【ユズリハの館】花と大地の恵みに

■イベントシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:21人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月06日〜05月06日

リプレイ公開日:2009年05月15日

●オープニング

 四月は花祭り、五月は地霊祭と大地に恵みに関するお祭りが続く。
 メイディアの下町では、ユズリハの館が中心となって孤児達による催しが計画されていた。
 街人の善意で集められた花々が甘い雰囲気を作り出す「咲花広場」。ベンチなどが併設してあり、カップルなどにお勧めだ。
 下町のお店が屋台を出し合う「屋台コーナー」。こちらは持ち歩きのしやすい食べ物や飲み物が売られている。大人たちが主導だが、子供達も売り子として手伝っているそうだ。
 そして「花売り市場」。集められた花々を売っているほか、植木鉢や肥料なども売っているという。ここでも子供達が手伝いをしている。
 入場料金などは必要ないが、5c程の花を一輪だけ購入してほしい。この売り上げは各孤児院に分配され、孤児院の運営に使用される。勿論花以外に植木鉢や肥料を買い求める事も可能だ。(大体2〜5G程度)

 何かと忙しい冒険者達にひと時の休息を、という事でこの催しの案内は冒険者ギルドにも張り出される事になった。
 客として楽しむ事は元より、子供達やお店の人の手伝いをするのも良い。
 公序良俗に反しないように楽しんでもらえれば幸いだ。

●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ 伊達 正和(ea0489)/ アマツ・オオトリ(ea1842)/ クリシュナ・パラハ(ea1850)/ 美芳野 ひなた(ea1856)/ クライフ・デニーロ(ea2606)/ ルイス・マリスカル(ea3063)/ キース・レッド(ea3475)/ 利賀桐 真琴(ea3625)/ シャクティ・シッダールタ(ea5989)/ レインフォルス・フォルナード(ea7641)/ エヴァリィ・スゥ(ea8851)/ マリーナ・アルミランテ(ea8928)/ 慧斗 萌(eb0139)/ 忌野 貞子(eb3114)/ 門見 雨霧(eb4637)/ 布津 香哉(eb8378)/ 雀尾 煉淡(ec0844)/ 水無月 茜(ec4666)/ トンプソン・コンテンダー(ec4986)/ 村雨 紫狼(ec5159

●リプレイ本文


 その日の朝、子供達主導のイベント会場は準備でにぎわっていた。
 街の人々だけでなく、有志の冒険者達も加わっての準備である。
 子供達は「咲花広場」に花を飾ったり、入場料代わりになる花の用意をしたり、「花売り市場」で売り物となる鉢や肥料、種などを並べて値段をつける。
 「屋台コーナー」では下町の料理屋からおじさんやおばさんが材料を持って各屋台に駆けつけており、子供達もその準備を手伝っていた。
 冒険者側では巴渓(ea0167)、美芳野ひなた(ea1856)主催の屋台、「若葉屋」がその準備を進めていた。テーブルや椅子、食器などはミレイアの実家から借りようとしたがあそこも客商売。通常営業中においそれと客席を減らすわけにはいかず、とりあえず別の民家から借りられたのでよしとしよう。
 まずは香水販売コーナー。主にリンデンで研究している石月蓮の作成したパフュームシリーズを用意してある。ただ全て1Gというのが少し下町の人々には手を出しづらい価格設定かもしれないが、それでも特別な贈り物としてやチラシを見て訪れる冒険者達がお土産にと買っていくかもしれない。
 食事処ではひなたが腕を振るっていた。持参したアナゴを丁寧に捌いて串焼きにし、持ち込んだ餅を使用して洋風だしでの雑煮を作る。それに加えてピザも用意だ。
「これくらいでいいですか?」
 クライフ・デニーロ(ea2606)が持ち込んだのは河原から拾ってきた石が沢山入った袋。井戸水で洗ったそれにアイスコフィンを付与し、保冷剤代わりとする。
「十分ですぅ〜」
 それを受け取ったひなたは生ジュースや持ち込んだ御酒類を冷やし始めた。今から冷やしておけば、開場の頃には程よく冷えているだろう。
「食べ物は5c、ジュースは2c、お酒は3cね。んじゃ他のところの料金設定も見てきますか」
 出納係となったクリシュナ・パラハ(ea1850)はスクロールと筆記用具を手に、会場のほかの出店も回っていく。しっかり管理をして、売り上げは子供達の為に計上するのだ。
「お〜忍者ちゃんナイス。ふーかたんとよーこたん、可愛いぜ!」
 ひなたの縫ったスカイブルーとオレンジのエプロンを身につけた精霊たちを見て、村雨紫狼(ec5159)は感無量だ。以前別の依頼で瀕死状態で帰ってきたとき、精霊たちには泣かれてしまったが、今嬉しそうにエプロンをつけてくるくる回っている姿を見ると、やっぱり女の子は笑顔がいいなと思う。
「ふ〜、まあ‥‥こういうのもたまにはいいでしょ、ククク‥‥。さあて‥‥私も本気、出すわよぉ」
 前髪を上げてその美しい顔を覗かせたのは忌野貞子(eb3114)。
「ふう、久しぶりに素顔出したわね〜。さ、ひなたさんに茜さん! 今日はた〜っぷりおもてなしするわよ〜! お帰りなさいませ〜、ご主人様☆ ご奉仕するにゃん♪」
 なんだかいつもと完全別人な気がするんですが、彼女によればこちらが素で、いつものは演技という事らしい。
「渓、今回だけだぞ」
 すっと露天に現れたのは美青年。‥‥誰?
「おう、アマツ、よろしく頼むぜ」
 正解は、禁断の指輪で男性に変装したアマツ・オオトリ(ea1842)さんでした。会場のご婦人方を口説いて香水販売に力を貸すというが‥‥はてさてどうなることやら。
「こちらも準備整いましたっ」
 メイドドレスに身を包んだ水無月茜(ec4666)が準備完了を告げた頃には、どの屋台からも良い匂いが漂っていて。手伝うはずの子供達のお腹がぐぅーと鳴った。
「ほら、腹が減ってはなんとやら、だ」
 渓の差し出した食べ物を、子供達は喜んでほお張った。腹ごしらえも立派な準備の一つ。



「はい、お花です。ありがとうございます!」
 子供に5c支払い、レインフォルス・フォルナード(ea7641)は一輪の花を手にして会場に入った。まずはどこに行こうかと考え、一通り順番に回ってみようとの結論に達する。
(「うふふ〜、久しぶりの『でーと』ですわぁ」)
 ルンルン気分のシャクティ・シッダールタ(ea5989)が恋人の伊達正和(ea0489)と共に花を買い求め、どこから回ろうかと思案を始めた時、「ありがとな」と子供の頭をなでていた正和から声がかかった。
「ハニー、悪いがしゃがんでくれないか? 花簪のプレゼントだ」
 もちろん彼女が否と言うはずはなく、しゃがんだシャクティの髪に白い花が一輪添えられた。
「可愛いよ、ハニー♪」
 シャクティの瞳を見つめる正和の頬は若干染まっていて。けれども耳元で囁かれたシャクティの頬はもっと染まっていて。そのまま合わさった唇と唇に、近くに居た子供達が歓声を上げる。
「うふふ、子供達には刺激が強すぎますかしら」
「これ以上は2人きりのときにな♪」
 故郷では子供に手習いを教えていたという正和は、まだじっとこちらを見ている子供達に軽く手を振って。そして2人は仲睦まじく腕を組んで会場の人ごみの中へと消えていった。
「いや〜、こういうのんびりしたのもええもんじゃの〜。日頃はメイの国を守る騎士の務めもあるしのゥ。気が抜けん日々じゃし」
 トンプソン・コンテンダー(ec4986)は花を片手に会場をきょろきょろと見回す。屋台では一つ多めに買った料理を売り子をしている子供達にご馳走してあげたりして。でもお酒は我慢。飲みたいけど不測の事態に備えて、だ。
(「‥‥今までお祭りとかに誘っていたけど、デートとなると、なんか緊張するな〜」)
「あら、どうかした?」
「い、いや、何でも」
 隣で自分を見つめるユリディス・ジルベールに門見雨霧(eb4637)は慌てて手を振って否定して。そのまま2人はゆっくりと会場を散策していく。
「あ、ユリディスさん、ちょっと待ってて」
 花売り市場で立ち止まった雨霧は、売り子の子供達と何か話しているようだ。ユリディスはそれに干渉はせずに、後方で彼を待つ。彼はどうやら花を買っているようだった。
「もうちょっと待ってね」
 何本かの花を抱えた雨霧は、近くの椅子に腰をかけて作業を始める。
「?」
 ユリディスもその隣に腰をかけて彼の手から何かが出来上がっていくのを見つめていた。
 やがて出来上がったのは小さな花輪。手を出して、といわれて言われるがままにユリディスは左手を差し出した。そこにすっと差し込まれる生花の輪。
「プレゼント」
 意外なプレゼントに、ユリディスは一瞬目を見開いて。
「花輪のプレゼントなんて、小さい頃に貰ったっきりだったわ」
 いつもの妖艶な微笑ではなく、少女のような笑顔を浮かべた。
「‥‥孤児院か〜。戦争孤児が増えないよう、少しでも家族が戦場から帰還できるように、もう少し頑張ろうかな」
「そうね、人を守るのも乗り手を守るのも私達ゴーレムニストの仕事」
 花輪を見ながら、雨霧の呟きにユリディスは答えて。
「戦場に行く訳だから、ユリディスさんに心配をかけてしまうかもしれないけどね。ま、好きな人のために何としても生きて戻ってくるけどね」
「――あなたのやりたいようにやったらいいわ。私の為に行かないというより、私の為に帰ってきてくれるというほうが嬉しいわね」
 笑んだ雨霧に対して、ユリディスは髪をかき上げて照れたように口元をゆがめた。
「あ〜〜〜昼間から呑むお酒はおいし〜〜〜!!!」
 屋台コーナーにチュールを引っ張っていった慧斗萌(eb0139)は、昼間っからがぶがぶとお酒を飲み始めた。どうやら酒癖があまり良くないらしく、暫くしてくだを巻き始める。
「ていうか! 最近はエレメンタラーフェアリーとかいっぱいいるじゃん!! 冒険の可愛いパートナーは、むかしっからシフール担当って決ってるよ! それなのに‥‥ひっく☆ しゃいきん‥‥えれれんららへありーばーっか可愛がってさ〜〜!!」
「あはは、まあまあ落ち着いて〜」
 チュールの三倍の速度で消費されていく酒類。相当鬱憤が溜まっていたようで、萌の愚痴は留まる事が無い。
「あーしら、しふーる用の衣装とか作んねーくせに! なーんでへありーばっか優遇されんのよ〜〜〜!!! っういい〜〜、あーしら可愛いしふーるさんですよ〜〜っだ、っクウ☆」
 シフールゆえかあまり人に迷惑をかける行為にはなっていないのだが、うん。
「飲みすぎだよ〜?」
「ちゅーか! きいてる〜ちゅーちゃ〜ん、キャハハハ☆」
「聞いてる聞いてる〜って語尾が怪しいし」
 何がおかしいのか、それともやけになったのか、ついに笑い出した萌をどうするべきか迷ったチュールの側に、すっとローブの人影が現れた。
「他のお客さんの迷惑にならないうちに眠らせますが、良いですか?」
「あ、うん」
 一応同行者であるチュールの許可を得たエヴァリィ・スゥ(ea8851)は、萌にスリープを掛ける。元々大量の酒が入っていたせいもあってか、萌は気持ちよさそうにすーすーと寝息を立て始めた。
「ありがとね〜!」
 手をふるチュールに軽く会釈をして、エヴァリィは持ち場へと戻った。
「セーファス様、お疲れではありやせんか?」
「大丈夫ですよ。誘ってくださり、ありがとうございます」
 心配そうな利賀桐真琴(ea3625)の言葉にセーファスは笑顔を浮かべ、そして彼女の手を取る。ディアスを連れてくることは叶わなかったが、セーファスだけでも気分転換につれて来れたのはよかった。
「お弁当をつくってきやした。出来れば子供達と一緒にたべやしょう」
「わぁ、なにこれー!?」
 真琴が言った側から、幼児が彼女の側に近づいてきた。どうやらルーナの朧丸とペンギンの水夏丸が珍しいらしい。ルーナはともかくペンギンは、見たことの無い者も多いだろう。
「こっちは精霊で、こっちはペンギンという動物でやす。一緒に遊んでやってくれやすか?」
「触っても大丈夫?」
 不安そうに、だが何処か好奇心のこもった瞳で見つめる少女に真琴が頷いて見せると、他の子供達もわぁ、と歓声を上げて彼らを取り囲む。
「セーファス様、すいやせん。ゆっくりしていただこうと思ったのですが、少々騒がしくなってしまいやした」
「構いませんよ。子供達の笑顔は、何よりも大事です」
 彼のその言葉に真琴の胸が締め付けられる。リンデンでは侯爵夫妻の命は助かったものの、多くの使用人達が命を奪われた。そして魔の手から解放されたとはいえ、ディアスの負った心の傷は大きい。
「では、皆でお弁当を食べやしょう」
 だが真琴は自分が暗い顔をしていてはセーファスを心配させるだけだと知っている。笑顔で弁当の入った荷物を掲げ、子供達と彼を促した。
「あらあら、教会に行こうとおもってましたのに、また道に迷ってしまいましたわ」
 困ったように立ち尽くしているのはマリーナ・アルミランテ(ea8928)。でも何となくその賑やかさに興味をひかれて。
「まあ、何か賑やかそうで‥‥「花売り市場」ですか。ちょうど新しい植物を植えようと考えてましたからちょうどよかったですわ」
 園芸好きの彼女は、ふとその催しに惹かれて会場入りする。
 売られていた鉢や肥料を出来れば沢山購入したかったマリーナだったが、冒険者街への配達は無理と聞いて仕方なくもてるだけの購入にとどめる。だが種を少し購入する事が出来た。
「あら、カミーノ、子供達と遊びたいんですの?」
 ふと脇を見れば、ボーダーコリーのカミーノがせわしなく視線を動かしていて。周りの子供達もそんなカミーノに興味津々のようだ。
「では、子供達に遊んでもらってきなさい」
「わんっ!」
 ご主人様の許可を得ると、カミーノは千切れんばかりに尻尾を振って子供達の群れへ突っ込んで行った。わーとかきゃーとか聞こえるが、子供達の声も怖がっているというよりは楽しんでいるという感じで、カミーノとじゃれているようだった。
「たまにはこうしてのんびりするのもよいですわね」
 マリーナはその光景を微笑んで見つめつつ、近くで買ったジュースに口をつけた。
「今日は2人だけで楽しむつもりなんだ」
「え‥‥?」
 そういえばいつも布津香哉(eb8378)が連れている精霊達の姿が無い。ディアネイラはきょろきょろと辺りを探してみるが「連れてきてないよ」と笑われてしまう。
 香哉は2人分の花を購入し、そして「最近会えなかったから2人きりで楽しむつもり」とその一本を手渡して。
「そうですか‥‥2人きりで」
 ディアネイラは嬉しそうに花を握り締め、控えめに笑った。
「そういえば、その包みはなに?」
「あ、これは先ほどシャクティさんが‥‥」
 ――夜の営みに使ってくださいまし。
 そんな言葉を残して彼女に手渡して言ったのだとか。
「ぶっ‥‥」
 その単語に思わず香哉は口に含んだばかりのジュースを吹き出して。慌ててディアネイラがハンカチでそれをぬぐう。
 中身はと見てみれば、何の変哲も無い巫女装束だったのだが、ちょっとだけ香哉の中に罪悪感にも似たようなものが浮かぶ。
「そうそう、プレゼントあったんだ。ちょっと遠出した時に君のために買ってきたんだ。良かったら貰ってくれ」
 そう言って何事も無かったかのように服飾品を手渡した香哉。その心の中では、
(「チャイナ服やセーラー服はこういう場所では渡せんと思っていたが‥‥」)
 先に巫女装束が出てしまったのだから、勢いに乗じて渡してしまっても良かったのかもしれない。しかしやはりそういう服装を着せたいというのは男性の真理なのだろうか。
 とんとん。
 ディアネイラが嬉しそうに贈り物を眺めている間に、背後から控えめに肩を叩かれた。香哉が振り返るとそこには一人の少女が立っていた。
「布津さんですよね? ご注文の品お届けにあがりました」
 小声で告げた少女から目的の品を受け取り、香哉はチケット【フラワーティアラ】を渡す。出来上がった花冠は春の花々で飾られていて、花独特の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「ディアネイラ」
「はい?」
 振り返った彼女の頭の上にふわり、と花冠を載せてあげる。
「もう一つ、プレゼント」
 彼女は自分の頭上に手をやり、そしてそこにあるものを確認するとぱぁ、と笑んで。その笑顔は春の花に負けず劣らず素敵なものだった。



 メロディーの魔法を使って客引きをしたり、ウェイトレスをしたりと忙しく働いていた茜は、ふと簡易ステージのほうを見て、それから客の合間を縫うようにして渓の所まで歩み寄った。
「あの、そろそろステージの準備に行ってもいいですか?」
「おう、行ってきな! エヴァリィもな!」
 許可を得て、茜はエヴァリィと共にステージの側と進んでいく。
 ステージといっても木箱を並べて作った簡素なものだったが、どこで歌おうと歌は歌。心さえこもっていれば、その素晴らしさは伝わるはず。
「よろしくお願いします」
 護衛兼伴奏を勤める雀尾煉淡(ec0844)とエヴァリィは演奏の打ち合わせをし、女性に戻ったアマツは茜とコーラスの打ち合わせを。
「ワシもメイの騎士、コンサート中の護衛は無償で引き受けるぞい」
「よろしくお願いするよ」
 名乗り出てくれたトンプソンとキース・レッド(ea3475)は客がステージに上がらないようにするためにと打ち合わせをする。
「準備は出来ましたか?」
 煉淡が側で歌詞を暗誦していたエリヴィラに声をかければ、彼女は小さく頷いて「はい」と答えた。
「それじゃエリィ、また後でね」
「いや〜ワシも歌姫殿の生歌は初めて聞くぞい! 楽しみじゃの〜」
 キーストとトンプソンに手を振り、先にステージに上がった煉淡、エヴァリィ、アマツ、茜に続いてエリヴィラもステージに上がる。拍手が、起こった。
 最初の一音は静かに。そして流れるように煉淡とエヴァリィの旋律が滑っていく。

 どこまでも果てしなき
 大地の息吹浴びて
 たどり着いたこの場所で

 艶やかに咲き誇る祭りに
 明日は手招き
 喜びにこの胸は躍る

 深く息を吸って紡ぎだされたエリヴィラの声。それに乗せるように歌われるアマツと茜の歌。店を切り盛りしている者達も、遊びに来ていた者達も、一瞬、魅入られる。
 間奏の部分ではエヴァリィが技巧に走った演奏で客の心を掴み、しかし再び歌が戻る頃にはきちんと引き立て役へと回る。

 疲れた体
 乾いた心を
 雑踏と花々へと響き渡る
 この旋律に預けて

 杯を交わし陽気に歌い踊り
 どうか今一度の安らぎを
 ひとときの休息を
 無くしかけた希望を
 取り戻しましょう

 最期の一音が長く響く。コーラスの2人がハーモニーを作る。エヴァリィと煉淡が締めの音を紡ぐ。

 そして。

 しん、と静まり返った会場に、沸き起こる拍手。達成感を胸に、皆で深く頭を下げた。

「無粋な輩も居たものだ」
 一方、皆がコンサートに熱中している間にちょっとした騒ぎがあった。この隙を利用して売上金を持ち去ろうとした不届き者が居たのだ。レインフォルスがそれに気づき、その不届き者の腕を後ろ手にねじり上げて捕らえた。ゆっくり歌も楽しめないとは、とため息をつきつつ近くに居た官憲に引き渡す。
「お誘いありがとうございます」
「あ‥‥支倉さん」
「素敵でしたよ」
 支倉純也に声をかけておいた茜は、ステージを下りたところでその彼に声をかけられ、かしこまる。バレンタインの時にちょっといろいろあったのだが、それでも呼びたかったのだ。何から言おう、そう考える茜の口から出てきたのは――
「あの、その‥‥私、2号さんでもOKですからっ!」
「‥‥‥」
 あまりの発言内容に、純也は驚いたように目を見開いて。だが生真面目な彼は、その後すっと目を細めて右手を上げた。
 ぱちん。
 触れただけと勘違いするほどの軽い接触。当の茜とて、最初は叩かれたのだと気がつかなかった。
「‥‥‥女性がそんな事を言うのは感心しませんね。ダメですよ、自分を安売りしては」
 その言葉で初めて、怒られているのだとわかったくらいだ。
「はい‥‥ごめんなさい」
 怒るというのも優しさの一つ。茜は自分の言動を振り返って小さく俯いた。


「そろそろ一段落してきましたね」
「うん。材料ももう殆どないや」
 小さな屋台でルイス・マリスカル(ea3063)と肉野菜の串焼きや魚のフリッターを出していたミレイアが、材料を入れていた籠を確認して告げた。
「お姉ちゃん、じゃあ遊んできてもいい!?」
 目を輝かせて尋ねてきたのは、この屋台を手伝っていた少年二人。いくら子供が頑張る催しだといえ、長時間の店番はさすがに飽きてしまうのだろう。ミレイアが頷くと、2人は喜びながら他の屋台へと向かって行った。
(「すっかり大人の側ですね」)
 ルイスはそんなミレイアの成長を嬉しそうに眺め、そして。
「ミレイア、一つ我儘を言っても良いでしょうか?」
「え、何?」
 悪戯っぽく笑うルイスに、ミレイアは驚いたように首をかしげた。
「人も捌けましたし、材料もなくなりましたし、しばし屋台を閉じ一緒にまわりませんか?」
「!」
 その申し出に彼女の表情が明るくなる。
「うん、いく!」
 言うや否や手早く屋台をたたむ準備にかかる彼女。売り上げ金はしっかり手に持っていくのはさすがに飲食店の娘といったところか。
「どこにいきましょうか」
「あそこ! 村雨さんが呼び込みをしているところが気になっていたんだ!」
 ではそこで、と2人は若葉屋へと向かった。
「お、ミレイアちゃんいらっしゃい!」
「あ、2人もおしゃれしててかわいい〜♪」
「そうだろー」
 紫狼はふーかたんとよーこたんを褒められ、ご機嫌だ。ルイスとミレイアを空いている席に案内する。
「へへ、よーこたん、ふーかたん。2人とも大好きだぜ」
 ペットじゃなく、大切な家族なんだ。そんな思いを込めて二人に優しくキスをする紫狼。
「何になさいますか〜? 洋風雑煮や冷えた飲み物がお勧めにゃん♪」
「そうですね‥‥」
 注文取りに現れた貞子に、ミレイアは首を傾げる。ルイスは気づいていないのか気づいても気にしていないのか平然と注文をしているが、ミレイアは何か気になって仕方がない。
「ねぇお姉さん、何処かで会った?」
「さあ、わからないにゃん♪」
 にっこり笑む貞子。答えはクリスマスなのだが、あの時は人が多かった故に覚えていなくても仕方がないだろう。しかも貞子はサンタだったし。今日の貞子はメイドだ。
「ミレイアさん、丁度良かったですわ!」
 注文を聞いた貞子が下がると、今度は近くで正和と料理を食べていたシャクティが何かを手に近寄ってきた。
「これ、プレゼントですわ。夜の営みにお使いくださいませ」
 シャクティが差し出したのはバニーコート。ぴらりと広げて首を傾げるミレイアに、シャクティはぐっと拳を握り締めて。
「殿方をその気にさせるのは、女の務め。待ちの姿勢ではいけません!」
「夜‥‥って寝間着にでもすればいいの? ねえ、ルイス」
「私に聞かないでください‥‥」
 狙っていっているのか判断のつきかねるミレイアの言葉に、額に手を当てて苦笑するしかないルイスだった。


「そこの麗しいお嬢さん、君の美しさをもっと惹き立てる品があるんだけど‥‥どうかな? 君、僕に釣られてみる?」
 アマツは再び禁断の指輪を使ってナンパ‥‥もとい、客引きを行っていた。最初こそその値段からかあまり香水は売れなかったが、値段に二の足を踏んだ女性達が集まり、少しずつ分け合うという事でお金を出し合うことになった。それによって販売は促進されていく。
(「‥‥こんな痴態は歌姫には見せられんな」)
 アマツが心の中で呟いたとき、その歌姫はというと。キースにエスコートされながら静かに祭りを楽しんでいた。
「エリィ、そこ段差があるよ」
 歩幅もあわせ、人ごみから守るように彼女をエスコートするキース。繋いでいた手を、自然な動作で肩を抱くことに変えて。
「楽しんでくれているかな?」
 冷たいジュースをこくりと飲んだエリヴィラに、キースは心配そうに尋ねる。無理やり連れ出してしまったのではないかと。
「‥‥楽しいですよ」
 にこ、と浮かべられた笑顔が嬉しくて。ゆっくりと彼女を人気の無いところへ誘導し、そして唇を重ねる。
「エリィ‥‥愛しているよ」


「はい、アナゴの串焼きできました〜。あ」
 調理場を仕切っているひなたは、ふと出納管理をしていたクリシュナを見る。そしてそっと近づいた。
「今お客さんも落ち着いてきましたし、遊んできてもいいですよ」
「そ、そうっすか? ‥‥なら」
 小声で返事をしたクリシュナの視線の先にはクライフの姿が。誘ったクリシュナが店に付きっきりになっていたものだから、彼も一緒になっていた。
「クライフさん、一緒に見てまわりませんか?」
「ええ。僕でよければ」
「クライフさんがいいです!」
 勢い込んだクリシュナに引っ張られる形で、クライフは彼女と会場を歩んでいく。
(「あまり浮いた事もできないですが、まぁ和んでもらえれば‥‥」)
 嬉しそうに歩くクリシュナを見て、クライフも何となく嬉しくなる。
「いや〜ホント、最近はいや〜なことばっかっしょ? 今ぐらいはね〜、楽しみましょ」
「そうですね」
 花売り市場で鉢や肥料を買い求め、2人はゆっくりと歩いていく。時間を共有しているのが、さも幸せであるかのように。だが、クリシュナの心の中にはそれ以上の思いがあった。
(「いい人なんだけど、朴念仁だしね〜。今日こそは進展したいな」)
 ベンチに座り機会を覗うクリシュナ。何の機会? それは‥‥
(「うん、口にキスしちゃいましょ」)
 ちゅ。
 勢いついたせいか口から少しずれた気もするが、まあこれはこれでよしとしよう。



「さぁて、一日お疲れ様、だ」
 陽精霊の光も弱まってきた頃、会場も店じまいとなった。
 一日頑張った子供達の中には寝入ってしまった子も眠そうにしている子もいるが、年長者はがんばって片づけまで手伝う。
「頑張って片づけをした子には冷たいジュースをあげますからね〜」
 ひなたが声をかければ、子供達は嬉しそうに作業にかかる。
「さて、俺は一足先に報告に行ってくるぜ。後は頼んだぜ」
 渓は売り上げと寄付金、そしてクリシュナたちが纏めた出納帳を持って一足先にお館様の元へと向かった。その中には匿名で、と言った雨霧からの寄付金も込められている。
 これを協力した孤児院で割り振り、子供達の育成資金に宛てるのだ。
 小さな心遣いや努力が明日を担う子供達を育てる。
 冒険者達の計らいで思わぬ収益の出た催しであった。