【秋祭りと収穫祭】誓いの種 約束の苗
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■ショートシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月06日〜10月11日
リプレイ公開日:2009年10月19日
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●オープニング
9月、秋の種まきの季節であり、各地方で秋祭りが行われる。
10月、各地で収穫の季節だ。
昨年冒険者を募って村内で祭りを行ったこの村では、今年も冒険者達から参加者を請うという。
種まきが終わった後夜に飲食物が供されて、皆で撒いた種の成長を祈って楽しく過ごすのは勿論なのだが、メインは昼間に行われる種まきと苗植えだ。
『誓いの種を撒き、自分の心に誓いを抱いてみませんか。
約束の苗を植え、誰かと大切な約束をしてみませんか』
そんな言葉がギルド職員の手で添えられている。
誓いの種――種自体は普通の種だが、それを植木鉢に植える時に、何か一つ種に誓う。その種は来年の収穫期まで村人が大切に育ててくれるという。来年の収穫期までその誓いが守れるのだろうか。来年の収穫期にどんな思いでその植木鉢を見つめるのだろうか。植えた種と名を記したプレート(文字がかけぬ者は自分のだと分かるように絵を描くという)を、どんな思いで見つめるのか。誓いが守られれば種はきっと芽吹き、すくすくと育つ――そんな思いを込めて種を植えて欲しいという。
約束の苗――自分との約束、大切な誰かとの約束。約束を守るという思いを苗に託し、畑に植える。その苗は来年の収穫期まで村人が大切に育ててくれるという。来年の収穫期までその約束は破られずにいるだろうか。来年、その約束が守られた証のように苗は実をつけるだろう。植えた苗と名を記したプレート(文字がかけぬ者は自分のだと分かるように絵を描くという)を、どんな思いで見つめるのか。約束が守られれば苗はきっとすくすくと育ち、実をつける――そんな願いを込めて苗を植えて欲しいという。
「自分自身の誓いを立てるのも素敵だし、誰かと約束をするのも素敵だよね〜」
「約束する相手がいるんですか?」
依頼書に目を留めた、お祭り好きの碧の羽根のシフール、チュールの後ろを通りかかった支倉純也がさらっと言う。彼には悪気はない。ただ思ったことを聞いただけだ。深い意味もない。
なんだか去年も同じ会話をしたような気がするのだが気のせいだろうか。
「さらっと酷いこというねー、純也ー。だって相手は異性に限ったわけじゃないでしょー? あたしにだって友達くらいいるもんー」
ぷーとほっぺたを膨らませたチュール。純也は「すいません、そういう意味じゃなかったんです」と苦笑して、彼女の前に一枚の焼き菓子を差し出した。
「さっき届いたばかりの焼きたてのお菓子です。お詫びの印に」
「わぁい♪」
差し出された焼き菓子を両手で持ってぱくり、とかぶりつくチュール。
花より団子の彼女には、色恋沙汰は当分縁がなさそうだった。
鉢に植えた種は順調に育っていれば赤や桃色、白の花を咲かせていることだろう。咲く花はメイディア特有のもので、形はコスモスに似ているという。
苗においては紡錘形をした掌サイズの黄色い実がなるという。味は甘い果物の味で、メイディアでは「リディ」と女性の名で呼ばれるのだ。もちろんそのまま食べても美味しいし、料理やお菓子、ジャムとしても食べられる。1つの苗から5.6個は取れるようだ。
昨年この祭に参加した者達は、種や苗の成長具合を見に行ってはどうだろうか。そしてまた、新しく誓いや約束をするのも悪くはない。
今年初めて訪れる者は、種や苗を植えてはどうだろうか。まだ見ぬ来年を思って。
収穫の手伝いとしてリディをもぐ仕事、林の中でキノコを採取する仕事、畑から人参と玉葱をとる仕事などもある。手を貸せば喜んでもらえるだろう。
とある村で、のどかなひと時を過してみるのも良いのではないだろうか。
●リプレイ本文
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「チュールさん♪」
「おお? おぉぉ?」
笑顔で近寄って来るフォーレ・ネーヴ(eb2093)に、チュールはを見開いて、そして羽根をはためかせて近寄っていく。
「う〜♪ お久しぶりだね。元気だったかな♪」
「フォーレ! 会いたかったよー!」
久々に出会う友人に、チュールはその胸にぽふん、と飛び込んだ。受け止めたフォーレの胸は、どきどきしている。フォーレがウィルに行ってからかなりの間、会ってないのだ。だから、上手く言い表せないけれど緊張感が彼女の胸を支配していて。でも、いつも通りに明るく接したらチュールも以前と変わらない調子で接してくれて。だからその小さな身体をぎゅっと抱きしめる。
その様子をくすくすと笑みを浮かべながら眺める人影があった。フォーレと共にやってきた倉城響(ea1466)だ。その優しい顔に柔らかい笑顔を浮かべ、二人を見守っている。
「初めまして。フォーレさんがお世話になっていますね、倉城です。宜しくお願いしますね♪」
「よろしくねっ!」
チュールの差し出した小さな手を、響は優しく手で包んで。はい、と笑顔で返す。遠くで村人の呼ぶ声が聞こえて、三人は頷きあってそちらへと移動を開始した。
(「誓い、なあ〜うーん‥‥一年前だったら、迷わず地球へ帰るって願ったんだけどな」)
誓いの種を掌に乗せて考え込んでいるのは村雨紫狼(ec5159)。傍に侍っているシルフとミスラ――彼の「嫁」だ――をみやる。彼女達と出逢ったのも大体一年位前の事。
(「今までいろんな事があったけどさ、苦しいときも悲しい時も。ずっとそばにいてくれたのは、いつもこいつらだった」)
不思議そうに土をつついている2人を見て、紫狼は過去を振り返る。そして――先の見えぬ未来を思い浮かべようとして。
(「デカい戦いってのはもう無ぇんだ、いつこの世界から追い出されたって不思議じゃねぇや。どこのバカ野郎の仕組んだ事だろうがさ、ふーかやよーこと出会えた事だけは感謝してやるぜ」)
彼のような地球と呼ばれる世界から呼ばれた天界人は、役目を終えたら元いた世界に帰されてしまうのではないかという恐怖を抱えている。こちらに、突然呼ばれた時と同じ様に。その恐怖は、この世界で強い絆を結んでしまえばしまうほど、強くなるものであって。
「悩んでいるのはやっぱ、俺のキャラじゃねーや。まあさ、いつその時が来ても後悔しねぇように目一杯遊ぶか!!」
ぶんぶんっと考えを振り切るように頭を振った紫狼を見て、精霊の2人がびっくりしたように彼を見ている。紫狼はその小さな手に一つ一つ種を乗せてやって。
「シンプルに誓おうぜ」
紫狼が土に人差し指で穴を空けると、二人も横でそれを真似して。
「どんな時も、三人笑顔でいよう」
ここにつれてこられたのは突然。三人が出会ったのは偶然。けれども何処の誰が仕組んだ事だろうとも紫狼が二人のことを大好きだという気持ちは、三人が家族だという気持ちは変わらない。
種を穴に落として手で土をかけて。できたよ、と微笑む2人を紫狼は両の腕で抱きしめた。
「誰にも好き勝手な事は言わせねぇ、たとえ‥‥また突然別れる事になっても。後悔なんて抱えて帰りたくねぇや‥‥だからさ」
その先の言葉が続かない。唇を噛み締め、抱く腕に力を込めることで思いを伝えようとする。
(「くそ、抱きしめた感触も暖かさも人間の女の子と同じなのにな‥‥」)
しかと手を握り締めて、布津香哉(eb8378)は色とりどりの花が咲く畑を見下ろしていた。その手の先には最も愛しい人の姿がある。
「うわぁ‥‥凄い、綺麗です」
マーメイドのディアネイラは眼下に広がる花畑に目を奪われていて。その横顔を盗み見た香哉は彼女を連れて来る事が出来てよかったと心から思う。
「誓いは守れた、と思う」
しゃがみこんだ香哉の前にはアプト語で書かれたプレートがある。そのプレートの傍には、白い花を何輪も咲かせた茎がしっかりと立っている。
「香哉さんは‥‥何を誓ったのですか?」
同じくしゃがんだディアネイラに見つめられ、香哉は少し目を輝かせるようにして去年を思い出す。
「一つは『ゴーレムニストとしてもっと腕を高めて、より多くのゴーレム機器に携われるようになる事』だったな」
「もう一つは‥‥?」
「‥‥まあ、報われそうに無いから誓わなかった。でも」
香哉はディアネイラの肩を抱いて、その温もりを確かめるように。
(「去年は約束する相手がいないって文句言ってたっけ‥‥」)
それがどうだろう、一年でかけがえの無い出会いをする事が出来て。今隣には、一緒に約束する相手がいて。
一輪、白い花を摘み取った香哉は、それをディアネイラの髪に挿す。彼女には白い花が良く似合う。眩しすぎるその顔を見つつ、彼は鉢の土を掘ってもう一度種を植えた。
「‥‥今年は何を?」
「内緒」
「え‥‥言えないような事、ですか?」
「そうじゃなくて」
不安そうに彼女の瞳が揺らいだのを見て、香哉はその頬に自分の頬をぴったりとくっつけた。
「ディアネイラの事だから。恥ずかしくて言えない」
「‥‥じゃあ、来年花が咲いたら、教えてくださいね」
「ああ。これからもずっと一緒に、種と苗を植えに来よう」
それを約束として、新たに畑に苗が植えられることとなる。
「‥‥ディアーナ君を救う、とは誓ったものの、果たすことは出来なかった」
キース・レッド(ea3475)が見下ろした畑には、他の花と比べて幾分元気の無い花があった。かろうじて数輪赤い花を咲かせているものの――果たせなかった誓いは、こうも如実に成長に現れるとは、とキースは心の中に苦いものが広がるのを感じた。傍らに立つエリヴィラは、彼が何を誓ったのか聞かされている。その誓いが守られなかった事も。
「あの出来事は、僕にとって一生悔いを残す楔になった。でも、忘れない‥‥忘れちゃいけないんだ、僕たちは。ディアーナ君が夢見て敗れ去った、同じ道を歩む僕たちは」
「‥‥それでも枯れてはいません。花は咲いています。‥‥それが、忘れなかった証なのでしょう」
エリヴィラは服の裾が土つくのも構わずにしゃがんで、細い茎を優しく撫でる。
「救い、と一口に言ってもその人にとって何が救いになるのかを他人が決める事は出来ないと思います‥‥他人が決めるのは、自己満足でしかありません。だから‥‥救えなかった、と決め付けるのはやめましょう」
彼女が望んだのと同じ道を歩むなら、とエリヴィラは付け加える。
「そうだね。一緒に種を植えよう、エリィ」
キースは彼女の白い手に小さな種を握らせ、そして鉢の土に穴を掘る。彼女の手を汚さないように、と。
「たとえこれから先、何があろうとも、僕は君の側にいるよ。エリィ‥‥叶うならば、僕と一緒に居て欲しい」
ぽとん、と穴に種を落としたキースを見て、エリヴィラが小さく微笑む。
「もちろん、君に愛想を尽かされないように努力するさ」
おどけたように付け加えられた言葉に、笑みを込めたまま頷いて見せて。彼女はそっと穴の中に種を寝かせる。
ゆっくりと、土をかけて、そして優しく水をかける。
来年また、見に来るから、と。
「こうして誘い出す事を、今まで躊躇っていた」
苗を片手に畑へ向かう風烈(ea1587)は、隣を歩くイーリスにそれまでの心境を語って聞かせた。何度も誘ってみようとは思ったが領内にカオスの魔物が跳梁しているので忙しいのではないか、それに気を使わせてしまっては本末転倒だと実行に移さずにいた、と。
「だがこの間の事でわかった。口に出さなければ始まらないこともあるのだ、と」
この間の事――思い出したのか、イーリスの頬にさっと朱が差した。烈はそれを見て、小さく口元に笑みを浮かべる。彼女のそんな表情を見ることが出来るのは、彼の特権だ。
「ついたな」
今年の苗植え用に用意された畑にしゃがみこみ、烈はスコップで穴を掘り始める。イーリスは前かがみになるようにして、それを眺めた。
「烈殿は‥‥何を約束するのだ?」
「自身の下した決断に悔いが無い事。そしてこれからはイーリスさんと共に歩む事を約束する」
思いを伝えると決断するのに時間がかかった。振られたらどうしようと迷ったときもあった。だが、後悔はしていない。
「共に、か‥‥」
その言葉を撫でるようにして、イーリスが繰り返した。瞳は優しく、苗を見つめている。
彼女がかつて夫とした約束は、一年経たないうちに破られてしまった。だから、彼女は心のどこかでは共にと約束して再び失う事を怖がっているのかもしれない。
「例え異郷の地で果てようとも後悔することなど何1つないさ。己の心に従い、選んだ道を歩み続けた結果なのだから」
烈ははっきりと言い切り、そしてイーリスの顔を見上げた。彼も異世界で骨を埋める事、それを覚悟するのに勇気を必要としたのかもしれない。彼女の手を取り、そして土へと導く。その手が小さく震えていることに烈は気がついたが、あえて気がつかない振りをした。しゃがみこんだイーリスと一緒に、苗に土をかけていく。
この苗がこれからここに根付くように、2人の時間も始まったばかりなのだ。
「今後も誘っても迷惑ではないかな?」
ぽつり、呟かれたその言葉を拾って、イーリスは笑った。
「迷惑? そんな事、あるわけが無い」
土の上で触れた手と手。
2人は見つめあい、そしてどちらからともなく手を握り締めた。
「植えてから、もう1年経つのか〜‥‥苗や種のように自分も成長したのかな〜?」
「さあ、どうかしら」
門見雨霧(eb4637)の隣で意味深に笑って見せるのは、ユリディス。彼女も去年この祭に参加していた。昨年植えた種と苗の様子を見た後、2人は新たに畑へと来ていた。雨霧は柔らかい鉢の土に穴を空けて、種を入れる。
(「共に歩み続ける事を誓うよ‥‥しかも、この想いを2人で育んでいけたら良いよね」)
拝むように手を合わせた雨霧を見下ろすようにしながら、ユリディスは「何を誓ったの?」と聞く。顔に笑みが張り付いていることからして、弄るつもりかもしれない。
「‥‥恥ずかしいから、どんな内容を誓ったのかは秘密で」
「あらまぁ」
あまり気にしていないのか気になっているのかわからない反応を返したユリディスを見て苦笑しながら、雨霧は去年植えた種が芽吹いて花畑になった一角から自分のネームプレートのある花を鉢に植え代える。村人が広い畑に植え替えてくれていたものの、持ち帰って育てるつもりなのだ。
「じゃあ、ユリディスさんは去年何を願ったの?」
「私?」
反撃のような問いにも、彼女は動揺を見せない。そうね、と彼女は呟いて。
「人並みの幸せを手に入れます、って」
きちんと果たせたかしら? そう問い返されれば素直に頷いていいものか。
「じゃあ、その人並みの幸せを実感する為にも、今度時間のある時でいいから、リディの実のジャムの作り方を‥‥いや、ユリディスさんの手料理を食べさせてもらえないかな?」
「手料理――」
一瞬目を見開いた彼女が変な間を作る。この間は何だろう。
「考えておくわ」
約束ね、と彼女は笑った。
「約束しましょう」
ルイス・マリスカル(ea3063)はしゃがみこんで一生懸命スコップを動かしている妻に優しく声をかける。
「依頼でどのような難事があっても、必ず切り抜け」
根っこを覆っていた布を取り外し、穴に苗を下ろす。
「ミレイアの元に戻ります」
「‥‥うん」
ゆっくりと、2人で土をかけていく。思いを重ねるように、土を重ねて。
「私も約束する。ルイスの帰りをしっかり待ってるって」
だから来年はこの苗から取れたリディを一緒に食べようね、と彼女は笑った。それもまた、約束。
「リディの実、少しお土産に持って帰りましょうか。酒場のメニューにも使えるかもしれません」
「うん、そうだね。後はっと、お料理のお手伝いっ」
いつ何時も細かい配慮を忘れないでいてくれる夫に感謝をしながら、ミレイアはルイスの腕に自分の腕を絡める。その様子に目を細めて、彼は彼女に歩幅を合わせながら村へと向かった。
祭に参加させてもらったお礼に料理を提供するつもりだった。調味料も持参済みだ。
「魚と野菜のスープ、トラウトのムニエル‥‥他には何を作りましょう?」
「野菜はいっぱいあるみたいだからね、有効に使いたいけど」
首を傾げるようにしてメニューを考えるミレイア。料理が得意なルイスと酒場の娘のミレイア。2人で協力して互いを手伝いつつ、そして仕上げればきっと村人達にも喜んでもらえるだろう。
「既にウィルで祝福は済ませてるんだ。僕♪ ‥‥来年にヴァイナ君と報告しに来るね?」
フォーレは土をかけた種に明るく語りかけた。再会するまでにウエディングドレスを着て、恋人に見せるという誓いは心の中で強く告げて。
(「二人の子供達の幸せを、これからもずっと夫と共に護っていきます!」)
響も、心の中で誓う。今までも同じ誓いを立てて過ごしてきたが、更にその想いを強くする為に。
「次はこっちこっち〜!」
チュールにせかされて二人は苗を手に移動をする。辿り着いたのは畑。すでに何人かが苗を植え終わっているようだった。
「何を約束するの?」
「こういうのは内緒にしておくものなんだよ?」
覗きこんだチュールに笑って返して、フォーレは土をかけながら念を込める。
(「一段落ついたら恋人と故郷の両親の所に挨拶へ行き、その報告を君にする♪」)
まっててね、と苗に語りかけてネームプレートを差し込む。余白には可愛い似顔絵が描かれていた。そして隣の響をチラッと見ると、彼女も一生懸命想いを込めているようだった。
(「‥‥もう一人位、子供を作ります。授かったら、あなたに逢わせたいですね〜♪」)
込められた想いは暖かいもので。込めた後にふと気がついたのか、響はくすくすと苦笑じみた笑いを漏らした。
「‥‥夫とも相談しないといけないのに‥‥」
確かに子供は一人では生めない。
「次の機会まで健やかに育ってくださいね?」
響の優しい声に答えるかのように、そよ風が苗をゆっくりと揺らした。
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村人達が作った料理に加えてルイスとミレイア、そしてフォーレと響が作った料理、烈の持ち込んだお酒などが振舞われて夜は更けていく。戸外に出されたランタンの明かりが、良い雰囲気を作っていた。農作業を手伝った後の心地良い疲労感が全員の身体に広がっていく。
「結婚式について何か要望はないかい?」
キースは傍らのエリヴィラに問う。ランタンの灯りが彼女を淡く照らす。
「‥‥特には。式を挙げられるだけで十分です」
「そうか」
それだけでどんなにありがたい事かというのは、彼女は良く知っていた。
「ルイス! 私たちも食べよう」
「ええ」
給仕をしていたミレイアが、2人分の皿を持って寄ってくる。ルイスはそれを受け取って、空を見上げた。
月精霊の明かりが、全ての生命を優しく見つめていた――。