【黙示録】白き翼の祈りは遙か彼方へ向けて
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■イベントシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 99 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月09日〜06月09日
リプレイ公開日:2009年06月18日
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●オープニング
地獄での戦いが始まって、何ヶ月が経過しただろうか。
冒険者達にも疲労の色は濃い。
各地で騒乱の種となっているデビルやカオスの魔物の動きに、人々の心も疲弊していた。
――祈りなさい‥‥。
どこからか声が、聞こえる。
職場であるメイディアの冒険者ギルドから自宅へ戻る途中、支倉純也は誰かの声を聞いた気がして振り返った。
「‥‥?」
だがそこには誰も居ない。そう、誰も居ないのだ。
通常であれば誰かが夜歩きをする者が居てもよいはずなのだが、なぜだろう――路地はしん、と静まり返っている。
――我々は祈りを力として認めます‥‥。
「どなた、でしょうか?」
一陣の冷たい風が純也の長い後ろ髪を運んでいく。と同時に彼の目の前に飛び出したのは――白い羽根。
――祈りを。混沌の地へ、あなた方の祈りを‥‥。
「!?」
それは幻覚だろうか、このアトランティスの地では概念としても殆ど存在しないであろう者。
流れる銀の髪、輝かんばかりの白き翼は闇夜にも映えて。その緑色の瞳は真っ直ぐ純也を見つめていた。
「‥‥天使、様でしょうか‥‥?」
半信半疑で呟く。ジャパン出身の彼もアトランティスに来る前はジ・アースの他国を旅した事があった。故に知識としては持ち合わせているが、実際出会うのは初めてである。
教会の絵画にあるような美しいその姿。それがそのまま目の前にあった。
――ラファエル様、ガブリエル様からの啓示を伝えます‥‥。
目の前の、男性に見える彼は、純也の言葉を否定しなかった。あろう事か、その口から飛び出したのは高名な天使の名前。
――祈りなさい。地獄での戦いという大きな試練に挑みし者たちよ、祈りなさい‥‥。
「祈り‥‥それは神に祈れということでしょうか?」
――神という信仰のないこの地で、我々や神に祈れというのは無理がありましょう‥‥。
「では、何にでしょうか?」
思いの他冷静に対応できている、純也は早鐘を打つ胸に手を当てて問う。
――何でも構いません。強き想いは形となり、あなた方を守る力となりましょう‥‥。
要するに、神への信仰を持ち合わせていない者は何に祈っても良いというわけだ。想いの強さが、形になるのだと目の前の天使は語る。
「‥‥わかりました。ご意思通りそれでは人々を集めましょう。‥‥あなた様のお名前をお聞かせ願えますか?」
純也は片膝をつき、そしてその天使を見上げた。天使は柔らかく微笑み、そして口を開く。
――私の名前はラミエル。ラファエル様とガブリエル様からの啓示を伝えに参りました‥‥。
「祈りの形は‥‥ラミエル様がご検分くださるのでしょうか?」
――私は祈りの儀式の全てを見まもりましょう。祈りが形となるべきに相応しいものと判断できれば‥‥あなた方にささやかな祝福を与えます‥‥。
「わかりました。出来るだけ沢山の人々に声をかけてみることにします」
――人の子よ、試練に打ち勝ちなさい。頼みましたよ‥‥。
そう告げると、ラミエルは純也の目の前からぱっと掻き消えた。
幻覚だったのだろうか――そんな疑問がよぎったが、耳に響いてきた美しい声はまだ頭の中にある。
純也は急ぎ、冒険者ギルドへと取って返した。
●リプレイ本文
●神への信仰のない地に舞い降りたからには
会場となる森の中の湖には依頼を受けた冒険者達を初めとし、約200名程の一般人が集まっていた。急な募集、それもいまいちわかりにくい募集要項で、良く集まってくれたといえる。
アトランティスには宗教の概念はない。故に神や天使や悪魔などの概念もないのだが、教会は存在する。ジ・アースからやってきた者がほそぼそと布教をしているのだが、なかなか一般市民にまで浸透しているとは言いがたい。
「こうして実際に足を踏み入れると、ジ・アースとの違いに驚くばかりです」
といいつつ空を見上げるのはリーディア・カンツォーネ(ea1225)。朝になれば月精霊から陽精霊への移り変わりで空が綺麗に輝くらしいが、祈りが終わる頃には見れるだろうかと思いつつ、集まった人々に儀式の手順を説明していく。
だがアトランティスの人々は竜と精霊を『祀る』ことはあれど『縋る』ことはない。ここが神への信仰と竜・精霊信仰の違いだろうか。
「私達アトランティスの住人にとって、天使という概念は良くわかりません。ですが、人々を見守っている存在と考えて良いのですね」
ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の言葉にリーディアは頷く。
「ならば力を貸しましょう。信仰の対象は違えど、地球人もジ・アース人もアトランティス人も平和を願う想いは同じはずです」
「‥‥精霊さん達への信仰心は昔から存在しているのですね。尊び、感謝する存在が居るのなら、それだけでも十分‥‥」
ベアトリーセから説明を受けたリーディアはほにゃ、と柔らかい笑みを浮かべて人々に説明を続ける。何にでも構わない、祈る心が大事なのだから。強い思いが力になるのだから、と。
「あ、リーディア総司令さんがいる。頑張りすぎて無理しちゃダメだよ?」
ミフティア・カレンズ(ea0214)に手を振られ、リーディアは「はい、ありがとうございます」と笑みで返した。踊る予定のミフティアは奥の湖畔に移動しつつ、呟く。
「此処ならお祈りがもっと真っ直ぐ届くって聞いたの。パリやジ・アースの皆の分ももっとお祈りが届きますように」
「しかし神への信仰のない地にエンジェルが降りてくるとはね‥‥」
オルフェウスの竪琴を片手にセイル・ファースト(eb8642)が呟いた。ジ・アースでの活動が多い分、こちらより信仰の念に理解があるというセイル。もっともそれほど信仰が篤いというわけではないらしいが。
「祈りを捧げる事自体はいつもやっていることだからね。普段と変わらないようにセーラ様に対してお祈りするよ。でも想いだけはいつもの倍以上こめちゃうんだから」
と純也に対して語ったレフェツィア・セヴェナ(ea0356)の頬は何処か上気している。その理由を尋ねる前に、彼女自ら勢い込んで語ってくれた。
「それよりも、天使様が‥‥天使様が本当にいらっしゃったッって!! ここにも来て下さるのかな!?」
「さあ‥‥? しかしラミエル様は見守っていらっしゃるでしょう。素晴らしい祈りが捧げられれば、万が一という事も‥‥」
つかみ掛からんばかりの勢いで興奮されても、純也は冷静に返答を返す。今のところ彼が唯一のラミエルとの接触者だ。聖職者である彼女が羨ましがるのも無理はない。
「天使、とは‥‥一応話には聞いたことがありますが、にわかには信じがたいですね」
「こちら風に言うなら、精霊の僕という感じでしょうかね」
セーファス・レイ・リンデンに対して利賀桐真琴(ea3625)は天使という概念を説明してみせる。だがやはりイメージはしがたいようだ。
「我々メイの者は、竜や精霊に祈ってもよいのだな?」
「はい。それで構いません」
イーリス・オークレールを呼んだイリア・アドミナル(ea2564)は、簡単に儀式の説明をした後、【祈紐】を手渡した。
「気休めと思うかもしれませんが、地獄の悪魔に対してこの【祈紐】は威力を発揮しました。出来ればリンデンでも広めて、黒翼の復讐者や炎の王への対抗策になれば、と思います」
「わかった。試してみよう」
イーリスは静かに頷いた。
「なんかもう何でもアリだよな、天使かよっ! まあ俺のエンジェルはモチ、ラブリースイーツなふーかたんとよーこたんだっぜ!!」
地球人の村雨紫狼(ec5159)はある意味順応性が高い。まあ地球からこの世界に放り出されては、順応せずに過ごすほうが不便が多い。自然、順応せずには居られなくなるのだ。ちなみに彼の天使は、シルフのふーかたんとミスラのよーこたんだという。人の嗜好はそれぞれ、ということだ。
「神様か。元居た世界じゃ神様って自分達の主義主張を言い張る存在だったり、金儲けの道具だったりしてたもんな。かくいう俺も無神論者だったもんだし、けどこの世界に来て聖職者の奇跡を目の当たりにしてみれば、信じるようになるわな」
こちらも地球人の布津香哉(eb8378)。矢張りまずは自分の世界の『神』という概念との比較から始まる。そして、この世界での聖職者の起こす数々の奇跡。それを思い出せば、信じるなというほうが無理だ。
「地獄の戦いの予行演習にもなる、気を抜くんじゃないぞエリィ」
事実、地獄では有志が歌と祈りを相乗させて立ち向かっていた云々――キース・レッド(ea3475)は隣に立つエリヴィラ・セシナに述べる。かの歌姫はわかっていますとゆっくり頷き、そして雀尾煉淡(ec0844)と共に湖の淵へと立った。煉淡は光の射さぬ真っ暗闇で狂化するというエリヴィラの為にランタンを足元に置き、ホーリーフィールドを唱えた後、ローレライの竪琴を構えた。
他にも演奏を考えている組はあったが、エリヴィラと煉淡が一番手を努める事になった。理由は、アトランティスの一般市民が沢山参加しているから、である。なぜかといえば――演奏が始まった。
●天使に届け、想いと祈り
竪琴の柔らかな調べが始まると、会場は水を打ったように静かになった。そして、暫くしてエリヴィラが息を吸い込み、煉淡の作った歌詞を紡ぎ始める。
遥かな祈り
願いは空を翔ける
見上げた月の彼方へと
彼女が最初に歌うのは意味がある。ほら、辺りを見れば、ぽう‥‥と明るい光がいくつか生まれ始めている。
奪い与え消えゆく
戦いの炎
巡りゆく想いの輪と
重なり踊る
「何!?」
「え、精霊様!?」
精霊招きの歌姫として、エリヴィラの歌声は歌好きのエレメンタラーフェアリーを呼び寄せた。祈るという事がいまいちしっくり来ないアトランティス民たちも、目の前に姿を現されれば祈りやすいだろう。
祈りは集う
幾多の魂集う地へ
想いの息吹受け
幾億の命
幾多の願い
数多の祈り
煌く
(「私の場合、天使はイメージしにくいので精霊や竜への祈りでいいのかな。両方に近い人を知っているんだけど」)
ベアトリーセは歌を耳にしながら、遠くジェトにいる精霊を思い描いていた。少年の姿しか知らないが、天使とはああいう少年の姿をイメージすればいいのかな、と思う。そして、一番強く想うのは――
(「国や世界に関係なく共に平和のために戦う祈り、これから先、試練とカオスやデビルに立ち向かうことを誓います」)
――誓い。
「いつか再会した時に、胸を張って会えるようにしないとな」
風烈(ea1587)はかつて遠くジ・アースの地で出会ったロー・エンジェルのことを思い浮かべる。ロー・エンジェルが人は道を選べないおもちゃの人形ではなく、自らの意志で立ってどこにでも歩けると言っていたように、躓く事はあっても人が道を踏み外すことなく進んでいけるようにと祈る。
(「人以外にも精霊や天使が力を貸してくれている状況‥‥こんなにも手を差し伸べ、見守ってくれる存在がいる以上杞憂か」)
世界のどこかで同じように祈っているだろう、今でもかけがえのない仲間の無事を祈る。
跪いて真剣に祈りを捧げているのはルイス・マリスカル(ea3063)。何処か近寄りがたい雰囲気をかもし出しているが、その心中はいかばかりか。
(「主の創りたもうたジ・アースと異なる世界、アトランティス。教会はあるものの、基本的に主を信ぜず、精霊と龍を奉っており。この地の女性――ミレイアを妻としたことは、主に背く行為とも断じられましょう」)
彼が行っているのは懺悔。この地で、この地の女性を伴侶としたことへの告解。
(「彼女は優しさなど心の美を備えた女性であり。私が彼女を妻としたのは大罪たる色欲に溺れてのことではありません。彼女は『皆に祝福されて結婚式を挙げたい』との願っています」)
風霊祭で告げられた、小さな小さな願い。だがそれを、ルイスは叶えてあげたいと想っている。だから、こうして一心に祈る。
(「もし赦されるものならば、過分な願いと承知した上で。私達の結婚をお認めいただき、祝福を賜れませんでしょうか」)
慈愛の母たるセーラ様に願い、祈る。この祈りが――届きますように、と。
エリヴィラによる歌の演奏は終わり、木村美月(ec1847)による詩の朗唱へと移っていた。地獄の脅威が去り、みんなの笑顔が戻るように、精一杯美月は朗々と声を張り上げる。
(「これ以上カオスの魔物や悪魔に蹂躙されないように、この現状を打破するために微力なれど祈らせてもらう。大切な人とのんびり過ごせる世界にするために」)
香哉も目を閉じ、祈る。だがちょっと目を開けて、何処かで見ているというラミエルに向かって。
(「あと、願わくば、カオスと悪魔について解明するためのヒントを教えていただきたい」)
なんて言って(思って)みたりして。言う(思う)だけならタダだし。
歌を終えたエリヴィラの傍で祈るのはキース。神の奇跡ではなく、人の努力から掴み取る平和を祈る。
(「神よ、我らを愛しておられるならば。どうか最後まで手をお貸しにならないで下さい」)
これを聞いた神は、一体どんな反応をするだろうか?
(「真面目にやんねーと周りの先輩達にフルボッコにされちまいそうだよな」)
紫狼はきょろきょろ周りを覗いつつ、そしてみようみまねで祈りを捧げる。
(「強い想いってんなら、俺とよーこたん&ふーかたんのラブパゥワーだって負けてねーっぜ!! やーっぱ最後は愛だぜ、愛!! 俺たちの絆、とくと見てやがれラミ何とか野郎!」)
強い思いなのは構わないのだが、最後のほう、ちょっとやばくないですか?
(「俺は神野郎の為なんかじゃねー、俺を慕ってくれる二人の女の子を泣かせねー為に戦ってんだよ!!」)
心意気は十分解りましたが、こういう場ではある程度慎みましょう。自重することも大事です。
セーファスと共に跪いた真琴は、一心に祈っていた。セーファスが己の望む幸せをつかむ事、そして己の責任を果たせる立派な男性になる事や、たとえ、彼と添い遂げられぬとしても己が彼を愛する想いを失わぬ事等‥‥健気なほどに。
そんな彼女の手に、横から伸びた手がすっと重ねられた。
「!」
その手の主を見ると、真琴の一途な思いを見抜いたかのようにセーファスが柔らかく微笑んでいた。それこそ、天使の様に端正な笑顔で。
真琴は一度頷き返し、そしてまた祈る。今度は己が不幸にも殺す事となってしまったディアーナ嬢など、名を知る方々の冥福を。
(「なにもかも上手くいかせる事なんて不可能でも‥‥どんな絶望でも決して諦めたりしやせん‥‥あなたの命を奪ったケジメはとりやすよ。どうか安らかに‥‥)」
セイルがオルフェウスの竪琴を奏でる。デビルとの戦いで散っていった多くの仲間の冥福を想い、この手で守れなかった命の事を想う。
その音に乗って、祈りを込めて舞うのはミフティア。明るい旋律の時は留守番をしているフェアリーのように高く飛んで、腕を軽やかにふわりと掲げて、皆の優しい気持ちを持ち上げるイメージで。
歌詞に組み込んだ聖句の一節をセイルは大切に歌い上げる。想いが届くように。少しでも多くの想いが、届きますように。
優しい旋律には静かにくるり回りながら、想いを救い上げるような柔らかい手の動きを見せるミフティア。雲間の透扇で、雲の間からきっと降り注ぐ希望の光を信じて。
(「私達自身の心にも、お日様がもっと輝きますように」)
ペガサスのウィンディア、風のエレメンタラーフェアリーのウェイリアと共に祈りを捧げるイリア。この依頼を通し多くの方と知り合いとなり縁を繋ぐ事で、リンデン侯爵の領地を混乱に陥れた黒翼の復讐者の力を殺ぐ為に、祈りの力で天の加護を願い、かの地で生きる人々の為に一心に祈りを捧げる。彼女の隣では、イーリスも目を閉じて真剣に祈りを捧げている。
(「色んな方々と共に祈れるのは、嬉しい事なのです」)
ふわんと心をあったかくさせながら、リーディアは祈る。地獄での戦いを思い返して。
(「地獄での戦いは、私達自身の心との戦い‥‥。だからこそ戦い、祈り、願ってやみません。争いの終結を。心の平安を。穏やかな時が、訪れる事を‥‥」)
祈る対照こそ違えど、誰もが一心に祈る。
確かにその場に想いは満ちた。
人が沢山集まれば、それだけ想いの数は多様だ。
だから、想いの内容が問われることはあるまい。
敬虔な祈りのみを欲するならば、それらが得られる地へと、天使は赴くはずなのだから。
だから、彼は舞い降りた。
月精霊から陽精霊へと色を変える、暁の空に。
●想いは届き、天使は舞い降りる
――あなた方の想い、祈り。しかと受け止めさせていただきました‥‥。
「天使様が‥‥天使様が本当にいらっしゃったッ!!」
純白の羽根、流れる銀の髪、緑の瞳――空に浮かび上がった天使、ラミエルは厳かに告げる。その姿に思わず、レフェツィアが歓喜の声を上げた。
「やっぱり神様は本当に居るんだッ!」
長らく信仰を続けてきた彼女にとっては、それが何よりも嬉しい事で。嬉しすぎてどうしたらよいのかわからない状態だ。
そんな彼女にも、ラミエルは等しく笑みを与える。
――強い祈りを形としましょう。手を‥‥。
言われるままにそれぞれが手を差し出すと、その上に乗せられたのは小さな結晶。だがそれは大勢の祈りが結晶化したもので、手にしていると少しだけ幸せな気持ちになる品物だ。
「これは‥‥」
美月が結晶を握り締め、尋ねる。するとラミエルは優しい表情を崩さず、口を開いた。
――混沌のかの地で祈りを捧げる際に使うとよいでしょう。祈りの力が強くなり、そしてあなた方を導くでしょう‥‥。
ラミエルは冒険者達に祈りの結晶を与えると、ふぁさと背中の羽根を羽ばたかせ、そして――。
「もう、行ってしまわれるのですか?」
リーディアの言葉に一度振り返り、ラミエルは笑んだ。
――我々はいつも、あなた方を見守っています‥‥。人の子よ、どうか挫けずに‥‥試練へと立ち向かってください‥‥。
ゆっくり、ゆっくりと上昇していく彼は、まさに天に帰っていくようだった。
「あれが天使様‥‥」
誰かの口からため息が漏れた。その美しさはこの世のものではないようで。全てが、一段上を行っているかのようだった。
まさに『神の使い』といわれて信じられる、そんな威厳も持ち合わせていた。
夢ではない、その証拠に――彼らの手にはしっかりと祈りの結晶が握られていたのである。