【薔薇の楔】添い遂げしは永遠への道

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月21日〜04月26日

リプレイ公開日:2009年04月29日

●オープニング


「デニス様、もう少し右です、右」
「この辺かい? ビアンカ」
「はい、あと少しですっ」
「よし、届いた――!」

 木の上へと引っかかってしまった私の帽子を、服を汚してまでとってくれたデニス様。
 何も知らない子供の頃は良かった。
 身分違いだときつく言われても、遊び相手として側においてもらえるということが嬉しくて、そんな事などどこかに飛んでいってしまっていた。
 けれども年頃になるとそうも行かなかった。
 デニス様は商家のお坊ちゃま。ただ一人の跡取り。お見合いの話も沢山沢山来ていると、メイドをしている母づてに聞いた。

「見合い? ビアンカが気にするようなことじゃないよ。僕はまだ結婚しないし」

 私がお見合いについて尋ねると、そういっていつもはぐらかしたデニス様。
 何かを悟られぬように寂しげに微笑んで、そして私の頭を撫でる。
 暖かい手。優しい匂い。
 それだけで、満足なはずだった。

「破産――!?」
 その報は使用人の間をすごい勢いで飛んだ。主家の一大事である。破産が現実ならば、仕えている自分たちはどうなるのだろう――そんな疑問を誰しも抱くだろう。
 旦那様と奥様、そしてデニス様が部屋に篭り、長い長い話し合いが行われた。

「あ‥‥お茶を」
 銀盆を片手にノックをしようとした扉が内側から開かれて、私は思わず言い訳のようなことを口にした。扉を開けたのはデニス様で――彼は私を見ると一瞬悲しそうな顔をし、そして微笑んだ後そのまま自室への道を歩いていってしまった。
 数時間後、私は知る事になる。
 とある貴族がご主人様の抱えた負債を肩代わりする代わりに、デニス様を婿養子にと求めたことを。
 デニス様は家の為に、仕える使用人たちの為に、婿入りを決意なさったということを。

 それから時は流れ――



「夫が失踪しました」
 冒険者ギルド。支倉純也の目の前に座った貴族の夫人は落ち着いた声色でそう告げた。
「雇っていたメイドが、同時期に姿を消しました」
「‥‥行き先にお心当たりは?」
 純也の問いに夫人は、一枚の羊皮紙を差し出して。
 そこにはアプト語でこう書かれていた。

『今生で結ばれぬ縁を、精霊界で結びに行ってくるよ。
          すまない』

「‥‥遺書、ですか」
「夫は実家の借金の肩代わりを条件に私と婚姻を結びました。私たちの間に愛はありませんでした。けれども長年連れ添えば、情は沸くもの‥‥私は夫と結婚して20年です。けれども」
 夫人は表情を消したまま、一度言葉を切った。
「夫には、長年思いを寄せていた相手がいました。それも身近に」
 それは婿入りのときに身の回りの世話をするためにとつれてきたメイドの一人だという。
「もちろん、夫自身の口から聞いたわけではありません。けれども女の勘といいますか‥‥雰囲気でそういうのはわかってしまいませんか?」
 純也は困惑したように首をかしげ、そして「そうですね」と小さく告げた。
「二人とも結ばれぬ仲だからこそ、必死で想いを隠そうとしていました。けれどもそれは逆に――」
「――愛していたのですね?」
 はっ、と夫人が目を見開く。愛していたからこそ、夫の想いが別のところにあることに気がついたのだろう。夫人は儚く、微笑んだ。
「夫を連れ戻してください。行き先はおそらく、この辺りにある洞窟です」
「ここは‥‥」
 夫人が指した地図の場所を見て、純也は眉を顰める。
 自殺しようとしている二人の大人を止めるためには急がなければならないだろう。だがそれとは別に。
「ここにはケイブドラゴンという、赤い鱗をした巨大なトカゲが目撃されています。竜族の中でも比較的おとなしい部類に入りますが、近づくものを攻撃します」
「!? それじゃあ‥‥」
「急がなくてはまずいでしょう」
 そう言い立ち上がった純也は、急いで依頼の手続きを始めた。

●今回の参加者

 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec6326 冴木 美雲(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


「ふう‥‥そりゃ、デニスさんとビアンカさんの気持ちも分かりますよ。どう言いつくろっても不倫ですけど。そりゃ、あっちこっちで浮気する方よりは、純愛なんだと思います」
 移動中にぼそりともらしたのは美芳野ひなた(ea1856)。彼女は相当おかんむりらしい。
「けど、依頼まで出してお二人を助けようとする今の奥さんはどうなるんです? 奥さんの気持ちを無視して無理心中ですか。すごい身勝手‥‥幻滅しちゃうな」
「命を粗末にし、未来を閉ざす愚行を愛と為す訳には参りません! 未来とは、生きて今を切り拓く者にこそ与えられるものです」
 熱く語るシャクティ・シッダールタ(ea5989)。布津香哉(eb8378)はその後方でぽつり、呟く。
「はぁ、この世界の住人は今生でダメだとすぐ精霊界に行きたがるんだな。ま、そういう奴らに来られた精霊界もいい迷惑だと思うが‥‥」
「なぁ、今回の依頼で相談なんだが、竜退治より人命救助優先で行かねえか?」
「ああ。話を聞いていると複雑だな。夫人の思いもあるし、二人の思いもあるし。ただ、心中させるのは後味が悪いし。きちんと話し合いをさせたほうがいいかもしれないな」
 伊達正和(ea0489)の提案にスレイン・イルーザ(eb7880)を初めとした皆が頷く。
「心中なんて馬鹿な行為よ」
 冴木美雲(ec6326)は吐き捨てるように言った。本人達に出会ったら言ってやりたいことは山ほどある。
「お二人を占ってみましたが‥‥あまり良くない結果が出てますね。急いだほうがいいかもしれません」
 デニスとビアンカを占った土御門焔(ec4427)が告げる。ケイブドラゴンは比較的大人しい部類に入るとはいえドラゴンの仲間だ。一般人が相対して無事でいられるとは考えにくい。ましてや心中を考えている二人だ。自らドラゴンの手にかかるかもしれなかった。
 一同は少しずつ歩調を速める。道中焔はパーストを繰り返してデニスたちの姿を探していた。いくら迷いようのない洞窟とはいえ保護対象の姿は見えていたほうがいい。ファンタズムで映像化されたそれを、洞窟に入る前に皆で確認する。
「‥‥‥行きましょう‥‥‥」
 エヴァリィ・スゥ(ea8851)が赤いフードの下から呟き、頷いた。



 洞窟を進むと程なく、何かのうなり声のようなものが聞こえた。一同は頷きあい、洞窟内を駆ける。前情報どおり一本道を進むと視界が開けた。そこで冒険者達が見た光景は左手の壁際に腰を抜かしている中年の男女の姿が。右手には、赤い鱗をした四本足のトカゲのようなモンスターが。体長は2メートル半はあるだろうか、かなり大きい。
 両者は今はまだ見詰め合うような膠着状態にあるようだ。
 エヴァリィが魔法の詠唱に入る。竜を落ち着かせるためにメロディーを唱えるつもりだ。その間に焔が高速詠唱でテレパシーを唱え、竜のうち一体に話しかけた。
『縄張りに侵入してごめんなさい。私は陰陽師の土御門焔と申します。縄張りに侵入したあの二人も私たちもすぐにこの洞窟から出ます。どうか、時間をくださいませんでしょうか?』
 竜はちら、と冒険者達の方を見た。ドラゴンと名がついているが、あまり頭は良くないようで。返ってきた答えは片言で断片的だった。
『ナワバリ‥‥シンニュウ‥‥2人、シニタイ‥‥』
『私たちは2人を助けに来たのです。お二人は本当に死にたいわけじゃありません』
 焔の説得にエヴァリィのメロディーが乗せられる。心を静める沈静の意をこめた音だ。これで落ち着いてくれればよいのだが‥‥。
 その隙にひなたと美雲がデニスとビアンカに駆け寄る。
「怪我はないですね? 手に持っている短剣は捨ててください」
 ひなたはデニスが握っている短剣を無理やり引き剥がし、そして投げ捨てる。
「こんな馬鹿な事はやめて! 死ぬ度胸があるなら誰も知らない地で生きていくなり他にいくらでも方法があるでしょ!! とにかく、こっちにくるのっ!」
 美雲はビアンカの手を引っ張り、強引に立たせた。
『2人、シニタクナイ‥‥? カエル‥‥?』
『ええ、帰ります。ほら』
 腰の抜けているデニスに駆け寄ったシャクティと正和が肩を貸し、美雲とスレインがビアンカを助け起こして広場から撤退をさせる。
『デモ‥‥武器、モッテル』
「! 皆さん、武器をしまってください。敵意がない事を示しましょう」
 焔の言葉に一同は慌てて武器をしまう。そして竜数体の動きをじっと待った。知能の高くない竜が相手とはいえそれなりの威圧感がある。つー‥‥と背中に汗が伝うのを一同は感じた。
『‥‥ワカッタ、デテイク、ナライイ‥‥』
『ありがとうございます!』
 ケイブドラゴンは元々温厚な部類に入る竜だ。何とか必死の説得が通じたのだろう、交渉に当たったドラゴンが他のドラゴンに何事かを話し、そして一同をじっと見つめる。
「君たちは、一体‥‥」
「それは後でゆっくり教えてやる」
 自体の把握が出来ないデニスに、香哉がぴしゃりと言い放った。



 洞窟を出てゆっくり出来そうな木の根元を見つけた一同は、腰を下ろして一息つく。交渉が決裂したら戦う覚悟はしていたが、そうならずに済んでよかったというべきか。
「すりむいておられますわ。今リカバーを」
 シャクティがビアンカの足に傷を見つけ、リカバーをかける。ビアンカはやはり急に現れた冒険者達に驚いているようで、デニスの背中に隠れるようにしていた。
「なんで私達がここに居ると思う? 偶然通りかかっただけとでも思ってんの?」
 美雲の喝が飛ぶ。エヴァリィはデニスとビアンカを落ち着かせるため、再びメロディーを紡いだ。
「俺達は奥さんからの依頼で助けに来たんだよ」
「奥様がっ‥‥!」
 香哉の言葉にビアンカがすっと青ざめた。
「あなた達が死んで何か解決するの? 自分達の自己満足の為に周りの人間を傷つけんな!」
「自己満足‥‥確かにそうかもしれませんが、他に方法が‥‥」
「いい大人が甘えんな!」
 美雲のビンタがデニスとビアンカに命中する。二人の頬は赤くなったが、打ち付けた美雲の手も痛かった。
「勇気を出して奥さんと向かい合って話し合えよ、男だろうがっ!!
逃げてんじゃねえっ!! あんたは、奥さんとビアンカさんと2人の女を不幸にしようとしたんだぞっ。心中じゃ幸せになんかなれねえんだっ!!」
「それは‥‥」
 正和の言葉にデニスは詰まる。そう、結局はビアンカを選んで妻を不幸にし、そのビアンカをも死へと導く事で不幸にしようとしたのだ。
「昔の事は、もうひなたたちがアレコレ言っても仕方ないです。けど、今はどうなんですか? 愛だ何だ言うのなら、今の奥さんの気持ちはもちろん分かりますよね!」
「あなたの奥さんがあなたを心配して私達を遣わしたんだよ?」
「妻、が‥‥」
 ひなたと美雲の言葉に、デニスは一瞬驚いたような顔をして見せた。そして。
「妻は、私がいなくなれば自由になれて、幸せに暮らせるものだと思っていました‥‥」
「本当に気づいていなかったのか。なら一度きっちり話をする事を勧める」
 デニスの顔は嘘をついている表情ではない。スレインはため息をついた。
「奥さんはね、あなたがビアンカさんの事をずっと愛し続けてた事に気づいてた。あなたに全く興味ないなら気づくわけないよね? 最初は、政略結婚だったかも知れないけど、いつしか、あなたの事を愛してたの」
 ビアンカがデニスの衣をきゅっと握ったのが美雲の目に入った。彼女はいわば雇われの身。自分さえ解雇されればそれで片がつくかもしれない――だがデニスと離れたくない、そんな思いが見て取れる。
「もし、今の奥さんに少しでも情があるなら、死ぬのは思いとどまって。3人で話して。女なら愛した相手が一番幸せになる方法を望むはずだよ?」
 私みたいな小娘が言っても全然説得力ないだろうけどね、と美雲は苦笑した。
「死ぬ覚悟ができたんです。今ならお二人とも奥様と正面から向き合いどうすればいいのか話し合う事はできませんか?」
「私は‥‥デニス様も奥様も大切に思っています。奥様の気持ちがわかった今、私が身を引くべきだと‥‥」
「ビアンカ!」
「それは早計過ぎます」
 涙ぐむビアンカを、焔は慌てて止めた。シャクティが諭すように話しに入る。
「まずは命を絶つ愚行を諌め、安易な死に逃げる覚悟があるならば、苦難を承知で二人分の愛を背負いなさい」
 隣に来た正和と視線を絡め、そして抱き合い、彼女は続ける。
「恋人の正和様も、わたくしを人間と変わらず愛して下さいます。貴方にも出来ますわ」
「愛してるぜ、ハニー♪」
 正和がシャクティの唇に自らの唇を押し付ける。デニスとビアンカは、互いに顔を見合わせて。
「妻が私を思ってくれていると、初めて知りました‥‥。一度、きちんと向かい合ってみます。ビアンカには辛い思いをさせるかもしれない。だが‥‥」
「いえ、いいのです。元より結ばれぬ縁だとわかっておりましたから‥‥」
「いや、二人とも大切に出来る道があるなら、私はそれを選ぼう」
 デニスとビアンカは手を取り合い、そして冒険者達に目を向ける。
「死ぬよりも生きるほうが辛いかもしれない。でも折角助けていただいた命です。わがままかもしれませんが、皆で幸せになれる道を探したいと思います」
「わがままではない‥‥と思います」
 エヴァリィがぽつり、言った。


 この後、三人で話し合いが行われるだろう。
 2人の女性を幸せにしたいと願うデニス。
 夫の愛が自分に向かないと知っていても、愛し続けた夫人。
 結ばれないと、身の程を弁えているビアンカ。
 三人の話し合いがよき方法へ進むことを、冒険者達はお礼にと貰った宝石を手にしながら祈った。