【薔薇の楔】愛の再確認

■イベントシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月18日〜06月18日

リプレイ公開日:2009年07月07日

●オープニング

●顧客増進計画
「月末に結婚式をしようと思ってるんだ」
「‥‥‥は?」
 冒険者ギルドに現れた地球人調香師・石月蓮の突然の言葉に、応対に出た職員は素っ頓狂な声を出した。
 蓮は先日のブライダルフェアの時、自分は結婚する気はないと言っていなかっただろうか。
「僕が結婚するわけじゃないよ?」
「え、あ、は、はい」
 職員をじとめでねめつけ、蓮は口にする。職員は内心を見透かされたような気がして、慌てて頷いて平静を装って見せた。
「知人に結婚式を挙げたいっていうカップルが居てね。その式をプロデュースしようとおもうんだけど、どうせなら他にも結婚式を挙げたいって人たちが居たら、そのカップルも引き受けようかと思うんだ」
 勿論、式自体は別個に行われるという。だがどうせなら沢山の顧客を得たほうが、蓮自身も儲かると考えた。だがいきなり「結婚式」と言われても、心の準備が出来ていないカップルもいるだろう。だったら。
「デートコースを設定して、プロポーズしてもらおうってわけ」

 今回用意されたのは、月精霊の輝きが良く見える丘。適度に木陰があり、そして蓮と有志によって二人がけのベンチがいくつか設置されているという。
 仲間にこっそりムーンフィールドを使ってもらって雰囲気作りに協力するとか、色々と考えているらしい。

 ちなみに飲食物の持ち込みは各自でお願いしたい。

 時刻は夜。
 月精霊の輝きがきらめく丘で。
 二人だけの時間を――。

●今回の参加者

巴 渓(ea0167)/ アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ 利賀桐 真琴(ea3625)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ 鳳 双樹(eb8121)/ 布津 香哉(eb8378)/ ルシール・アッシュモア(eb9356)/ セルシウス・エルダー(ec0222)/ 土御門 焔(ec4427)/ 水無月 茜(ec4666)/ 村雨 紫狼(ec5159

●リプレイ本文

 月精霊が夜空に瞬く。それはジ・アースの星空や地球の星空と一見似ているようであるが、それが精霊の輝きによるものだと聞かされるといつもの夜空よりロマンティックに見えるのは何故だろうか。


「よう、石月。合同祝言のプロデュースだが俺も協力させてもらうぜ!」
「それは助かるけど‥‥それを言うためだけに来たの?」
 巴渓(ea0167)の申し出にいつもの調子で返しつつ、発起人の蓮は首を傾げる。
「いや、ちーと静かに酒を飲みたくてな」
 そんな日もあるだろう。彼女が誰の事を思っているかはわからないが。
「まあ、他のカップルの邪魔しないなら止めはしないけどね」
「それくらいわかってるぜ。隅っこでこっそりしているからよ!」
 渓は手を振って、丘の下のほうへと歩んでいく。手には酒瓶。丘の上の景色が一番良いところにはカップル達が居るだろうと予想をしたためだ。
「石月さん、ムーンフィールドを使うときはお手伝いいたしますので、お声をおかけください」
「‥‥‥それはいいんだけどさ、でかいよね、この竜」
 土御門焔(ec4427)が雰囲気作りの手伝いとして連れてきたムーンドラゴンは体長6m。雰囲気作りを協力する以前に目立つ。目立ちすぎてカップル達を怯えさせないだろうか。
「それとこれを。トレントという木の樹液で作ったといわれてる指輪で、樹液の香りか何かが異性を惹きつける効果を持ってるようです」
 焔が差し出したのは魅了のリング。男性が女性をナンパするときに効果を現すという不思議なリングだ。蓮はそのリングをしげしげと眺めた後、ひとさし指にはめて。
「こんな指輪をくれるって事は、僕にナンパされたいの? それとも、僕にいい人が見つかるようにって心遣い?」
 意地悪な笑みを浮かべる蓮にも焔はまったく動揺せず。彼のこんな調子にはもう慣れっこになっていた。そして、彼に変化球が通じない事も先のブライダルフェアでわかったので。
「差し支えなければ結婚前提のお付き合いを希望します」
 ストレートで攻めた。
「‥‥‥は? 誰と誰が?」
「私と、石月さんです。最終的判断は石月さんにお任せします」
 さすがにここまでストレートに言ってはぐらかされる事はないだろう、焔は柔らかい笑みを浮かべて蓮の返答を待つ。
「からかってるわけじゃないよね?」
「勿論です」
「自分で言うのもなんだけど、僕は相当我儘で俺様性格だし、これまで付き合った女はそんな性格についていけないとか、従順すぎて泣いてばかりいて鬱陶しくなってこっちから別れてやったりとか‥‥」
 しどろもどろになりながら、彼らしくない表情を見せる蓮。いつも泰然としている彼から、動揺が感じられる。そんな様子が面白くて、焔はくすり、と笑って答えた。
「このまま石月さんの世話を焼くのも楽しいかと思いまして。好きな人との時間を大切にしたいという気持ちもあるのは事実です」
 焔の素直な気持ち。だが押し付けにならないように最終判断は蓮に任せる彼女。蓮は口をぱくぱくさせて、そして彼女から視線をそらした。
「‥‥確かに僕は一人じゃ生活能力に問題があるし、世話をしてくれる人がいると助かるけど」
 その横顔に朱が差している事は、月精霊の下でもわかる。
「まあ、どれだけ逃げ出さないで居られるか、試してあげてもいいよ」
 その素直じゃない物言いの真意を理解して、焔は目を細めた。この世界で、いつまでも子供みたいな青年の世話を焼く事、それも楽しいかもしれない――その思いが彼女を包む。
「それでは、最長記録に挑戦してみましょうか」
 微笑みながら、彼女はそっと蓮の顔を覗き込んだ。


 月精霊の輝く夜空を、一頭の天馬がゆっくりと羽ばたく。その背に乗っているのはセルシウス・エルダー(ec0222)とアーシャ・イクティノス(eb6702)。婚約者同士だ。
 アーシャの純白のドレスの裾が、尾を引くようにひらひらと風に乗ってはためき、そのドレスに合わせた純白の礼服に身を包んだセルシウスは、まるで白馬の王子様のようだ。
 初めてのアトランティス。アーシャがセルシウスの胸に回した手を、彼の大きな手が優しく包む。彼女の温もりを背中に感じて、セルシウスは幸せを噛み締めた。
「私の故郷は同族でもハーフエルフ同士の結婚は祝福してくれないけど、月の精霊さんは祝福してくれるかなあ」
「これだけ優しい光で包んでくれているんだ。祝福してるに決まってるさ」
 ぼそり、呟かれた彼女の言葉をセルシウスは優しく拾って答える。
 地上より月精霊に近い位置にいる彼らを、月精霊がその光を持って包みこむ。
 月精霊の光のせい? 精霊のご加護のせい?
 アーシャの胸はいつもより高鳴っていて。
(「どうしてこんなにこの人はカッコイイんだろう。どうしてこんなにこの人が好きなんだろう」)
 自問するごとにぐっと胸が締め付けられて、切なくて切なくて、愛しくて愛しくて、自然、溢れるのはキラリきらめく涙。
「幸せすぎて涙が出そう‥‥」
「アーシャ‥‥」
 ゆっくり振り向いたセルシウスが、彼女の顎を手で支えてその目元にそっとキスを落とす。
 愛しい彼女の涙は、ほんのり甘い愛の味がした。


(「しっかしさー、まさか焔さんが石月さんにね〜。ちょっと前のウェディングのアレだよ。他の人たちも、いろいろ事情があるみたいだったからな‥‥。ラブってハッピーならさ、それでいいじゃんって思うんだがなぁ」)
 自身でもその「事情」を抱えている村雨紫狼(ec5159) は、精霊のよーこたんとふーかたんをベンチの両脇に座らせ、少しばかり真剣な表情を作る。
 この後命がけの依頼に挑む予定だ。愛する二人は――連れて行けない。
 両手で優しく二人の頭を撫でる。
 彼にとって二人はペットではない。大切な家族だ。愛すべき恋人だ。
「異種族婚がタブーかぁ。人間と精霊もアレか、石投げられちまうのかな?」
 まあ見た目幼女の精霊二人を夜の丘に連れ出している今の状態も、彼の故郷地球だとしたら警官に職務質問されるだろうけどなんてお茶らけたことを考えつつも、自分を信頼してそっと身を寄せてくれる二人への愛しさを再確認して。
 世間が何を言おうとも、神様が、精霊様が認めてくれずとも、彼のこの気持ちを変える事は出来ない。
「‥‥なあ、二人とも」
 紫狼はベンチから立ち上がり、そして二人と視線を合わせるようにして向かい合ってしゃがんだ。二人は何事かときょとんとした瞳で、ご主人様を見つめる。
「俺と、本当の家族になるか?」
「かぞく?」
「ほんとう、かぞく?」
 ミスラの少女とシルフの少女は、深い意味はわかっていないだろうが、それでも嬉しそうに嬉しそうに笑顔を浮かべた。
 紫狼の真剣な気持ちと、家族という言葉の持つ暖かさが、伝わったのかもしれない。


「真琴さん、どうぞ」
 ベンチの上に広げられたシルクのハンカチーフを見て、一瞬固まった利賀桐真琴(ea3625)は、ありがとうごぜえやすと礼を述べてちょこんとその上に腰をかける。そして、そのエスコートを体験して、この人はやっぱり貴族の子息なんだと改めて実感する。
「真琴さん‥‥私と一緒に居て、楽しいですか? いつも、気を使わせてしまってばかりで‥‥」
「ふふ、安心して下せぇ、今あたいはとても楽しんでやすよ」
「それならばいいのですが‥‥」
 隣に座って優しく微笑む彼、セーファス・レイ・リンデンの髪が風に揺られるのを、真琴はじっと見つめた。
 彼は侯爵家の長男。立場がある。ただ好きだからという己の感情のみで結婚相手を選ぶ事が出来ない――それは重々承知だ。でも、真琴は彼への想いを消し去る事は出来ない。だから、せめて迷惑をかけないように。恋人同士というより親密な友人であるように心がけていた。
「今宵は一献お付き合い願ぇやすよ」
 真琴が取り出したお酒を、セーファスは持参したコップに受け取り、口をつける。
「真琴さんには‥‥いつも辛い思いをさせて申し訳ないです」
「そんな‥‥謝らないでくだせぇ」
 謝られると、辛くなる。けれどもこの実直な子息は、いつもそうして謝罪の言葉を口にする。
「あたいは‥‥あなたの優しさに甘えるべきじゃないとはずっと思ってやした‥‥、あなたが領主でなければ、立場ある貴族でなければと嘆いた事もありやす‥‥ですが、あなたがそうして己を律し、皆の方の為に強くあろうとするその姿勢にこそあたいは胸打たれたのだと‥‥」
 酒を飲みながらぽつり、ぽつりと語る真琴の言葉に、セーファスは静かに耳を傾けている。心の痛みからか、その表情をわずかに曇らせて。
「真琴さん? 眠ってしまったのですか?」
 ふと、肩に重みを感じてセーファスが小声で問う。黒い睫毛が小さく震え、う‥‥んと小さな声が漏れた。
「ゆっくり、おやすみください‥‥」
 一瞬、二人の影が重なったのを、月精霊が静かに見つめていた。


 二人がけのベンチ。ペガサスから降りたセルシウスとアーシャは身を寄せ合うようにして、きらめくムーンフィールドが、二人の世界を形作っている。
「皆、待っていると言っていた。未来の領主夫人が帰ってくるのをな。俺の故郷の、あの綺麗な空と海と森を貴女に見せたい」
 じっとアーシャの碧の瞳を見つめ、そして反らすことを許さぬ意志の強さでセルシウスは言う。
「セラ‥‥」
 その言葉に感銘を受けたアーシャは、一度目を閉じて、そして再び開いたその瞳をセルシウスただ一人に向けて言葉を紡いだ。
「私、アーシャはセルシウス・エルダーを夫とし、生涯愛することを誓います」
 そしてゆっくりと、彼の顔に自分の顔を近づけ――吐息が届くその距離になった時に、ふわり、辺りを芳香が包んだ。
 静かに唇を合わせた二人が空を振り仰ぐと、二人を祝福するかのように白い花が空から降り注いでいた。その花には仄かに蓮の作成した香水が振り掛けられていて、香りは弱いが美しい花が香水の助力を得て完璧な花へと変貌を遂げていた。
「アーシャ‥‥愛している。世界中の誰よりも‥‥!」
 ほわりとした甘い香りに包まれて、セルシウスはアーシャを力強く抱きしめた。それが彼の愛の表れでもあった。


「結局、スーさんとはマトモに話す事もなかったな‥‥。懐のスクロールが、奴の置き土産か」
 渓は一人、懐に手を当てて考える。彼女が思うのは先日対峙したデビル、ストラスのこと。デビルに肩入れするわけではないが、ああいう奴とは旨い酒が飲めたのではないかと考える。
「地上覇権の野望を抱く妖魔の夢に、愛する者と生きたいと願う人の夢。同じなんだよ‥‥俺たち人間も妖魔もな」
 だから負けてやるわけにはいかないのだ。
「ジャパンの銘酒、いつか呑むつもりで持ってきたが、スーさんの為に開けるぜ」
 静かに酒瓶を傾け、注ぐ。こぽこぽと小気味よい音を立てて、透明の液体が波を作る。ふわっと漂った酒独特の匂いが、今は心地良い。
「変わり者のフクロウ博士と、変わり者の与太者に‥‥乾杯だ。地獄で逢おうぜ、スーさん」
 くいっと酒を煽った渓を、月精霊は静かに見つめていた。


「ディアネイラってお酒強かったっけ?」
 丘の芝生の上に腰掛けて、布津香哉(eb8378)が隣に座ったマーメイド、ディアネイラを見る。彼女はヒレを乾かして足にして、今は白いワンピースに身を包んで香哉の隣にいる。
「えと‥‥集落に居た頃はあまり飲みませんでしたので‥‥少しだけなら」
「じゃあ家にあったののうち飲みやすそうなのを持ってきたから、それをあけよう」
 香哉が封に手を掛けている間に、ディアネイラはいそいそと持参したバスケットを開ける。中にはパンにハムや野菜を挟んだ簡単なサンドイッチと、魚のミニフライやミートパイが入っていた。お酒のつまみというよりは、ピクニックのようであるが、彼女の手料理ならどんなものでもいいと思ってしまう香哉である。
「異種族か‥‥マーメイドだとか俺はまったく気にしてないがな」
 片手にサンドイッチを持った香哉は、ディアネイラを抱き寄せて膝の上に乗せる。彼女は驚いたようだったが、嫌がる様子はなく彼に体重を預ける。
「目の前にいる子が、可愛くて、けなげで、儚げで、俺が愛してやまないディアネイラって女の子なんだぜ。他の奴らに異種族と言われようと、俺は後ろめたいとも思ったことがないし。君を愛してる。大好きだ。俺の側にずっと居てくれるかい?」
「勿論です‥‥お側においてください」
「軽い意味じゃないからな?」
 サンドイッチを置き、膝の上の彼女を両腕で抱きしめ、香哉はその耳元へ囁く。
「例え人に認められる結婚は出来ないにしても、ともに人生を歩む伴侶として俺の側に居てほしい」
「‥‥‥!」
 返事は、ぎゅっと握り締められたその小さな手にこめられていた。


 丘の中腹の木の下で、水無月茜(ec4666)は支倉純也を目の前にしていた。半ば潤んだ瞳で、彼を見つめる。
「いままで失礼な事を言っちゃって‥‥本当にすいませんでした。あの‥‥故郷に、好きな人が‥‥いるんですよ、ね」
「‥‥そうですね」
「なんで‥‥帰らないんですか! 支倉さん‥‥なんで‥‥なんでそんなに優しいんですか」
 心の叫びを伴った茜の訴えに、純也は曖昧な微笑を浮かべて。そして。
「この地でやるべきことを終えたら帰ります。そして、私は優しくなんてないですよ」
「‥‥‥」
 それはまるで茜がこれから告げようとしている言葉を見透かしたような一言で。だから、茜は笑うしか出来なかった。
「あはは‥‥やっぱり、ダメでした。こんな‥‥こんな見苦しい想いなんて‥‥わたしって‥‥嫌な女だなぁ。どんなに無理だって分かってても‥‥支倉さんの事が、大好きです‥‥」
「嫌な女なんて言っては駄目ですよ。自己卑下は誰も得しませんからね」
 その優しい言葉を聞くと、一度だけ、一度だけと願う茜の心が大きくなる。
「でも‥‥今夜で最後にします。だから‥‥」
「その先は、聞けません」
 柔らかいけど断固とした一言。それに遮られて茜は口をつぐむ。
「その先を聞いて受け入れてしまったら、あなたも私も後で後悔するでしょうから」
 だから許してください、純也の茜を思っての小さな声が、風に乗って流れた。


「双樹、疲れた?」
「あ、い、いえ‥‥」
 丘の上を腕を組んで歩いていたアシュレー・ウォルサム(ea0244)と鳳双樹(eb8121)は、ベンチを見つけてふと足を止める。
 双樹は慌てて否定したが、アシュレーは彼女の腕を引いてベンチに座らせると、持ちこんだ料理の包みを開き始めた。
 一方、いつもアシュレーに誘ってもらい、もったいないくらいの思いを寄せられているにもかかわらず、双樹は戸惑って返事を曖昧にしていた自分を振り返っていた。
「ん」
 白身魚のフリッターを口に咥え、そのまま顔を突き出すアシュレー。一瞬何事かと思った双樹であったが、その意図を察して赤面しつつも、反対側にちょこんと口をつける――口移し。
「美味しい? ワインもあるよ」
 双樹は真っ赤になって俯いたが、アシュレーは遠慮するなどという思考はないらしく、もって来た杯にワインを注ぎ、そして自らの口に含む――同じ杯を使うとかそういう思考はない。勿論ワインも口移しだ。
「ん‥‥ふ‥‥」
 こくん、と口移しされた人肌のワインを双樹は嚥下する。その口の端から細く滴った雫を、アシュレーは躊躇いもせずに自らの舌でなめ取った。
(「もう、私なんかじゃもったいないのでは、と思うのもやめます」)
 頬が上気して、目の前の人がとても素敵に見えて、心臓が跳ねるのはお酒のせいだろうか――いや。
「双樹‥‥」
 アシュレーの瞳が真剣なものに変わった。黒い瞳が真っ直ぐに双樹を射抜く。
「‥‥双樹の一生もらってもいい?」
「‥‥‥!」
 どきん、と一際高く双樹の胸が跳ねた。いつもならここで返事を曖昧にしてしまったところだ。だけど今回は――
(「私は、今までとは違います」)
 彼に相応しくないのではと悩むのではなく、彼に相応しくなれるように頑張ろう、そう決めた彼女だから。
「――はい」
 精一杯の笑顔で彼の顔を見つめ、そしてプロポーズを受け入れる。
「双樹‥‥ありがとう」
 アシュレーはゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。そのまま彼女を抱き上げてベンチからおろし、そしてそのまま身体を傾けて――。
 お互い過去には色々とあったかもしれない。それでも彼らは「今」を歩み行く。新しい未来を作っていこうとしているのだ。

 月精霊の輝きが、長い夜に育まれる愛を静かに見つめていた――。