【陽霊祭】精霊の恵みをあなたに

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月18日〜03月23日

リプレイ公開日:2009年03月30日

●オープニング

●陽霊祭
 寒さも過ぎ去って暖かい光が注ぐ3月。
「去年行ったお祭に今年も行っていい?」
 碧色の羽根のシフール、チュールは冒険者ギルドの机の上で上目遣いをしてみる。
「今月は陽霊祭ですね。陽光の恵みを祝うお祭りです」
 作業の合間を縫って丁寧にチュールに応対するのは支倉純也。
「昨年あったのはリンデン侯爵領内の村での小さなお祭りですね。今年も行きますか?」
「行く!」
 がばっと跳ね起きて即答。
「ただ、そんなに派手なお祭りではありませんよ。今年は陽光の恵みを感じるということで丘で日向ぼっこをしたり、植物を育ててくれる陽光の恩恵にあずかるとして苗木を植樹したり‥‥あとは来月の種まきに向けてでしょうか、園芸用品を販売する人たちもいるみたいですね」
 植樹に手を貸せば、喜ばれますよ、と告げる純也。何かの記念として木を植えるのもありだろう。
「日向ぼっこは‥‥気持ちよさそうだなぁ。でも晴れるって保証がないんだよね」
「まあ、そうですねぇ‥‥。晴れるのを祈るか、はたまた魔法でも使ってみるとか‥‥」
 後半はまあ最後の手段という感じだが。
「あとはジプシーの方々をお呼びして、踊っていただいたり占っていただいたりもするらしいですね」
「それって一緒に踊ったり演奏したり歌ったりしてもいいの?」
「ええ」
 仮にも彼女はバードの端くれ。音楽に興味が無いわけではない。
「植樹が一段落着いたら、村のご婦人方の作った料理を皆で戴くそうです。そう大きくない村ですからね、それはまた和気藹々と」
 陽光浴びながら、外で皆で食事を取る。その間音楽を聴いたり占ってもらったり。
「毎年植樹の手が足りないって聞いていますから、手伝いに行ったら喜ばれると思いますよ。勿論、踊りや占いを楽しんで祭りを盛り上げるのもね」
 正式に村から手伝い要請の依頼が出たわけでは無いからお金での報酬は望めないが、手伝いをすれば現物支給があるだろうと純也は言う。
 興味を持ったら、参加してみてはどうだろうか?

●小さなお祭りで出来ること
・植樹‥‥苗木を村から近くの丘に運び、植えます。かなりの数を植えることになるので肉体労働です。何かの記念に植えるというのもありだと思います。
・ひなたぼっこ‥‥丘の上で陽精霊の光を受けてのんびりと過ごすのも一興。
・踊り、演奏‥‥ジプシーやバードの皆さんと踊りや音楽で陽精霊に感謝を示します。
・占い‥‥ジプシーの占い師さんが占いをしてくれます。
・食事‥‥村のご婦人方の作った食事を、皆で食べます。

●報酬
 金銭的な報酬は有りませんが、手伝いをすれば何か現物支給してもらえるようです。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4507 齋部 玲瓏(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

フィリッパ・オーギュスト(eb1004

●リプレイ本文


 陽精霊の光は大地に降り注ぎ、植物や人を育てる。その輝きは生きとし生けるものにとって欠かせない物。すべてに平等に降り注ぐ光。
 だが人々はそれを当然のことだとおごり高ぶることはせず、陽精霊の恵みに感謝をする。だからこそ陽精霊の光は、こうして皆の下に降り注ぎ続けるのだろう。


「陽精霊〜陽光の恵みのお祭りですか。あらゆるものに神を見出すとは、わが国と似ていますね」
 騒がしい村の様子を見てつぶやいたのは齋部玲瓏(ec4507)。正しく言えばアトランティスには神という概念がなく、神の代わりに精霊やドラゴンがあるのだが、それらに祈れば何か返ってくるといった発想はない。だが感謝をする心は万国共通だろう。
「去年も来たんだが、覚えていてくれているだろうか?」
 風烈(ea1587)が一人の男性に話しかければ、その男性はぽむ、と手を打って。
「おい、力持ちの兄ちゃんが今年も来てくれたぞー!」
 その声に「おおー」と村の各所から歓声が上がる。ここまで歓待されると少し恥ずかしい。
「せっかくだしさ、骨休めしたってバチは当たんねーよな!」
 風のフェアリーとミスラを連れた村雨紫狼(ec5159)はいっちょやるか、と植樹のコーナーへと足を運ぶ。ふわふわと彼の後をついて回る精霊たちを、村の子供たちは遠巻きに眺めていた。
「植樹自体はしないかもだけど」
 レン・コンスタンツェ(eb2928)は軽食と水を持って植樹グループの後をついていく。脇のほうに置いておけば好きなときに息を抜いたり手を休めたりできて、気分よく植樹作業ができるかと思って。
「それではご婦人方のお手伝い、お願いいたしますね」
「うん! 作業がひと段落着いたら呼んでね!」
 ルイス・マリスカル(ea3063)は差し出されたミレイアの小指に指を絡めて微笑む。彼女の反対の手にはバレンタインのお返しにとあげたホワイトチョコレートクッキーの包みが大事そうに抱えられていた。
「あまり無茶はしないでくださいね」
「大丈夫! 安心して!」
 彼女が言ってもあまり説得力がないのだが、これ以上は過保護と言われそうなのでルイスは言葉を飲み込む。本来ならば、彼女に無理な力仕事をさせたくないのだが、かといって何もさせないのは彼女が不満に思うだろうし、以前「頼りしている」と言ったことにも反してしまう。難しいところだ。
「(一度は足を運んでみたかったこの地で、不思議な巡り合わせもあるものですね)」
 異世界に己の国との通った部分を見つけ、親しみを抱いている玲瓏。村の男から一株受け取り、スコップで土を掘り返して苗木を入れる。そして
「陽光に肖り、苗がよく育つように」
 祈りながらスコップで土をかけ、倒れない程度にスコップの背でならして完成。
 ふと横を見ると、主人を真似てか小さな狐の葛の葉が一生懸命土を掘り返している。だが一列に苗木を植えるというのにその穴は縦ではなく横に掘られていて。
「仕方ないですね。まだまだ幼いですから」
 くす、笑みを浮かべて玲瓏は葛の葉を抱き上げた。横に広げられた穴を埋めつつ、手渡された苗木を植えていく。植える方に専念したほうが彼女にはあっているようだった。
「うらやす、一緒に祈ってくださいね」
「ほう、陽精霊さまか!」
「はい。陽のフェアリーです」
 その言葉を聞いてか、うらやすはひらひらと植えられた木の周りを飛んでいく。まるでそれは木々を祝福しているかのようだった。
「去年植えたのはこのあたりだったかな」
 烈は昨年植えた木を感慨深げに眺めていた。リンデンでは水害があったという。それでもここまで無事に育ってくれたのは、村人たちがきちんと世話をしてくれたからだろう。
「一年でここまで大きくなったとはな、さて俺はこの一年でどれだけ変わったのやら」
 草木が芽吹き、日が穏やかになり、四季の内でもっとも華やかな時期の一つ。こうして生命の成長を見ることで、ああまたこの時期を迎えられたのだと喜びをはらんで。
「さ、俺も植えるか」
 烈はスコップと苗木を手に、土を掘る。去年植えた部分と比べれば、その成長は明らかだった。
「(いつのことになるかはわからないが)」
 ジ・アース人の彼は使命が終わればいずれアトランティスを去ることになる。だからこの木を、自分がアトランティスにいた記念代わりに。自分がここにいた、その証に。
「願掛けな〜うーん」
 紫狼は苗木を前に考え込んでいた。地球に帰りたいのはヤマヤマだがまだ帰れそうにない。では何を願うか。彼は傍らのフェアリーとミスラを引き寄せて。
「そうだな、ふーかたんによーこたん、俺たちずっと一緒にいられるようにな」
「いっしょ、いっしょ?」
 よーこたんが紫狼の口真似をしてうれしそうに笑む。
「精霊も人間も関係ねーよ、俺たちは家族さ。二人がいてくれるから、俺は異世界に独りきりでも戦えるんだぜ。ありがとな、二人とも!」
 ひらひら、ふわふわ、妖精二人はうれしそうに、植樹をする紫狼の周りを飛んでいた。


「合奏してみないかにゃ?」
 レンは植樹チームが丘の上にいる間に、暇そうなバードとジプシーを捕まえて企画を提案していた。疲れを微妙に忘れそうな簡単だけど楽しい踊りや、流れの良いテンポが一定の音楽を提案し、そして合わせる。
「そうそういい感じ‥‥ってそろそろお帰りかにゃ?」
 丘の上から声と足音が近づいてたのを見て、レンが急ぎ仕上げにかかろうとすると目に留まったのは一組のカップル。
 ルイスが苗木を一つとスコップを手に、ミレイアの手を引いて丘の上へと戻っていく。
「まだまだ時間はありそうだね〜」
 レンは最終打ち合わせにかかることにした。


 村人の許可を得て一株苗木を分けてもらったルイスは、ミレイアを連れて再び丘の上に戻ってきていた。そして適度な穴を掘る。
「結婚記念に一緒に植えましょう」
「うん」
 二人で苗を持ち、そして穴の中に入れる。軽く触れた指先は土にまみれているけれど温かくて。
「あ、ミレイア、スコップがありますから」
「大丈夫っ」
 手で土をかける彼女にルイスはスコップを差し出したが、早く一緒に土をかけてよ、と言われてしまいそのままスコップで土をかけていく。
「この木が大きくなるころには、私たちの子供も大きくなっていたりして」
「こほん‥‥その前に結婚式の件ですが」
 彼女の突飛な発言に咳払いでごまかしをいれ、ルイスは口を開く。彼女は結婚式をしたいと言っていた。では時期はいつがいいのだろうというのが彼の疑問だ。
「えー、ルイスが都合のいいときでいいよ? だって冒険者は冒険がお仕事。依頼によって暇な時期も違うでしょう?」
「ですができるだけ早くとか、縁起がよいとされる六月とか、ミレイアの誕生日の七月近くとか、こだわりはありませんか?」
 結婚式にあこがれる少女。てっきり時期にもこだわりがあるかと思えば。
「そこはルイスに一任。私は家で帰りを待っていることが多いけれど、ルイスはいろいろなところに出かけたりと忙しいでしょう? 私の希望にあわせてわざわざ依頼にいかずに結婚式を挙げてなんていえないよ」
 にこり、笑んだ彼女は少しばかり大人びて見えて。冒険者の妻というプライドが見え隠れしていた。


「よし、食うぜ!」
「たんとおあがり」
 村の女性たちが用意した料理はどれも素朴なものだったが、それはそれでいておふくろの味とも言うべきか、ほっとする味のものが多い。
 次々と平らげていく紫狼を見ては「まあまあ」と笑いながらも女性たちは料理をよそってくれる。
 踊りの際に出る土ぼこりが料理に影響を与えないようにと少しはなれた場所ではレンをはじめとしたバードたちの演奏とジプシーたちの踊りが始まっていた。ルイスもその演奏に加わり、ミレイアは料理片手にそれを見ている。
「とてもおいしいですね」
 豆のスープや貝の入ったサラダなどシンプルなものが多いが、シンプルなだけに味で勝負となる。玲瓏が素直に感想を述べると、女性たちは「喜んでもらえると、日々の家事にも力が入るってもんだよ」と笑ってくれた。
「この一年を無事に過ごせたことに乾杯」
「「乾杯ー!」」
 烈は去年も共に飲んだ人々と杯を交し合い、そして早咲きの花々をめでる。
「この一年、どうだったよ、兄ちゃん」
「今ここにいることがその証かな。明日をも知れぬ我が身だからこそ、無事に過ごせたことを祝いたい」
 なるほどな〜と男たちは頷きあい。再会の祝い酒を酌み交わす。
「一年間、雨の中でも苗木を守ってくれたんだな。ありがとう」
「もちろんだ! 正直根腐れしちまうんじゃないかと心配だったが‥‥」
「これからも頼めるか?」
「もちろんだとも!」
 この人たちに任せておけばきっと安心だろう、烈は微笑みながら酒をあおった。



「甘めの物を食べれば疲れも吹き飛ぶんだってさ。天界の人が言ってた。でもほんとかどうかは別として、甘いものはいいよね〜」
「けれども砂糖は高価だからねぇ」
「さすがにこういうところで砂糖や蜂蜜は難しいと思うけど、そういう時は一工夫」
 レンは人差し指をぴんと立てて言葉を続ける。
「果物を漬け込んだ汁で干した果物を時間をかけて戻して、小麦に卵と牛乳か何かで混ぜ込んで焼き上げた単純なお菓子は素朴でやさしい味でおいしいって思うんだ」
「そんな簡単なのでいいのかい? それなら果物を戻している最中のがあるから今からでも作れるよ」
「やったっ!」
 女性の言葉に思わず身を乗り出すレン。
 え? さっきも何か食べてたって? 女の子のお腹は、甘いものは別腹なのです。


「葛の葉、うらやす、行きますよ!」
 たっぷりと堪能した後、玲瓏は丘の上でかけっこをしていた。さすがに子狐やフェアリーは動きが早くてなかなか追いつかないけれど。
「ふぅ‥‥疲れたらお昼寝をしましょう」
 幸い天候は晴れ。ぽかぽか陽気は満腹時には激しく眠気を誘う。
「平和ですね〜」
 世界のあちらこちらでは、こうしている間にもいろいろ起こっているのだろうけれど。今、ここにいる瞬間だけは、のんびりしても罰は当たるまい――玲瓏の意識はだんだんと睡魔に飲み込まれていった。


 なんでもリクエストにお答えします。
 もちろん可能な限り――そう言ったルイスは、ミレイアに連れられて丘の上に来ていた。彼女は木陰に座ってルイスを手招き。ルイスはその隣に腰を下ろす。すると「違うの!」とぐいっ引っ張られて。
「おっと‥‥」
 バランスを崩してそのまま彼女の太ももに突っ伏す形に。
「(意図はわかりました)」
 わかったので態勢を立て直させて欲しい‥‥そう願って仕切りなおし。
「こんなことでよかったんですか?」
「だって、こういうひと時も貴重だもの」
 ルイスを膝枕して、ミレイアは空を見上げる。
 冒険者は明日をも知れぬ身。その帰りを待つのも不安との対決。だから、こうした小さな平和もとても貴重に感じることができるのだ。
 ふーっ。
「‥‥くすぐったいです」
 耳に息を吹き入れられ、思わず一言。
「なぁんだ、それだけ?」
 彼女の不安そうな声が上から降ってきたので、ルイスは横向きから仰向けに体勢を変えて彼女の顔を見る。
「他に、何をご希望ですか?」
 いたずらっぽく彼女の頬に手を伸ばし――そして、笑んだミレイアがルイスに顔を近づけた。



 烈は一人の占い師を探していた。その占い師は昨年彼にアドバイスをくれた占い師。
「(いた)」
 今年も隅の方で占いをしているのを見つけ、そこに並ぶ。
「おや、あなたは昨年も‥‥」
「覚えてくれたか」
 たくさんの人を見ているだろうに、こうして覚えてもらえたことはうれしい。
「去年はありがとう。初心を忘れずに、己の信じる道を日々一歩ずつ進んでいる」
「そうですか。私の占いが役に立ったのならば幸いです。では今年も占いを?」
 占い師の言葉にうなづく烈。占い師もうなづき返して彼を占い始める。
「そうですね‥‥何か気になっていること、やりたいことがあるのならば躊躇わないほうが良いでしょう。後で後悔の残らぬように。そうすれば自ずと良いほうへと進めるでしょう」
「後悔、か」
 明日をも知れぬ冒険者家業。後悔することはたくさんあるかもしれない。だがやったことで後悔するということもある。難しいところだ。
「ありがとう。心に留めておく」


 春風がすーっと流れた。
 料理の匂いと音楽と、そして楽しそうな笑い声を運んで。
 陽光は暖かく彼らを見下ろしている――。