【硝子の翼】王の戯れ【黙示録】

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月23日〜07月28日

リプレイ公開日:2009年08月05日

●オープニング

●この王はかの王の事情を知る
 その館はメイ国内にあるらしいが、館内部からでは場所を覗う事は出来なかった。
「ふむ‥‥境界の王は面白い事をしていたね。どうやら自分の命さえも賭けたようだけど‥‥結末を見届けられないのはつまらないとは思わないか?」
 ふ、と傍に控える魔物に問うたのは、天使と見まごう程美しい男性。波打つ金の髪が、その美貌に拍車をかけている。
「私も遊びに行ってみようか。前に聞いた境界の王の真意は面白いものだったし、それに協力するのも悪くはない‥‥尤も私は命までかけるつもりはないけれど」
 地獄でルシファーと対決せんとしている者達を混乱させるのも悪くはない――彼、炎の王は端正な微笑を浮かべて呟いた。
「境界の王とマルバス、か‥‥」
 炎の王は境界の王とマルバスの関係を知っていた。ウォールブレイクにて姿を現した彼の、真意を知っている。
「同じカオス八王の名を冠する者への餞に――私も混沌の力を捧げよう」
 彼が椅子から立ち上がると、召使としている魔物がマントを手に近寄ってきた。それを手に取り、支度を整える。
「少しの間、地獄で遊んでくるか」
 夜のしじまにばさり‥‥背からはやした翼がはためく音が聞こえた。


●地獄へと戯れに
「冒険者を!」
 リンデン侯爵領からメイディア行きのフロートシップにのって、イーリス・オークレールは冒険者ギルドを訪れた。その様子から、酷く急を要する案件である事がわかる。
「どうしましたか?」
「地獄に援護に赴いていた歌姫エリヴィラとアナイン・シーが、情報を持って帰ってきた」
「情報‥‥?」
 ギルド職員は眉を顰めて言葉の続きを待つ。
「地獄に、炎の王が現れた」
「何故‥‥炎の王はリンデン侯爵領を狙っているのでは?」
「理由はこちらが知りたいくらいだ!」
 バンッ! イーリスは両手でカウンターを強く叩きつけた後、肩で息をして、深呼吸をして。
「炎の王は地獄で何をやっているのです?」
「どうやら配下の魔物をけしかけて戦わせて、ルシファーの元を訪れようとする冒険者達を妨害しているようだ」
「なぜ‥‥」
 イーリスも職員も、しばし考えて。
「戦いが生むのは混沌の力。混沌の力を増やすために戦っているのでは――」
 それは境界の王が行っていたことではないか。炎の王は境界の王の真似事でもしているのか?
「どうやら炎の王自身は高みの見物をしているらしく‥‥だから彼を倒すのではなく、地獄から引き上げさせたい」
 それは今倒す事を目指すと、ハードルが上がりすぎるからだ。
 地獄では今、ルシファーに対する対策が行われている。それを乱さないためにも、そちらに害を与えぬためにも、早急に炎の王をアトランティスに連れ帰る必要があった。最悪の場合、ルシファー攻略に支障が出るかもしれない。アトランティスにお帰りいただけば、あとはあちらで決着でも何でもつけるように進めることは出来るはずだ。
「炎の王は無駄に動く男とは思えない。むしろ、しっかりと何かを尋ねれば、答えてくれるような落ち着いた人物だ。‥‥カオスの魔物であるのはたがえようのない事実だが」
 炎の王の実力は不明。戦闘になったら無傷ではすまない恐れもある。
 だがこのまま彼に地獄で遊ばれては、困るのだ。
「急ぎ、冒険者を集めてくれ」
 イーリスは凛と言い放った。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3625 利賀桐 真琴(30歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8347 ケリー・クーア(33歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 コキュートスは騒然としていた。万魔殿のルシファーを封印せんと冒険者達が動き出しているからである。
 一方、その氷の大地で無数のカオスの魔物が蠢いている場所があった。瘴気の障壁や封印された魔物とはまた違う場所。そこにカオスの魔物が現れたという。
「イーリスさん、炎の王の他にコキュートスを徘徊している大物の情報はないか?」
「いや、今のところ私の耳に入っているのは炎の王だけだな」
 風烈(ea1587)の問いかけにイーリスは顎に手を当てて考える体勢をとる。
「エリヴィラさんとアナイン・シーのいた近くに現れたのは、幸か不幸か」
 ルイス・マリスカル(ea3063)がぽつり、呟いた。前方では低級のカオスの魔物相手に、元々コキュートスで陣を引いていた者達が奮戦している。情報を届けたエリヴィラ達もあの中にいたのだろう。故にアトランティスへその情報を運べたともいえる。
「フォーノリッヂの結果が出ました」
 それまで土御門焔(ec4427)の凛とした声に、一同はそちらを振り向く。
「まず『炎の王』ですが、これは手下をほぼ壊滅させられた後でしょうか、去っていく姿が見えました」
「やはり瘴気の力を増すのが目的なのでしょうね」
 焔の言葉にベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が呟く。彼女は戦闘で無駄な瘴気を振りまきたくないから、戦闘はしないというつもりのようだった。
「続いて『ルシファー』ですが、大きな竜のようなものが暴れだす姿が見えました。『コキュートス』はデビル達で溢れ返る姿が」
 しかしこれは「何もしなかった場合」の未来。これから人々が動く事で、変えられる未来だ。
「説得で事がすめば最良ですが、相手は魔物ですから準備はしておきます。皆さんどうか近くに」
 導蛍石(eb9949)の言葉で一同は彼の周りに集まった。蛍石が発動させたのは超越レベルのレジストデビル。これで暫くは持つ。
「境界の王とは奴の最後の時に地獄で実際相対した。そいつを真似ているってのは穏やかでないな」
 オーラ魔法を施術して準備を整えるセイル・ファースト(eb8642)は、境界の王の最期に立ち会った人物の一人である。
「ぜひとも炎の王にはお帰り頂かないとね。それでなくとも混戦模様だしね〜。あ、ケリーさん、コキュートスの大地は多分滑るから、歩くときは気をつけて」
「了解だ、ゴーレムニスト殿」
 門見雨霧(eb4637)は今回唯一ゴーレムに騎乗するケリー・クーア(eb8347)に告げて、軽く機体のメンテナンスをした。武装にハルバードとシールドを選択した彼を見て、イーリスが近寄る。
「ケリー殿、ゴーレムは元々小物を相手するようには出来ていない。また、ゴーレムの武器そのままでは魔物にダメージが通らない。烈殿にオーラパワーをかけてもらったほうがいい。魔法がかかるまで武具は手に持たぬように」
「わかった」
 烈に達人レベルのオーラパワーをハルバードにかけてもらい、ケリーはモナルコスに乗り込んだ。モナルコスでは彼の格闘技術を万全に発揮する事は出来ぬが、それは仕方あるまい。
「イーリスのお嬢」
 呼び声に振り返ると、イーリスの前には針を持った利賀桐真琴(ea3625)がいて。背伸びをして彼女の耳元で囁く。
「もしこの中に気になる御方が居れば紐の刺繍のデザインやら微妙な色合いやらその方と揃えてみやすがいかがで?」
「なっ‥‥そ、そんなっ、こんな時にっ‥‥!?」
「こんな時だからでやすよ」
 顔を赤くして焦るイーリスに、真琴は微笑んで告げた。
 地獄での祈りの力の強さは誰もが実感している事だった。だから今回も祈紐などを所持してきた者もいる。祈りのこもった品を持ってきた者もいる。「そういう気持ち」を誰も否定はしない。
「自分が最も強く想える事にて祈りを捧げて欲しいでやす」
「そ、それでは‥‥リンデン侯爵領の、為に‥‥」
 そういう答えが返ってくるんじゃないかなと何となく予想はしていたが、思っていた通りで何となくおかしく、だがイーリスの何処か少女のような一面を垣間見れて、真琴はくす、と笑みを浮かべた。そして自分の祈りの対象にそっと、触れる。
「さあ、準備が終わったらそろそろ参りましょう。他の方達に任せっぱなしにしているわけにも参りません」
 ルイスの言葉に一同頷いて武器を握る。そして――敵陣の一番薄い所を突いて突入した。
 カオスの魔物の殲滅が目的ではない。目指すは炎の王――。



「踊らされているのは癪に障るが!!」
 ペガサスに騎乗したセイルは、チャージングで前方の魔物にぶつかる。ルイスや烈が前衛へ出て、後方の術士を守る形を取る。そしてそのまま、突破を狙いたい。
「ルイスさん、気づいてるか? 倒した魔物の瘴気が万魔殿に吸い込まれていく」
「ええ。やはりあまり配下を倒しすぎるのは相手の思惑に嵌る事になりそうですね」
 烈とルイスは武器を振るいながら、倒した魔物の行く末を確認していた。もはや下級のカオスの魔物などでは、彼らの相手にはならない。
 真琴がコンバットオプションを駆使して次々と魔物を倒していく。陣の横側についた彼女は、仲間の進軍に合わせながらも向かってくる敵を撃破していた。
「危ないよっ、と」
 雨霧はエボリューション対策に用意した多数の矢を使い分けつつ、空からこちらを狙ってくる敵を牽制する。少しでも前衛が戦いやすいように。
「風伯、お願いします」
 後方に位置した焔は、自分を乗せたジニールにライトニングサンダーボルトを使わせ、牽制の手伝いとした。
 蛍石は高速詠唱のホーリーで敵を打ち抜きつつも、仲間に怪我人が出ないかきちんと気を配っている。
 ケリーは最後衛に位置し、後方から攻め来る敵にハルバードを振るっていた。小物にはあてづらかったが、大きな魔物には当てさえすれば威力は抜群だ。
 そんな中でずっと思考に没頭していたのは、ベアトリーセ。戦闘について考えていない彼女は、戦闘を他の仲間に任せて己の推論に没頭している。
(「最初にカオスがあり、神が世界や天使や人間を創った。しかし、炎の王たちは神の世界で起きた戦争や争いで生まれた負のエネルギーが流れ込んできたカオスから産まれた。そして今、世界は天と魔で親子喧嘩をしているので、ここぞとばかりに便乗」)
 だが敵が弱いものばかりだと侮ったその態度は、相応の報いを受ける。戦場において注意を他の事に向けるのは、狙ってくださいといっているようなもの。
(「そして考える、負の感情で満ちゆく世界は母なるカオスの土地から収穫できる至高にして究極の果実、いつが食べ頃だろうか? 青い果実は毒がある、熟さなければルシファー級の者を自分の物にできない。そして7つの冠を探しているのは実は悪魔ではなく、カオスの魔物では――っ!?」)
 ベアトリーセを襲ったのは、複数の炎。黒い物も赤い物も入り混じって、彼女を集中的に狙っていた。奥に進むに連れて、魔物達も力強い者達に入れ替わっている。蛍石のレジストデビルとリカバーによって救われたものの、戦場において思考だけでは生き残れないという事を感じさせられた――彼女は十分それを知っていたはずではなかったか?
「炎の王までもう少しだ! 王はこちらの戦いを眺めているらしい!」
 魔物を切り伏せてセイルが叫ぶ。イーグルドラゴンにテレスコープを使わせ、テレパシーリングでその報告を得たのだ。
「眺めているって‥‥まあ予想通りだよね」
 雨霧が矢を放ってぽつりと零す。敵将というものはセオリー通りであれば、大体そんな感じだ。
「見えやした!」
 真琴がゴートスレイヤーを振りぬいて前方を見やる。
 そこには以前言葉を交わした炎の王のその姿があった。



 氷の大地に炎の王――なんとも似合わぬ組み合わせであろうか。
 王の炎が氷を溶かすか、コキュートスの氷が炎を凍らせるか――炎の王はすっと手を挙げ、彼らに追い縋っていた魔物達の追撃を止めさせた。
 以前感じたような威圧感を持ち合わせているが、それは万魔殿から発せられる更に大きな威圧感にかき消されているようにも感じる。
「お引き取り願おう、異界の王! 極寒の地はあんたに見合う場所じゃあるまい!」
「確かに。その通りだ」
 セイルの言葉に王はくす、と笑む。その笑みはまるで人間を馬鹿にしているようで、見ている者をイライラとさせる。
「地獄での遊びは危険がつきまといますよ。人間もいつまでも卑小な存在でいるわけではありませんからね」
「侮っているつもりはないんだがね」
「ただ戦うだけで瘴気を高めていけるとは思わねぇで下せぇ。あたいらだって馬鹿じゃねぇ、対策はどんどん取りやすよ」
 焔の鋭い言葉に、祈紐を握り締めた真琴の鋭い視線。それを受けても王は揺るがない。
「目的もある程度達成できたはずだが、アトランティスにお帰り願えないか」
「そうだね」
 彼らが魔物を倒してきた事により、瘴気を増す事にも成功したと考える烈は、王の反応を覗う。王はなんだか煮え切らない返事をした。
「貴方と対になる7大罪魔王のベリアルを探しに来たのですか?」
 ベアトリーセがカマをかけるように言葉を紡ぎ。
「マルバスと境界の王は意識を支配、ベルゼブブと蝿の王はパワーアップ。神の創造物を瘴気で汚染することで、再びカオスに戻そうとしているのではないですか」
「万魔殿に現れようとしている最強のカオスの王の名はなんと言うんだ」
 続いた烈の言葉に王はおかしそうに笑った。
「境界の王と蝿の王は上級デビルがカオスの力に汚染されてカオス側になった存在のようだ。ルシファーをカオスに汚染させる事でカオス八王の中の最強の一柱を復活させるつもりではないのか?」
「人は面白い考え方をする」
「神の創りたもうた世を善と秩序の世界とするなら。善を穢し、悪徳のもとでの新秩序を構築せんとするのがデビル。ルシファーに混沌の力を蓄えさせ、暴走による大爆発に世界を巻き込み。秩序そのものを崩し、全てを混沌に回帰せんとするのがカオス、なんですかねぇ」
 ぽつり零したルイスの言葉に王は目を細めた。そして。
「結局の所君達は何を知りたいのか? カオスという存在と神とデビルについてか? わざわざここまでやってきたのは、てっきり境界の王について知りたいのだと思っていたが」
「境界の王、それにマルバス。お前は何を知ってる!? やつを倒したのは俺と仲間だ。これ以上やるなら相応の代価を払ってもらう!」
「そもそもカオスの魔物っというかカオス八王って何なの? デビルとはまた違った行動原理のように観えるし、一緒の者として扱われるのを嫌っているように観えるんだけど。‥‥デビルとかが、突然に黒い瘴気を纏う様になったり、魔法武器が効きにくくなったのもカオス八王によるものなのかな?」
 セイルの鋭い啖呵に対し、雨霧は純粋に疑問をぶつける。蛍石は突然の襲撃に備え、辺りを警戒していた。
「デビルはルシファーや地獄の勢力が天へと攻め上がり、天の勢力への復讐を目的としている。だが我々カオスの魔物の目的は違う。全てを混沌に――世界をカオスの力で満たすために」
 例えばデビルは教会等天の勢力に関わる場所を優先的に狙うが、カオスの魔物は混沌を広げる事が目的の為、目的を達せられる場所を優先的に狙うというわけだ。
『境界の王とマルバスは――』
 モナルコスに騎乗したまま辺りの警戒をしているケリーが呟いた。その呟きを王は拾う。
「今まで出た中では『カオスの力に汚染された』という表現が一番近いが正確ではない。境界の王は元々デビル・マルバスとして遥かなる過去の神と悪魔の戦いにおいて世界の月道を司るアルテイラを封印していた。それは地獄の勢力が力を溜めて天へ攻めあがるためだ」
 王は自らの金髪を弄りながら、まるで子供に昔話でも聞かせるかのように話を続ける。
「だが長い時の中でマルバスは境界の王に喰われた。そして彼は境界の王として世界をカオスの力で満たすべく、動いた。その結果あの壁が壊れて各地が繋がり、各地より混沌の力がカオス界に流れ込み始めた。境界の王の最終目的は戦いにより生まれる負の力がカオスを伸長させ、地獄の勢力を増してカオスの力が世界を覆っていく事だ。この地獄の侵攻も、その布石でしかない」
「その話だと、なんだかデビルよりカオスの方が偉いみたいだね」
「偉い、か。面白い」
 雨霧の率直な感想に、王は口元を歪めておかしそうに笑った。
「確かにカオスの力の起源はデビルや地獄よりも古い」
「以前の地獄での戦いで、カオスはその力で汚染する事によってデビルを作り出せるという様な事を聞いた覚えがある」
「天使を汚染すれば悪魔になる。それだけの話だ」
 烈の言葉を、王は否定しない。
「カオス八王とは何か、という質問があったか。カオス八王とはカオスの魔物の中でも王と呼ばれるべき力を持った存在だ。ちなみに黒い瘴気を纏う、か。それは別に我々がどうこうしたわけではない」
「やはり神の創造物を瘴気で汚染することで、再びカオスに戻そうとしているのではないですか」
「戻す?」
 ベアトリーセの言葉に王は小さく首を傾げる。カオスの魔物だとわかっていなければ、その端正な顔に見とれるのも面白かったかもしれない。
「元々カオスとは、負の感情・負の生命力というような世界創造には用いられなかった力の総称であり、全ての世界・生物を変容させる力だ。世界が神々によって創造された時より存在している」
 であれば、戻すという言葉は正しくないという事だ。
「なぜ、こんなに私達の疑問に答えてくれるのですか? イーリスさんを襲撃、忠義を嘲りに来たが。その自分が、混沌の世のために尽力する。境界の王に義理立てするといったことを続けるつもりですか」
「義理立て? 尽力? 確かに私には似合わぬ」
 ルイスの言葉に王は口元に再び笑みを浮かべた。
「情報漏洩は味方に対する欺き、裏切りといえると思うが? 敵も味方も問わぬ。私は裏切りや欺きが好きだ。ただそれだけの事」
「余計なお世話かもしれませんが、ルシファーにちょっかいをかけるのは止めたほうがいいですよ。目ざとい他の仲間達が、貴方を標的として群がって貴方も境界の王と同じ末路をたどる羽目になる前に、お帰り頂く事をお勧めします」
「貴方らしくもない、世界の終わりを、私達が四苦八苦あがく姿を見たくはないのですか? それまで貴方は生きていてもいいんじゃないでしょうか」
 焔とベアトリーセが王に帰還を迫る。この分では王は自分から帰ってくれそうでもあったが、念の為後押しをしておきたかった。
「言われずとも、目的は達した。そろそろお暇しようかと思っていた」
 彼の目的とは――
「――瘴気を増やす事ではなく、情報を漏らして味方を欺き、裏切る事だったのでは‥‥」
 コキュートスの空を飛び行く王。それに伴って姿を消してゆく魔物達。
 それを見て蛍石が呟いた一言を、誰も否定する事は出来なかった。