよなぁ」と頷く。貴族様御用達の品物を軽く買えるほど、民達は裕福ではない。
「大丈夫ですよ。今回はお試しという事で少量を安価で販売しています」
「また、お金での購入ではなく物との交換も受け付けていますから、お気軽にお申し付けください」
ルイスと煉淡のフォローを聞いて人々はざわめく。うちの植木とか‥‥うちのおもちゃとか‥‥うちのマントはどうだい、木工細工物を扱っているんだけど、お店で出しているスープじゃダメかい? そんな声が方々から聞こえてくる。
パーティに使えそうにないものは売却して資金の足しにすればよいし、日持ちがしそうにないものはこの場でありがたく頂く。日持ちがしそうにないから、パーティに使えそうにないからといって拒否しては集客に響く。
はてさてこうして集まった物はそれぞれ集められ、お金とパーティで使用するものに分けられた。これらを当日までに使う事になる。
え? 蓮がどこにもいない?
ああ、彼なら――
「ちょっ、一体何がどうしてこんな事にっ!?」
「可愛いボウヤ、あたしたちに似合う香水を選んで頂戴〜♪」
野太い声、無理に出した高い声。格好は女性だがその体臭は紛れもなく男のものだ。嗅覚の鋭い蓮にはすぐわかる。
――彼は煉淡と宗近によって「そういう嗜好の人達」が飛びつきたくなるほどの、「どこの社交界に出しても恥ずかしくないほどの立派な」芸術作品に仕立て上げられ、そうした人々の集う場に放り出されていた。勿論本人の意思は無視である。
まあ、筆頭の彼自身が販売をしないというわけにもいかず、口先まで出かけた不本意さをなんとか飲み下しながら、営業モードで「彼ら」を相手にする蓮だった。