秘密の結婚式に、サプライズ!

■ショートシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月25日

リプレイ公開日:2009年11月20日

●オープニング

 ある日地球人調香師・石月蓮の元を訪れたのは、キース・レッド(ea3475)だった。彼はリンデン幻想楽団の兼任団員であるからして、リンデンで顔を合わせることは珍しくは無い。だが蓮の住む部屋へ尋ねて来るとなると話は別だ。
「結婚式のセッティングをお願いしたいんだが」
「ふぅん? 相手は歌姫でしょ? リンデン侯爵家の人たちとか呼ぶの?」
「いや‥‥誰も呼ばずにこっそりと挙げようかと」
「それなら、別に僕に言う必要も無いんじゃないかな? というか、彼女、侯爵家への体面とかあるんじゃないの?」
 キースの言葉に、蓮が鋭く突っ込みを入れる。まあこの人が口が悪いのはいつもの事なので。
「挨拶くらいはしておいたほうがいいんじゃないの?」
「まあ、そうだな‥‥」
 いまいち歯切れが悪いキース。どうやら何か、結婚式をこっそりしたい事情があるようだが、蓮には解らない。
 キースの恋人エリヴィラ・セシナはハーフエルフである。だが通常はそれを隠して人間として生活している。彼としては彼女がハーフエルフである事がばれないようにと気を使ったつもりであるようだが、彼女を人間だと思っている人たちには、何故こっそりと式を挙げるのか、と不審がられるだろう。
「まあ、事情が話せないなら深くは聞かないけど。何、僕は場所のセッティングをすればいいわけ? 神父の真似事も必要?」
「そこは、もう少し考えてみるよ」
 キースの返答を受けて、蓮は「よく考えてね」と釘を刺す。
 結婚式といっても多種多様だ。衣装の好みや誓いの言葉、他にも式でしたいことがあればしっかり決めておくのがよいだろう。しっかり決めておかないと、蓮の知識と趣味で仕切られることになる。
 それはそれで偏ったものになりそうなので‥‥やっぱりしっかり意思を示したほうがいいだろう。
 ちなみに人前で見せられないような、大人の行為はもちろん禁止だ。


 とりあえず会場の確保はすると約束して、蓮はキースを見送った。そして呟く。
「お客呼ばないんじゃ、商売にならないじゃん」
 そしてこっそり、彼はメイディアへと向かった。


「というわけで、とあるカップルが式を挙げるんだけどさ」
「‥‥えと、祝いに来てくれという依頼ですか?」
 冒険者ギルドで応対に出た支倉純也が依頼の意図をはかりかねて首を傾げる。すると蓮は違うよ、と首を振った。
「新郎新婦はこっそりと式を挙げたいらしいんだけど。まあ‥‥それも水臭いんじゃないかって」
 あくまで「知らせに来た」だけだと彼は言う。ギルドで彼が話したことを零れ聞いて、当日会場に駆けつけるのは自由、というわけだ。

●今回の参加者

 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec5159 村雨 紫狼(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5186 長曽我部 宗近(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 さてさてさて。
 冒険者ギルドで蓮が零した一言は、新郎新婦の知人達を中心にじわじわと広まって行った。
「んもぅ、キースちゃんも水臭いじゃいの。事情は知らないけど、このくらいのおせっかいは焼かせてもらうわよん☆」
「やーっとこの日が来たなキース先輩! 黙ってやるなんて水くせーじゃん!!」
 長曽我部宗近(ec5186)や村雨紫狼(ec5159)がこの場にいない新郎に対してお祝いを口にしながら、それぞれサプライズの手配を勧めていく。紫狼に呼ばれた美芳野ひなた(ea1856)は腕まくりをしてその要請に応える意思を表す。
「はい、お任せされましたよ村雨さん♪ この小町流花嫁修業目録の美芳野 ひなた、精一杯お手伝いしますね」
 ひなたはメインのウエディングケーキの他、フライドチキンやクラムチャウダー、フルーツサラダに鴨のロースト。サンドイッチに鯛の尾頭付き、食後のプリンなど料理の構想を固めている。それらに必要な食材と共にワインやオレンジの生ジュースなどを仕入れに早速市場へと向かった。祝い事であるからして、今回ばかりは無駄遣いとは言わない。節約しないでばんばん仕入れるつもりである。
「だーかーら、秘密にやるのはいいけどスタッフとかも無し!? あーもう」
 リンデンに到着して蓮から式の概要を聞いた宗近は深く溜息。そして滾るのはプロ意識。
「女の子の人生で一番最高な瞬間なのよウェディング、わかる!!? お色直しも無し、来賓も無し。そこまで隠す理由は知らないけどもね。それはちょ〜〜〜っとマズいんじゃないの」
 新郎に憤りをぶつけたい宗近だったが生憎サプライズの為まだ新郎には会えない。だからきゅっと拳を握って「わかる!?」と蓮に詰め寄る。
 今回の新婦が結婚に夢を持っていたかどうかはわからないが、蓮とて主に女性相手の仕事だ。花嫁が結婚式にぶつける気持ちは解るつもりである。
「さあ、女子の門出にふさわしく盛り上げましょう皆様!!」
 そんな女性の気持ちを一番解っているともいえそうな声を張り上げたのはシャクティ・シッダールタ(ea5989)。ぱんぱんと手を叩いて周りを鼓舞する。
「事情はあれど、それはそれ。お二人を祝う為にこれだけの人々が集まったんですよ。ままならぬ不条理を背負うとは言え、お二人にはこれだけの絆があるのです。それを解っていただくためにも、全力を尽くしましょう!」
「そうだな、俺もシャクティと一緒に協力するぜ」
 新婚の伊達正和(ea0489)は妻を見上げて、そして二人で微笑む。
「雀尾さん、アマツさん、式で歌う歌の事なのですが‥‥」
「アマツさんは用事があるとかでお出かけになりましたよ」
 赤いフードを被ったままエヴァリィ・スゥ(ea8851)が雀尾煉淡(ec0844)に告げると、歌詞の書かれたスクロールを広げていた煉淡が顔を上げた。今回歌うのはアマツ・オオトリ(ea1842)である為その練習をしようとしていたのだが。
「じゃあ‥‥戻って来るまで作曲の詰めと少し練習をしましょう‥‥」
「はい、そうしましょう」
 準備をする者達の邪魔にならない場所に移動し、エヴァリィと煉淡は祝福の歌の準備を進める。
「何かお手伝いできる事はありませんか?」
「それじゃあ、お色直し用の白いウエディングドレスを衣装棚から探してきて」
 専門的なことでなければお手伝いできます、と手伝いを申し出た土御門焔(ec4427)に蓮は宗近から告げられた要望のドレスの捜索を頼んだ。焔は言われた通り、衣装棚のある部屋へ小走りでかけていく。
「じゃあ俺もちょっと招待したい人がいるんで、出てくるな」
 紫狼も誰かを探しにアイリスの街へと繰り出していく。一方宗近は連れてきたチュールのヘアメイクと着付けを担当していた。シフールゆえに小さな体だが、それでも完璧にこなすのがプロというもの。小さな少女を淑女に変身させていった。


 さて、アマツはその頃リンデン侯爵邸にいた。新郎キース・レッド(ea3475)がエリヴィラの正体を慮ってこっそり式を挙げたいという気持ちはわかる。だがそれでも世話になっている侯爵家には、せめて子息のセーファスだけにでも礼儀を通さなければならないと思ったからだ。
「子息、忙しい所時間を作ってもらって感謝している。我侭ついでにもう一つだけ頼まれてほしい」
 アマツの真剣な様子にセーファスも居住まいを正し、その口から零れる「真実」に耳を傾ける。彼女がエリヴィラの「正体」、そしてキースとの結婚について語り終わった時、セーファスは一瞬だが厳しい顔をして見せた。
 異種族婚はアトランティスでも禁忌。ハーフエルフは迫害の対象にもなっている。リンデンを象徴する歌姫が実はハーフエルフで、そして今まさに禁忌を犯そうとしているというのだ。為政者として公に認めるわけにはいかない。それは誰もがわかっている。だから。
「子息よ、もし人としての情を知るならば。今は黙っていて欲しい。覆せぬ不条理とて、エリヴィラの歌に嘘偽りはないのだ」
「‥‥」
 アマツの、諭すような真摯な言葉に多少の沈黙をかぶせて。セーファスは細く長くため息をついた。
「わかりました。エリヴィラさんの素性を広めることは、彼女の為にもリンデンの為にもなりません。禁忌の子として生まれたのも、彼女のせいではありません。彼女も、今まで苦労は味わってきたでしょう。そして、リンデンの為に良く働いてくれました」
 そして、口元を緩めて。
「恩を仇で返すような真似はしません。この事は彼女とキースさんが明かしてもいいというまでは、私の心にしまっておきましょう。その代わり、私にも祝福させてください」
「ふふ、そう言ってくれると思っていたぞ」
 彼の言葉にアマツはにやりと笑って。それは子息が思った通りの人物であったということへの喜びか。
「となれば早速ではあるが、共に式を見届けてはくれぬか?」
「え、今からですか?」
 突然の事に驚いた様子のセーファスをつれて、アマツは侯爵家を辞した。


「おーい、アナイン・シーのオバはんー!」
 紫狼は呼び声を投げかけながら、アイリスの街を歩いていた。高位の精霊であるアナイン・シーがそうそう簡単に姿を見せるとは思えない。もしかしたらこっそりエリヴィラにくっついて式場に行っているのかもしれない――そう思ったが諦められず、街中を探す。木の上を覗いたり、屋根の上を見上げたり。なんとなく高い所にいるイメージがあるのは月の精霊ゆえだろうか。
(「怖ェ姑さんをババ抜きの仲間はずれにしちまったら後が大変だぜェ」)
 その発言を本人に聞かれたらもっと大変な気がするが。
 そんなことを思いつつも歩いていた紫狼は、聞こえてきた歌声に足を止めた。気づけばリンデン幻想楽団の宿舎のそばまで来ていた。その上階の窓枠――そこに座っている女性がいる。そこはエリヴィラの部屋であるのだが、彼はそこまでは知らない。けれどもその女性には見覚えがある。
「いたいた。おおーい、オバはんー!」
 その声に反応したアナイン・シーの月の矢が紫狼を射抜こうとしたが、さすがに街中。人目につくとあって自粛された模様。オバはんと呼ばれて自分の事だと思ってしまう時点で負けだと思うがそこは気にしない。
「オバはんもさ、今日ぐれーは素直に祝ってやろうぜ!」
 仕方がないわね、そんな風に彼女は笑った。



「神父役は頼むよ、石月君」
 新婦の支度が整ったと知らせに来た蓮に、キースは頭を下げる。本来ならば腕の良い着付けのスタッフや料理、友人知人の激励も欲しい。だが彼らを呼べば、異種族婚の賛同者としての噂が立ちかねない。冒険者達の中にはハーフエルフに対する偏見を持つ者は少ないとはいえ、一般人たちはそうは行かない。式に出席したことで彼らの今後の仕事に支障が出るのは困る。
(「ダメだ、彼らを巻き添えにはできない」)
「せっかくの結婚式なのに浮かない顔だね?」
 ため息をついたキースを新婦控え室に案内しながら蓮が問う。彼も事前に新婦の素性についての話は聞いていた。だが勿論出てきた言葉は「それが何?」である。地球人の蓮にとっては‥‥というか彼にとってはあまり問題視する部分ではないようだ。
「式を挙げられる事は嬉しいよ。だが友に不義理をしていると思うと、ね」
「でも新婦の前でそんな顔したらダメだよ。それは一番良くわかってるよね?」
 蓮の言葉にキースは強く頷く。そうだ、誰よりもハーフエルフであることを気にしているのは彼女自身なのだ。それは彼女がアトランティスに来落してから受けた仕打ちで、嫌というほど彼女の心に染み付いている。それは十分わかっている。だから扉を開けたキースは奥に座る彼女を見て、目を細めた。
「やっぱり君には蒼いドレスが似合うね」
「‥‥いつまで、侯爵家を欺き続けられるでしょうか」
 呟かれたのは震える言葉。嘘をついているわけではない。ただ隠しているだけだ。だが自身を人間だと思っている人々の傍にずっとはいられない。彼女のこの言葉は正体がばれる不安というよりも、隠し続けなくてはならない事への罪悪感。この結婚すら明かせない事、雇い主に不義理を働くことへの罪悪感。
「そうだね、いつかはリンデンを離れなくてはならないだろう。けれども今日はそれは考えなくてもいい。‥‥セーファス君だけにでも、やはり真実を語っておくべきだったか」
 けれども彼の立場を考えるとそれも難しい事のように思えて。キースはエリヴィラの手を取って立ち上がる。
「さあ、行こうか」


 式場となるのは大きな広間。たが普段は使われていない別荘であるがゆえに特別な飾りつけもなされてはおらず、祭壇代わりの机が置かれて、ヴァージンロードに見立てた絨毯が敷かれているだけだ。新郎新婦も服は着替えているものの、特別にヘアメイクをしたわけではない。質素でも大切な式であった。神父役の蓮の前に進み出て、一通り形式どおりのやり取りをかわす。
「君と出会ってからもう一年以上になるね‥‥待たせてすまなかった、エリィ」
 二人は向かい合い、瞳を交差させる。
「ゴメンよエリィ、寂しい式になってしまうが‥‥それでも、僕と共に歩んでくれるかい? もしOKなら、誓いの口付けを‥‥ん?」
 いい所だというのに外からなんだか声が聞こえる。ドンドンドンと玄関扉を叩く音が聞こえる。
『お届け物でーす!』
 届け物?
「何か届け物が来たらしい、僕が様子を見てこよう」
 不安げにエリヴィラが見守る中、キースが玄関へと向かう。そして扉を開けたが最後――雪崩れ込んできたのは見たことのある顔ばかり。
「結婚おめでとう!」
「キースさん、エリヴィラさん。この度はご結婚おめでとうございます」
 配達人を名乗って扉を開けさせた紫狼を筆頭に、正和や煉淡が続き。
「腕を振るった料理のお届けです〜!」
「衣装もしっかり持ってきたわよ、ヘアメイクも任せて!」
 ひなたと宗近、そして焔が、それぞれ用意してきた荷物を手になだれ込む。
「皆‥‥どうしてここが」
 呆気に取られるキースを横目に、先に入った皆はすでに準備を開始している。入ってしまえばこっちのもんだ。
「‥‥石月さんに、感謝した方がいいと、思います‥‥」
 エヴァリィがぽつりと零し、シャクティが少し拗ねた様に口を開く。
「悪意がないとはいえ、他者に頼ろうとしない姿勢は改めて頂きたいところです」
「まあまあ、今日はそのくらいで」
 アマツが間に入り。
「おめでとう。二人とも。キース、貴様の言動には色々と心配したがな。いい加減落ち着かんと歌姫も不憫だぞ」
「皆‥‥僕達を祝いに?」
 漸く事態を把握したらしきキースはふとアマツの後ろに控える人物に視線を移して。そして固まる。
「事情はお聞きしました。あまりに突然のことだったので、花束くらいしか用意ができなかったのですが」
 他は皆さんが色々用意しているようでしたしね、とその人物――セーファスはいつもの柔らかい表情で彼を見つめた。
「セーファス君! すまない、礼を欠くような真似をして‥‥」
「事情が事情ですから、仕方がありません。今回私がここにいるのも、非公式のことということで」
 セーファスは唇の前で人差し指を立て、お互いに、と笑んで見せた。


 宗近によって衣装とヘアメイクを調えられて、再び式は再開される。今度は列席者もいるし、料理の準備も整っている。こじんまりとしているのには変わらないが、祝福された立派な式だ。
「では僭越ながら。キース・レッド、貴方はエリヴィラ・セシナを娶り、大いなる主と精霊の定めに従って婚姻を結ぼうとしています。あなたは、その健やかなる時も、病めるときも、常にこれを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつまで、その命のある限り、堅く節操を守る事を誓いますか?」
 本職がいるなら本職に、ということで神父役は煉淡へと任された。
「誓うよ」
 求められた宣誓に、キースは然りと答え。同じように問われたエリヴィラも、前を見据えながら誓いの言葉を述べた。
 エヴァリィの放つイリュージョンの花吹雪が舞う。参列者の拍手が、二人の祝福の輪郭をより濃いものとする。そして、バイオリンの弓を引き、エヴァリィが祝いの歌を演奏し始めた。曲に乗せられるのは煉淡の作詞した詞。歌うのはアマツ。

 暖かな風の中
 貴方がたの結んだ絆を照らし
 互いが互いを照らす光となりますように

 私は謳い
 願います

 貴方がたの微笑みが
 明日を優しさに変えるでしょう

 どうかこの愛に祝福を
 永遠に

「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
 仲間達が二人を取り囲む。
 思わぬ祝福を受けた式は、まだまだ終わりそうになかった。これからおいしい料理による食事会とお色直しが待っているのだ。
 世間からは祝福されぬ婚姻。それでも仲間達が祝ってくれれば、それ以上に嬉しいことはなかった。



「石月さん」
 式の喧騒から離れた廊下を一人で歩いていた蓮は、背後からかけられた声に振り向いた。そこにはシルクのドレスに着替えた焔が立っていて。手には礼服を持っているようだった。
「何か用?」
「愛しております。私と結婚していただけませんか?」
「‥‥は?」
 さすがの蓮も、これには一瞬動きを止めた。
 確かにこの男には遠回しな表現は通じない。だが。
「まあ、付き合うのは好きにすれば、とは言ったと思う」
 蓮はため息をついて額に手を当てて。
「でも、その後僕達に進展はあった? いきなり結婚してくれって言われても答えられるほど僕は君を知らない」
 それは事実だった。確かに結婚を前提に付き合うのは好きにすればといった気がするが、だからといっていきなり結婚は。
「少し急ぎすぎじゃない?」
 やはり何事にも段階というものは必要なのである。
 僕が君と結婚してもいいと思えたらね、と蓮はいつものように冷たく思える言葉を言ってのけた。言葉は冷たいがこれも彼の性格だとわかって欲しい。