悪意の残滓〜助けを求める声に
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月29日〜02月03日
リプレイ公開日:2009年02月07日
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●オープニング
●――ジェトにて
首都ジェトスにいつ頃からその悪意が満ち始めていたのか、確実な所は王子マクシミリアン・ルイドにも分からない。だがある日突然、その悪意は彼に牙を向いた。
彼に出来たのは身近な者達がその魔の手にかかる前に、国外へと逃がす事だけだった。
「アルトゥール、この書状をメイディアの冒険者ギルドにいる支倉純也という男に必ず届けてくれ。以前メイに赴いた時に世話になった男だ。身分をしっかり証明すれば力になってくれるはずだ」
マクシミリアンは異変を感じ取ったその夜、急ぎしたためた書状を側近のシフールへと託した。シフールの少年は不安そうな顔をしながら恐る恐る口を開く。
「王子、王子も後から絶対いらっしゃるんですよね?」
「メイの国までは遠い。海を渡らなくてはならない。大変な旅だが、そなたにしか頼めぬ。行ってくれるか?」
アルトゥールの質問には応えず、マクシミリアンは真剣な瞳を向けた。
「‥‥分かりました。命に代えましてもこの書状、メイディアに届けてみせます!」
「王子、じぃは、じぃは参りませんぞ! 王子のお側に、お側に!!」
「静かに。見つかってしまうぞ」
ジェトスの港。闇に紛れた帆船には城に住まう女子供、老人が乗せられていた。一様に不安そうな表情をしている。王子の命とはいえ、突然海を渡って他国へ行けと言われれば、不安にもなる。しかも詳しい事情を説明している暇がないというほど事態は切迫しているのだというのだから――。
「クレメンス、私は大丈夫だ。そなただから頼むのだ。彼らを守り、無事にメイディアへ辿りついて欲しい」
「王子、ですが‥‥王子!」
マクシミリアンの幼少の頃から仕えてきた彼は、幾ら王子の命令とて王子の側を離れるのは――。
「頼む」
だがその真摯な瞳を正面から受けて、クレメンスは押し黙る。この王子が民達を置いて自ら逃げ出す事などしない性格なのは、彼が一番良く分かっている。
「‥‥わかりました。このじいめが命に代えてでも船をメイディアまで守り、助けを呼んでまいりましょうぞ! 万が一の際は、アミュートを使って戦いますぞ!」
マクシミリアンが頷いたのをみて、クレメンスは船に乗り込んだ。静かに帆船はジェトスの港を出発。王子はわずかばかりの信頼できる側近と共にその光景を見守り――そして。
「船が距離を稼ぐまでの間、バの兵士達の注意を引く。手伝ってくれるか?」
――王子に固い忠誠を誓う側近達は、膝を突いて頭を垂れた。
●――海路にて
ジェトスを出て数日。ジェトよりもメイが近くなった辺りで船乗りが異変に気がついた。後方に3隻ほどの帆船が見えるのだ。こちらを追尾してきているように見える。
「なんと! 敵が追いかけて来たに違いない。くっ‥‥相手がゴーレムシップでない以上、差はあまり縮まらぬだろうが、このまま我々の船をメイに辿りつかせないつもりじゃな」
クレメンスは爪を噛み、眉をしかめる。
「こちらの乗組員は老人と女子供ばかり。非戦闘員がほとんどじゃ‥‥。速度を上げることは出来ぬのか!」
「無理です、これ以上は!」
「ぬぅ‥‥」
船乗りの言葉に、一層眉をしかめるクレメンス。このまま無事にメイディアへ到着できるのだろうか――。
●――メイにて
ぼろぼろのシフールが一枚の書状を手にギルドへ飛び込んできたのは一時間ほど前のこと。
支倉純也はその書状についていた蝋の封がジェトの王家ルイド家のものだと即座に判断、そしてシフールの身元を確認後、書状を開いた。それは以前護衛した事のある王子マクシミリアンからのものだった。
ゆっくりと事情を説明している暇がないのが惜しい。
この書状が届いた後に、わが国から老人と女子供を乗せた船がメイディア着くだろう。いや、無事につけるかは分からない。恐らくバから追っ手が出るはずだ。
詳しく説明している暇がないが、わが国はバに侵略されつつある。取り急ぎ城内の、私の手の届く範囲の者達を逃がす。だがすぐにバの追っ手が彼らを狙うだろう。どうか、彼らを助け、受け入れて欲しい。
私の信頼するクレメンスという老人が彼らの代表だ。彼は全ての事情を知っている。
どうか、彼らを救い、わが国に力を貸して欲しい。
書状の内容をかいつまめば、そのようなものだった。
一国の王子が隣国に助けを求めねばならぬほどの事態だということは、純也も理解が出来た。だがバがジェトへ侵攻? おととしの年末、ジェトはメイとバの停戦条約を仲介した国である。バともそれなりに友好な関係を保っていたはずだが、一体何が起こったのだろうか。
「ジェトから来るという彼らを助ければ、何か分かるかもしれませんね」
だが正確な情報がない手前、国が表立って動く事は出来ない。故に冒険者ギルドが動くことになる。
「冒険者を募ります!」
急を要すると判断した純也は、いつもなら上げぬ大きな声でギルドの中へと進み出た。
●――海戦
「今回はジェトからこちらへ向かっている帆船を保護し、彼らを追ってきていると思われるバの船を撃退、もしくは殲滅してください」
国が支援して用意してくれたゴーレムシップは5隻。うち3隻は大弩弓、2隻は大弩弓と精霊砲が積まれている。
救助、出撃用の小船も用意されているので有効に使って欲しい。
船と船の間に板を渡して相手の船に乗り移ることもできる。
シップの操縦はできる者がいなければ専属の船員が指示に従って動いてくれる。
「作戦はお任せします。ジェトからの船がバにやられぬように、しっかりと守ってください」
帆船に比べればゴーレムシップの速度は比べ物にならない。急げば間に合うはずだ。
ジェトからの船を助ければ、より詳しい情報が手に入るだろう。
健闘を祈る。
●イメージ図
港
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〜…海
●…メイのゴーレムシップ
★…ジェトからの帆船
◆…バの帆船
●リプレイ本文
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グライダーを使ってジェトの帆船を早期発見した後は、ゴーレムシップでによってすぐにその距離は縮まった。
ゴーレムシップを操るシファ・ジェンマ(ec4322)は船体をジェトの帆船に近づけ、仲間が乗り移りやすくする。ルイス・マリスカル(ea3063)が帆船に飛び移ると、船上の船員達は怯えの中にどこか期待の篭った瞳を向けてきた。
「メイから参りました」
ルイスがはっきりとした声色で告げると船員達は安心した表情を見せ、一人が急いで船室へと向かう。
「今、クレメンス様を呼んで来ます!」
「その間に船内の警戒をさせてください」
ルイスは不思議な水瓶に水を入れ、船員を追って船室へと向かった。
その間に残りの4隻は、ジェトの帆船とバの帆船の間に割り込む様に移動した。帆船とゴーレムシップでは移動速度が大分違う。間に入るのは意外なほど簡単だった。
「一応反応はないけれど‥‥」
手にした龍晶球を見つめて布津香哉(eb8378)が呟いた。その間に精霊砲の発射準備が整う。その間にアリオス・エルスリード(ea0439)の乗っているゴーレムシップが大弩弓を放った。
ガツガスガツッ‥‥
放たれた矢が帆や甲板に突き刺さる音が響いてくる。追う様にして残りの2隻も大弩弓を放つ。
「(相手より数が多くて機動力に勝っているならそもそもまともに相手をする必要もない。相手の搭載兵器の死角に回り込んで一方的に攻撃を仕掛けていれば終わってしまう)」
それでもバが追ってくる理由は何だ? アリオスは考える。
「よし、撃て!」
ドガーンッ‥‥バリバリバリ‥‥
香哉が指揮した船の精霊砲が炸裂した。その衝撃でバの帆船が揺らぐ。
「(しかしバにもゴーレムシップはありますよね。なぜ帆船なのでしょう)」
グライダーで上空からマストを傷つけていくベアトリーセ・メーベルト(ec1201)は考える。甲板上のバの兵士が弓でグライダーを狙ってきたが、当たるようなヘマはしない。
「(正規軍‥‥なのかな?)」
マストや帆を攻撃してから上空へと戻り、矢を避ける。それを繰り返しながらフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)は船の様子を伺っていた。兵士達は皆武装はしているが、その格好は様々だ。
「ロンロンちゃん、どう思います?」
「正規軍じゃないみたい。というか、船はジェトの物みたいだよ? ゴーレムシップを使っていないし、もしかしたら予想外の出撃なのかもしれないね!」
ベアトリーセの問いにフィオレンティナも風に負けじと大声で答える。
予想外の出撃で軍備が整わなかった――単純だが、ありえないことではない。もし本当にそうだとしたら、ジェトからの帆船出航はバにとって予想外であり、見過ごすことが出来ない事態だという事だ。
「(寄せ集めの兵のようにも見えるが)」
ウィングシールドの力を使って敵船に乗り移った風烈(ea1587)は、まず近くにあった舵を破壊し、群れてくる敵達の攻撃をかわしながら観察をした。もしかして戦争を再開するきっかけを狙っているのかもしれない、そう思ったからだ。
「指揮官は!?」
寄せられたゴーレムシップから飛び移ったファング・ダイモス(ea7482)は、ゴーレムや大型恐獣の存在を気にかけながらテンペストを振るう。数ではバが勝っている。だが質で言えば彼らは遠く及ばない。
「!」
敵の苦し紛れの大弩弓攻撃に、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が素早くホーリーフィールドを張る。直後、その弓をファングがガツッと破壊したのが見えた。
バ船団が壊滅しようとも有利な宣戦布告のために
たとえ宣戦布告なぞできなくとも残らず処理し、ジェトへメイが介入できないように
可能であれば何がおきているかをメイに悟らせもせずに全てを闇の中へ
フィリッパの言葉が一同の頭の中を去来する。
だから、一番後ろにいる帆船からグライダーが出撃しようとしていることに、ベアトリーセとフィオレンティナが気づいた。そちらへ向けて、速度を上げる。
バの帆船は大弩弓や精霊砲、そして冒険者達の攻撃で帆をやられてマストや舵を壊され、すぐに航行不能に陥った。その状態でグライダーが出てくるとすれば、戦いの為ではなく――
「「本国に『メイにやられた』ということを伝える為!!」」
ベアトリーセとフィオレンティナが一気に敵グライダーとの距離を縮める。案の定、敵は二人に背を向ける形で飛び立っていた。背後からならばそうそう攻撃を避けられまい。
飛び立った一機は――海へと落ちて沈黙した。
襲い来るバの兵士全てを捕らえるわけにも行かず、敵船に乗り込んだファングや烈はフィリッパ、アリオス、香哉の手を借りて首領格と思われる者だけを捕獲した。回り込んだゴーレムシップに各船に一人ずつ乗っていた指揮官らしき男を乗せる。生きた兵士も運び込んだが、恐らく一般兵からは何も聞き出せないだろう。
「寄せ集めの兵って感じだな」
「それにやはり驚くほどあっけない。力の差は歴然だ」
香哉とアリオスが呟く。帆船対ゴーレムシップの戦いなど、初めから結果が目に見えている。
「メイに近づけば、メイから救援が出ることは想像できたはずだ。それでも追わなければならない事情が、彼らにはあったということか」
「ジェトの船は、もうすぐメイに着くんじゃないかな」
「私達も急いで戻り、事情を聞きましょう」
グライダーから降り立ったフィオレンティナとベアトリーセが告げる。
「では、急いで戻りましょう」
フィリッパの言葉に、皆が頷いた。
ジェトの船で何も起こっていなければ――無事に到着しているはずである。
●
ピン、と空気が張り詰めていた。
ルイスの手にした不思議な水瓶が甲高い音を奏でている。
「船を戻しなさい。このじいさんを殺されたくなければね」
「――‥‥」
クレメンスの船室。彼を呼びに行った兵士の後を追うと水瓶が反応した。思い切って扉を開けると、一人の老人が首元にナイフを突きつけられていたのである。
ルイスは一瞬考えた。どう答えるべきか。クレメンスはきっと戦えぬ老人だろう。だとすれば下手に動いて傷つけつせるわけにも行かない。
「‥‥クレメンス様が敵の気を引きます。その隙にあの女を何とかしてもらえますか?」
一緒に来た船員がルイスの背後から小声で囁いた。良く見るとクレメンスが一生懸命ウィンクをしている。顔は涼しい顔だ。ちっとも焦った様子は無い。
「(今は、信じるしかないでしょうか)」
この船員が女と共謀している可能性が無いとはいえない。だがジェトの人達についてはまだよく知らないことが多い。だとすれば信じるしかないだろう。
「わかりました」
船員に対する承諾の意味を込めてルイスが吐き出す。それを自分への承諾だと取った女は満足気に頷き――それを聞いたクレメンスは大きく息を吸い込んで――
「わしの可愛いマクシミリアンおうじぃぃぃぃぃぃぃ!」
叫んだ。叫んだ。叫んだ。
女が、ルイスが突然の事にびくっと反応して――その間に、クレメンスの身体が鎧の様なものに包まれていく。
「お願いしますっ」
一瞬あっけにとられていたルイスの背を船員が押した。彼は我に返って部屋の中に突入。刃物が握られている女性の腕を捻り上げた。
「くぅっ‥‥! まさかアミュートを‥‥」
「ただのジジイだと思うことなかれ。退役したとてわしはまだ王子への愛は薄れておらん!」
「‥‥‥えぇと」
さてどこから突っ込んだらいいのだろう、ルイスが迷っている間に女性はガツッと奥歯をかみ合わせた。途端、彼の腕にかかる荷重が増える。――奥歯に仕込んだ毒を含んだのだ。元々任務に失敗した時は自ら命を絶つようにと仕込まれていたのだろう。
「‥‥。メイから助けに来ました。とりあえずご無事なようですし、他に敵意を持つ者がいないか、共に船内を探索してもらえますか?」
「うむ。よろしく頼む」
クレメンスは全身鎧に包まれたまま、鷹揚に頷いた。
●
「ようこそメイへ。歓迎します」
「いやはや、無事に着けて何よりじゃ」
烈を初めとする冒険者一同に出迎えられて、クレメンスは安堵したように息をついた。もうアミュートと呼ばれる全身鎧はしまいこんだようだ。
「少しですが、栄養補給になれば」
シファは船から下りる女子供達に岩塩と蜂蜜を溶かした飲料を配っていた。
「カオスの魔物の気配は無いみたいだけど」
香哉は龍晶球の様子を見ながら考える。バが絡むと大切な人の悲しい顔を思い出すから嫌だ。
「一体何が起こっているのか‥‥話してもらえるな?」
「勿論じゃとも! じゃが助けが来たということは王子からの書状は、アルトゥールは無事に着いたのじゃろう?」
「シフールの方ならば、今はギルドで保護されているはずです」
アリオスの問いに答えたクレメンスは、ルイスに言われて安心したように頷いて。
「カオス、または親バ派の大貴族にジェトが乗っ取られたとか、バの奇襲で敗北したなど色々と考えられますが、真実を教えてください」
フィリッパの言葉にびく、とクレメンスは反応を見せた。
「話せば長くなるのじゃがな‥‥第一王子じゃと思われていたマクシミリアン王子に、兄上が見つかったのじゃ」
「マクシミリアン王子はジェトの第一王子ということで、以前メイの酒場でお会いしたことがあります。彼が本当は第一王子じゃなかったということですか?」
ベアトリーセは驚きを隠せない。だがクレメンスはいや、と首を振って。
「わしは信じておらん。仮死状態で生まれたので20歳になるまで死んだものとして隠して育ててきたと王は言ったが、長年王家に使えているわしにも知らされぬなどおかしい!」
「ちょっと待って。順番に話して。本当にそれが始まり?」
王子の事になると興奮するのだろうか、クレメンスの背中を撫でながらフィオレンティナが尋ねた。
「わからん‥‥。エアハルトと名乗った新第一王子はのぅ、竜を連れて来たのじゃ。竜に祝福された王子ということで、国民達の話題を一気に掻っ攫って行った。マクシミリアン王子は清廉潔白で自他共に厳しいお方じゃ。その性格を嫌う者達は即座にエアハルト王子派へと変わった。マクシミリアン王子に王位継承権の移動が告げられた時、王を初めとする重鎮達は、全員一致でエアハルト王子を王位継承者にすると決定していたという」
「バの帆船に追われていた理由は何ですか? ジェトはバと同盟を結んでいたのでは?」
ファングの言葉にクレメンスは溜息をついた。そして近くにあった木箱へと腰を下ろした。
「バが休戦協定を破ってメイに侵攻したという情報を得てのぅ、マクシミリアン王子は王に請うたのじゃ。真相を確かめるためにバに使者を出すことを。新王子はバに気に入られているようでの、恐らくマクシミリアン王子を邪魔に思い、そして王子に味方する我々も邪魔になったのじゃ。王子曰く――王子が乱心したという名目で、王子に仕える我々も殺す計画があったようじゃ」
「情報を整理しよう」
考えるようにしていたアリオスが口を開いた。
休戦協定を破ってメイに侵攻した事実が真実なのか確かめる為に、マクシミリアン王子がバに使者を送るように王へ進言。
仮死状態で生まれたので20歳になるまで死んだものとして隠して育てられてきた王子、エアハルトが第一王子として突如出現。竜を連れてきたため、竜に祝福された王子として国民の話題を攫う。
反マクシミリアン派の者達だけでなく、中立や親マクシミリアン派だった者達まで、エアハルト王子の後継者就任を快諾。マクシミリアン王子には決定後に知らされた。
マクシミリアン王子を邪魔に思ったエアハルト王子達は、マクシミリアン王子の乱心という筋書きを用意し、王子だけでなく側に仕えて靡かぬ親マクシミリアン派の者達を一斉に始末することを考えた。
その計画にいち早く気づいたマクシミリアン王子は、身近な者達を帆船に乗せて逃がす。バは予定外の出来事に、兵を寄せ集めてジェトの帆船で後を追わせた。
「どう考えても一番怪しいのは、そのエアハルト王子ですね」
細く溜息をついたフィリッパに次いで、烈が口を開く。
「マクシミリアン王子はなぜ一緒に逃げてこなかったんだ?」
マクシミリアン王子はバとの和平を仲介してくれたという恩がある。出来ることなら彼を助けたい。だが、王子はここにはいない――。
「王子は、民達を見捨てて逃げる事など出来ないお方じゃ。わしが何度言っても王子は残ると決めて動かんかった。じゃから、わしが代わりにこうしてメイまで助けを呼びに来たのじゃ」
「王子、無事だといいな」
「無事じゃ、無事じゃとも!」
ぽつり、香哉の口から呟かれた言葉にクレメンスは過剰なまでに反応して。
「わしの可愛い‥‥もご」
ルイスが後ろからクレメンスの口を塞ぐ。ここでまたあの鎧を出されたら、目立ってしまう。ただでさえジェトの船が着いて何事かと港は騒がしいのだから。
「そうだね、無事だよ、きっと!」
何の確証も無いけれど、周りが敵ばかりになったとしたら、どのくらいマクシミリアン王子に勝機があるのかわからないけれど、けれどもフィオレンティナは前向きに考える。
「ジェトの国の首都、ジェトスは確か大陸の北、一番メイに近いところにありましたよね」
シファは頭の中に地図を広げる。
「ジェトスにいられなくなって、海へも逃げないとしたら、王子は内陸に逃げるしかないのですよね」
ベアトリーセの言葉にクレメンスは頷いた。落ち着いたとみなしてルイスが手を離す。
「しかし気になります。そのエアハルトという王子とバの国が、ただ親密なだけならいいのですが」
ファングの心配――元々ジェトとバは隣国であり同盟を結んでいる。故にエアハルト王子がバという後ろ盾を得ただけなら、また対応のしようがあるかもしれない。
だが、もしそうではなかったら?
「――もっと根の深い問題だったら?」
ぽつり、呟いた香哉の側に、不安そうにルゥチェーイが寄り添った。
例えば――ジェトの国が、カオスの魔物に侵食されているとか――?