舞姫の守護者
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月11日〜06月17日
リプレイ公開日:2007年06月15日
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●オープニング
美しいメロディーに乗せて、小さな台座の上で舞姫はくるくる舞い続ける。
陽精霊の光を受けて、半永久的にくるくる‥‥くるくる‥‥
それは天界(地球)から来落した品で「オルゴール」というものらしい。
ただの鑑賞用以外に特に用途を見出せるものではないが――価値観というものは人によって違う。
「気に食わない小物の商人がいるんだけど、さくっと殺(や)っちゃってくれないかな?」
自分のその言葉に周りの数人が目を剥いたのを見て満足したのか、その青年・天堂泪樹は「冗談だよ」と笑顔で言った。
「今回は護衛を頼みたいんだ、僕と『舞姫』のね」
『舞姫』とは現在は彼名義となっている廃屋に来落した舞姫像のことである。冒険者の手を経て、現在は彼がその所有者だ。
「また何処かで敵を作ってきたのですか‥‥」
慣れているのだろうか、溜息混じりに言ったギルド職員の言葉に、泪樹は笑顔のままだ。
「いや、ただどこから話を聞いたのか『舞姫』を買い取りたいという商人がいてね、『丁重に』断りに行ったら条件を突きつけられてしまっただけだよ」
断ったのに困ったものだね、よほど『舞姫』が欲しいのか、と泪樹は笑顔のまま告げる。その笑顔の温度が低く思えるのは気のせいだろうか。とにかくその条件をクリアすれば商人は舞姫像を諦めるということらしい。
「その商人曰く『大切な品物』を、馬車で僕が目的の街にいる別の商人まで届ければいいんだってさ」
だったらさっさと届ければいいじゃないかと言いかけた職員の口を、彼の視線が封じる。
「当然、商人は僕が条件をクリアできない方がいいわけだから、普通に考えれば邪魔をしてくるだろう? 調べたところ小物なんだけどかなり悪徳な商人らしくてね。柄の悪いごろつきを雇ったという話も聞いたんだよ」
ああそれで護衛が、と職員は頷いた。
「というか飲んだんですか、そんな怪しい条件」
「勿論、僕が条件をクリアできれば舞姫像を諦めると、文書に残させたよ」
僕のいた世界でなら十分証拠になるんだけど、と彼は呟く。
「都合のいい事に、あっちは別に『僕一人で』という条件はつけてこなかったからね。僕が何人冒険者を雇おうと構わないってわけ。第一積荷自体怪しいしね」
確かにそんなに大事な荷物を他人に任せること自体、普通に考えれば不自然だ。
「問題があるとすれば、街までの距離が3日。つまり2回の野営を挟むことになるね。で、相手はいつ、何度襲ってくるか、そしてその人数までは僕にはわからない」
さすがに真昼間の街道では襲ってこないだろうけどね、と泪樹は告げる。確かに行き交う人の多いと予想される真昼間の街道で事を起こすほど、相手も愚かではないだろう。たとえ金で雇われたごろつきだとしても。
「あ、あと今回は僕が御者を務めるからしっかり守ってね。ほら、僕は弱いからね」
にっこりと笑った泪樹。職員は内心「この狐め‥‥」と思ったとか思わなかったとか。
「後で『ごろつきに襲われた』と言っても当然商人は関連を否定すると思うんだよね。まぁ、襲われたこと自体隠して何事もなかったように報告をして反応を見ても面白いと思うけど。でも捕えて商人の前に突き出してやっても面白いと思うんだ。キミはどう思う?」
笑顔で楽しそうに言う彼の問いには答えず、職員は目を反らした。
●リプレイ本文
●確認(色々な意味で)
「ふぅん、見た顔もちらほらいるけど、初めての人も多いね、まぁ、一応信頼しているから宜しく頼むよ」
馬車周辺に集まった8人に向けられた泪樹の挨拶。その態度、初めて見る者なら呆気に取られたり彼に悪印象を持っても仕方がない。
「おう、おんしが『イイ性格してる』っちゅう噂の天界人か!」
だがこちらも歯に衣着せずに言い放ったのはカロ・カイリ・コートン(eb8962)。
「いやいや、別にどうこう口を出すわけでは無い。‥‥だがまあ、冒険者ギルドで解決出来るうちに留めておくが無難ぜよ」
「ま、それもそうだね。けれどもこうして僕が依頼を持ち込めば、君達冒険者も仕事の選択肢が増える。持ちつ持たれつと行こうじゃないか」
泪樹は相変わらずの底知れぬ笑顔。腹の中で何を考えているかわかったものではない。
「わしも泪樹の『丁重な』断りようを見てみたかったのぅ」
クスクスと笑うヴェガ・キュアノス(ea7463)。「ともあれ面白い道中になりそうじゃの」と意気揚々だ。
「泪樹様の言動にも問題が有るのでしょうが、大切にしている物を力づくで奪う様なやり方は許せませんわね」
舞姫確保依頼の際にすでに泪樹の言動を目の当たりにしていたジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は呟く。確かに彼自身にも問題は有るだろう。だが商人の方も賢い遣り方とはいえない。
「ところでいくつか確認したい事があるのじゃが」
御多々良岩鉄斎(eb4598)はいくつかの懸念事項を泪樹に尋ねた。予想通り彼はそれに対して「問題ない」と笑顔で首肯する。
「馬車へ3つの木箱を積み込んだのは商人の部下自身だし、壊れていない事も証明させてある。相手の商人への納品書も預かっているしね。ただよくある話、『決して荷物を開封してはいけない』とは言われたけど」
「確かに、木箱に細工は見当たりませんね」
荷台にて既に積み込まれた木箱をチェックしていたルメリア・アドミナル(ea8594)満足気にが告げる。
「あっちとしてはね、道中で全てを済ませるつもりなんだよ。だから僕には木箱の中身も大体見当はついている。贈られた商人の方が目を丸くするようなものだよ」
面白い事になりそうだ、と裏を感じさせる笑顔を浮かべた泪樹は「まぁ、頼りにしているよ」と一行に軽く告げた。
●旅路
馬車の荷台がそう広くないこともあって愛馬に乗って移動する者、セブンリーグブーツや韋駄天の草履を使用する者、荷台に乗る者と様々だ。
その馬車の御者は泪樹。その時点で不安を覚えなくはなかったが意外にも馬の走らせ方は普通だった。「失礼だね、僕を何だと思っていたのさ」といわれる事は間違いなしなので、これは思っても黙っておかねばなるまい。
馬車は冒険者達を併走させて街道をひた走る――そんな中、荷台から御者台に身を乗り出すようにして泪樹にせがむ女性、フィーノ・ホークアイ(ec1370)。
「おぬしの事はまぁ置いておくとして、天界からの来落品。見せよ見せよ見せるのだ!」
天界品に目がないフィーノは泪樹が携えている舞姫像が気になって仕方ない。厳重に布に包まれているその中身が見たい!
「‥‥キミ、面白いね。そんなに天界の品が見たい?」
「今『子供みたい』とか思ったろ、じゃぁかしぃ、まだ見ぬ物は常に明日への活力であろ!」
「キミ、ちょっと疲れてるんじゃない? 今のうちにゆっくり休んだら?」
泪樹の呆れたような態度。そのやり取りを見て併走する冒険者達から思わず笑みが漏れる。
「見せてはくれぬのか」
「誰も見せないとは言ってないよ。ただ、君達がきちんと仕事をこなしてメイディアに戻ったら、ね」
彼から舞姫披露の約束を取り付けて満足したのか、フィーノはもぞもぞと荷台へ戻り、大人しく休む事にした。確かにここのところハードな仕事続きで疲れているのだ。
8人は野営の間は3班に分かれての警戒を予定している。魔力の回復に時間を要する魔法使い達などは特に休める時に休んでおいた方がいいだろう。
「さて‥‥。来るだろうか」
「今のところ、特に警戒の必要そうな気配は有りませんけれども」
レインフォルス・フォルナード(ea7641)の問いに同じく第1班として見張りをしているルメリアが返す。人間のような大型の、しかも複数纏まってこちらへ接近するような者は、今のところブレスセンサーに引っかかっていない。
「それにしても泪樹様、すぐに眠られてしまいましたね。私達を信用して下さっているのか、それとも‥‥」
視力のよいジャクリーンは辺りを見回しながら呟く。彼女の言うように泪樹は野営の設置が終わり食事を終えると、「ま、よろしく」と言ってすぐに馬車の中で眠りに落ちてしまったのだ。
「あの男の事だからな‥‥何を考えているのかわからん」
泪樹と関わるのは2度目であるレインフォルスも、半ば溜息交じりで言った。泪樹の言葉には全て裏があるように思えるのは何故だろう。
「敵が来たらこらしめてやろうね、ジラフ」
第2班のサーシャ・クライン(ea5021)が隣に座らせたフロストウルフの白い毛並みを撫でる。同じ様に焚き火を囲んだヴェガも、同伴させた柴犬の茜丸の背を撫でた。
「茜丸、こちらへ接近する気配がわかったら教えるのじゃぞ」
野営場所は万が一の時を考えて戦いやすい場所を、そして暗がりからの不意打ちを避けるために焚き火は明るく炊いてある。魔法での警戒が出来ぬこの班にとってはペット達が特に心強い存在だ。
「太郎丸と次郎冠者もおるからのう。いざという時は頼りにしているぞ」
岩鉄斎は同伴させた2匹の柴犬を見やる。
ここだけ見ると、なんだか愛犬家の集いのように見えるのは気のせい‥‥?
「カロ、‥‥久しぶりだの」
「おう、相変わらず可笑しな格好しとるのぉ。全くおんしは天界かぶれだにゃあ!」
第3班のカロとフィーノは顔馴染みであることから、自然話題は互いの近況についてに移る。
「ヌシはどうじゃ調子は? こちらはなかなか芳しくないがの」
ブレスセンサーでの警戒を続けながらもからからと笑うフィーノ。だがその軽い笑いの裏には最近の苦労が巧妙に隠されている。
「最近は苦労続きと聞いちょるが、元気そうで何よりぜよ」
カロはその裏に隠されたものをあえて問いただそうとはしなかった。
「天界の品が絡むとなれば、元気などいくらでもでるわい。日中は寝かせてもらうがのぅ」
気心の知れた相手と、焚き火を囲んで話に花が咲く。
一日目の夜は何事もなく明けた。
●襲撃
「まぁ、来るなら今夜だと思ったんだよね」
ヴェガの展開したホーリーフィールドに馬車ごと守られながら、泪樹は冒険者達の戦いを眺めていた。
「ほら、一日目に緊張させるだけさせて、ちょっと疲れた2日目を狙うって感じ」
「ちょっと、悠長に話しかけてこないでよ!」
サーシャは頬杖を突く様にしてのんびりしている泪樹に背を向けたまま、仲間の位置取りを確認。逃げようとする賊たちにフロストウルフのブレスをおみまいする。
襲撃があったのは2日目の第1班の担当時間。ルメリアのブレスセンサーが複数の怪しげな息遣いを捉えた為、他の班のメンバーを起こし、逆に賊を待ち伏せすることが出来た。
昨夜早々に泪樹が寝入ったのは、どうやら1日目は襲撃がないだろうと予測していたからのようだ。
敵の数は5人――泪樹1人に対しては過剰な数だ。だが驚いたのは賊の方だろう。相手は1人だと聞いていたはずなのに、待ち伏せされていただけではなくこの人数。
「物取りか‥‥。運が悪いな」
レインフォルスの剣が向かってくる男を斬り上げる。運が悪い、というのは自分達と賊達、どちらに対してだろうか。
「逃がしはしないぜよ」
愛馬に跨ったカロが賊たちの背後に回り込んで逃走防止を図る。
「ごろつきにしては統率が取れているようじゃのう」
後衛の魔法使い達の護衛をしながら岩鉄斎は敵を観察する。よく見ると1人、他の4人よりも体格の良い男が混じっていた。
「あの男を狙ってみることにしましょう」
馬上からジャクリーンは体格の良いその男を狙った。矢は狙い過たずその男の肩に突き刺さる。男が武器を取り落としそうになったその隙に、ルメリアの高速詠唱ライトニングサンダーボルトが男を襲った。
「晴れの日はたーしかに無能だがの。──それでもごろつき如きに遅れはとらんわ」
フィーノの高速詠唱トルネードが懸命に馬車へと向かってくる男達を巻き上げる。
「さて、逃がさぬように拘束させてもらうかのう」
ヴェガが拘束詠唱でコアギュレイトを唱える。
男達は突然身体の自由が利かなくなったことに驚いている間に、縛り上げられ捕獲された。
縛り上げた賊達を荷台へ放り込む。その間に傷を負った者達はヴェガの治療を受けた。
「荷物が増えたわね」
詰め込まれた賊達を見、サーシャが呟く。依頼した商人に賊達を突き出すということは、王都に帰り着くまで馬車に積んで行かねばならぬということ。
「随分手狭になるのぅ」
それまで荷台に乗ってきたヴェガが少々不満げに呟いた。
「致し方あるまい。こいつらが荷物に細工をせぬよう、荷台に乗るヴェガとフィーノは監視を頼むぞい」
岩鉄斎の言葉に2人は頷いた。目的の街まであと少し――。
●姫からの謝礼
そこは王都の外れ。人目がないのを確認して、8人を伴った泪樹は「この辺ならいいかな」と呟く。
無事に目的の街に着いた一行は、まるで心当たりがないとでもいう様な不思議な顔をしている商人に納品書と共に木箱を渡し、賊5人を連れた大所帯となってメイディアへと帰還した。
無事に姿を見せた泪樹を見て、問題の悪徳商人が明らかに動揺したのは言うまでもない。元々街に着くまでに賊達に木箱を回収させるつもりだったのが、本当に届けられてしまったのだから――藁の詰まった木箱を。勿論、相手の商人に事前連絡などしていない。賊に奪わせるつもりだったのだから。
悪徳商人に、相手の商人に何と言い訳をしたものかと知恵を絞る暇は与えられなかった。自らが雇った賊5人が目の前に突き出されたのである。「話が違うじゃねぇか」と抗議する賊のリーダーに対して「お前達など知らん!」としらを切ってももはや遅い。企みは全て露呈している。
泪樹だけでなく冒険者達にも悪事を知られてしまった商人は、『なんとも愉快な表情(泪樹談)』をしていた。
「あまり、人目につきたくないからね」
おあつらえ向きに陽精霊の光は一同に降り注いでいる。泪樹はゆっくりと舞姫像に掛けられた布を解いていく。
「舞姫か‥‥。以前見た時は確かに見事だったがな」
「舞姫像の舞を再び見る事が出来て嬉しいですわ」
以前舞姫の舞を見たことのあるレインフォルスとジャクリーンは、そのときの記憶を思い出していた。
「おおーっ!」
はらり、と『彼女』を覆う布の最後の一辺が取り払われ、その姿が露になる。誰よりも大きな感嘆の声を漏らしたのは、フィーノだった。
泪樹が台座の下を弄るとカチリと小さな音が響く。そしてどの楽器の音とも形容しがたい旋律が流れ出し、小さな台座の上で舞姫が舞を始める。
よく見えるようにと泪樹は舞姫像を置いた。
陽精霊の光をその身に浴びて、輝く舞姫はくるくるくるくる舞い続ける。
30cmばかりの小さな舞姫だが、オルゴールを知らぬ人々にはその動きの不思議さがあいまって、思わず息を呑んでしまう程の神々しさを放って見えることだろう。
「やっぱり不思議だね」
以前もその構造を不思議に思って像の観察をしたサーシャ。
「この舞姫像は『オルゴール』と言うのですか、確かに珍しい品ですわ」
「動かしている『そーらーしすてむ』というのも凄いが、この小さな中に像を動かすだけの仕掛けが詰まっているというのも凄いのう」
力づくで奪ってよいものではありませんわね、とルメリアは評価し、岩鉄斎は壊してしまわないようにと拝むだけに止める。
「ほんに、不思議な像じゃのう」
「これほど素晴らしければ、人の口の端に上がっても仕方がないかもしれぬのう」
カロとヴェガは静かに姫の舞を眺めた。
そんな中、ただ一人像に近づき、様々な角度から眺めては目をきらきら輝かせる者が。
「‥‥のう依頼人。これをくれとは言わぬが、何か他に天界下りの品があったりはせぬかのう?」
きらきら目を輝かせたまま泪樹を見るフィーノ。泪樹は「そんなに地球の物がほしいのかい?」と呆れたようにくすりと笑う。つられて一同からも笑みが漏れた。
無事、守護者の手により略奪を免れた姫は舞う。
守ってくれて有難う、と礼を述べる代わりに。