【風霊祭】風の導きたる菩提樹の地に

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月10日〜02月15日

リプレイ公開日:2009年02月18日

●オープニング

 2月――この時期は一番気温が下がる季節だ。しかしこの寒さを乗り切れば暖かい春は目前。
 2月は各地で風霊祭が行われる。その祭りの方法は各地で違うが、風を祀るという趣旨は同じだ。

 リンデン侯爵領のとある町では一風変わった風霊祭を執り行っていた。一説にはジ・アース側の天界の『バレンタイン』なるイベントがこの月にあるからそれにあやかって、ともいわれているが定かではない。
 主都から離れているとはいえ一風変わったここの祭りはリンデン侯爵領ではそれなりに有名であり、客足もそれなりに見込めるものだ。昨年ご招待と称して冒険者達を募ったのも良かったのだろう。

 ちなみにこの町の風霊祭でのメインイベントは『風の導き』と呼ばれるものだ。
 これは広場で行われるダンスの相手を探すためのイベントである。
 女性が髪に長いリボンを結ぶ。この時蝶結びにするのだが、輪っかの部分は小さくして下に垂らす部分は長く残すのだ。これでリボンは女性が動くたびにひらひらと風に乗って遊ぶ。
 男性は右手首にリボンを結んで広場や街中を歩く。すると街中にはダンスパートナーを求める女性達のリボンが風に乗ってひらひらと泳いでいるのだ。男性はその日初めて偶然手に触れたリボンを結っている女性をダンスパートナーに誘う。風に導かれた相手を。
 ダンスパートナーが決まったら女性は髪に結んだリボンを解き、男性の首元に結ぶ。男性は手首のリボンを解き、女性の手首に結ぶ。これでパートナー成立だ。

 元からダンスの相手が決まっている場合は最初からリボンを交換した状態でカップルは町へと繰り出す。元からダンスイベントに興味のない場合はリボンをつけない状態でいるか、相手もちを装って手首や首元にリボンを結んでおけばいい。
 このダンスパートナーは基本的にダンスイベント限りのものだが、相手を気に入ればダンスの後に祭り会場巡りに誘ったり誘われたりがあるのは言うまでもない。

 祭り期間中は食堂も開放され、食べ物に限らず色々な屋台なども並ぶ。街中全てが風を祀り、風のもたらす恵みに感謝をする。町を上げてのお祭りムードである。
 皆も寒さなど吹き飛んでしまうほどに盛り上がり、楽しむという。
 メインは『風の導き』とダンスになるが、これは元からパートナーを決めておくもよし、当日の偶然に期待するもよし、参加は強制ではないのでそれ以外に興味がある場合はそちらにいくのも良い。ちなみに使用するリボンは当日会場でもらえる。
 他には食べ物や小物などの屋台を眺めるのもよし、飲み食いしながらダンスを見てカップルを冷やかすもよし、腕に自身のある者はダンスミュージックの演奏に加わるのも良いだろう。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 風霊祭――それは二月のお祭。
 場所で違いはあるものの、風の恵みに感謝するお祭。
 今回向かうのはリンデン侯爵領にあるとある町。風の導きという独特の催しをやっている。


「えーと‥‥ま、マリスカル夫人、とよべばいいのかな?」
「ほぇ?」
 行きのゴーレムシップの中をうろうろしていたミレイアを呼び止めたのはキース・レッド(ea3475)。意外な人からの意外な呼ばれ方に彼女が驚いていると、後方から足音が。
「うちの妻が何かいたしましたか?」
「ああ、ルイス君」
 さらりと『妻』とか言いながらルイス・マリスカル(ea3063)がミレイアの肩を抱く。キースは恥ずかしそうに口を開いた。
「君の実家で自慢にしている焼き菓子、あれを教えて欲しいんだ。いやね、天界のバレンタインという行事があるのは知ってるだろう? 本来は女性が意中の男性に菓子を贈るんだが、確か逆もあるらしいんだ。‥‥本当は、彼女がバレンタインを知っているかどうか、怖くて聞けなかったんだよ。知っててもらえなかったら、どうしようってね」
 一気にまくし立てたキースは言葉を切り。
「で、営業後でいいから祭りの前日に君の実家の厨房を借りたいんだ。もちろん、材料は全部僕が自費で払う。手作りが大事さ、そういう事で」
「それは無理」
 ミレイアは即答。だって、今はゴーレムシップの中。祭りの前日は例の町に泊まる事になるだろう。つまりどうあったって祭りの前日にミレイアの家でお菓子を作成するのは無理なのだ。
「キース、きちんと依頼内容読んだ? リンデンでのお祭ってことは移動も入るんだよ。メイディアでの依頼なら問題ないけど」
「いや、面目ない」
「ミレイア、ゴーレムシップには台所もあるようですし、キースさんは材料を持っていらしたようですから、そこで教えてあげればどうでしょう? 着いた町ではさすがに出店も出るので、場所を借りて作るのは好まれないと思いますから」
 ルイスがなんとかとりなして、ミレイアは仕方ないなぁと承諾。
「すまない。奥方を暫く借りるよ」
 当のミレイアは折角二人っきりになれるところだったのにと思っているだろうが、こっそり耳元で「ミレイアの御菓子、期待してますよ」と言われてしまえば頑張ろうという気分になる。ルイスはさすがにミレイアの操縦方法になれていた。



「今年も無事に風霊祭が出来るみたいでよかった」
 騒がしい町の入口を見渡して、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は考えに耽る。
「去年、楽しかったよね〜」
 チュールが言えば、そうそう、とレフェツィアも頷いてリボンを受け取る。そして髪に結べば完成。
「あ〜あたしのも結んで〜!」
 リボンに巻かれたチュールを助け、レフェツィアは器用に彼女のしたくも整えてあげた。そして二人して出店へと繰り出す。
「美味しいもの沢山食べようね♪」
 今回同行した冒険者の男性は皆異性同伴のため、現地で異性を探すしかあるまい。それには町の中を歩き回って風の導く相手を見つけることが肝心だ。


「ディアネイラ、こっちこっち」
 人見知りの人魚ディアネイラは人出の多さに若干面食らっているようだったが、しっかりと握られた布津香哉(eb8378)の暖かい手に安心する。
「俺は去年一人身で参加したんだ。今回はディアネイラと一緒に参加できるな」
 翡翠のリボンとレインボーリボン、どっちがいいと聞かれて彼女が選択したのは翡翠のリボン。これはクラウジウス島で、唯一彼女と香哉を繋ぐ導だったから。
「よし。痛くない?」
「はい」
 ディアネイラの手首にリボンを結んだ香哉は、彼女が背伸びして自分の首にレインボーリボンをかけるのを見ている。ふわっと揺れた髪から、潮の香りではなくなんだか甘い香りがして、思わず抱きしめたくなる。
「(そういや、この祭りがあったから俺あの依頼に参加したんだよな。それで初めてディアネイラに会ったんだよな。懐かしいな)」
 それこそが本当の風の導きだったかもしれない、そんな事を思って。
「できました」
「じゃあ次はルゥとナヴァにも‥‥ディアネイラ?」
 大人しくしている水の精霊ルゥチェーイと少し元気な月の精霊ナヴァルーニィ。二人にリボンをつけていく香哉を、ディアネイラはじっと見つめて。
「ディアネイラはやきもち焼いていたけど、ルーって娘みたいにしか感じないんだよな。‥‥‥それに俺の一番はディアネイラだし」
 面と向かって言うのは恥ずかしいので、ルゥにリボンを結びながら零す香哉。
「娘‥‥そうですね。私たちの、娘‥‥」
 ディアネイラは何かに気づいたのだろう、ルゥを温かい瞳で見つめて。
 人間と人魚の間では子供を設けることは出来ない。だとしたら、ルゥが自分達の子供なのだ。
「さ、何を見て回ろうか?」
 さりげなく差し出された手に思い切って飛びつくようにして、ディアネイラは香哉の腕をぎゅっと抱きしめた。


「踊ろう、エリィ。久々のデートだ」
 差し出された手を取り、エリヴィラは壇上に上がる。キースは首元に、エリヴィラは手首にしっかりリボンを結んでいた。
 楽隊が音楽を演奏している。それにあわせて歌いだしたくなるのをこらえてエリヴィラはステップを踏み始めた。ここで歌って精霊招きの歌姫だと正体がばれたら大騒ぎである。
「僕は家族を不幸で失った」
 踊りながら、キースは音楽の邪魔にならない程度の小声でポツリポツリと語り始める。
「だから、僕は家庭を持つことを強く望んでいる。さすがに子供の名前まで考えていたのは行きすぎだったけどね」
 苦笑を浮かべ、エリヴィラの反応を待つキース。一人で突っ走りすぎたと反省している、と。
「もちろん、君の気持の整理もあるだろうさ。だから、僕は待つよ」
 そっと、キースの手がエリヴィラの頬に触れる。
「僕の寿命は、君の半分だ。それでも、僕は君と添い遂げたい。君の笑顔を、ずっと…側で見守っていたい」
 たくさんの人の中、時が止まったような二人。
 だがエリヴィラは返事をする代わりに、瞳を閉じて彼の唇を受け入れた。


「これって恋人達のお祭だよね? えへへ、うれしいなぁ」
 喜びながらミレイアは係の者から受け取ったリボンを髪に結ぼうとする。ルイスはそれを止めて、自分の方の短いリボンを彼女の手首に結んであげた。
「相手が決まっている場合は、こうするのですよ」
 そして自分が首元にかける分は――
「ちょっと屈んでくれる?」
 ミレイアが抱きつくようにしてルイスの首にリボンを通し、そして首元で緩く結ぶ。
「ありがとうございま‥‥」

 ちゅっ♪

 どうやらどさくさに紛れてのキスはお礼代わりのようである。

 少しばかりミレイアと踊ったルイスは、彼女に事情を告げて地元の楽団に加わった。祭り用の曲を教えてもらい、演奏に入るのだという。
 今までのミレイアだったら派手に拗ねそうだが、今の彼女は違う。近くに用意された椅子で、彼が楽器を奏でるのを幸せそうに見守っていた。
「う〜ん、今年もだめかぁ」
 そんな彼女の肩にふと止まったのは、チュール。あれ、レフェツィアと一緒にいたはずだけど?
「あっち」
 彼女の示すほうを見れば、レフェツィアは町の男性だと思われる結構カッコイイ男性と踊っていた。ダンスは苦手だといっていた彼女だったが、相手のリードがいいのか舞台でも注目を集めている。
「よ、チュールはいい人見つかったのか?」
「ご覧の通りー」
 香哉に声をかけられて、ぷーと膨れるチュール。
「やっぱり色気より食い気だよな」
「香哉さん‥‥それは失礼なのでは」
 香哉としっかり手を繋いだディアネイラは、ファー・マフラーを首に巻いて暖かそうにしながらも、表情は笑っている。
「もう、屋台もう一回りしてこようっと!」
「あれ、怒らせちゃったかな?」
 ふわり、拗ねたチュールは屋台街へと消えていく。大丈夫、ちょっと拗ねただけだから美味しいものでも食べれば機嫌直るから。


 美味しいものといえばゴーレムシップの中で焼いた焼き菓子。ダンスが一段落した後飲み物を買ってきてキースはエリヴィラに手渡す。
「‥‥これは?」
「バレンタインのお菓子のつもりさ。本来は男性が女性に渡すものらしいけど、逆もあるっていうから」
「あ‥‥」
 そう言われてエリヴィラは、二月がそういう季節だと思い出す。
「でも、私まだ何も用意していなくて‥‥」
「いや、いいんだ、受け取ってくれば」
 彼女がバレンタインを知らなかったわけではないとわかってまあ一安心。
 ぱり‥‥
 小さな唇で焼き菓子を割る彼女。その表情が笑顔に変わって「美味しい」という言葉が出れば、これ以上ない喜びだ。



 ルイスが演奏を終えて辺りを見渡してみれば、ミレイアはどこかに遊びに行ってしまったということなくきちんとルイスを待っていた。
「お待たせしました。大事な相談があるので、場所を変えましょう」
「相談?」
 首を傾げるミレイアをエスコートし、すし詰め状態の道を抜ける為には彼女を庇い、そして彼が選んだのは一軒の喫茶店。祭りの間は屋台の食べ物持込OKだということで、買い込んだ食べ物をテーブルにおいて飲み物を注文する。
 やはり店の外の方がにぎやかで、店内は客がまばらだった。二人が座った席は奥の方のあまり人目に触れぬ位置。
 一体ルイスの話とはなんだろう――首を傾げるミレイアに、ルイスは真剣な表情で。
「結婚式を挙げたいとおっしゃっていましたが」
「あ‥‥そのことかぁ」
 もっと重大な事かと思っていた。それにその提案は却下される事前提で言ってみただけ。女の子の憧れとして、やっぱり、と思わなくもないけど我侭はいえない、とミレイアは思っている。
「私としては、故国にはアラビア教徒もいたこともあり、主は信じつつも、信仰を他に強要するものではないと思っております。神を奉じぬアトランティスで、教会での挙式にこだわらないつもりですが、こちらの慣習はまだ判らぬところが多く。また、祝い事はミレイアの得意とするところ。ミレイアの希望をお聞きしたいです」
「え」
 何かの冗談かな、そう思って固まるミレイアだったが、ルイスの表情はいたって真剣だ。
「(本当に希望を言っていいのかな)」
 考えるように視線をさまよわせるミレイアの手に、ルイスは自分の手を重ねて。
「以前のような見守る関係ではなく、これからは互いに頼り、協力しあう伴侶としてみています。その点について、ミレイアに自信を持っていただきたいですね」
「本当に、いいの?」
「あまりとっぴな事は出来ないかもしれませんが、できる範囲で叶えましょう」
「じゃあね」
 顔の前で手を合わせるようにして照れた表情をしつつ、ミレイアは口を開いた。
「皆に祝福されて結婚式を挙げたいの。時期はいつでもいいから」
 アトランティスではまだ教会式の結婚式は殆ど普及していない。結婚式といえば人前式が主だ。ミレイアはその式で、色々な人に祝福されたい、そう望んでいるという。少女としては当然の如く持つ夢だろう。
「大きな式でなくてもいいの。でもドレスを着て、竜と精霊様に誓って、誓いのキスをして、それでルイスのお家にお嫁に行きたい」
 本当なら、今すぐにでもルイスのお家に押しかけたいのだけど。その言葉を聞いて、遠き日、初めて彼女に出会った時のことを思い出すルイス。
 あの時から彼女は大分成長した。自分はずっと彼女を見守り、育ててきたつもりだった。大切に育んだ彼女という花が、今は自分の両腕の中にある。その花はただ守られているだけでなく、彼の事を支えてもくれるだろう。
「分かりました。メイディアに帰ったら、式を考えてみましょう」
 すぐにでも家に来たいというのにそれをしないのは、やはり結婚式という節目を超えてからと考えている故だろう。大きくなったものだな、と感じつつ、これからもその花を大切に育てていくことを心の中で誓うルイスであった。



 風は導く。
 出会いを、恋を、心を。
 この祭りで縁を強固にした恋人達に、幸あれ――。