【黙示録】月の乙女が告げるは、襲来と――

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2009年01月13日

●オープニング

「そんな‥‥無茶な事を」
 リンデン侯爵邸内で、セーファス・レイ・リンデンは悲鳴にも似た声を上げていた。
 同席するのは歌姫エリヴィラと、彼女にくっついてカオスの魔物達の不吉な動きを教えてくれている月精霊アナイン・シー。
「ゴーレムはカオスの魔物と戦うようにできていないんです。恐獣のように巨大な敵ならともかく、1メートル2メートルの相手には命中させるのが困難です」
「でも海側から魔物がくるんだもの。仕方ないじゃない」
「しかし‥‥ゴーレムの武装は拳と蹴り以外は魔物に効果がありませんし、ゴーレム用の魔法武器や銀の武器はありません。オーラパワーなどを付与するしか‥‥」
「だったらすればいいじゃない」
 あっさりと告げるアナイン・シーにセーファスは開いた口がふさがらない。言うだけなら楽だ。だが実際実行するとなると結構大変なのだ。
「アルメリアの矢にも一本一本オーラパワーを付与、ですか? 銀製の鏃も考案されていますが、高価な上に消耗品なのでそれほど数があるわけではありませんし‥‥」
「だったらゴーレム乗りだけじゃなく、歩兵と協力すればいいじゃない」
 いや、確かにその通りなのだが。
 今回アナイン・シーが告げたのは、リンデン侯爵領の海側から空を飛んで、または海中を泳いで魔物が攻めてくるという情報。リンデンの海側にはモナルコス2機、オルトロス2機、アルメリア2機、グライダー8機、そしてゴーレムシップが数機。ゴーレムシップに関しては精霊砲が搭載されていない為、歩兵の足場とするのがよいかもしれない。
「わかりました。ゴーレムへのオーラパワー付与要員としてナイトを何名か出撃させます。また、冒険者の希望があれば精霊砲を搭載したフロートシップも出撃させましょう。ただし、フロートシップは海上には降りれません」
「ヴァルキュリアはでてこないの? イクサレスは? カークランは?」
「‥‥‥ずいぶんとゴーレムにお詳しいようですね」
 アナイン・シーの言葉に苦笑を隠せないセーファス。ジ・アースからきたエリヴィラはゴーレムに詳しくない為だまって話を聞いているが、アナイン・シーは言いたい放題だ。
「ゴーレムは恐獣とかカオスゴーレム相手じゃないと出て来れないの? 今回来る敵の中にも、大きい魔物も居るみたいよ。10メートルくらい。魔物の襲来だって国難じゃないの?」
「それはそうなのですが‥‥」
 リンデン侯爵領は基本的にバからもカオスの穴からも遠い。故にそうした高性能機体はもっと危険地域に優先的に配備される。それにセーファスの言うとおり、元々ゴーレムは対魔物用に開発されたものではないのだ。
「一応、緊急として一時的に高性能機を貸与してくれるかどうか聞いてはみますが‥‥」
 ゴーレムは対魔物用に開発されたものではない、それは判ってくださいねとセーファスは念を押す。
 ゴーレムに搭乗して戦う者の為に、1体に一人オーラパワーを習得しているナイトをつけてはくれるという。だがそれでもゴーレムは小さな魔物に対しては攻撃をあてるのが難しい。相手は空を飛んでくるという。海を泳いでくるという。空を飛べない、海を泳げない人型ゴーレムは、自分達の間合いに敵を誘い入れてから攻撃しなくてはならないだろう。
「歩兵戦力も欲しいです。冒険者達を募りましょう。エリヴィラさんは今回は下がっていてください。危険すぎます」
「‥‥はい」
 エリヴィラはカオスの魔物達に狙われている。だとすれば乱戦になるかもしれない戦場に出撃させるのは危険きわまり無い。
 ただ、彼女を囮にするというならば話は別だが――。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3625 利賀桐 真琴(30歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8174 シルビア・オルテーンシア(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文


 敵はいつ襲ってくるのか判らない――そんな緊張の時間が続いていた。
 交代制で夜を迎え、たいまつや篝火、ランタンの火を絶やさないようにする。敵は海から来るという。海岸線に灯りを幾つも設置してあるとはいえ、見えるのは黒い水面。夜攻められるとしたらかなり不利になる。
「中型騎乗恐獣等やラプトル等はその体長の殆どが尾であることから、1〜2mの敵に対してゴーレムが不利というのは、些か納得しかねるが」
 リザレクトの側で呟かれたクーフス・クディグレフ(eb7992)のその言葉に、セーファスは苦笑して口を開いた。
「恐獣は尻尾でバランスを取っていますし、その尻尾に攻撃を当ててもダメージがはいります。なので魔物とは少し勝手が違うと思いますよ」
「そうだとしても、当てればいいのだろう?」
 確かに当ててもらえれば問題ないのだが。
「それにですね、ゴーレムの武器に魔法を付与するにはゴーレムが手に持った状態ではダメなのです。一度置かないと。それが不便なところですね」


 そして、最初の異変が起こったのは夜ではなく、次の昼間だった。
「あれを!」
 ルイス・マリスカル(ea3063)が沖を指し示す。
「船、でやすかね‥‥」
「そうみたいですけれど、どこの船でしょうか」
 利賀桐真琴(ea3625)とベアトリーセ・メーベルト(ec1201)も500メートルは沖に現れた船に見覚えはない。
「私には突然現れたように見えましたが」
 フラガ・ラック(eb4532)の言う通りだった。何の前触れもなしに大きな船が現れた――彼らはそう認識していた。
「どちらにしろこの距離では私達には確かめようがありませんが」
 顎に手を当ててルイスが思考する。夜番のグライダー部隊や視力の良い者を起こすべきか――
「今日ここにどこかの船が来る予定はなかったとセーファスの坊ちゃんがっ!」
 急ぎセーファスの元へ行って確かめてきた真琴。だとすればあの船は敵――か?
「近寄ってくる気配がないのでしたら、威嚇射撃を行なっても問題ありませんか? 少なくとも味方ではないようですし、海域を犯した時点で賊、という考え方も出来るでしょう」
「シルビアさん!」
 そこに現れたのは夜間警護に当たっていたシルビア・オルテーンシア(eb8174)だった。今は休んでいるはずなのだが、場がざわついているのに気がついて起きてきたのだという。
「船はあそこに浮かんでいるだけで近寄ってくる気配はないので威嚇が成功すれば何らかの反応が起こるかもしれないです」
 フラガの言葉に頷いて、シルビアはゴーレムシップ上のアルメリアへと向かう。威嚇なのだから普通の矢でよいだろう。制御胞に乗り込み、起動。そして弓を引き絞り――最大射程に挑戦する。
 ピン――張り詰めた空気を肌に感じる。
 だが、卓越した射撃技能を持つ彼女にとってはこの緊張が心地いい。
 しゅんっ!
 アルメリアの手から矢が放たれた。それは陽精霊の下で弧を描いて飛び、吸い込まれるように船へと向かっていく。視覚の良い者ならばそれが船に当たるという風に見えただろう。だが実際は――
「‥‥?」
 シルビアは眉をしかめる。相手の船体に矢は刺さるだけの距離を自分ははじき出していた。なのに矢は刺さらずに海に落ちてしまったようだ――まるで幻覚をすり抜けるように。
「!? まさかっ!」
 急ぎアルメリアから降り立ったシルビアは皆の元へと駆け寄った。そして声を上げる。
「あの船は幻です。恐らくマジカルミラージュではないかと思われます。警戒態勢を引いてください。カオスの魔物が攻めてくる可能性が高いです」
「!?」
 その間にも沖の船体のこちら側に黒い点が浮かび始めているのが見て取れるようになっていた。透明化していないということは恐らく下級のカオスの魔物なのだろう。だが数はそれなりに多い。そして恐らく、透明化しているカオスの魔物もどこかにいるはずだ。
『この双剣に懸け、これ以上、カオスの跳梁は許しません』
 ヴァルキュリアに搭乗し、盾を持たずに二振りの剣を握ったフラガが決意を述べる。前に乗ったときには、その性能を十分に発揮させてやることができなかったが、今ならヴァルキュリアの力をすべて引き出してやれるはずだった。
「大型の魔物がでたら頼みますね」
 ベアトリーセはリザレクトの外装を優しく撫でた後、武器を手に戦線へと向かった。小物の相手をしてからリザレクトを駆るつもりだ。
「あなたと共に戦う為に死力を尽くしやす。どうか此度は存分に采配を振るって下せぇ」
 真琴の言葉を受けて、セーファスは「よろしくお願いします」と優しく微笑んだ。そして彼女はセーファスと共に武器を構える。
「‥‥近づいてきてますね」
 不思議な水瓶の変化を感じ取り、ルイスは日本刀を手に立ち上がった。そこには邪気を振りまく者や酒に浸る者、死肉食らう者などが海を飛んでいた。他にも筋骨たくましい男の姿をしたカオスの魔物が何体かと、火を放つものが複数。
 飛んでいても直接攻撃を放ってくる者はまだいい。海上から魔法で攻撃されては、こちらの攻撃手段も限られてくる。
「私も参戦します」
 夜番のシルビアが続けて参戦を申し出てくれた事で、有利になった。彼女は魔物に良く効く矢を持ってきていた。それを番えて海上で詠唱をしている者に放てば、ギャァッと醜い声を上げて魔物はのたうつ。そこにルイスがソニックブームを打ち込んだ。
 ベアトリーセもソニックブームで牽制した後、爪や嘴で接近戦を挑んでくる敵を相手にしていた。だがどの攻撃も彼女にとって見切るのはたやすく、反対にカオスの魔物に特別効果のある刃がその醜い身体に食い込んでいった。
 リザレクトに搭乗したフラガを狙うのは小さな魔物。その上火を放つものの高速詠唱による炎が飛んできたが、ダメージはそれほどではない。問題は魔物が小さいが故にいかにして攻撃を当てるかであった。剣自体にはオーラパワーを付与してもらっている。ならば――フラガが繰り出したのはポイントアタック。相手が小さい故に狙いも難しくなったが、ヴァルキュリアの力を最大限引き出した上で、下級の魔物である邪気を振りまく者や酒に浸る者に攻撃を当てる事に成功した。ゴーレムの重い攻撃を受けた魔物は吹き飛び、魔物によってはそのまま姿を消した。
 魔法を操ろうとする魔物には、シルビアの矢やルイスとベアトリーセのソニックブームが飛び、その詠唱を阻害する。
 ちらり、火を放つものが見つけた隙はソニックブームを放つセーファスの側で小物に対して短剣を振るっている真琴だった。
 ゴウッ――真琴に向かって火球が飛んだ。ファイヤーボム――彼女はそれに気がついたが出来た事は一つ、その場にいたら巻き込まれるだろうセーファスを庇う事だけ。
 ドカーン!
 周囲のオルトロスとモナルコスを巻き込み、爆発が起こった。ゴーレムはこのレベルの攻撃では傷がつかなかったが、真琴は背中に火傷を負っていた。
「っ‥‥」
「真琴さん、大丈夫ですか!?」
「このくらい、なんともねぇです。セーファス坊ちゃんは?」
 リカバーポーションを飲み下し、尋ねれば帰ってきた答えに安心して彼女は微笑んで。
「小物は随時撃破できていますが、マジカルミラージュを使用した魔物が姿を見せていないのが気にかかります」
 ホーリーアローを射続けながら、シルビアが当たりに目を凝らす。今見える範囲の敵は全て海の上を飛んでいる。そして使ってくる魔法はファイアーボムかブラックフレイムが中心。魔法がさほど効果がないと見て爪や嘴による直接攻撃に移る魔物もいたが、その程度の魔物ならば今陸を預かる者達の脅威ではない。
「っ!?」
 真琴が、呻いた。どこからか伸びてきた光の光線に腕を打たれたのだ。正確には狙われたのはセーファスだったが、彼女はそれを庇って。
「あの水際です!」
 ルイスが指し示した方角には、美しい人魚が2体――だが纏っている気は禍々しい。陽魔法を使ってきた事から、ただの人魚ではないと容易に推測できる。
「セーファスの坊ちゃん、ゴーレムの武器にオーラパワーをお願いしやす」
 リカバーポーションを飲み干した真琴がオルトロスへと搭乗する。セーファスは地面に置かれている武器にオーラパワーを施す。
「『バの国のシルバーゴーレムを組み直した騎体。能力的には技術派騎体で、戦技重視の高い運動能力を保持するタイプと判明』ですか」
 ベアトリーセはリザレクトに搭乗しながら呟いた。まだ謎の部分が多いこの機体。
「もしかして、この子はまだ全力を出し切ってない、つまり生まれ変わっていないんじゃないでしょうか」
 だとすれば、私の手で――!
 ベアトリーセの士気が上がる。オーラパワーを施してもらった槍を手に、二体の人魚のいる方へと走る。フラガも真琴も同じく走った。シルビアは己の技量を最大限生かすべく、遠距離からの射撃で人魚を狙う。
 人魚の魔物が何か魔法を唱えようとしている。だがそれよりもフラガの剣がその腕を切りつけるのが早かった。詠唱を中断された人魚は舌打ちをして海に潜ろうとするが、そこをベアトリーセの槍に深々と貫かれる。
「(この子はヴァルキュリア以上に私の力を受け止めてくれている!)」
 リザレクトがどの程度まで操縦者の力を引き出すかはまだ未知の部分だった。だが格闘で言えば全てではないがヴァルキュリアよりはベアトリーセの力を生かし、回避に関していえば殆ど彼女の力を出し切らせているという印象だ。
 爪で反撃しようとする所をルイスと真琴はさらっと避けて、もう1体の人魚に攻撃を叩き込む。他はともかくゴーレムに付与されたオーラパワーの効果は6分。フラガも再びかけなおしてもらっていたから、それが切れるのは他の2体と同じ頃だろう。
「おのれ!」
 ベアトリーセのスマッシュをまともに受けた人魚の魔物が1体消え去ったのを見て、もう1体が呪詛じみた言葉を吐いて水の中へと潜ろうとした。逃亡を図るつもりなのだ。だがそれを許さなかったのがシルビアの矢。
「ぎゃっ!」
 人魚の胴を貫通し、桟橋へと縫い止める。
「遊びはこの辺で終わりにしましょう」
 ルイスが日本刀を振り上げた。



 昼間戦闘があったからといって、夜に襲撃がないとは限らない。夜番の風烈(ea1587)、シュバルツ・バルト(eb4155)、雀尾煉淡(ec0844)、スレイン・イルーザ(eb7880)、クーフスが急ぎ支度を整えてくる。
 シュバルツは煉淡をグライダーの後部座席へ乗せ、警戒に飛び立つ。煉淡はディティクトライフフォースを使用したりして探索に努めた。
 クーフスはリザレクトの側で待機していた。何か起こった時にすぐに搭乗できるようにだ。
「昼間は弱いものが多かったとはいえ、大量のカオスの魔物が出現したという。対処法はさっき教えた通りだ。この武器を貸す。――できるだけ生きて返しにくるように」
「はいっ!」
 武器を受け取った兵士は烈に言葉に深く頭を下げ、持ち場へと戻っていった。その後姿を見てふと手の石の中の蝶へと目をやる。蝶が、羽ばたいてた。
「来るぞ!」
 普段ならば気配を察知したとしても方向がわからない。だが今回ばかりは海側から来る事が明らかだった。クーフスとスレインがゴーレムに搭乗する。スレインは弓を打つためアルメリアを選択していた。

 開戦の合図は――海からの吹雪だった。
 リザレクトとヴァルキュリアは何とかかすり傷程度の被害にとどまったが、アルメリアは少し傷を負っている。烈は成功するまで何度も何度もオーラエリベイションを使用したおかげか、それほどダメージをおわずに済んでいた。
「! 大きい!」
 上空で思わずシュバルツが声を上げた。

 ずざささぁぁぁぁ‥‥

 波を掻き分けるようにして姿を現したのは、全長10メートルはあろうかという大物。人間の上半身と魚のような下半身を持つ怪物じみた魔物だ。
 グライダー上からシュバルツのソニックブーム、煉淡のブラックホーリー、地上からスレインの矢を受けつつも、だんだんと陸との距離を縮めて。

 ごぉぉぉっ!!

 陸に立つ者達を邪魔に感じたのか、高速詠唱で紡ぎだされたのは吹雪。だがアルメリア以外にはあまり効果がないとわかったのか、魔物は陸に上がろうと足をかけた。どうやら二足歩行できるらしい。
 だがこの隙を見逃す冒険者達ではない。ポーションやソルフの実で適宜回復しながら、攻撃の手を激しくしていく。
『騎士殿、感謝する。そして必ず守ろう』
 足元にいるナイトに声をかけたクーフスは、オーラパワーを付与してもらった長柄の武器を拾い上げ、陸に上がろうとする魔物の上半身を薙いだ。
 ぐぎゃぁぁぁっ!
 醜い叫び声が戦場にこだまする。傷を負ったアルメリアの代わりにオルトロスに騎乗したスレインが追いつき、さらに一撃を加える。空からはソニックブームと達人レベルのブラックホーリー。そして烈の爪。
 だが、突然それらの攻撃が効かなくなった。そう、敵が高速詠唱でエボリューションを使用したのだ。
 烈はあらかじめ地面に刺しておいた別の武器に素早く変え、そして攻撃の手を緩めない。
「シュバルツさん、お願いします!」
 煉淡が風音に負けないように怒鳴った。烈が武器を変えたことから敵がエボリューションを発したという事が判ったのだ。
「了解した」
 シュバルツはグライダーの高度を下げ、煉淡の望む魔法の範囲内へ入るように操縦を続ける。
 高速詠唱で魔物に放たれたニュートラルマジック。効いたかどうかは――クーフスの放った攻撃に魔物が醜い叫び声をあげた事で知れた。それを確認してシュバルツは再び高度を上げる。グライダーごと海に叩き落されるわけにはいかなかった。
 魔物は未だ必死に上陸を目指してもがいている。だがクーフスとスレイン、2機のゴーレムによる攻撃、そして空からの攻撃、小回りの効く烈の攻撃を受けてだんだんと弱っているのは誰の目から見ても明らかだった。
 と、魔物が黒い霧を纏い始めた。だが
「本体の力を引き出している今のうちに!」
 烈の声に合わせて一斉に攻撃が繰り出される。

 うがぁぁぁぁっ!

 クーフスの一撃が止めとなった。
 魔物は本体の力を呼び出すことも上陸して猛威を振るう事も叶わず、蓄積したダメージもあってそのまま消え去った。



 こちらの損害はアルメリア1機が半壊。
 借り出したヴァルキュリアとリザレクトに大きな傷が出なかった事にセーファスは胸を撫で下ろす。もしその2機を破壊していたら、もう二度と貸与許可が下りないかもしれないのだ。
「リザレクトを、メイ専用機として生まれ変わらせる事は出来ませんか? ドラグーンは別でしょうが、今あるゴーレムよりも私達の力を引き出してくれると私は感じました」
 ベアトリーセの言葉にセーファスは上申はしてみると約束した。だが工房が他国の真似をしたがるかどうかが問題だということだった。