【バレンタイン】美味しい私――君を包んで

■イベントシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月13日〜02月13日

リプレイ公開日:2009年02月21日

●オープニング

 二月。
 ジ・アースでも地球でも、バレンタインというイベントがあるという。
 地球では広く感謝を込めてプレゼントを贈る日というところが多いが、中でも日本という国はちょっと異質で。
 チョコレートという甘いお菓子を送るらしい。それも女性から男性へ。最近こちらへ来た日本人は「逆チョコ」なんて言葉も口にしていたけれど。
「チョコレートって、たまに地球から落ちてくるアレだよね〜?」
「そうですね」
 ミレイアの言葉に支倉純也は頷いて。昨年は不発に終わったが、今年は人が集まるといいなと思って二人してバレンタイン会議。
 アトランティスにはその原料となるカカオは存在していないが、たまに地球から来落してくるものがある。それを集めて溶かして、任意の形に固め直せばプレゼントに出来るのではないか。
「普通にお菓子でいいなら、蜂蜜たっぷり使ってあまーいの作るのもいいよねぇ」
「男性でも参加しやすい方がいいですよね。蓮さんがリボンの染色を教えてくださると言ってましたが‥‥」
 勿論石月蓮がただ働きするはずはなく。染色したリボンに自作の香水をつけて贈るという行為を定着させるべく、動いているのだろう。
 そうして今年も会場はミレイアの実家が貸切になって開催される。
 女性はハート型チョコレートとはちみつマドレーヌの作成。
 男性はリボンを赤く染める、染色教室。
 どちらも終わった後は皆でマドレーヌを頂くお茶会が開かれる。
「染色は結構力仕事なんですよね。染料の元になる草花を運んだり、布をぎゅって絞って漉したり」
 純也がその光景を思い浮かべる。
「水も冷たいから大変かも。でもそうやって一生懸命作ってくれたものをもらえるなら、嬉しいと思う」
「それは男性の側にもいえますね」
 くす、ミレイアと純也は笑いあった。


●蓮の香水販売
・パフュームofリンデン(1G)
 天界(地球)の技術を利用し、リンデンブロッサム(菩提樹)とライラックのエキスをアルコールに溶かし込んだ香水。フローラルでリラックス効果のある香りに仕上がっている。

・パフュームofフローラル(1G)
 天界(地球)の技術を利用し、ラベンダー、アニス、バラのエキスをアルコールに溶かし込んだ香水。甘く、ライトな香りが魅力を引き立てます。

・パフュームofフレッシュ(1G)
 天界(地球)の技術を利用し、ベルガモット、フリージア、コリアンダーのエキスをアルコールに溶かし込んだ香水。甘く、スパイシーでフレッシュな香りは男性にも向いています。

・パフュームofクリスマスブーケ(2G)
 天界(地球)の技術を利用し、ジャスミン、ジョンキル、ミモザ、ナルキサスのエキスをアルコールに溶かし込んだ香水。花束をイメージしたロマンティックな香りが魅力を引き立てます。

・パフュームofファーストラヴ(2G)
 天界(地球)の技術を利用し、キャロット、イリス、クラリセージ、ベルベナのエキスをアルコールに溶かし込んだ香水。甘さの中に潜む微かに甘酸っぱい香りが想いをかきたてます。

※購入希望者は当日欲しいものと個数を蓮に申請のこと

●今回の参加者

ルイス・マリスカル(ea3063)/ 利賀桐 真琴(ea3625)/ レインフォルス・フォルナード(ea7641)/ 布津 香哉(eb8378)/ 村雨 紫狼(ec5159)/ 鷹栖 冴子(ec5196

●リプレイ本文


 二月のある日、冒険者達はメイディアの冒険者街の近くにある食堂兼酒場へと集まっていた。小さな規模ではあるが、バレンタインの催しを開く為である。
「じゃ、男はこっち」
 石月蓮に促され、男性陣参加者であるルイス・マリスカル(ea3063)、布津香哉(eb8378)、村雨紫狼(ec5159)、そして呼ばれたセーファス・レイ・リンデンが店の裏手へと向かう。
「え‥‥あ、セーファスの坊ちゃんも染物をなさるので?」
 彼を呼んだ張本人である利賀桐真琴(ea3625)が慌てて追いかけると、セーファスは上着を脱いでブラウスの袖をまくって。
「折角なのですから、何事も経験と思いまして。染物の経験はありませんからね」
 そりゃあそうだろう、何せ彼は侯爵家の長男であり、次期侯爵と目されているのだから。
「‥‥坊ちゃんがいいならいいんでやすが‥‥無理はなさらないでくださいね?」
 貴族に冬場の染物は辛かろうと思った真琴だったが、セーファスは笑顔のまま、皆を追いかけて行った。


「草木染の赤‥‥何の植物でしょうか?」
「名前は分からないけど、赤い色が出るっていう植物の根とイラクサを買ってきたよ」
 ルイスの問いに蓮が指した場所には、籠いっぱいの植物があった。そして石がごろごろと、大きな鍋と。
「まずは何をすればいいんだ?」
「石で竈を作って鍋を置いて水をいっぱいに汲んで。そこに植物をいれて煮出すから」
「竈作りなんてキャンプを思い出すぜ」
 香哉がバケツで井戸から水を汲み、その間に紫狼が石で竈を組み立てていく。ルイスは植物の入った籠を竈のそばに運び、ふと蓮を見る。
「あ、これ? シルクのリボン」
「‥‥いえ、そうではなくて」
 蓮は用意してきたのだろう、白いリボンを数本弄んでいた。つまり――何もやっていない。
「私は何をすればいいでしょうか」
「何が出来るの?」
 セーファスに問われれば、失礼だがそう聞くしかない蓮であった。



 一方店の調理場に集まったのは異色の面々。真琴にミレイアに地球人の鷹栖冴子(ec5196)、そして彼女に呼ばれたユリディス・ジルベールと香哉に呼ばれたマーメイドのディアネイラ。真琴とミレイアは家事が得意だが、他ははてさて。
「いやあ、あたいがチョコ? こりゃこそばゆさね!」
「バレンタインとやらの意義はわかったわ。また‥‥なんというか」
 冴子の隣でため息をつくユリディス。でも作るつもりらしい。
「とはいえあたいにゃあ、料理のりの字も心得がないからねぇ」
 この中で唯一の地球人がこれである。頼りになるのは家事の得意な面々といったところか。
 地球出身の料理が得意な者にチョコレートの調理の仕方を聞いたというミレイアが、それを真琴に説明する。チョコレートはたまに地球から来落してくる品。希少で高価だ。失敗は許されない。
「はい、大体判ったでやすよ。まずはチョコレートを細かく刻んで湯せんにかけるでやす。この時ボウルの中にお湯が入ったらおしめぇでやすから、注意してくだせぇ」
 真琴の指示に黙々と手を動かし始める女性陣。
「ああ、チョコが溶けて手についちまうさね」
「そこは溶ける前に手早く刻むでやす」
「中々難しいこと言うさね」
 チョコのついた手を舐めながら苦笑するのは冴子。反対にそれなりに手際がよかったのはディアネイラだった。チョコレートを不思議そうに眺めながらも手際よく刻んでいく。真琴とミレイアはもちろん言うまでもなくそつなくこなし、ユリディスはこれがまた、似合わないと思うかもしれないがそれなりにそれなりに。
「ジルベール姐さん手際がいいね!」
「最近は忙しくてあまりやらないけれど、一人暮らしが長いとそれなりにできるものよ」
 らしい。
「ところで、このチョコレートを入れる型とやらは?」
「それならねー、知り合いの鍛冶師さんに作ってもらったんだよ!」
 真琴の素朴な疑問にミレイアが取り出したのは、薄い鉄の板を湾曲させた後繋いだ型で、ハート型をしている。
「‥‥ここにもお金がかかっているでやすね」
「だって、ここが一番大事じゃない?」
 確かに味も大事だけど、愛情も大事だけど、見た目も大事! それはさすが食べ物を扱う店の娘というところか。
「そうそう。酒場ならブランデーとかないかい? チョコに混ぜると美味いんだよ」
「あたいは隠し味にワインを」
 冴子と真琴にユリディスはミレイアに出してもらったお酒を混ぜて、大人の味に。
 ディアネイラは何かを入れると味の予想がつかないのが怖いということで、オーソドックスにそのままで。
 ミレイアは上げたい相手が大人なので最後まで迷っていたが、ナッツを砕いて混ぜることにした。
「(あたいの気持が伝わりやすように)」
 真琴は綺麗なハート型になるようにと注意をしながらチョコを流し込む。
「女同士つったってそういう意味じゃないよ。これまで世話になったからね、その気持さ」
「そういうのもいいわよね」
 冴子とユリディスは、出来上がったら交換するつもりである。
「固まるのを待つ間にマドレーヌを作っちゃおう!」
「残ったチョコレートがあれば使わせていただきたいでやす」
 洗い物をしながら告げられた真琴の言葉にミレイアは頷き、皆に協力してもらいながら店舗のテーブルに必要な材料と型を並べていく。
「あの‥‥お手伝いできることが少なくてすいません」
 ディアネイラは勿論洗い物はできない。申し訳なさそうな彼女に、きにしなくていいでやすよ、と真琴は優しい笑顔を返した。



 一方裏庭では。
「うわ、すっげえ匂い」
 根を煮詰めることで独特の臭気が立ち上っていた。なれぬ者にはちょっと辛い。
「食べ物を扱う店の裏でこんな匂いを出して大丈夫ですかね」
「今営業しているわけじゃないし、大丈夫じゃない?」
 妻の実家の心配をするルイスに、蓮はさらっと返して。
「バレンタインか‥‥義理だとか。誰それに渡してきてくれとかそんな思い出ばっかだったな」
「俺にはふーかたんとよーこたんがいるもんね!」
 何かを思い出して遠い目をする香哉に対し、紫狼は連れている女性精霊二人(?)に夢中だ。
「ですが今年は良い思い出になりそうですね?」
 笑顔でルイスに言われて、香哉は店内で頑張っているだろう彼女を思う。地上の料理は殆どしたことないはずだ。そんな彼女が作る料理‥‥勿論どんなものであろうと食べる覚悟は出来ている。
「そろそろ鍋の中身を出して、リボンをいれて煮詰めるよ。その後は水洗いだから、各自桶に水を汲んでおくように」
 今までは火をたいていたから比較的暖かかったが、これから水との戦いが始まる。この時期に外での水仕事は辛い。
「でもそう考えると、かーちゃんって結構すごいのかもな」
 なんとなくぽつり、紫狼は呟いた。



 男性陣がリボンを手に店内へ入ると、あまぁい匂いがその空間を満たしていた。丁度、少し換気しましょうよという話が出たところだったが、外で戦ってきた(?)男達には癒される香りだ。
「ふーかたん、よーこたん、結んでやるぜ!」
 紫狼は風のエレメンタラーフェアリーのふーかたんの腰にリボンを結び、ミスラのよーこたんには髪の毛にリボンを結んでやる。最初不思議そうにしていた二人の精霊は互いに結ばれた赤いリボンを見て、嬉しそうに笑った。
「よし、激写だ! 萌えぇぇぇぇぇ!」
 その瞬間を、勿論携帯電話のカメラ機能で激写である。
「ディアネイラ、これ」
 香哉が取り出したのは、蓮から購入したパフュームofフローラルとリボン。
「あ、ありがとうございます‥‥」
 まず香水を受け取ったディアネイラの手が、香哉の手に触れる。
「‥‥外は寒かったでしょう。こんなに冷えて‥‥」
「ディアネイラの手が暖かいから大丈夫だよ」
 今、共にここにいられる幸せを噛み締め、香哉は彼女を後ろ向かせてその髪にリボンを結ぶ。似合うよ、と告げれば、彼女は花がほころぶように笑った。気を使ったのか、精霊のルゥチェーイとナヴァルーニイは、少し離れたところでその光景を嬉しそうに見守っていた。
「料理や酒の香りを楽しむ酒場での接客時は、香水はつけられないでしょうが‥‥気持が大切と思っていただければありがたく」
「え‥‥私に?」
 思ってもいなかったのだろう、5種類の香水を1つずつ渡されたミレイアは驚いたようにして。
「ルイスと二人きりのときに使う!」
 にっこり、笑った後リボンを「結んで!」と自分からおねだり。聖夜祭のときを思い出しながら、ルイスはその茶色の髪に指を這わせていった。
「セーファスの坊ちゃん、手がこんなに冷えて‥‥!」
 真琴はセーファスの手を取り、両手で暖めるようにと包み込む。
「こういっては失礼かもしれませんが、いつも家事をしている真琴さんの気持が少しだけ判ったような気がします。冷たい水に触れての家事、ご苦労様です」
 セーファスは真琴の左手を取って、その手首にリボンを結ぶ。そして――そっと、貴婦人にするように手の甲に口付けて。
「――っ!」
 意外な行動に真琴は照れたが、彼の動作は非常に自然であり。どこにいても近いようで遠い人なのではないかと思ってしまうのである。


「チョコなんて久しぶりだぜ〜!」
 紫狼がぱくぱくとチョコとはちみつマドレーヌを平らげていく。その横では今度はチョコレートの授受が行なわれていて。
「あの‥‥香哉さんの世界の食べ物だと伺ったので頑張ったのですが‥‥その、美味しくなかったらごめんなさ‥‥」
 顔を真っ赤にして縮こまるディアネイラの口に、香哉は咥えたチョコをぱきっと折って欠片を放り込んでやる。
「大丈夫、美味しいよ?」
 多分、今まで食べたどんなチョコレートよりも美味しい。あまぃ、と小さく呟いた彼女の照れたような笑顔が、最高の調味料だから。
「これからも宜しくな、姐さん!」
「こちらこそ。優秀なゴーレムニストになってくれるのを楽しみにしているわ」
 冴子とユリディスは互いにチョコレートを交換。女同士気軽な行為。
 それはこれまでとこれから、繋がった縁を更に深めるようにして。
「セーファスの坊ちゃん、甘いものは疲れをとるといいやすから‥‥その、これを」
 かすかに震える手で真琴がチョコレートを差し出せば、セーファスは笑顔でそれを受け取って。
「もったいないので、暫くこのままにしておきます」
 それは嬉しいのだが、できれば傷まないうちに食べてほしいな、と思ったりもして。
「はい、ルイス!」
「有難うございます」
 ハート型のチョコレートの表面に何かつぶつぶの突起を見つけて首を傾げるルイス。だが料理に関しては心配することはなかったはず‥‥はて?
「ナッツをいれてみたんだ。チョコに合うらしいから」
 言われてみればなるほど、見えているのは砕いたナッツだ。
「おなかがすきましたね。ミレイアが作ったマドレーヌをいただけますか?」
 誰が作ったものも美味しいのだろうが、判別がつくのならやはり妻(?)の作ったものから食べたいと思うのが男心。嬉々として差し出されたマドレーヌ。何か期待の篭った視線を投げかけられれば、かわいいなと思いつつも一口含んで「おいしいですよ」と告げる。
「あ、お髭についてる」
 以前のお返しだろうか、彼女の小さな唇が、ルイスの口ひげに触れた。


 和気藹々と催されたバレンタインパーティ。
 あまぁい香りに包まれて、時は流れていく――。