【薔薇の楔】見合い話のお年頃

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月10日〜03月15日

リプレイ公開日:2009年03月18日

●オープニング

「――――」
 ゴーレム工房近くの庭で、ユリディス・ジルベールは眉根を寄せて一枚の絵を見ていた。それは小さな物だったが、豪華な額縁に入れられている。
「‥‥はぁ」
 そして、溜息。
 いつも余裕綽々で、艶然とした笑みをたたえているユリディスが、額に皺を寄せて溜息をついている。工房の何名かはそれに気がついているものの、逆に声をかけづらくて遠くからその様子を伺っているだけだった。
「こんなのと結婚するくらいなら、工房長のほうがマシよ」
 なんだか失礼な発言が聞こえた気がしたが、どういう意味だろうか。
 ユリディスの手元にある小さな肖像画は見合い相手の絵姿だという。こういうのは大体三割り増しで描かれているもので、鵜呑みしてはいけない。
 世話好きの貴族の夫人が持ってきたものだった。
『ゴーレムニストなんて昼も夜も無い仕事しているから婚期を逃すのよ。いくらエリート職だからといって、いい年した女性がねぇ。折角お給料を貰っても、使っている暇すらないでしょう?』
 余計なお世話だ。世間で働く女性に対して、そしてゴーレムニストに対して失礼な言葉ではないか。
 まあそこはゴーレムニストのことなど良く知らない貴族の夫人の言う事だから、右から左に聞き流すとして。
 紹介されたお相手はメイディアで結構手広くやっている商人の長男。いずれお金で爵位を買って貴族になり上がろうとしているクチだと聞いた事がある。そこの嫁がゴーレムニストとなれば、箔がつくとでも考えたのだろうか。
 話を持ってきたのが商人当人ならばユリディスもいつもの調子で断ったのだが、間に貴族が入っている。そこが問題なのだ。でなければ自分でさっくり断っている。
「いっそのこと、工房長に偽の婚約者になってもらって‥‥」
 小さく口に出してから、そんな事をしては余計大事になると冷静になる。そのまま噂が広がって、本当に工房長と結婚させられかねない。
「仕方がないわね」
 この手は使いたくなかったんだけど、と心の中で呟いて、ユリディスは冒険者ギルドへと向かった。

●今回の参加者

 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●ターゲット確認
 標的ユリディス・ジルベールは貴族街の庭園にいた。
 髪をアップにして背中の大きく開いたデザインは、彼女の大人の魅力を強調する。
 今回の見合い相手は16歳の少年。見合いだから着飾るのは当然としても、ここまで歳の差を見せ付ける装いはやはり故意としか言いようがないだろう。
 ところで冒険者の三人はというと。
「姐さんも災難だけどさ、浮いた話を期待されちまうのは付いて回る事さね。姐さんもけっこういいトシだし、そろそろとは思うけどさ」
 鷹栖冴子(ec5196)の予想通り会食会の会場は貸切で出入りが出来なかった為、現在どうすべくか考えながら、オブジェや木々の陰で潜伏中である。
「どういう形で別れ話に持っていくかな。相手側に根にもたれるやり方はまずいだろうし」
「別れ話とはちょっと違う気がするけど‥‥。っというか、伴侶が欲しいって言って人のお見合いを破談させるって、不思議な感じが‥‥」
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)と門見雨霧(eb4637)が呟きあう。確かにユリディスはそろそろ伴侶をといっていたかもしれないが、それは誰でも良いというわけではなく、ましてやなり上がりを狙う者達の飾りとしての結婚なんて真っ平ごめんのはずだ。
「相手の性格とかがわかればいいんだが‥‥」
『もしもし』
「あ、ちょっと待って、先生からテレパシーが」
 雨霧の言葉に向こうにいる二人を見ていたレインフォルスと冴子が振り向く。彼は事前にユリディスにテレパシーリングを渡しておいた。範囲に入れば向こうから声をかけてもらえるはずだ。
『先生、どうしました?』
『貴方達がいるところの丁度向かい側の茂みの影にさっきからこっちを伺っている人がいるわ。確保しておいて。ちなみにクリスト少年は無邪気で一生懸命。父親のために頑張ろうとしているのは分かるんだけど、背伸びしている感じね』
『分かりました。確保と同時に鷹栖さんが作戦通りそちらへ向かいます』
 雨霧は事情を二人に話し、ユリディスに言われたとおり向かいの茂みに向かう。その間に冴子は偶然を装ってユリディスとクリストの傍に歩み寄った。
「よぅ姐さん。偶然だね。どうしたんだい?」
「あら、冴子さん。お仕事の帰り?」
「ああ。って着飾っちゃって一体どうしたんだい? あれ、もしかして見合いという奴か?」
 ちら、と冴子はクリストの様子を伺う。年齢よりも幼い顔は緊張で若干紅潮していた。そして大人の話に口を挟んでいいものかと迷っているようだった。
「そう、お見合い」
「それよりも仕事はどうしたんだい? 今工房は忙しいって言ってたじゃないか。猫の手も借りたい程だって」
 それよりも、と言われて若干クリストはショックを受けているようだった。ユリディスは苦笑して「今日は休みよ」と答えた。
 ここで冴子はユリディスの仕事がどんなに国にとって大切な物か、そして背負っている使命や覚悟がどれほどの物なのかという話題を持ち出したが、それはいまいち功を奏さなかった。あからさま過ぎたのだろう、クリストもどうしたらいいのかといった困惑の表情を浮かべている。
『雨霧君、確保できた?』
『出来ましたけど、この子は‥‥』
『じゃあ、今行くからまっていて』
 ユリディスはテレパシーで近くにいるだろう雨霧に合図し、冴子にもウィンクで合図をして見せた。そして。
「冴子さん、じゃあ私達はそろそろ」
 そういって彼女と別れたのである。


●意外な伏兵
「はなしてーっ」
「うん、暴れないなら離して上げてもいいんだけど‥‥」
「怪しい者じゃない」
 茂みで女の子を捕まえていればどう見ても怪しい者なのだが、この少女も茂みの影からユリディスとクリストの様子を伺っていた怪しい者だ。
「お待たせ」
 そこに姿を現したのはユリディス。
「先生、どうやって?」
「御手洗いに行くって言ってちょっと抜けてきたわ」
 らしい。
「この子は?」
 レインフォルスの問いにユリディスは「ずっとつけてきてたのよ」と答える。
「雨霧君、会食の間にクリスト君の身辺を洗ったのでしょう? この女の子の事も出てこなかった?」
「‥‥あっ!」
 しばし間をおいて雨霧は脳内データとこの少女をつき合わせる。そして。
「クリストの幼馴染っていう‥‥」
「ローザよっ!」
 少女は離してよっと押さえられた腕を払い、パンパンと埃をはたいて立ち上がった。
「なぜ後をつけて」
「まあ、理由は一つでしょうね」
 レインフォルスの言葉にユリディスは溜息をついて。
「言いたいことがあるなら言っておかないと、大切なものはいつ遠くに行ってしまうか分からないものよ?」
 そう、ローザはクリストが好きなのだろう。だからこうして見合いの様子を伺いに来ていたのだ。
 ユリディスのその言葉はローザに向けられた物だったが、それに反応したのがもう一人いた。
「(‥‥言っておかないと‥‥)」
「先生」
 茂みから外に出ないようにとしゃがんだ体勢のまま、雨霧はユリディスに近寄る。そして地面に突かれた手の上に手を載せて、近い距離でその瞳を見つめた。
「(好きは好きでも、師として好きなのか、人として好きなのか? っとか色々と悩んでいたけど、やっと答えが出たしね)」
「出来るのなら、元教え子とかではなく、門見雨霧という一男性として、ユリディスさんと共に歩みたいっと思う。えーと、こんな俺だけど、パートナーとして付き合ってくれませんか?」
 それは、告白。その場にいたレインフォルスとローザ、そして丁度戻ってきた冴子が息を呑む。
「そう。それが貴方の気持ち。じゃあ」
 ユリディスは丁寧に重ねられた手を外し、言葉を切って立ち上がる。
「ちょっと行ってくるわ」
「え、姐さん、返事は?」
 その言動に思わず声を上げたのは雨霧ではなく冴子。ユリディスはいつもの艶然とした笑みを浮かべて――そして庭園で待つクリストの方へとゆっくり足を勧めた。


●そして
 結果。
 ローザが後をつけてきていることを知ったクリストは驚き、そして見合いの事を話したら彼女が怒ってしまってどうしたらいいのかわからないでいた、と告白。姿を現したローザの告白によって彼らは思いを通じ合わせ――そして見合いはクリスト側に思い人あり、でユリディスから断ることになった。父親は何とか説得するという。
「でも、お兄さんの告白がなかったら、私告白する勇気が出なかったです」
 ローザは雨霧に握手を求めた。彼の告白がなかったら、事態はうまく運ばなかっただろう。
「めでたしめでたし、か?」
 レインフォルスが溜息をつく。が。まだ終わりではない。
「せ、先生、返事は?」
 遠慮がちに問う雨霧。状況を理解しているクリスト以外の者達は、黙ってその成り行きを見守っていた。
「教え子としてではなく一人の男性として共に歩んでいってくれるなら、その『先生』はやめてちょうだい」
「あ、つい癖で」
 口元を押さえる雨霧に、ユリディスは優しい笑みを浮かべて。
「これからもよろしく、雨霧」
 この人だったらもし告白がなかったら、強引になんかとかしてしまうんだろうなぁ‥‥とか、周りの人たちはその笑みを見て思ったりもしたのでした。